IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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…そろそろ夏休み編も終わりかなって。

では本編をどうぞ↓


第112話 一夏くんの帰国

 

 

「ふう…、今度は無事に着けた…。」

 

ハイジャックに巻き込まれ、スペインの国家代表と候補生と知り合いになるなど、色々波乱にあふれた帰国であったが、なんとか五体満足で帰ってこれた一夏は久々の日本の空気を吸い、背筋を伸した。

当然のように迎えなど居るはずもなく、一夏は一人で空港を出た…のだが…。

 

 

「てやや~。お帰りなさいませ、一夏さん。」

 

空港を出た一夏を出迎えたのは倉持技研の琥珀であった。

帰国の日程などは何一つ伝えていないはずなのに、琥珀は知っていたとしか思えないような完全なタイミングで一夏を出迎えた。

 

「こ、琥珀さん…、どうしてここに?}

 

「それはもちろん一夏さんのお迎えですよ。」

 

ピンと人差し指を立てて琥珀は言う。一夏は知っていた、この琥珀はいつも謎にあふれたことをしでかす人物であり、その行動の法則は読めないのだということを。

笑顔で一夏に詰め寄る琥珀はずずいと顔を近づける。

 

「興味があるんですよね~、一夏さんが旅行中にため込んできたデータに。」

 

「…もしかして…。」

 

「はい、白式のデータを解析させてくださいな。」

 

語尾に音符でもつきそうなくらい上機嫌で言った琥珀を見て、一夏は観念したように溜め息を吐いてうなだれた。

こうなった琥珀は絶対に譲らないとこれまでの付き合いで分かっている。

下手に粘るよりも折れて付き合った方が早いのだ。

 

「さ、それでは早速行きましょうか。」

 

「はい。」

 

一夏は琥珀に連れられて車に乗り込み、倉持技研へと向かうのであった。

 

 

 

「久シブリダナ、小僧。少シハでかクナッタカ?」

 

「お、ロボカイか。久しぶり。ロボレンも、そこに居るんだろう?」

 

倉持技研の中に入ると、琥珀謹製のロボット“ロボカイ”が出迎えた。ロボカイの言動にも一夏はなれた様子で対応する。そして恐らくどこかに隠れて居るのであろうロボレンにも声を掛ける。

一夏の声に反応して柱の陰からロボレンが姿を現した。

 

「ナント、見ツカルトハ…。腕ヲ上ゲタナ。」

 

「ハハハ、マダマダ修行ガ足ラナイナ!」

 

ロボレンは悔しそうに地団駄を踏む。

そんなロボレンの頭に手を乗せてロボカイは笑った。

 

「はいはい、二人とも戦闘用意してきて。今から一夏さんと模擬戦をして貰いますよ。」

 

「ウム。」

 

「了解シタ。」

 

琥珀の言葉にロボレンとロボカイはそれぞれどこかに姿をくらました。

そして一夏もなれたようにアリーナの控え室に向かう。

 

 

「さて、あいつらとやるのも久々だな。」

 

ISスーツに着替えアリーナの中央で待機している一夏は目の前にいるロボレン、ロボカイを見る。

二人はいつものように自然体の構えを取りながら、一夏を見ている。

 

「それでは始めて行きましょう。よろしくお願いします。」

 

「ヨシ行クゾ。」

 

琥珀の合図と同時にロボカイが走り出す。その後ろを追走するようにロボレンも走り出した。

一夏もそれを見て機先を制するように動き出す。

 

「ズェアア!!」

 

「ソイヤッ!!」

 

一夏が振り下ろした雪片をロボカイはハンマーで迎撃する。その隙にロボカイの背後にいたロボレンはピョンと飛び上がり、頭上から奇襲する。

 

「コレデモ喰ッテロ!!」

 

「食べ物粗末にするんじゃね──ぇ!?」

 

ロボレンが振りかぶって投げつけてきたパイを腕で受け止めようとした一夏はあるものを視界に捉える。

それはパイの中にわざとらしく仕込まれた典型的で古典的な見た目をした爆弾である。

 

それを見た瞬間、一夏は本能的に受け止める方向からシフトチェンジし、片手で殴り飛ばした。

その直後に仕込まれていた爆弾が起爆し、ロボカイともども一夏は巻き込まれる。

 

「畜生、無茶苦茶しやがる。」

 

「フハハハハ、悔シカロウ!?」

 

「ホントにな!!」

 

ロボカイを盾にして爆風から逃れたロボレンは爆風で吹き飛ばされた一夏に詰め寄る。

しかし直ぐ様体勢を立て直した一夏はそれを容易に迎撃した。縦に振り下ろされた斧を雪片を横凪ぎに払っていなし、ロボレンの小さな体を蹴り飛ばして距離を取らせる。

 

「コノ…生意気ッ!!」

 

「うるせぇ!!」

 

「ソコダッ!!」

 

「うおっ!? この!」

 

再度ロボレンが投げつけたケーキを雪片で打ち払った一夏にロボカイが襲いかかる。

巨大なハンマーを身を捻って避けて、返しにロボカイの顔面を蹴りつけた。鋼鉄製の顔面は蹴りつけられた衝撃で後ろに倒れかけ、一瞬だけ動きが止まる。

 

「ソラヨッ!」

 

「まだまだぁ!!」

 

蹴りつけられて動きの止まったロボカイを踏み台にロボレンが高さをつけて強襲する。

そのロボレンを足を大きく蹴りあげて迎撃し、体を大きく捻って体勢を立て直したロボカイにも雪片の一撃をかましてから距離を取った。

 

「強イナ。」

 

「サテ、ドウスルカ?」

 

「あ、もう戦わなくて結構ですよー。」

 

さぁこれからという所で琥珀がマイクを通して止める。彼女の指示により、ロボカイ、ロボレンは武装を解除してアリーナから出ていき、一夏もそれに倣う。

 

 

 

「いや~、良いデータが取れました。ご協力ありがとうございますね、一夏さん。」

 

「いえ、オレも長旅で鈍った体を調整できたので。」

 

研究室で琥珀は一夏に頭を下げると、一夏もまた頭を下げる。

その部屋の隅ではロボレンとロボカイが大人しく将棋を差していた。

 

 

 

そんな事があった一方で南美はというと───

 

 

 

「あらあら、Ms.マスクじゃない。もうマスクはしないのかしら?」

 

「えぇ、何万回もあの仕合の動画も再生されてますし、もう今更って感じですから。」

 

控え室でグーヤンと一緒になった南美は軽く世間話をしながら時間を過ごしていた。

社との仕合で素顔を見せてしまった南美はそれ以来顔を隠すことを止めたのである。

 

「それで、只今人気最高のMs.マスクは何をしに来たのかしら?」

 

「……宣戦布告って所でしょうか。」

 

南美の言葉を聞いてグーヤンはニヤリと笑い、ティーカップをテーブルに置いた。

 

「裏ストリートファイト最強と呼ばれているグーヤンさん、私は貴方と戦いたい。」

 

「ふふ、確かにいいわね。面白そう…。」

 

グーヤンはクスクスと楽しそうに笑う。そんな彼女を見て、南美もまた笑う。

部屋の中心でテーブルを挟んで向かい合っているだけのはずであるのに、部屋の気温が数度ほど下がったような気がする。グーヤンの近くに控えて居た短パンの少年はその二人の気配にあてられ、がくがくと足を震わせてその場にへたり込んだ。

 

「おい、何してんだお前ら。」

 

「あら、社じゃない。」

 

そんな空気を打ち破るように、右腕を吊った社が部屋の中に入って来た。

右足は引きずりながらも歩けている様子だ。

 

「社さん、足はもう大丈夫なんですか?」

 

「おう、まだ走れはしねぇが歩く位は出来る。」

 

「ホントに頑丈よね。」

 

社が来たことによってそれまで殺伐としていた部屋の空気が緩み、いつものようになる。

そんな時のこと、ヴァネッサが控え室を訪れた。

 

「Ms.マスク、それにグーヤン、元気かしら?」

 

「あら、貴女がこっちに来るなんて珍しいじゃない。」

 

「まぁね。今回は上から直接二人に伝達しろって言われたのよ。」

 

ヴァネッサの言葉にその場の全員がぴくりと反応する。

その反応にヴァネッサは正解だと答えるように首を縦に振った。ヴァネッサの肯定を示すジェスチャーに社はおろか、グーヤン、南美も笑う。

 

「Ms.マスクの次の仕合相手はグーヤンよ。」

 

「マジかよ、一ヶ月も掛けずにランキング一位とやんのかよ…。」

 

「へぇ、運営サイドも面白いわね。」

 

社もグーヤンもそれぞれの反応を示していた。社は好奇心からはしゃぎたい気持ちを抑えるように呟き、グーヤンは袖で口元を隠す。

その一方で南美は静かに、ただ静かにグーヤンを見つめていた。

 

 

 

 





次回! 南美VSグーヤン ご期待ください!

そろそろ夏休み編も終わって、学園祭とかモンド・グロッソの話もやらなきゃなぁって。

では次回でお会いしましょうノシ


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