IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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そろそろ話を進めていかなきゃと思うこの頃。

では本編をどうぞ↓


第111話 目覚め始める力

 

 

 

「…ん、うぅん…。」

 

ふかふかの布団の中で南美は寝返りをうっていた。

朝の眩しい陽射しによる明るさが無理やりにでも起こそうとしているのだ。

 

[──I am the bone of my systems.───]

 

 

「…ん、…何…?」

 

突如として頭の中に聞き覚えのない声が響く。

南美が布団から顔を上げて部屋の中を見渡しても、そこにはいつものあまり物が置かれていない自分の部屋が映るばかりで誰もいない。

 

「…なんなの…?」

 

幻聴なのか、気のせいなのか分からないが不審に思った南美は時計を確認した。

時刻はまだ朝早く、かと言って二度寝するような気分でもない。そこで彼女は自宅に備え付けられているジムへと向かった。

 

 

 

「フゥゥゥゥ、シャオッ!!」

 

南美がサンドバックを蹴りつけるとスパァアンと耳にも心地よい音を立て、天井から吊るしている鎖がギシギシという。

かれこれ数十分ほどジムに籠っている南美は夏の暑さも手伝って額から大粒の汗を流している。

濡れて肌に張り付く服や拭っても拭ってもあふれでてくる汗を鬱陶しく思いながら、南美はサンドバックに向き合うのだった。

 

[──Steel is my body, and fire is my blood──]

 

「また…。」

 

今朝と同じように頭の中に声が響く。

聞き取れた言葉から英語であることを理解した南美は単語単語を分解して意味を考える。

 

(鉄の体、火が血液…? 訳が分からない。)

 

意味を理解しようとしても何も分からず、南美は諦めたように大の字に寝転び、天井を眺める。

浮かぶのは裏ストリートファイトの光景だった。

 

四条雛子、七枷社と言った強敵と戦い、充実した夏休みを送っている南美であるが、ISに関してはまだ大きな実感を得られないでいた。

ISの技術は合間を見てLOCエンタープライズの訓練室を使ってはいるし、性能面もLOCの技術者が日夜研究を重ねている。

だからこそ、実力が伸び悩んでいることに南美は少しだけ焦っていた。

 

 

[──I have tried over a thousand challenges──]

 

「もう…、なんなの…?」

 

そんな彼女の心情を無視したように頭の中で声がする。

そこで1度気持ちが切れたついでに時計を確認した南美はもういい時間であることに気づき、シャワーを浴びてジムを後にした。

 

 

「お姉ちゃん、おはよう!」

 

「あーちゃん、おはよ~!」

 

自宅の居間に来た南美は飛び付いて来た愛する妹を受け止めて抱き抱える。

抱き抱えられた天慧はすりすりと南美に頬擦りして顔を緩ませる。

ここ最近、外泊の多かった姉に久しぶりに甘えられてご満悦の様子だ。

 

「よしよし、ホントにいい子だね~。」

 

南美は甘えてくる天慧の頭を撫でながら、キッチンから漂ってくる匂いにつられ、ふらふらと歩いていく。

 

「おはよー、母さん。」

 

「ママ、おはよう!」

 

食堂に着いた二人は朝食の準備をしている母七海に挨拶する。

エプロン姿の七海は二人の姿を見ると、“はい、おはよう”と優しく笑った。

南美と天慧の二人は席に着くと、七海が用意した朝食を食べ始める。そうしていると、眠そうな顔をした義仁が食堂に現れた。

 

「おはよう父さん。」

 

「おはようパパ!」

 

「あぁ、おはよう。」

 

とても疲れている様子の義仁は椅子に腰を下ろすと、用意されているコーヒーを一杯一気に飲み干した。

 

「大丈夫なの父さん…? 最近忙しいみたいだけど…。」

 

「いや、大丈夫さ。ちょっと事件が多くて対応に追われているだけだから。」

 

義仁はハハと笑うが、どう見ても疲れているようだった。心配する南美であったが義仁は“大丈夫”の一点張りで押し通した。その頑なな態度に南美がそれ以上追求することはなかった。

 

 

 

「いらっしゃい、ゆっくりしていってくれ。」

 

その日の昼頃に南美はLOCエンタープライズに来ていた。

理由としては専用機“ラスト”のデータ解析と、LOCエンタープライズ専属の医師、不律氏の診断を受けるためである。

あの謎の声が幻聴なのか、はたまた本当に聞こえているのかが気になった南美はISパイロット新米時代からお世話になっている不律氏のもとを訪れたのだ。

 

「よく分からない声が聞こえる…じゃったか。」

 

「はい、聞き覚えもない声と文章で…。」

 

レントゲンやMRIなど一通りの事を受け、南美と不律は診察室で向かい合う。

レントゲン写真やMRI画像などを眺めながら不律はうなる。

 

「ふむ…、体にはなにも異常は見られん。健康そのものじゃ。あとは儂にはわからんの。」

 

「そうですか…。」

 

不律の診断に予想出来ていたかのように頷いた。

こうなると後可能性がある原因はラストになにかが起こっているという事だろうか。

少しの期待と不安を覚えた南美は不律に礼を述べて診療室を後にすると、暁氏がラストの解析を行っている技術室へと向かった。

 

 

「暁さん、ラストはどうなってますか?」

 

「あぁ、もうそろそろ解析が終わる。」

 

「少しだけ待っていろ。」

 

LOCエンタープライズのIS部門の技術屋である叢雲氏と暁氏はラストのデータが送り込まれてくるタブレット端末を二人で覗き込みながら眉間に皺を寄せる。

そんな二人の様子に南美は大人しく部屋の隅に座った。

 

「…ISの自己進化システムか…。なんとも恐ろしいものだな。」

 

「それを作り出したあの篠ノ之束はどれだけの傑物なのか…。」

 

「ここまで来ると、AIというよりもまるで──」

 

「自我だな。」

 

解析を終えた二人が端末の画面を眺めながら真剣な顔で言葉を交わす。

そして、二人がある結論に行きつくと、部屋の隅に座っている南美を呼び寄せた。

 

「結論が出たよ。」

 

「そ、それで結果は…?」

 

「君の言っていた不思議な声、その原因はラストにあるだろう。」

 

「ラスト…が、ですか…。」

 

やはりそうかと南美が頷くと叢雲が言葉を続ける。

 

「恐らくだが、ISの自己進化システムが働いた結果だな。」

 

「自己進化ですか?」

 

「そうだ。ISコアに搭載されたシステムだが、これがまたくせ者でな。ISコアが自身の判断で変化することがあるのだ。第二次移行《セカンドシフト》がいい例だ。」

 

そういう叢雲は部屋の隅に放置していたホワイトボードを引っ張って来る。そこキュッキュとなにかを書き込んで行く。

 

「ISコアがパイロット、この場合は専用機の保有者、ラストで言う君のことだが、のデータを自分で解析・理解して変わろうとするのだ。」

 

「えっと、もしかして…。」

 

「あぁ、ラストにも変化が起きつつある。」

 

叢雲の言葉に南美は驚いたように目を見開く。そんな彼女の反応に叢雲と暁は同時に頷いた。

 

「たぶんだが、君の格闘家としての実力の向上をラストが感じ取り、そして自身も君に相応しくあろうとしているんだと私は思っている。」

 

「それって、もしかして、もしかしてですよ…。」

 

「ラストが第二次移行をするかもしれない、それも遠くないうちに…。」

 

「ほんとですか!?」

 

第二次移行、その言葉に南美は顔を輝かせる。

いやそれも当然のことかもしれない。ISの、専用機のパイロットにとって専用機の第二次移行はモンド・グロッソに勝るとも劣らぬ憧れの一つである。それも間近で2回も第二次移行を見ている南美にとっては。第二次移行がどれほどの恩恵をもたらすのかは、他の人よりも知っているし、誰よりも憧れていた。

 

「と言っても、何時になるかは分かりません。こればっかりはラスト次第ですからね。」

 

「だが、これはいい傾向だ。君の実力の向上で変化をしているという仮説が正しければ、君の実力が上がればそれだけラストは成長するということだ。」

 

「え、え、や、やったぁあっ!? 喜んでいいんですよね? ね!?」

 

やや取り乱して興奮した様子で南美は叢雲や暁に尋ねる。大人組の二人はそんな南美をなだめるように落ち着かせた。

そうすることでやっと普段の冷静さを取り戻した南美はフゥと深呼吸して二人に向き直る。

 

「す、すいません。興奮のあまり取り乱しました。」

 

「なに、気にすることはない。」

 

謝る南美に暁達は大人の余裕を見せる。

そんな二人に南美は笑ってみせた。

 

「絶対、お二人に第二次移行後のISを解析させてみせますね!!」

 

「楽しみにしているよ。」

 

「期待している。」

 

こうして南美はある一つの楽しみを抱いてLOCエンタープライズをあとにした。

大きな喜びと希望は南美の悩みを吹き飛ばすには十分だった。

 

 

 




一応のフラグは立った…はず。

では次回でお会いしましょうノシ


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