IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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前回の続きからスタート。

では本編をどうぞ↓



第110話 一夏くんの帰国道中と先生の恋バナ飲みニケーション

 

 

[3…2…1…GO!]

 

「せいやっ!!」

 

ソフィアの合図と同時にセサルは持っていた大斧を横凪ぎに払い、飛行機の船体に亀裂を入れる。

そこへ間髪入れずにソフィアがISの爪先をその亀裂へとねじ込み、蹴り上げた。すると飛行機の上部がキレイに剥がれ、内部まで丸見えになる。

 

「ガオー!!」

 

そして可愛らしい叫びを上げながらソフィアが飛行機に向かって降下する。

着地まであと僅かというところでソフィアは専用機を部分展開に切り替え、脚部だけ展開した状態になる。

普通のISのものよりも一回りも二回りも小さいその脚部パーツは例え客席の間であっても起動を妨げない。

着地したソフィアはそのまま目の前にいる銃を持った男をグーパンでのすと、すかさずその奥にいた男までダッシュする。

突然のことで反応出来なかった男は何も出来ず棒立ちでソフィアに懐へと潜り込まれる。

 

「ドラゴンアッパー!!」

 

繰り出したアッパーが男の顎を捉えたことを手応えから感じたソフィアはそのまま跳躍し、男の体を上に吹き飛ばす。

一夏がそんなソフィアの行動に見惚れていると、その逆側から二人の男の呻く声が響く。

一夏がそちらに顔を向けるとそこには完全にハイジャック犯を制圧したセサルがいた。

 

「任務完了。」

 

「は、早い…。」

 

「お~、そっちも終わったか。」

 

気絶させた男二人を引きずってソフィアは一夏とセサルに合流する。セサルは男達から上着をはぎ取り、それを使って簀巻きにする。

 

「さて、これで取り敢えずは全員か?」

 

ソフィアは周囲を見渡しながら確認する。乗客たちは突如として現れた人物の電光石火の捕物劇にぽかーんとしていたが、その人物がスペインの国家代表であることを認識すると、一気に沸き立った。

 

「おいおい、そんなに騒ぐなよ。早く避難しろ。」

 

わいわいと騒ぐ乗客を宥めるようにソフィアが言い、セサルが避難の誘導を始める。

彼女らと駆け付けたスタッフに誘導され、乗客たちはスムーズに飛行機を降り、その後の対応を待つこととなった。

 

 

 

「ふむ、お前が織斑一夏か。なるほど、実物の方がテレビで見たよりもイケメンだな。」

 

事態が収束してからソフィアによって半ば拉致されるようにとある小部屋に連れてこられた一夏は椅子に座らされ、じろじろと品定めされるように全身をソフィアによって見つめられる。

ソフィアの背後からはセサルもまた興味深そうに一夏をじっと見ていた。

 

「あ、あの、何か…。」

 

「ん? あぁ、ちょっとな。」

 

「ソフィアさん、何か掴めましたか?」

 

セサルからの質問にソフィアは一夏から顔を離して首を横に振る。

その仕草にセサルは溜め息を吐いて、手元のパソコンに何かを打ち込んでいく。

 

「なんの変哲もなく普通の男だな。どこかしら変わったなにかがあると思ったのだが…。」

 

「は、はぁ…。」

 

「もしかすれば、己の英雄殿に…とも思っていたが、女の匂いがするんじゃ手を出すわけにもいかん。」

 

ぽりぽり後頭部を掻きながら席に着く。代わりにセサルが一夏の前に立った。

セサルは興味深いものを見るように一夏の顔を触り始める。突然の行動に一夏は戸惑いを覚え、セサルの手から逃れるように立ち上がった。

 

「…すみません…。」

 

「い、いや…。」

 

我に返ったセサルはじっと一夏の事を見たまま謝った。

そんな彼女に一夏は疑問を抱きながらセサルの様子を観察する。彼女の様子はじっと一夏の力量を見定めるようにジト目で見ており、そこから何かを探ることは出来ないと判断した一夏はハァと溜め息を吐いてあきらめた。

 

「なかなかに強そうです…。織斑一夏さん、私の婿になりませんか?」

 

「は…、えっ!?」

 

突然のセサルの衝撃発言に一夏は目を点にして叫ぶ。しかしセサルは何を驚いているのかと言わんばかりの顔で首を傾げて一夏を見ている。

そんな二人の様子をソフィアは楽しそうに笑って見ていた。

 

「私は強い人が大好きなんです。」

 

「だ、だから…?」

 

「貴方のことが気に入ったということですよ。」

 

素直に気持ちを言葉にするセサルに一夏は顔を赤くするものの、脳裏にラウラとカセンの顔が思い浮かび、平静を取り戻した。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、その、すいません。」

 

「…そうですか…。残念です。」

 

断られたセサルは残念そうに溜め息を吐いて、一夏から離れる。

しかし、すぐに平静を装い、話しを切り出した。

 

「貴方はIS学園に居るのですよね?」

 

「ああ、そうだよ。」

 

「なら、来年には貴方は先輩殿ということになりますね。そのときは、よろしくお願いしますね?」

 

そう言ってセサルは手を差し出した。一夏はそんなセサルの手を取った。

一夏に手を握られたセサルは満足そうに笑う。

 

「申し遅れましたが、私の名前はセサル・ヴェニデと言います。よろしければセサルと気軽にお呼びください。」

 

「あぁ、よろしくセサル。」

 

「はい。」

 

優しい笑みを浮かべる一夏にセサルは頭を下げる。

そんな様子をにやにやと笑って眺めていたソフィアはぱんぱんと手を叩いて自身の存在を二人に伝える。

 

「そろそろ一夏を解放してやるぞ。そうじゃないと帰国用の便に間に合わん。」

 

「そうですね。それでは織斑さん、またお会いしましょう。」

 

セサルはその部屋を後にし、ソフィアが一夏を外へと連れていった。

外に連れてこられた一夏はそのままソフィアの案内で、用意されていた日本行きの飛行機に他の一緒にハイジャックにあった乗客達と乗り込んでいく。

 

その際にソフィアが“また会おう”という言葉を残す。

そんなソフィアの言葉に一夏は首を傾げて聞き返そうとしたものの、時間の都合でそれは叶わなかった。

そうしてモヤモヤした何かを抱えながら、一夏は今度こそ日本へと帰国するのであった。

 

 

 

一夏が事件に巻き込まれている頃、その実姉の千冬はというと───

 

「珍しいじゃないか、真耶の方から飲みに誘うなんて。」

 

「は、はい…、その、先輩に少し個人的な相談がありまして…。」

 

後輩の山田真耶と一緒に、夢弦のとある居酒屋に来ていた。

テーブルの上には軟骨のから揚げと生ビールの中ジョッキが二つ置かれており、まだまだ話は始まっていない。

二人ともいつものスーツではなく、それなりにラフな格好をしている。話を始める前に千冬はジョッキに注がれたビールを半分ほど飲み干した。

 

「まぁ、生きていれば悩みの一つや二つは当然だ。何でも話してみろ。」

 

「はい、それで、ですね…。」

 

命の水(アルコール)を摂取した千冬は真耶に相談事を話すように切り出した。その言葉を受けて真耶は少しだけ恥ずかしそうにしながら悩みを打ち明ける。

 

「あの、警備員の狗飼さんっているじゃないですか。」

 

「あぁ、いるな。」

 

真耶の言葉を聞きながら千冬は軟骨のから揚げに箸を伸ばす。そんな中、真耶は思いきったように口を開いた。

 

「わ、私…ですね、狗飼さんの事が好きなんです。」

 

「ほう、そうか。……うん? 今なんて言った?」

 

軟骨のから揚げを箸から落とした千冬は真耶へとしっかり顔を向けて聞き直す。

 

「だ、だから、その、狗飼さんの事が好きなんです、私…。」

 

「ほう、ほうほう…。初耳だ。」

 

「そりゃ初めて言いましたもん。」

 

珍しいものを見たというような顔をする千冬とその向かいには顔を茹でタコのように真っ赤にしている真耶がいる。

千冬はどことなくオモチャを見る子供のような瞳をしており、真耶は相談する人間を間違えたかもと、やや不安そうな顔になる。

 

「それで? どこまで行った、Aか?Bか?まさかCまで行ったか?」

 

「そ、そそそそそ、そんな、ことしてませんよ! そ、その、一緒にお弁当食べたりとか、お話したりとかですもん!」

 

「なんだ、つまらん。」

 

質問に慌てふためく真耶を見て面白がっていた千冬であったが、返ってきた質問に対してばっさりと打ち捨てた。

そんな千冬を真耶はむぅと軽く睨み付ける。

 

「ハッハッハ、悪かったよ。そんなに睨むな。」

 

「こっちは真剣なんですよ?」

 

「悪い悪い。つい、な。」

 

ジョッキのビールを飲み干した千冬は店員を呼んで追加の酒を注文する。

そして頼んだ酒が来るまでの間に、千冬は真剣な顔になって真耶の方を見る。

 

「本気で好きなら、ありのままの真耶を見せればいいさ。私が言えるのはそれだけだよ。」

 

「わ、分かりました。」

 

「ま、精々頑張るんだな。」

 

千冬はそれだけ言って軟骨のから揚げを頬張る。

それっきり、真耶の相談には何も触れなかった。こうして時間は緩やかに過ぎて行き、夜も更けていくのだ。

 

 

 

 




恋っぽいこと、しようぜ?

では次回でお会いしましょうノシ


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