IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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良い感じで連続更新。
もう少し気の効いた前書きとか書ければなぁと思うこの頃。

では本編をどうぞ↓


第105話 父娘の再開と日本の剣士

 

フランスの一大IS企業、デュノア社の社長令嬢であるシャルロット・デュノアは今、フランスに来ていた。

自分を嫌っていた、そして自分を男装させてまでIS学園に送り込んだ社長夫人が逮捕され、自由の身になった彼女は父親との本当の意味での再開を果たそうとしていたのである。

 

「……あぅ…。」

 

「そう緊張するな。」

 

「アンジェさん…。でも…。」

 

応接室のソファに座り、不安そうな面持ちをしているシャルの隣にはフランス国家代表のアンジェ・オルレアンがいた。

アンジェは緊張で身を震わせるシャルの背中を擦ってやり、不安を取り除こうとしてやる。それでもシャルは不安で体を震わせながらアンジェの事を見上げている。

 

そんな時に、ガチャリと音を立てて応接室の扉が開くと、シャルは一段と大きく身を震わせた。

 

「シャル…。」

 

「父、さん…。」

 

応接室に現れたのはデュノア社社長にしてシャルの父親であるジャック・デュノアであった。

シャルの姿を確認したジャックは一も二もなく駆け寄り、彼女の小さな身体を抱き締める。

 

「シャル、シャル…!」

 

ジャックは大きな体でシャルを抱き締めると彼女の頭を乱暴に撫でる。

 

「と、父さん…、苦しいよ…。」

 

「あ、あぁごめんよ…。」

 

苦しさを訴えるシャルに、ジャックは我に返って彼女を離す。そしてシャルを見下ろして目を合わせたジャックは途端に泣き出し始めた。

 

「うぐぅ…、よかった、無事で、本当に…良かった…。」

 

堪えきれずに、ボロボロと大粒の涙を溢しながらジャックは大声を上げて泣く。恥も外聞もなく彼は泣いた。

そんな姿をさらすジャックを見て、アンジェはハァと小さく溜め息を吐いてジャックの尻を引っぱたいた。

 

「しっかりしないか、ジャック!!」

 

「ア、アンジェ…。うん、ありがとう…。」

 

アンジェの一喝でやっと平常心に戻ったジャックは目の前の娘にそっと手を伸ばす。

そしてシャルの柔らかな髪をそっと撫でる。

 

「お帰り、シャル…。」

 

「うん、ただいま、父さん!」

 

シャルは頭を撫でられながら、ジャックに抱きつき厚い胸板に顔を埋める。そんなシャルをジャックは優しく抱き止めた。やっと打ち解けた二人を見てアンジェは何も言わずに部屋を出て行った。アンジェ・オルレアンはクールに去るのである。

 

 

「父さん…。」

 

「あぁ、もうお前を離しはしないよ…。今まですまなかったね…。」

 

「うん、父さんありがとう。」

 

抱き合っていた二人はソファの隣に座ると仲むつまじく話し始める。

もう完全に二人の間のわだかまりはなくなったと言っていいだろう。

 

 

 

フランスでそんな親子の物語が展開されている一方で、ここ日本の夢弦ではと言うと……

 

 

 

「さて、予定より早く終わってしまったな。何をして時間を潰そうか…?」

 

藤原から呼び出されての用事も終わり、まだ昼下がりの夢弦市内を箒は手持ち無沙汰な状態で歩いていた。

いつものように街を歩く箒であったが、その途中で差し掛かった場所であるものを目撃する。

 

「離してください!」

 

「いや、そう言わないでさ、ね?」

 

「そーそ、退屈させないからさぁ。」

 

女性に絡む男二人と、明らかに嫌がっている女性の図だ。

元来正義感の強い箒はその光景を見て、躊躇いもせず男達につかつかと詰め寄る。そして女性の腕を掴んでいる男の腕を握ると強引に捻り上げた。

 

「いっ!? いでででででっ!? 何しやがる!!」

 

「天下の往来で一人の女に二人がかりで言い寄るとは…、それでも男か! 恥を知れ!!」

 

男の腕を螺上げながらそう啖呵を切った箒に、もう一人の男も怯む。だがしかしそこは夢弦のチンピラである。すぐさま持ち直し、懐からナイフを取り出した。

 

「邪魔しないでくれねぇかな、お嬢ちゃん!」

 

「そ、そうだって、オレらはただこの女の子と仲良くしたいだけなんだって!!」

 

腕を捻られている方の男も、ナイフの男に同調し、極められているはずの腕を力業で強引に外して拘束から逃れる。

そうして状況は正面からの睨み合いと化した。

 

「てか、このお嬢ちゃんもなかなかに可愛い…。」

 

「確かに確かに…。是非是非交際をお願いしたいものではある。どうする? この子も連れてく?」

 

「大賛成だな。」

 

腕を極められていた男の提案にナイフの男が賛同する。そして腕の男が懐からメリケンサックを取り出して拳に装着すると構えを取った。

それに対抗する要に箒は腰に手を伸ばすが、伸ばした手は空を切る。そこで箒は思い出した。この日はいつも持ち歩いている竹刀を置いてきてしまっていることに。

しかし動揺を表には出さない。直ぐ様箒は拳を構え、不敵に笑ってみせる。

 

「ふん、掛かってこい!」

 

あくまで気丈に振る舞う箒であったが、ナイシンハかなり焦っていた。

それを察してか、男達はどこか余裕のある笑みを浮かべ距離を窺う。

そんな時である。ある一人の人物が箒達を囲む人混みの中からするりと歩いて抜け出て男達に歩み寄る。だが周りの野次馬たちはその人物に気付いている気配はない。

 

「なぁ…。」

 

その人物は音もなく静かに歩み寄るとメリケンサックの男に声を掛け、二の腕を握る。

二の腕に刺激を感じたメリケンサックの男はそちらに顔を向けると、そこには黒髪ポニテで背の高い、マスクを着けた女性がいた。

 

「マナーが悪いんじゃないか…?」

 

「は──うぼぁっ!?」

 

女性が何かを呟いたかと思えばぐんと男を空中に片手で放り投げる。そして一瞬あと、宙を舞う男の体は急に加速するように真横に吹っ飛んだ。

 

「…峰打ちだ。」

 

そう女性が言うと、左手に持っていた鞘にチンという小さな音を響かせて日本刀が納まる。

そして次に女性が目を向けたのはナイフを持った男だ。

 

「は?! い、いつの間に!!」

 

「…街中で女性相手に強引に声を掛け、果ては丸腰の少女を相手に武器を使って二人がかりか情けないな。」

 

女性はまた日本刀の柄に右手を掛けると男を一睨みした。

そのあまりにも鋭い眼光に男は息を呑んで1歩後ずさる。そして覚悟を決めたのか、男はナイフを構えて女性に向かって突進する。

 

「──ふっ!」

 

しかし女性が一瞬だけ吹くように息を吐き出すと、彼女の周りで風が吹き抜ける。そして次の瞬間にはナイフの男は数メートル吹き飛び、気絶していた。

 

「終始…。」

 

それだけ呟くとまたチンと音を立てて日本刀が鞘に納まった。

しかし間近でそれを見ていたはずの箒でさえ、何が起こったのかを完全に理解しきれてはいない。2回とも鞘に日本刀が納められていたことから恐らく刀でもって男達を倒したのだろうことは理解できても、刀身すら見えないということの異常さに、頭が追い付かないのだ。

 

「ふぅ…。これに懲りたらその辺にしておくんだな。」

 

女性はそれだけ言うとさっと身を翻してその場から去っていく。

箒はその女性の後を追いかけていき、そこから現場から数メートル離れた場所で声を掛けた。

 

 

「す、すいません!」

 

「ん…。」

 

箒に呼び止められた女性は足を止めて振り替える。

 

「あ、あの…、ありがとうございました。」

 

「……。」

 

助けられたことへの感謝を素直に述べて箒は頭を下げた。女性は頭を下げた箒を暫くの間黙って見つめていたが、急にポンと箒の頭に手を置く。

 

「…正義感が強くて行動出来るのは素晴らしいけど、それで自分が危なくなったら意味がない。」

 

女性は箒の頭から手を離すとまたくるりと向きを変えて箒に背を向ける。

 

「……居合の師匠が言っていた言葉だが、“ヒーローの条件は最後に立っていること”らしいぞ。」

 

女性はそのまま振り返らず、スタスタと歩いていく。そんな彼女の背中に迫って、箒は服の裾を掴んで引き留める。

 

「すいません、せ、せめてお名前を聞いてもよろしいですか?」

 

「………。」

 

箒の質問に女性は少し困ったように顎に手を当てて考え出す。そして数秒後、答えをまとめたのかマスクを外して箒と向き合う。

 

「井上真改だ。それ以上でも、以下でもない。」

 

そう名乗った女性は日本国家代表の井上真改その人であった。

しかし箒にとってはまた違う意味で知っている人物である。いや、剣の道を歩む者であれば誰もが知っているだろ。日本剣道界を牽引している最強の剣士、それが彼女である。

かつては箒も彼女を目指していたこともあった。

 

思いがけない所で憧れていた人物に出会った箒はただ呆然とその場に立ち尽くすのみだ。

そんな彼女を置いて、真改はその場から立ち去っていった。

 

 

 





真改さん初登場。
もう少し寡黙なキャラになるはずだったのに。どうしてこうなった?

では次回でお会いしましょうノシ


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