IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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ここ数話は全盛期レベルの速度でした。
自分でも驚いています。

では本編をどうぞ↓


第104話 レゾナンスの平和?な日常

 

退院した南美であったがストリートファイトの運営側からヴァネッサを通して念には念を入れて数日間の安静期間を設けることを言い渡され、持て余した時間を有効活用するために、今日はTRF-Rへと足を運んでいた。

 

今日も今日とてTRF-Rは格ゲーマー達の熱気により他の店舗とはやや異質な空気を放っている。

 

(TA・Д・)<はい、昇龍ブーン、からのブースト使って画面端まで運んでいく! 画面端、固めはおっと羅漢で切り返す!

 

(眉゜Д゜)<羅漢に確反はねえから!!

 

北斗大会が開かれている今日はTAKUMAと眉毛がマイクを握り解説と言う名の煽り実況を繰り広げている。

モヒカンや修羅達がやいのやいのと和気藹々と騒いでいる姿を南美は遠目で見守っていた。

 

 

(TA・Д・)<さぁえぐれさん、仕込み槍がでない!!

 

(眉゜Д゜)<あー、あれはイップスになってるね~。QMとのガチ撮りが響いてるわ。

 

どこか動きの悪いえぐれサウザーを見たTAKUMAが言葉を漏らすと、その一連の事情を知っている眉毛が補足する。

 

(TA・Д・)<あ~、噂に聞いた7:3事件ね。

 

(眉゜Д゜)<それそれ。ジャギに7:3つけられたっていうアレよ。

 

(*´ω`*)<まじで思い出させないで!! おい、そのグラフィック見せんな!!

 

(DP・Д・)<ねぇえぐれさん、どんな気持ち!? ジャギにダイヤ7:3つけられてどんな気持ち!!

 

(*´ω`*)<おいDEEP、まじ許さねぇ!

 

(眉゜Д゜)<いいからさっさと大会進めろ!

 

このままだと口プレイに発展しそうな状況になり、眉毛がそこで会話を切って大会を無理矢理進行させる。

こんな光景もまたTRF-Rにとっては日常である。

 

 

 

「みな…じゃない、ノーサさん、大丈夫?」

 

店内の片隅で呆然としていた南美にちり取りと箒を持ったほんわ君が話しかける。

エプロン姿に加え、掃除用具を携えたその姿は愛嬌があり、自然と南美から笑みがこぼれる。

 

「はい、大丈夫ですよ、ほんわ君さん。」

 

「そう…、ぼーっとしてたから、心配になってさ。」

 

「心配ありがとうございます。でももう大丈夫ですから。」

 

心配を顔にだすほんわ君に対して南美はガッツポーズを取って笑って見せる。そんな彼女の姿に納得したのか、ほんわ君は“じゃあまたね”と言い残してその場を去っていった。

 

そんなことが展開されているレゾナンスの2階フロアであるが、そのエリアから一つ上がって3階のフロアではと言うと……

 

 

 

「で、またここかよ。」

 

「いいじゃないの。安いしおいしいし。」

 

「そうですよ、社さま。」

 

レゾナンス3階に店を構えるパスタとピザ、イタリア料理のおいしい喫茶店「アーネンエルベ」で夢弦裏ストリートファイトの上位ランカー、七枷社、グーヤン、四条雛子の三人が同じテーブルに仲良く座っていた。

 

「いや、文句はねえけどよ。」

 

「ならいいじゃない。こんな美人二人と一緒にランチ出来るんだからラッキーと思いなさい。」

 

「うるせぇ。」

 

グーヤンの言葉に苦笑いしながら言い返した社はそのすぐ後に入店してきた二人組の男達に目を向ける。

 

「おい、グーヤ。」

 

「えぇ…。どうやら、楽しそうなことになりそうね。」

 

グーヤンもまたその二人組の男達から何かを感じ取ったらしく、口の端を小さく吊り上げて笑う。

その男二人は店員に案内され奥のテーブルに通されると、メニューを見る振りをしながらチラチラと周囲を窺っている。

 

「…グーヤ…。」

 

「んーん、もっと泳がせましょうよ。その方が面白いもの。」

 

「お前って奴はよ…。」

 

「あの、どうかなさったのですか?」

 

こそこそと小声で話す社とグーヤンの二人に雛子が首を傾げる。しかし二人は“お前はそのままでいろ”と何も言わなかった。

そのときである。例の二人組のうちの一人がテーブルに水を持ってきたウェイトレスの腕を掴み引き込んだ。そしてウェイトレスの頭に懐から取り出した拳銃を突き付ける。

 

「全員動くな!!」

 

ウェイトレスを人質に取ると、もう一人の男が大声を上げ手に持った拳銃を天井に向けて2発撃つ。その行為に、店内にいた客は悲鳴を上げ場は軽いパニックになる。

 

 

「お…。」

 

「面白くなってきたわね。」

 

「え、え?!」

 

男の行動を平然とした様子で観察していた社とグーヤンは何事も無いように呟く。そんないつもと変わらない二人の反応に雛子は二人の顔を交互に見る。

 

「おい、さっさと金をだせ! この女がどうなってもいいのか!!」

 

「まぁまぁ、少し待て。そう怒鳴られても金庫が早く開く訳じゃない。」

 

「早く開けるように急がせろ!!」

 

「了解だ。ランサーくん、いつもより急ぎ目で頼むよ。このままだと桂木くんが危ないからね。」

 

「了解っす。」

 

テンプレートな台詞を吐いて金を要求する強盗に対して、店長と思われる男は宥めるように返答する。

しかしそれでも強盗の態度は変わらず、それに困った店長は金庫の鍵を弄っている青年に急ぐように促した。

 

 

「……ん?」

 

「何か外に来てるわね。警備員かしら?」

 

「レゾナンスの店舗で警備員ってーと、KGDOか?」

 

「大体はそうね。」

 

店の外に強者の気配を感知した社とグーヤンはその正体に当たりをつける。

恐らくはあの警備会社の人間だろうと結論付けた二人はなら眺めていようという考えに至ってリラックスして椅子に腰を落ち着けた。

 

 

「おい、金はまだなのかよ!!」

 

「すまないね、うちの金庫は少々複雑になっていて、それなりに時間がかかるのだよ。だからもう少し待ってほしい。」

 

未だ開かない金庫に業を煮やした強盗は店長の男に詰めよって問い詰める。しかし店長の男はそんな状況になっても慌てず、もう少し待てと強盗に伝える。

そんな店長の言葉に強盗は舌打ちをしながら店内を見渡す。

 

「いいか、余計な真似さえしなければ何もしねぇ! 大人しくしてろ!!」

 

店内の人間に向かって銃口を向けながら強盗は怒鳴る。

店内のほとんどの人間はおびえたように縮こまり、おとなしくしている。ただ、ある三名と店長と金庫前の店員以外であるが。

そんな時、社が席を立った。

 

「お、おい!」

 

拳銃を突き付ける男の脅しにも関わらず、社はそのままグーヤンの隣に座った。そしてグーヤンは隣に座った社の袖に掴まり、小刻みに震え始める。

 

「すまねぇな、こいつが怖くてどうしてもって言うもんだからよ。」

 

「ちっ、リア充はこれだからよ。」

 

男はそう言って舌打ちをすると二人に背を向けてその場から離れる。

 

「……上手くいったな、ナイス演技。」

 

「このくらいは朝飯前よね。それで、どうしましょう。」

 

「頃合いを見て制圧だな。オレがウェイトレスの方、お前は店長側の男に行け。」

 

「はいはーい。」

 

悪企みを成功させた二人はそのまま強盗に聞こえないように小さく笑った。

 

 

そして、銃声が響いたことによって、異常が知れ渡ったアーネンエルベの店外はと言うと……

 

 

「まったく、こんな時にレゾナンスに来たくはなかったのに…。」

 

「それは非番の日に偶然ここに来ていたオレにも言えるがな。」

 

KGDOの職員である高町なのはとクリザリッドがハァと溜め息を吐きながら事件の渦中にあるアーネンエルベの前にいた。

他にも警備員の腕章を巻いた人間が集まってきており、アーネンエルベの周りはKGDO関係者で囲まれていた。

 

「さてと…、うちの班員も揃ったし、夢弦警察署の刑事が来て大事になる前に片付けないとな。」

 

「任せてください、暴徒の鎮圧には慣れてますから!」

 

「そうか…。」

 

「てか、最近忙しすぎてまともに家にも帰れてないんですわ?お?」

 

「それはオレもだよ、バカ野郎…。」

 

「んんんんんんんん、うお───」

 

「うるせぇ騒ぐな!!」

 

三者三様の反応を見せるKGDO特別課第一班、通称クリザリッド班のメンバーにクリザリッドは胃壁が薄くなっていく感覚を味わうのだった。

 

「それで、どうするの?」

 

「高町さんが相手と交渉して、その隙に我々が突入準備、交渉が上手くいけばそれでよし。無理なら制圧します。」

 

「はーい、じゃあ拡声器をっと。」

 

 

高町はカバンの中から拡声器を取り出す。

その間にクリザリッド班のメンバーはアーネンエルベの周りに待機を始める。

 

 

「くそっ! まだなのかよ!」

 

「すまないね。そこら辺の金庫とは違って手順がかなり多くて…。」

 

数分経っても開く気配のない金庫に強盗は苛立ちを覚え、店長に拳銃を突き付ける。

しかし店長は狼狽えることなく返した。

そんな時のことである。

 

「あー、あー、そこの強盗犯!」

 

店外にいた高町が拡声器で強盗に話しかけたのだ。

 

「あっ!? な、なんだよ!!」

 

「おや…?」

 

強盗が慌てて窓の外を確認し、店長はチラリと窓に視線を向ける。

そこには真顔で拡声器片手に立ち尽くす高町がいた。

 

「そこの強盗犯、人質を解放しなさい。そうすればまだ刑は軽くなるわよ。」

 

「な、何だ!? は!?」

 

「あ~、彼女か。」

 

窓の外にいる人物に二人はそれぞれの反応を見せる。

強盗は突然現れた少女に戸惑いを見せ、店長はハァと溜め息を吐いた。

 

「おーい、聞こえてますか~? リアクションしてくれないと対応に困るんですけど~?」

 

「くそっ! 誰が人質なんか解放するかよ!」

 

強盗は拒絶の意思を示すように拳銃で窓を割り、そこから床に向けて銃弾を撃ち込む。

その反応を見て、高町は“ふ~ん”と呟いた。

 

「私の交渉の師匠が言ってたの。ネゴシエーションのルールに従わない奴には、もう実力行使しかないって。」

 

様子の変わった高町は拡声器を握り締めながら、ジト目で窓から顔を覗かせる強盗犯を睨み付ける。

 

 

 

「……そろそろ動くか…?」

 

「そうね、ウェイトレスの娘もそろそろ限界でしょうし。」

 

強盗犯とは背を向ける席に座っている二人はこそこそと小さな声で話す。

その内容は完全に他の人には聞こえていないらしく、皆拳銃に怯えてしまっている。

そんな中で一番精神に来ているのが人質に取られているウェイトレスの少女であろう。銃口が常に自分の方に向き、いつどうなるか分からないというその状況は、年頃の少女にはこれ以上ないほどの負担だ。

 

「行くぞ、3…2…1、ゴッ!」

 

社の合図と共にグーヤンと社は同時に動き出す。

社はソファから立ち上がり、グーヤンはソファを飛び越えようと体の向きを反転させながら跳ぶ。

その行動に強盗犯二人の視線は社とグーヤンの方へと向いた。

その時である。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

「黄金の鉄の塊で出来たナイトが銃装備の強盗犯に遅れを取るはずがない!!」

 

割れた窓から青い頭巾を被った上半身裸の男、不破刃が、急に開け放たれた出入り口の扉からは機動隊の防具で全身を固めた男、ブロントさんがそれぞれ突入して来たのだ。

 

「ふんっ!!」

 

「ハイスラァ!」

 

不破刃は窓際にいた強盗犯を掴み、窓から店外へと投げ飛ばす。そして外に投げ飛ばされた強盗犯を外で待機していたミストがライオットシールドを使って取り押さえる。

ウェイトレスを人質に取っていた男は突然現れたブロントさんに銃口を向けるも、大型のライオットシールドによるシールドバッシュで拳銃を吹き飛ばす。そしてそのまま距離を詰め、強盗の腕を掴んでねじ上げる。

そのあまりの激痛にウェイトレスの拘束を緩めた一瞬の隙を突いて、ブロントさんは強盗を壁際まで押し込んで壁にぶち当てて制圧した。

 

「これぞ唯一ぬにの盾。」

 

「我が流派は不敗が宿命…。」

 

一瞬にして立て籠りを制圧した二人は店内で勝ち誇ったような顔をする。

そんな現場に班長のクリザリッドが足を踏み入れた。

 

「怪我人は出してないな? それじゃあ犯人を拘束、夢弦警察署の刑事が来るまで待機だ。」

 

「了解。」

 

「承知。」

 

パッと見て店内の状況を把握したクリザリッドはブロントさんと不破の二人に指示を出す。

その二人の返答にクリザリッドは頷くと背を向けて店外へと出る。その時、“仕事は真面目なんだけどなぁ”と呟いていた。

 

こうして喫茶店アーネンエルベを襲った強盗は鎮圧され、夢弦警察署の刑事に引き渡されていった。

その一部始終を見ていた店内の客達は“さすがKGDOの警備員達だ”と口を揃えて証言したという。

その一方で、完全に暴れるつもりでいたグーヤンと社はというと───

 

「もぉおおおっ!!」

 

「うるせぇな、終わった事じゃねぇか。もう喚くな!」

 

「だってだってぇ!!」

 

完全に駄々っ子と化したグーヤンを宥めるために社は彼女と一緒にレゾナンス内に店を構える居酒屋“Go-Sho-Ha”に来ていた。

警察の事情聴取など受けていられないとばかりに二人はあの現場から警察が来る前にさっさと逃げていたのだ。

そこで二人は、特にグーヤンは大量の安酒をあおるように飲んでいたのである。

その日グーヤンは潰れるほど酒を飲み続け、社によって裏ストリートファイトの控え室まで運ばれたらしい。

 

 

今日もレゾナンスは平和である。

 

 





久々にTRF-R勢を書いた気がする。

では次回でお会いしましょうノシ


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