IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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最近気がつきました。
この話、200じゃ終わらないって。
あれー? 当初の予定だと200話に納めようと思ってたのにな~。

では本編をどうぞ↓


第102話 鈴音と春花

 

「アアアアアッ! フゥアチャァアッ!!」

 

特徴的な甲高い声を響かせながら放たれた鈴音の蹴りは天井にレールで吊るされたサンドバックを数メートル吹き飛ばした。

そんな所業を見て、後ろから見ていた春花は驚いたように目を丸くして拍手する。

 

「やっぱり鈴センパイは凄いです! IS学園に入る前と比べて2メートルも記録を伸ばすなんて!!」

 

「ま、これくらいはね。じゃないと周りに置いてかれるんだもの。」

 

鈴音は額の汗をリストバンドで拭い、ツインテールをファサっと肩の後ろに流す。

そんなさも何とでも無いように語る鈴音を春花はキラキラした目で見つめるのである。

 

「そう言うあんたもかなりやる様になったんじゃない? 前よりもずっといい身体つきになってるもの。」

 

「あ、分かりますか? 鈴センパイがいなくなってからずっっと師匠と特訓してたんです!」

 

「あ~、そりゃ逞しくもなるわね。」

 

「はい! だから鈴センパイにもそう簡単には負けませんよ!!」

 

春花はぐっとガッツポーズを取ってみせる。そんな彼女の言葉に鈴音の眉が少しだけピクリと動いた。

 

「なら、少しだけ勝負してみない?」

 

「え、勝負ですか?」

 

「そうよ。ISで勝負してみない? 私も春の実力を知りたいし。ね?」

 

「で、でも鈴センパイがこっちに戻ってきたのってISのデータ解析ですよね? だったら今手元にないんじゃ…。」

 

びくついた様子でそう言う春花に鈴音は待機状態にしている自身の専用機を見せつけた。

 

「安心しなさい。上に渡すのは明日の夕方だから。今日は一日中使えるのよ。今さらデータの1つや2つ、嬉しい誤算でしょ。」

 

「そ、そうなんですか…。」

 

逃げ場などとうに無いことを覚った春花は一呼吸置いて覚悟を決めると、キッと鋭い目付きに変わる。

そんな春花の顔を見た鈴音は満足そうに笑う。

 

「やりましょう…。私と、私の流派の力を見せてあげますよ!」

 

「上等! 私と甲龍の力を甘く見ないことね。」

 

自信満々な春花に対して鈴音は不敵に笑って見せた。

 

 

 

急遽IS訓練用のアリーナを借用した鈴音と春花はその中央で睨み合う。

 

「始めましょうか…。来なさい甲龍!!」

 

「全力全壊です! 行くよ、漆虎《チィフゥ》!!」

 

お互いが十分な距離を取った状態で専用機を展開する。

完全に展開仕切った春花の専用機“漆虎”は全身を赤いパーツがマントのように覆っていたが、春花が片足で床を踏み鳴らすと中央で分かれ、背後にまで移動して止まり、まるで風に翻るマントのような形へと変形した。

そうして現れた春花は漆虎の名に恥じぬ漆黒のアーマーを身に纏い、腕を組んでいる。

 

「さぁ…行きますよ!」

 

春花は左足を上げ片足立ちになると左手を鈴音の方に向け、右腕は肘から先を捻り、掌を上に指先を鈴音へと向ける。

そんな独特な構えを取る春花に対して鈴音はいつも通りに自然体の構えを取る。

 

「かかってきなさい。本気で相手をするから。」

 

「はい、胸をお借りしますね!」

 

お互いいい笑顔で言葉を交わすと、次の瞬間には二人同時に動き出した。

 

「アチャアッ!!」

 

「はぁっ!」

 

先ずは小手調べとでも言うように放った両者の拳がぶつかり合う。ISの補助により上昇しているパワーが正面から激突し火花を散らす。

続いてその至近距離からお互いのハイキックがぶつかり、同時に体をひねって打ち出した裏拳がかち合う。

 

「フゥアァタアッ!!」

 

「ふんっ!はぁああっ!!」

 

頭突きでお互い牽制し距離を少しだけ距離を開け、そのスペースを利用して加速して脇腹めがけて蹴りを放つもそれも同時に当たる。

大きな衝撃があったにも関わらず二人は当たった蹴りが当たった瞬間に離れて距離を取る。

 

「これで決めます! 秘技…───」

 

春花は掌を突き出して体の前で円を描いていくと時計の文字盤のように十二個の梵字が浮かび上がり、その梵字一つ一つが小さな漆虎になる。

 

「──十二王方牌大車併!!」

 

春花が投げつけるような素振りを見せるとその小さな漆虎が一斉にそれぞれの意思を持っているかのように鈴音に襲いかかる。

 

「甘いのよ!」

 

「ウェ!?」

 

鈴音は青竜刀を二振り取り出すと次々襲いかかってくる小さな漆虎を切り落としていく。

そして次の瞬間には十二体もいた小漆虎をすべて切り落としていた。

 

「ぜ、全滅!? 3分も経ってないのに!?」

 

「まぁ、こんなもんよね。」

 

自慢の技を完全に攻略された春花は青ざめた顔と畏敬の目で鈴音を見つめる。逆に鈴音はドヤァという顔を春花に向けている。

 

「ま、まだです! 私の実力はこんなもんじゃありません!!」

 

「オーケー、それならもっともっと来なさいよ。」

 

「はい!!」

 

春花はまた片足立ちの構えを取り、息を整える。

鈴音は青竜刀を拡張領域に納め構えを取る。

 

「行きますよー!!」

 

春花は片足立ちの状態から前傾になり重力を利用して急加速する。

 

「…速い? いや、鋭い!!」

 

「ふんっ!!」

 

「まだまだぁ!!」

 

一瞬にして鈴音の真横まで潜り込んだ春花はそのまま抉り込むような角度で鈴音に向けてボディブローを放つ。

が反射的に肘をのばして鈴音はそれを止める。

そして春花のボディブローをアーマーで止めたことを衝撃で感じとった瞬間に鈴音はボディブローを打ち込んできた春花の右腕を掴んで逆間接を極めて背負い投げた。

 

「ウェエッ!?」

 

「フゥウウァチャア!!」

 

背負い投げて地面に叩き付けられた春花に鈴音は踵を振り下ろす。

 

「それはさすがにっ!!」

 

腕を掴まれているため横に転がって逃れられない春花は脚を高々と掲げ腰から跳ね上がって振り下ろされる鈴音の踵落としを脚で受け止める。対象が自分から近付いて来たことで照準が外れたことで鈴音の踵は当たらず、代わりに太股で跳ねてきた春花の身体を迎え撃つことになった。

十分な加速も得られずまた意図した部位での打撃でないため、春花には大したダメージは通らない。

そしてさらに春花は跳ね上がった反動を利用して身体を反転させて立ち上がる。

 

「ふぅ…破っ!」

 

そして立ち上がると踵落としを迎撃され若干姿勢を崩している鈴音の鳩尾目掛けて肘を打ち込む。

その一撃で完全に体勢を崩された鈴音に対して春花は更に追撃を重ねる。

 

「覚悟!!」

 

「なんの!!」

 

崩れた姿勢のまま鈴音は打ち下ろされる春花の腕を掴み、カウンター気味に空いている方の拳で殴りつける。

がしゃりと重い音を響かせて両者の体は地面に落ちた。そして二人とも着地と同時に転がってお互い距離を離す。

距離を取ってお互い構えを取り、睨み合う。その様子から両者ともにそこまで大きなダメージを受けていないように見える。

 

(なーんか、春の構えとか戦い方とか見覚えがあるのよね~。)

 

(やっぱり鈴センパイ強い…。でもだからこそ勝ちたい!)

 

睨み合いながらお互いの様子をうかがい場は硬直状態になる。

その間でも頭の中では相手の一挙手一投足に全神経を集中させ、何があっても即座に対応出来るようにギアを暖めている。

そうして睨み合いが続いて早数分、先に動いたのは春花だった。

 

「ふん! はぁ!!」

 

一気に距離を詰め、あと二歩という間合いまで詰め寄ると、ダンと大きく左足を力強く踏みならして踏み込む。

そして踏み込んだ左足を軸にもう一歩、右足をさらに素早く力強く踏み込ませ右拳を鈴音の鳩尾に向けて突き込んだ。

全身の体重と力を全て伝え、込められた破壊力は全て鈴音の鳩尾へと伝わる───はずであった。

 

「ァァアチャアッ!!」

 

「ふっかぁっ!?」

 

春花の一撃がきっちり芯を通すよりも先に鈴音の正拳突きが春花の額を見事に打ち抜く。

鳩尾に拳を受けながら放たれたその一撃は綺麗に決まり、春花の体は宙で縦に1回転した。

 

「アアアアアッ! フゥゥアタァアアッ!!」

 

そして機動の制御を一時的に失った春花を見て鈴音はぐっと右腕を引き絞り、溜めた力を一気に解放して乱暴に殴りつけた。

ものの見事に叩き付けられた拳によって春花と漆虎は地面に激突する。

しかしそれで終わるほど春花も柔ではない。叩き付けられた瞬間に腕を使って体を横に跳ねさせ、すぐさま鈴音の追撃の範囲から逃れた。

 

「…惜しい…。今ので決めたかったのに。」

 

「すいません、負けるわけにはいかないので…。」

 

大きく息を切らせながらも春花は小さく笑って見せた。

そして深呼吸して息を整えると足を踏み鳴らして胸を張る。

 

「新一派 東方不敗 王者之風 全新招式 石破天驚 看招! 血染東方一片紅!!」

 

気合いの入った力強い声で漢詩を一節歌いあげ、まだまだ英気の滾る瞳で春花は鈴音を睨みつけると再度片足を上げた構えを取る。

まだまだ春花の心が折れていないことを確信した鈴音は楽しそうに笑う。

 

「まだまだです、まだ、終わりませんよぉ…。私は、東方不敗の弟子だから…。」

 

「それならあたしも負けないわ。あたしのお師さんは現代の呂布、呂虎龍だから。」

 

二人はお互いに構えを取ったまま睨み合う。

ぴりぴりとした空気で場は硬直する。

 

 

「はぁっ! そいやっ!!」

 

「ファァァ、ァアタァアッ!!」

 

そしてピンと耳が痛いと錯覚するほどにアリーナの空気が静まり返った瞬間、同時に動いた。

同時に前ブーストを吹かして一気に距離を詰め、引き絞った拳をお互いの顔面に向けて放つ。

お互いが放った拳はそれぞれ別の腕で防いだため、致命傷には至らない。

続く第2波もほぼ相殺の形となり、お互いを傷つけることはなかった。そして第3、第4と何度も何度も続けていくも、それはかち合い続け、どちらも傷つかず、一進一退の攻防を繰り返す。

 

「フゥゥゥアタァッ! ファチャアッ!!」

 

「せい! かっ!?」

 

しかし遂に限界が訪れる。疲れ知らずにペースを落とさず攻め続けてきた鈴音の手数が徐々にではあるが春花を上回り始める。

 

「アタァッ!ファチャフゥゥアタァアアッ!!」

 

「む、くっ!? がぁっ!!?」

 

どうにか相殺合戦に持ち込んでいた春花であったが次第にその堅守の盾を抉じ開けて無理矢理にガードの上から鈴音が一撃を通していく。

 

「アタァッァアタァアッ!! フゥゥアタァアアッ!ファチャ!ゥゥアタァッ!!」

 

一度春花の体勢が崩れてからは圧倒的だった。

スタミナ切れもあり、即座に立て直す事の出来ない春花は怒濤の勢いで迫る鈴音の攻めを防ぐことも出来ず、押しきられる。

 

「ゥゥァアタァッ!!」

 

「ふんはっ!?」

 

そして最後に放たれた渾身の一撃で漆虎のシールドエネルギーはゼロになり、活動は停止する。

自身の空になったエネルギーをみて敗北を確認した春花は漆虎を待機状態に戻す。

 

「う~、また勝てなかった…。」

 

「まだまだ技量にスタミナと体が追いつききれてないわよ。そんなんじゃ勝てないって。」

 

まだ余裕の表情を見せる鈴音に春花は悔しそうに口をとがらせる。

その後二人は録画していたこの仕合いのログをみて反省会を行うのだった。

 

 

 

 





まぁ、春花の師匠ってもう丸分かりですよね。
はい、あの方です。


では次回でお会いしましょうノシ


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