IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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はい、今回は早めに投稿できました!
まぁね、後半なので展開とか決めてあったのが大きな理由です。
次もこの速度とはいかないと思います。

では本編をどうぞ↓


第98話 一夏くんのドイツ旅行 2日目後半

 

───ドヒャアドヒャア と耳に残る独特なブーストの音を響かせながらヒルデガルト・ワーグナーは空を飛ぶ。

その動きは最早人間のものではない。

一夏もまた、この勝負開始から今までヒルダの動きを辛うじて目で追い、視界の端に捉えることは出来てもその動きを完全には追いきれていないのだ。

それに加え、ヒルダの正確無比な射撃は1発1発こそ軽いものの、白式のシールドエネルギーを確実に削っていっている。

 

(速すぎる…。けど、ここまで速いってことはその分脆い…はず。なら一撃で仕留める!)

 

一夏は旋回しヒルダを視界に捉えながら狙いを逸らさせるように細かく動く。

その間もヒルダはドヒャドヒャと独特な音を掻き鳴らしながら熟練のISパイロットもかくやと言わんばかり、いやそれ以上の機動で一夏の周りを飛び回る。

 

(落ち着け、落ち着け…。一撃で決めるためにも、今は心を落ち着けろ。)

 

右手できつく雪片を握り締めながら一夏は呼吸を整える。多少の被弾なぞ構うものかと言うその態度にガラス越しに見ていたラウラは笑い、飛び回りながら見ているヒルダは首を傾げた。

 

「この状況で、直撃以外なら構わないと割り切れるのか…。やはり、お前は凄い男だな…。」

 

ポツリとラウラが呟く。

一夏が動いたのはその時だった。

それはほんの僅かなものであった。ヒルダが右にブーストで走った瞬間、一瞬だけ勢いを殺したその時、一夏は前にブーストで飛び込んだのだ。

 

「ふぇ…?」

 

「貰ったっ!!」

 

 

結果はどんぴしゃ、ヒルダは右に跳んだ直後にブーストで左に切り返した。それをほんの僅かな兆候で見切った一夏が先回りをして待ち構えていたのである。

そしてヒルダを待ち構えているのは一撃必殺の刀、雪片弐型の零落白夜。

一夏は回り込んだ先でヒルダが間合いに入った瞬間にその刀を振り下ろす。

傍から見ていたラウラでさえ、一夏の勝利を確信した。

しかし、雪片弐型は宙を斬る。

 

 

──ドヒャドヒャドヒャア

 

 

一夏が雪片弐型を振り下ろす直前、ヒルダは更にブーストを吹かし、三連瞬時加速という離れ業をやってのけて一夏の一撃、必殺の刀から逃れたのだ。

 

「なん…だと…?!」

 

「い、今の動きは…?」

 

俯瞰で状況を見ていたラウラでさえ、一瞬何が起こったのか理解出来なかった動きである。目の前で見ていた一夏からすればヒルダが消えたように見えただろう。

そしてそんな動きをした当の本人は一夏から離れた場所でISを待機状態に戻すと、嬉しそうな顔を浮かべて一夏に駆け寄った。

それを見て一夏もISを待機状態に戻す。

 

「イチカすごーい!!」

 

「え・・・?」

 

「なんで、どうしてヒルダの行く先が分かったの? イチカとは初めて戦ったのに!?」

 

ヒルダは心底楽しそうにぴょんぴょん跳ねながらまくし立てるように一夏に尋ねる。

そんな彼女の質問責めに一夏は言葉を詰まらせながらも一つ一つ丁寧に答えていく。

 

 

 

「えへへ、すっごい楽しかった!!」

 

「そっか、そりゃよかった。」

 

その後、ISスーツから着替えた二人はラウラと合流し、宿舎のラウンジで休憩をとっていた。

ヒルダは椅子に座る一夏の膝の上に座り、満面の笑みを浮かべている。もう完全に一夏に懐いているようで、離れる素振りも見せない。

それどころか一夏に頭を擦りつけるなど、もはや飼い主のことが大好きな猫状態である。

 

「そんなに一夏のことが気に入ったのか?」

 

「うん! ヒルダね、イチカとまた遊びたい!」

 

ラウラの質問にヒルダは大きく頷いてにっこりと笑う。

その返答にラウラは“よかったな”と呟いてヒルダの頭を撫でる。撫でられたヒルダは嬉しそうに目を細める。

 

「えへへ…コホッコホ…。」

 

「いつものか…。」

 

「う、うん…。」

 

急に咳き込み始めたヒルダを見てラウラが顔を覗き込むと、ヒルダは申し訳なさそうに頷く。

 

「そうか、辛いなら休んでいいぞ。そのまま寝てていい。」

 

「うん、おやすみなさい…。」

 

そう言ってヒルダは一夏にもたれ掛かってすやすやと穏やかな寝息を立て始めた。

ヒルダが完全に寝たことを確認したラウラは一夏にアイコンタクトを取る。それだけでラウラの言わんとしていることを察した一夏はそっとヒルダを抱き抱え、ソファに寝かせてやり、ブランケットをかける。

 

「すまんな一夏。ヒルデガルトの遊びに付き合わせてしまって。」

 

「気にすんなよ。オレも色々と為になったからさ。」

 

席に着いてコーヒーを飲む一夏にラウラは頭を下げる。そんなラウラに気にすることはないと一夏は頭を上げさせた。

 

「取り敢えずヒルデガルトの事は上に連絡したからそのうち迎えが来るだろう。それまではあいつの子守りだ。」

 

「オーケー。それまで付き合うよ。」

 

「そうか。」

 

それから二人は他愛ない世間話をしながらヒルダの迎えが来るまで時間をつぶすのであった。

結局迎えが来たのはその日の夕方のことである。迎えが遅くなった理由として、迎えに来た担当曰く“シュヴァルツェアハーゼの宿舎なら心配はいらないと思った”らしい。

眠っていたヒルダを起こして担当の者に引き渡した二人はそろそろ夕飯の時間でもあったため、一緒に食堂へと向かった。

ちなみにヒルダが帰る時に泣いてぐずったのはここだけの話である。

 

 

 

夕飯も食べ終え、すでに月も昇り終えた頃のことである。

一夏はこれで二日目となるシュヴァルツェアハーゼ隊宿舎の客室のベッドで横になっていた。もう夜も更けているのだが、昼間のヒルダとの勝負が脳裏に浮かび、なかなか寝付けないでいたのである。

そんな時、一夏の部屋のドアがノックされた。

 

「開いてますよ。」

 

こんな夜更けに誰であろうかと疑問に思った一夏であるが、ここは軍の施設。いる人間はラウラとその部下である。ならば安心だろうと、一夏はノックした人物を部屋に招き入れた。

そうして部屋に入って来たのはラウラであった。

どこか思い詰めたような表情の彼女は部屋に入るとドアをゆっくりと閉めて一夏を見つめる。

そんな彼女を一夏は同じベッドの上、自分の隣に座らせた。

 

「どうしたんだラウラ?」

 

「あぁ、一度な、お前に聞いて確かめたいことがあったんだ。」

 

「確かめたいこと? それって?」

 

いつになく真剣な表情のラウラを見て、一夏もまた真剣な顔になる。

そしてラウラは息を呑み、意を決したように顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。

 

「お前の、一夏の気持ちが私に傾く事はあるのだろうか…。」

 

「…え…?」

 

「だから、お前が私のことを異性として、女として好きになる事はこの先あるのか…? 有り得るのか?」

 

小刻みに身体を震わせながらラウラは一夏に問う。

自身よりも目線の高い一夏の顔を見上げた彼女の頬には一筋の涙が通っていた。

 

「ラウラ…。」

 

「分かってはいるんだ…。お前には誰よりも心を寄せる想い人がいることも、その人からお前の心が動くことなど無いということも…。」

 

そこまで言ってラウラは一夏の服を掴み、その分厚い胸板に頭を押し付ける。

 

「それでも、それでもどうしようもないくらいに、私は一夏が好きなんだ…。」

 

一夏の胸に頭を押し付けたままラウラは胸の内に秘めた言葉を吐き出した。その言葉は冗談などではないことは確かであり、それ故に一夏の心に響く。

言葉を紡ぎ終えた彼女の身体はふるふると小刻みに震え、その言葉を発するのに彼女がどれだけ勇気を振り絞ったのかが容易に分かる。

 

「…私は二番で、愛人で良い。どんな形でも私はお前の傍にいたいんだ…。一夏が好きな人と付き合うまででも良い…、私の事を好きになってはくれないか…?」

 

「……。」

 

「自分でも身勝手なことを言ってるのは分かってる。でも、それだけ本気なんだ。理性で抑えられないくらい…。」

 

ラウラの告白、それを聞いた一夏は目を閉じて自分の胸の中で震える少女の事を考える。そしてラウラもまた一夏からの答えを聞くためにじっと静かに待っていた。

そして暫くの沈黙を破るように、一夏はその口を開ける。

 

「…ラウラ、顔を上げてくれ。」

 

発せられたのは静かなことばであった。その言葉に従い、ラウラは一夏の顔を見上げるように顔を上げる。

そして一夏は弱々しく見上げてくるラウラの唇に自身の唇を重ね合わせた。

 

「一、夏ぁ…ん、ぁ…。」

 

「…ん、ちゅ…あぁ…。」

 

長く啄むようなキス、まだ拙いながらも想いの籠った情熱的なキスを交わす度に部屋の中に小さく水音が響く。

そして長い長い間交わされたキスが終わり、一夏がラウラから顔を離すと、きつくその小さな身体を抱き締めた。

 

「ラウラ、オレはお前を幸せに出来ないかもしれないし、お前よりも好きな人がいる…。それでも良いのか…?」

 

「あぁ、それで良い。私は一夏の傍に入れるだけで幸せだから…。それに、あの人になら一夏を取られても構わない…。私は愛人で良いと言ったろう?」

 

「ラウラ…。」

 

嬉しさからなのか、ラウラの瞳からは止めどなく涙が溢れ、頬を伝って落ちていく。

一夏はそんなラウラの涙を指で拭ってやるともう一度ラウラの唇にキスを落とす。

ラウラも一夏からのキスを受け入れ、二人はそのまま同じベッドで眠りに着いたのであった。

 

 

 

 

「ん……朝…か…。」

 

朝、小鳥の囀ずりと朝日の眩しさで目を覚ました一夏はむくりと上体を起こす。布団が捲れ、その下で眠っていたラウラも眩しそうに目を閉じながら起き上がる。

 

「おはようラウラ…。」

 

「あぁ、おはよう。」

 

ベッドの上で向かい合った二人は挨拶を交わすと、気恥ずかしそうに顔を逸らす。

 

「オレたち…。」

 

「ふふ、これからもよろしく頼むぞ、旦那殿。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

二人は再度向き合い笑い合うと、お互いの唇を重ね合わせキスをした。

 

 

 

 





はい、今回はここまで!
恋する乙女は強いのですよ。大胆な告白は乙女の特権でございますから。

まぁウチのラウラさんは自分も平等に愛してくれるなら一夫多妻も認めるお方ですのでね。

ではではまた次回!



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