今度はラウラのターン!
では本編をどうぞ↓
「一夏さん、いらっしゃいますか?」
インテグラに引き回されてのロンドン旅行の翌日のこと、チェルシーが1つの封筒を持って一夏のもとを尋ねた。
「はい、どうかしましたか?」
「いえ、一夏さん宛の手紙がこの屋敷に届いておりまして…。差出人の名前はラウラ・ボーデヴィッヒとなっておりますね。」
「ラウラ?!」
友人の名前を聞いた一夏はチェルシーから手紙を受けとると、丁寧に封された封筒を開けて中身を取り出す。
中から出てきた手紙には可愛らしい手書きの文字が書かれていた。
そしてその手紙を読み終えた一夏はハァと大きく息を吐いて首をもたげる。
「あぁ、うん…。」
「手紙にはなんと?」
「いえ、セシリアの家だけにいるのは不公平だからドイツにも来てくれ…、だそうです。」
「あれま…。愛されてますね、一夏さん。」
あらあらとチェルシーは口許に手を当てて小さく笑う。
そんな彼女の反応に一夏はあははと小さく笑うのだった。
「それでは一夏さん、またIS学園で御会いしましょう。」
「あぁ、また会おうな。」
ラウラから届いた手紙に、飛行機のチケットも同封されていたこともあり、一夏は手紙を受け取った翌日、イギリスを発つことになった。
今は国際空港にて、ドイツに向かう一夏を見送るためにセシリアとチェルシー、オズワルド、そしてインテグラが集まっていた。
「また来るといい。今度は私の屋敷でもてなそう。」
「あ、ありがとうございます。」
インテグラは一夏の正面に立つと、白手袋を外して手を差し出した。一夏はそうして差し出されたインテグラの手をしっかりと握り返し、頭を下げる。
その後、幾らかのやり取りを交わした彼らはキリの良いところで話を切り上げ、その場で別れた。
イギリス代表との親交を深めた一夏は、そのままドイツへと足を向けるのであった。
「おお! 嫁よ、やっと来たか!!」
ドイツのとある空港で一夏を出迎えたのは軍服姿のラウラであった。
IS学園の制服とはまた違った、落ち着いた色合いの軍服はラウラの綺麗な銀髪も相まってとても理知的な印象を与える。
「久々だな、ラウラ。元気そうで何よりだ。」
「ハッハッハ! この私が体調を崩すなどあるものか、ドイツ軍人は風邪など引かん。」
快活に笑い、胸を張るラウラに一夏は“あぁいつものラウラだ”と安心するのだった。
そうして安堵する一夏の手を取って、ラウラは歩き始める。
「さて、立ち話もなんだ、早速案内しよう。」
「案内って、どこにだよ。」
「無論、私達の基地にだ。」
強引に手を引っ張られ、いつの間にか車に乗せられた一夏はどうすることもできず、されるがままにラウラの所属する部隊、“シュヴァルツェアハーゼ”隊の基地に連れてこられた。
「…本当に民間人、それも国外の人間を入れて良いのか?」
「勿論だ。」
「本当にか…?」
助手席に座った一夏は横目で隣にいるラウラに尋ねる。
車内で何度も繰り返されたそんな問答にラウラはハァと小さく息を吐いて一夏の方を向く。
「良いに決まっているだろう。お前は私の嫁、つまりは家族だ。家族を家に上げるのに、悪いことなどあるものか。」
それだけ言ってラウラは運転席から降りる。
あまりにも真っ直ぐな眼でそう言われた一夏は、釣られるように助手席から降りて、ラウラの後をついていく。
すたすたと歩いていくラウラが足を止めると、そこはラウラ達シュヴァルツェアハーゼ隊の隊員宿舎であった。
ラウラは1度だけ一夏の方を振り向くと、玄関のドアノブに手を掛けて勢い良く開け放つ。
「今帰ったぞ!」
「「「お帰りなさーい、隊長~!」」」
宿舎の玄関を潜ったラウラと一夏を出迎えたのは、ラウラと同じ軍服を身に纏った少女達であった。
彼女達は皆一様に眼帯を着けており、どこかラウラと被って見える。そして、そんな彼女達の中でも一回り大人びて見える女性が1歩、前に歩み出る。
「お帰りなさいラウラ隊長。それと織斑一夏さん。」
「あぁ、嫁には紹介せねばな。私の副官、シュヴァルツェアハーゼ隊の副隊長のクラリッサだ。」
「初めまして一夏さん。クラリッサ・ハルフォーフと言います。貴方の事は隊長から常々うかがっております。」
「えっと、よろしくお願いします。」
ラウラの紹介を受けたクラリッサはピシリと敬礼を取ると、ふわりと優しい笑みで一夏に微笑みかける。
そんなクラリッサの態度に一夏は戸惑いながら頭を下げた。
そしてラウラが周りの隊員に目配せすると、彼女達は静かに音も立てずに奥の部屋へと入っていった。
「さて、長旅で疲れただろう? 取り合えず食事にするぞ。こっちだ。」
ラウラは一夏の手を取って先程隊員達が入っていった部屋に連れていく。
その部屋のドアを開ける前から、何とも言えない美味な匂いが漂い、食欲を刺激する。そしてラウラがドアを開けると、匂いと共に見た目にも美味しそうな料理の数々が一夏の目に映った。
「ラ、ラウラ、これは?」
「…まぁ、その、なんだ…。私なりの歓迎、というやつだ。遠慮なく食べてくれ。」
「そうか…。じゃあ遠慮なくいただくよ。」
一夏はラウラと隣の席に座ると、テーブルに並べられた様々な料理に目を通す。
どれも一夏には馴染みのないものばかりで、彼の好奇心と興味を惹いた。
「これは?」
「それはSauerbraten(ザウアーブラーテン)、子牛の肉をワインビネガーに漬け込んで香辛料で味を整えてから煮込んだものだ。」
「へぇ、じゃあ早速、…旨い!」
「そうだろう? 私が腕によりをかけて作ったんだからな。」
一夏はフォークで煮込まれた子牛の肉を口に運び、じっくりと味わうと、途端に目を輝かせてラウラを見る。そんな一夏の反応に、ラウラは得意気になって胸を張った。
「あぁ、本当に旨い。ラウラって料理が上手かったんだな。」
「これでも軍人だからな。ある程度は出来るさ。それよりもまだ沢山あるんだ、どんどん食べろ。ほら。」
そう言ってラウラはフォークに巻いたパスタを差し出す。それには勿論一夏も断ろうとしたのだが、パスタを差し出すラウラの目力に負けて、遠慮がちにそのパスタを頬張った。
ラウラが小さく“旨いか?”と尋ねれば一夏は首を縦に振る。そんな一夏の反応にラウラは歯を見せて笑うのだった。
そんな微笑ましさ満点の二人を見て、他の隊員達はニヤニヤしながら料理を食べ進める。時おり睨み付けてくるラウラの眼光から視線を逸らしては二人の観察をするのである。
それはクラリッサも例外ではなく、もし彼女がビデオカメラの類いを持っていれば、確実に撮影していたであろう。
ラウラは自分が食べるよりも一夏に料理を説明して食べさせることがメインになっているようで、しかしそれでいてとても満たされた表情をしている。
一夏も一夏で、見慣れない異国の料理を堪能できて満足そうである。
それから暫くしてあらかたの料理を平らげた一同は片付けをして、部屋へと戻っていった。一夏も、宿舎に設けられている客室へと案内され、その部屋で眠りに着いたのである。
こうして皆が幸せになって一夏のドイツ旅行1日目は終わりを告げた。
───その頃更識邸では、当主である更識楯無がフランスから届いた報告書に目を通していた。
一通り資料に目を通し終えた彼女はトントンと机で紙束のズレを整えると両手を2回打ち鳴らす。すると、カコッと彼女の部屋の天井の一角が外れ、そこからひょこりと白髪の少女が顔を出した。
「呼んだか?」
「えぇ。それで用件なのだけど、前に言っていたあの件、実行に移すわね。」
「承知した。」
白髪の少女はそれだけ言うと顔を引っ込め、天井の穴を元に戻して何処かへと去っていった。
それを見送った楯無はスッと立ち上がると窓から見える空を見上げる。
「これでシャルちゃんの件は片付くけれど…、さて、どう転ぶのかしら…。」
そう言って楯無は小さく笑った。
まだまだラウラのターン!
そんなこんなで夏休み編はまだまだ続く。