IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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本ッッッ当に遅くなりました!
許してください、なん(ry

肉体的にも精神的にも追い詰められてしまいまして、こんなにも遅くなってしまいました。

では本編をどうぞ↓


第95話 四条雛子というファイター

「フゥゥゥゥシャオッ!!」

 

「ぐぬっ!?」

 

マスクでくぐもってはいるものの、特徴的な南美の甲高い声が路地裏に響く。

それから一瞬だけ間を置いて鈍い音が鳴る。

キャップとマスクで顔を隠した南美はコンクリートの壁にもたれ掛かる対戦相手に肩を貸して路地裏を出た。

 

「…お疲れさん。」

 

「ありがとうございます。」

 

出入り口のパイプ椅子に腰掛けていたヴァネッサが対戦相手を担いで出てきた南美にタオルを投げる。

南美はそのタオルを頭を下げることで受け取った。

 

「器用だねぇ。にしても、火の玉ボーイが手も足も出ないって、実戦に強いねぇ、Ms.マスク…。そいつも弱い訳じゃないんだけどねぇ。」

 

「まぁ、私も鍛えてますから。」

 

気絶した対戦相手をヴァネッサの横に寝かせた南美はサムズアップして事務所の中に入っていった。

そんな南美の後ろ姿をヴァネッサは“若いっていいわね~”と呟きながら見送った。

 

 

「さてと、冷蔵庫に飲み物入れてた筈だけど…。」

 

トントントンとリズミカルに階段を駆け登り、南美は2階の部屋のドアを開ける。

 

「およ?」

 

「あ?」

 

2階の部屋、南美がいつもストリートファイトの度に使っている部屋には先客がいた。

鍛え抜かれた肉体に銀髪、紛れもなくストリートファイターの一人、七枷社である。

 

「ようマスク。今日も中々やるじゃねぇか。」

 

「社さんこそ。聞こえてましたよ、いつもの声。」

 

厳つい見た目とは違いフレンドリーな社は部屋に入ってきた南美に対して笑顔で話しかける。

それに対して南美も友人と接するように返した。

ここ数日間、ストリートファイトに通う内に社とはすっかり仲良くなっていたのである。

 

「仕方ねぇだろ? ああやって声出さねぇと気合いが入らねぇんだよ。」

 

社は整った顔に屈託ない笑顔を浮かべる。

その顔からはストリートファイトの時の荒々しさなど微塵も感じない。

 

「その気持ちは分からないでもないですね~。」

 

「だろ? お前なら分かってくれると信じてたぜ。」

 

爽やかな青年のようなその笑顔は裏ストリートファイトの参加者とは信じられない。

がしかし、傷だらけの両手が彼の壮絶な日々を静かに物語っている。その傷こそが彼が裏ストリートファイトのファイターであることの揺るぎない証拠だ。

 

「つか、そろそろオレらの中の誰かと殺るんじゃねぇか?」

 

「…え?」

 

社が何気なく言った一言に南美は思わず聞き返す。

そんな反応に社はコーラを注いだグラスを置いて南美を指差す。

 

「当たり前だろ? デビューして今まで3戦無敗、運営側もそろそろビッグネームと当てたいだろ。」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「たぶんな。オレも連勝してるときに上位ランカーと当てられたし。連勝してきたルーキーに上位ランカーの壁を当てる、その壁を越えて上位の仲間入りか、そのまま落ちるか。それが狙いなんじゃねぇの?」

 

「なるほど…。だとしたら誰と当たるんでしょうか?」

 

社の話を聞いて飲んでいたスポーツドリンクのペットボトルをテーブルに置いた南美は顔を上げて社に尋ねる。

南美からの質問に社は顎に手を当てて考える仕草をする。

 

「あ~、うん、グーヤのバカはまだ早ぇし、かといって下過ぎても面白くねぇ…。とすればオレか、ヒナか…?」

 

「ヒナ…さん?」

 

「おう、ウチの上位ランカーだ。ほれ、ちょうど今──」

 

社がそこで言葉を切ってストリートファイトが行われる路地側の窓に顔を向ける。

 

「合掌捻り!」

 

少女特有の良く通る声が響き、それに続くように何かがコンクリートに強く打ち付けられた音と男性の呻き声が路地に響いた。

その声の主と思しき少女は薄暗い路地には似合わないほど華奢で可憐な出で立ちをしていた。傍らに気を失って倒れている男さえいなければ、先程の鈍い音が彼女によるものだとは誰も思いはしないだろう。

 

 

「あれがウチの上位ランカーの一人、四条雛子だ。あんな見た目だけどよ、どんなデカい奴も投げ飛ばすんだ。強ぇぞ。」

 

窓から身を乗り出して雛子を見る南美に社はそう言った。

冗談などではない社のその言葉に南美はごくりと唾を飲み込んだ。

自分と同じくらいの、それも自分より華奢に見える少女の強さに南美はじっと雛子に視線を向ける。すると雛子は顔を上げて南美のいる方に顔を向けて手を振った。

 

「社さま! また勝ちましたわ!」

 

「おう、聞こえてたよ。」

 

華奢な体つきとは真逆の、ボロボロな掌を見せながら手を振る雛子に社も小さく手を振り返す。

そんな社のリアクションに雛子は嬉しそうに笑顔を浮かべ、路地裏から出ていった。

 

「…どういう関係で?」

 

「相撲の勧誘を受けた仲だ。それ以上でも以下でもねぇよ。」

 

南美の質問に何でもないと社は返す。そして部屋の外からダダダダダと階段を駆け登る音が聞こえてくると社は困ったように頭を抱えた。

 

「社さま!」

 

バタンと力強くドアが開けられ、雛子が部屋に飛び込んできた。

蝶番がひしゃげるほど強く開けられたドアへの心配を残しながら社は顔を上げて雛子に向き直る。

 

「あ~、なんだ、その…もう少しドアは静かに開けろ。」

 

「あ、すいません…。」

 

とりあえず見えている地雷を避けて無難な言葉を選んだ社の言葉に、雛子はそう言えばというように背後で悲惨な状態に陥っているドアへと振り向く。

それを見た雛子は“やってしまった”という顔になり、ゆっくりと社の方を向いた。

 

「や、やってしまいましたわ…。」

 

「そうだな…。」

 

なにやってんだコイツという顔で社は雛子を見る。そんな彼の視線から逃れるように雛子は手で顔を覆う。

そんな時、その場の凍った空気を砕くように一人の少年が部屋に駆け込んで来た。

 

「や、社! ヒナちゃん! 大変だよ!!」

 

短パン姿の少年は手に持ったスマホの画面を二人に見せる。

雛子の後ろから画面を覗き込んだ社はニヤリとした笑顔を浮かべると、顔を南美の方に向けた。

 

「おいマスク! 次の試合が決まったぜ、Ms.マスク対四条雛子だ。」

 

そう告げる社の顔は楽しそうな笑顔であった。

 

 

 

 






やっと雛子を出せた。

ではまた次回で御会いしませう。


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