IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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久々に食べる実家のカレーライスが旨すぎてスプーンが止まりませんね。

正月太り?大丈夫だ、どうせ部活ですぐ痩せる。

では本編をどうぞ↓


第91話 裏ストリートファイトの女王と時々一夏

「はいよ、Ms.マスクね。それで、ファイトマネーのことなんだけど──」

 

「あ、別にそこまで貰わなくて結構です。お金が目当てじゃないので。」

 

「あぁ、そうだったね。」

 

説明ようにファイルを取り出そうとしたヴァネッサは南美の言葉に掴んでいたファイルを置く。

 

「んじゃ簡単な説明しましょうか。」

 

パイプ椅子に座ったままヴァネッサは凝った首を解すようにぐるんと首を回す。

 

「まず、この建物ね。」

 

そう言ってヴァネッサは後ろの事務所を親指で指差した。

 

「うちの団体が管理してる建物よ。ファイターの控え室だったり、試合後の休憩所だったりに自由に使ってくれていいわ。」

 

なんとも豪勢なことなのだろうかと、ヴァネッサの説明を聞いた南美は感心した。

ストリートファイトの為だけに建物一つをこさえて、それを参加者に自由開放という気前のよさ。

しかし、それでも一試合で動く金額を考えればそんなことも簡単に出来てしまうのだろうが。

 

「それで次がっと。」

 

反動を着けて立ち上がったヴァネッサが次に歩みを進めたのは先ほど社とグーヤンが出てきた路地だった。

 

南美もヴァネッサに倣ってその路地に足を踏み入れるが、見えたのはコンクリートの壁だった。どうやらそこでT字路になっているようである。

 

「あのT字路の先がアンタらファイターの戦場になる。幅2メートル弱の狭い通路で殺り合うのさ。さて、まだ時間もあるし、見た方が早いだろ。おいで。」

 

「はい。」

 

ヴァネッサに手招きされ、T字路の先に行く。

建物の陰に隠れたそこは薄暗く、どこか現実とは離れているような感覚に陥る。

 

「一応フィールドには幾つかのカメラがある。試合の時はリアルタイムでそれが中継されてうちの団体が運営するサイトで配信されるのさ。会員専用だから、滅多なことも起こらない。」

 

「か、会員って…?」

 

「裏ストリートファイトの成立に協力してくれたVIPだったり、勝敗に金を賭けてる金持ち連中だったり、ようは金満道楽家ってことさ。」

 

ヴァネッサはチラチラと周りに視線を移し、路地の点検をする。

暫くすると何もないのが分かったのか、美南を連れて元いたパイプ椅子の場所まで戻った。

 

 

「で、どうする? 取り敢えず最速で試合したいなら明日にでも組めるけど。それとも、誰かの試合でも見ていくかい?」

 

ヴァネッサは薄いファイルをぺらぺらと捲りながら南美に尋ねる。

そして目当てのページを見つけると次々と書かれている文書に目を通す。

 

「…うん…。やっぱり明日は空きがあるね。どうしたい? 今日のこの後にある試合を見てから決めるかい?」

 

「はい、そうします。」

 

「はいよ。じゃあ事務所の中で休んでなさい。中に置いてあるお茶とかは自由に飲んでいいわ。」

 

ヴァネッサに促され、南美は事務所の中に入っていった。

入り口の階段を登り、2階フロアの一室に入るとそこには先ほどすれ違ったグーヤンが湯呑みでお茶を飲んでいた。

 

「あら、貴女はさっきヴァネッサの所にいた娘じゃない。新人さん?」

 

「あ、えっと、はい! 貴女はグーヤンさん、でしたよね。」

 

上等なソファに座り、優雅にお茶を嗜んでいるグーヤンは淑女そのものである。

そんな彼女の雰囲気に南美は思わず言葉に詰まる。

 

「そんなに畏まらないでいいわよ。さん付けもよして、グーヤンって気軽に呼んで。堅苦しいのは好きじゃないの。」

 

「は、はぁ…。」

 

外見に相応しい丁寧な言葉遣いと物腰、それらとギャップのある物言いに南美は多少困惑するも、まぁそういう人なんだと自己完結させる。

 

「いつまでも立ってないで座ったら? ここのソファ、座り心地がとてもいいから。お茶も今淹れるし。」

 

「え、あ、いや、お構い無く!」

 

「いいのいいの。私が好きで淹れるだけだから。」

 

慌てて止める南美の声を振りきってグーヤンは急須に湯をいれる。

そして蒸らすこと数十秒、グーヤンは2つの湯呑みに小分けにして交互にお茶を注いでいく。

 

「はい、貴女の分ね。お茶請けは…うん、これで良いかしらね。」

 

グーヤンは戸棚を開けて煎餅を取り出し、器に入れてお茶の横に置く。

完全な歓迎おもてなしムードに南美も断る訳にはいかず、グーヤンに対面に座った。

 

「ほら、貴女も食べたら? けっこう良いところのお煎餅だから。」

 

「は、はい。ではいただきます。」

 

グーヤンに進められ、南美はマスクを上げて鼻の辺りだけを隠すようにしてから恐る恐るお茶請けの煎餅に手を伸ばした。

 

 

 

 

「えーと、貴女…、名前は? 」

 

「は、はい、Ms.マスクと名乗ってます。」

 

急に始まったお茶会から暫くして、グーヤンは南美に尋ねる。

南美は突然の質問に戸惑うものの、なんとか自分のラウンドネームを返す。南美のラウンドネームを聞いたグーヤンは“ふーん”と唸ってまた湯呑みに口を着けた。

 

「なんか、見たまんまって感じね。てか、だいぶ若いわよね。」

 

ずいと南美に顔を近付けたグーヤンがじろじろと顔を眺めて呟く。

そんなグーヤンの行動に南美は“貴女もだいぶ若いですよね、というかめちゃ綺麗な顔してますよね”と言いたくなるのをぐっと押し殺した。

 

「なーんで貴女みたいな若い娘がこんなところに来てんの?借金?」

 

「あ、いえ、別にネガティブな理由じゃなくて、その、強くなりたいなって。」

 

南美の発言を聞いたグーヤンが目を点にして何度も瞬きを繰り返した。

そして数秒後、正気に戻った。

 

「何、その王道バトル漫画的な理由は…。」

 

「改めて言葉にすると自分でもそう思いますよ。…グーヤンさんはどうして?」

 

南美の質問を受けてグーヤンはやや困ったような顔を浮かべる。

そして湯呑みに残った一口を飲み干すとまぁ良いかという表情になり、口を開いた。

 

「私ってさ、こう見えてそれなりに良いところのお嬢様って奴だったのよね。蝶よ華よと育てられ、何不自由なく生活出来てた。でも…、退屈だったのよねぇ。唯一の癒しはテレビで見る格闘技くらいのもの。」

 

そこで言葉を切ったグーヤンは急須を持って流しに向かう。

そして少しだけ冷ましたお湯を急須に注いで蓋を閉じた。

 

「親もさぁ、世間体だなんだと口煩いし、学校もお嬢様学校で、友達との挨拶も“ごきげんよう”…。本当に苦痛だったわ。」

 

そう呟きながらプルプルと腕や背中が小刻みに震えている。

恐らく過去を思い出して怒りで震えているのだろう。

そしてスーハーと大きく息をついて、湯呑みに茶を注いだ。

 

「それでまぁ、退屈で窮屈な生活に嫌気が差してさ。まぁ、予想できるだろうけど、家を飛び出したの。流れ流れてこの場所に、今はファイトマネーで悠々自適に暮らしてるわ。」

 

飲み頃に冷めた茶を一口飲んでグーヤンはまたソファに座る。

 

「本当に今の生活は楽しいの。鳥籠から出れた鳥ってこんな感じなんでしょうね。」

 

そう言って笑う彼女の笑顔は、それこそ大輪の華が咲いたように美しく、そして気高く、同性である南美さえも惹き付ける魅力があった。

 

 

 

 

そうして南美が裏ストリートファイトに片足を突っ込んでいる頃、少しだけ時を巻き戻し、夏休み突入直後の時間軸。

実家に戻っている一夏はというと──

 

 

「それでは、お部屋にお連れします。」

 

「あ、はい。よろしくお願いします、翡翠さん。」

 

赤髪のメイド姿の女性、翡翠によって倉持技研の技術開発工房に案内されていた。

 

 

夏休み突入前の福音事件によって白式がセカンドシフトを果たした一夏は、夏休みに入るやいなや、倉持技研から呼び出しを食らったのだ。

 

 

「いやいや~、すいませんね一夏さん。わざわざ足を運んでいただいて。」

 

翡翠に案内された部屋で一夏を迎えたのは、彼女とそっくりな割烹着姿の女性だった。

 

「大丈夫ですよ、琥珀さん。夏休みも始まったばかりで暇だったので。今日は白式のデータチェックだって聞いてたんですが。」

 

「はい。なんでも白式、セカンドシフトしたらしいじゃないですか。これはもう調べるしかないじゃない!というわけです。」

 

竹箒片手に微笑む琥珀に一夏はアハハと軽く笑う。

 

「今回は白式のデータを取ったら、実戦データを取る為にうちの子と一試合してもらいますね。」

 

「あ、了解です。」

 

開発室に置いてある自身のデスクに座った琥珀の言葉に一夏は二つ返事で了承した。

それが地獄の始まりとも知らずに。

 

 

 





MUGENで技術者と言ったら琥珀さんか、岡崎教授かにとりってくらいには定着している開発者琥珀さんこと、Dr.アンバー。


では恒例のMUGENストーリー紹介のコーナー!

「アリスさん姉妹」(いちじょ 氏)

「おっぱいこのやろう」の名言を生んだ名ストーリー動画。
1度は削除されたものの、リメイクされて帰って来た作品です。
長女アリス、次女アリス、三女アリスのアリスさん姉妹による日常系ギャグストーリー。
THEギャグストーリーとも言うべき動画は一見の価値ありです。
ぜひどうぞ!


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