IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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季節番外編の投稿です。

では本編をどうぞ↓


クリスマス特別編 第2期

 

 

今年もこの日がやって来た。年の瀬が徐々に近づき寒さも厳しくなって来た頃のこと、そうクリスマスである。

今年のクリスマスもまた何時ものように全面闘争解禁となる。しかしそれ以上に、夢弦の住民たちを震撼させるニュースが流れていた。

 

『えー、今年の夢弦ですが3年ぶりにサンタクロース狩り解禁ということです。その為、当日の24日、25日の屋外では激しい戦闘行為が予想されます、ですので参加されない方々は屋内に避難することを推奨するとハガー市長が発表しています。では次のニュースです。夢弦の側溝に住んでいたペニーワイズ氏がトラックに轢かれそうになっていた少年のジョージィ君を庇って轢かれるという事件が起こりました。トラック運転手には───』

 

そこでテレビの電源を消してジョンスが深く息を吐く。場所は夢弦高校特別課外活動部の部室である。

3年から1年全員が集まり、やや手狭な印象を受ける部室では緊迫した雰囲気が張り詰めていた。

 

「来たぜ、この日が! 3年越しのサンタ狩りだ!!」

 

「まさか、だな……。」

 

「あ~あ、来ちゃったねぇ。」

 

3年のジョンス、無頼、小町の3人はそれぞれのリアクションを見せつつもやる気に満ち溢れており、それを見た下級生たちは思わず息を呑んだ。

そんな中でまだ夢弦事情に疎い清姫がおずおずと手を挙げる。

 

「あ、あのその“さんたくろうす狩り”とはどのようなものなのでしょうか……。とても物騒に聞こえるのですが……。」

 

「ん? あぁ清姫は初めて聞くのか。」

 

「簡単に言えば、腕試しってヤツだねぇ。だいぶハードだけどさ。」

 

清姫の質問に小町が薄ら笑いを浮かべて答える。その質問に清姫は“はぁ……”と頷く。

しかしただの腕試しだけであるならばこうまで3年生が昂る筈はない。そうこの夢弦の「サンタクロース狩り」とは単なる腕試しのイベントではないのだ。

 

「夢弦を代表する最強格の人達がサンタクロースの格好をして街中を歩き回る。」

 

「それを撃破出来るかどうかってイベントさ。」

 

「手にするのはサンタを倒したっていう名誉、“魔女越え”に並ぶ名誉だ。」

 

“魔女越え”、夢弦高校に通う者ならば一度は夢見る最高の栄光。それと並ぶ名誉が得られるという言葉に清姫を筆頭に下級生たちは息を呑む。

それでも彼らは特別課外活動部、気圧されることなく真っ直ぐな視線をジョンスら3年に向ける。

 

「良い目だ。よっし行くぞ!」

 

「さて、倒せるかね。」

 

「やるだけやるさ。」

 

ベンチから腰を上げた3年に続いて下級生たちも腰を上げて向かい合う。

そしてそれぞれ得物を手に取りぞろぞろとクリスマスムードの夢弦へと出ていった。

 

 

 

 

「私を狩りに来たようだが、残念だったな。」

 

周囲の気絶して倒れた者たちを見下ろしながら暗い赤色をしたサンタ服の男、ヨハン・カスパールは笑う。

格好つけた、気取った話し方ではあるもののサンタ服のせいか威厳は薄れている。

さてそんな現場に居合わせた一向だが特にジョンスが嬉しそうに笑っていた。

 

「……その腕章、ベアトリーチェの所のか。なるほど、かかってくると良い。」

 

ヨハンは右腕を静かに掲げて構えを取る。そしてその言葉に反応するようにジョンスが駆け出した。

 

「あ~あ、盗られちまった。なら、アタシはこっちに行くかねぇ。」

 

「ならオレはあっちだな。」

 

ヨハンへと突撃して行ったジョンスを見て小町と無頼はそれぞれ別の方向を向く。そこにはまた別のサンタ服の人物が二人いた。

一人はルガール・ベルンシュタイン。口髭を蓄えた隻眼の紳士はいつものスーツではなく真っ赤なサンタ服を来てはいるがその眼力に衰えはない。

もう一人はズェピア・エルトナム・オベローン、夢弦高校で教鞭を取る化学教師だ。いつものマントも赤に変え、頭にはサンタクロースの帽子を被っている。

 

「ルガールさん、お相手願います。」

 

「ほう、良い面構えだ。良いだろう、掛かってきなさい。」

 

「あ~れま、ズェピア先生……、いや今は“ワラキアの夜”ですかね?」

 

「小町くん、良い観察眼だ。花丸をあげよう。」

 

無頼はルガールと、小町はズェピアにそれぞれ真正面に立ち構えを取る。

雪の積もる街中にピリッとした緊張感が走る。

そしてジョンスの震脚の音と同時に四人は動き出す。

 

 

「カットだ!」

 

「ジェノサーイカッタッ!」

 

「まだ、距離は詰められる!」

 

「拳の間合いに……ッ!!」

 

激闘を繰り広げる四人。下級生たちは黙ってそれを見守っている。

街路樹や植え込みは衝撃で大きく揺れ、雪は飛び散っていく。ルガールもズェピアも余裕の表情を崩さずに若者を迎え撃つ。さすがは長年夢弦で過ごしてきた強者と言うべきか、戦い方は巧妙そのものだ。

絶妙に間合いを管理して小町と無頼に決定打を打たせない。

 

 

「なかなか。やはりベアトリーチェの生徒、といったところか。」

 

「このぉ……!!」

 

軽快なステップを踏んで間合いに入り、高速の拳を打ち込んでいく無頼だが打つ拳全てを上手く受け流されてしまう。

熱くなって踏み込み過ぎたところにルガールの手痛い反撃を受けてしまう。

しかしそれでも無頼は折れることなく自分の間合いにルガールを入れる為に距離を詰める。

 

 

 

「カットだ!」

 

「アタシの能力で距離を詰めきれないか……、さすがは“ワラキアの夜”だ。」

 

「賞賛頂き恐悦至極。」

 

自身最大の強みである距離を自在に操る能力をもってしても完全に間合いを掴めないという事実が小町に重くのし掛かる。

目を閉じ、口の端に僅かに笑みを浮かべているズェピアはのらりくらりと小町との距離を保っている。

 

 

 

「なっ……ッ!?」

 

「さぁ潰れろ!!」

 

ステップを踏みながら間合いを図っていた無頼が足下の氷で脚を滑らせた瞬間だった。

ルガールは一瞬で間合いを詰めて無頼の顔を掴み、一番近い街路樹の幹へと勢いよく叩きつける。

 

「がっ!!」

 

「まだまだ行くぞ!」

 

叩きつけられ痛みに顔を歪める無頼。しかしルガールは手を緩めないでラッシュを仕掛ける。

 

「ほら!それ! ハァ──ジェノサーイカッタァ!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

街路樹が邪魔して後ろには逃げられない無頼に対して容赦のない連撃をお見舞いし、最後には伝家の宝刀であるジェノサイドカッターで無頼の体を上空に蹴りあげ、叩き落とした。

衝撃で気絶した無頼にルガールは背を向ける。

 

「またの挑戦を待っている。」

 

 

 

終幕(フィナーレ)だっ!!」

 

「いつのまに!?」

 

鎌を構えていた小町のその鎌の内側に瞬間的に移動したズェピアは今まで閉じられていた眼を開けて小町の首を掴む。

大きく見開かれた瞳は深紅に染まっており、止めどなく真っ赤な血が涙のように流れ落ちている。

小町の首を掴んだズェピアはマントを翻して彼女の体を覆うと、次の瞬間には小町の体は宙に舞っていた。

 

「鼠よ廻せ!秒針を逆しまに誕生を逆しまに世界を逆しまに!廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セェェェ!!」

 

宙に舞った小町に対してズェピアが腕を振り上げるとその場に黒い風が渦を巻いて吹きすさび、小町を巻き込む。黒い竜巻に巻き込まれた小町は上下左右の区別すらつかないまま体を瓦礫や枝葉によって傷つけられていく。

そして風が止むとほぼほぼ意識を失っている小町は受け身すらとれずに雪の上に墜落する。

 

「採点をしてあげよう。……及第点だが、まだまだ主役級ではないな。精進したまえ。」

 

小町に勝ったズェピアは眼を閉じるとマントを翻してその場を後にした。

 

 

 

「うぉおおっ!!」

 

「ふんっ!」

 

ジョンス渾身の鉄山靠をヨハンは全身を使って衝撃を受け流し、反撃の右ストレートを打ち込む。

しかしそれでとジョンスは揺るがず裏拳の追撃をカウンターとしてヨハンの顔に打ち込んだ。

横っ面を弾くように殴り付けられたもののヨハンはその場に踏みとどまりジョンスに殴り返す。

 

「まだだぁ!」

 

「ハァ!」

 

かれこれもう数分、こうして二人は足を止めて殴りあっていた。

ジョンスの爆発的な一撃もヨハンは巧みに受け流し、衝撃を逃がしてカウンターを打ち込んでいく。

ジョンスも初撃を受け流されることは承知の上でカウンターを貰い、それに合わせる形で拳を打ち込む。

カウンターに対してカウンターを狙っているのだ。

 

「タフだな、あんた。」

 

「君もやるじゃないか。さすがは魔女越え候補生。」

 

「ジョンス様!」

 

必死の形相で相手を睨み付けるジョンスと余裕の表情を浮かべるヨハンの対照的な二人。

それでもジョンスは自分のペースを崩さない。力強く踏み込みながらジョンスは拳を突き出した。

 

「そんなパンチで……!」

 

「オラァ!」

 

「っ!?」

 

受け流そうと腕を盾にしたヨハンを無理なり腕を振りきって傍の生け垣に叩きつける。

当たった場所から力技でヨハンの体勢を崩すとそのまま起き上がりに攻撃を重ねる。

 

「らぁっ!」

 

「くぅ……!」

 

「これならよぉ! 受け流せないだろ!!」

 

「……見事っ!」

 

体勢を崩し、迎撃の動きを取れないヨハンに対してジョンスが最高のタイミングで鉄山靠を打ち込み、雪の壁に激突させた。

除雪の為に脇に寄せられて積み重なった雪は日中の間に少しだけ溶けて、夜になって冷えて固まっていた。そんな雪の壁に激突して頭を打ったヨハンはジョンスの鉄山靠の衝撃と合わせて意識を揺らす。

 

「流石はジョンス・リー。認めよう、君の実力を……。」

 

朦朧とする意識の中、ヨハンはグッと右手でサムズアップするとそのまま意識を失った。

そして衝突の影響か堆く積み重なった雪山は崩れ落ちる。

 

「……あっ! やっべ。」

 

「ヨハンさーん!?」

 

ジョンスの鉄山靠を食らい気を失って生き埋めになったヨハンを見て周りに待機していた課外活動部の面々が駆け寄り、雪を退けていく。

除雪用のシャベルを使って雪掻きしてどけると気を失ったヨハンが現れる。そうしてヨハンを救助した一同は息を吐いた。

 

 

「……ん、そうか負けたんだったな私は……。」

 

近くの救護用テントの中で目を覚ましたヨハンは周囲を見渡して息を吐いた。

そしてストーブの向こう側に立っているジョンスを見つけると頭に被っているサンタ帽子を手に取るとそれを持ってジョンスのもとに歩み寄る。

 

「ジョンス・リーくん。サンタクロース狩り、達成だ。おめでとう、このサンタ帽子はその証だよ。」

 

「ありがとうございます、ヨハンさん。」

 

「あぁ。数年後は君もサンタの側だろう。そうしたら一緒に飲もうじゃないか。」

 

「えぇ、その時は。」

 

ヨハンから帽子を受け取ったジョンスは深々と丁寧に頭を下げる。

このサンタ帽子こそがサンタを倒した証拠であり、その所持は夢弦では一種のステータスなのだ。

こうしてサンタを倒した者は周りから実力を認められ、更に力を磨いて今度は自分がサンタとなるのである。

 

これは夢弦の研鑽の歴史を物語る、一大イベントである。

 

 

ここは闘争の街「夢弦」

自らを磨きあげ、上を見上げ、目指す者たちの巣窟だ。

 

 

 

 





クリスマスももう二周目ですか。早いものですね……。

クリスマスという事で知り合いのシスターに教わった格言を一つ。
「クリスマスには童心に返ることも重要です。クリスマスの素晴らしき創始者もその日は誰よりも子供であらせられたのだから。」

だそうです。

ではまた次回でお会いしましょうノシ


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