IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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皆さんどうも、地雷一等兵です。

これで年内投稿は最後になるのかな?

では本編をどうぞ↓


第89話 出揃う人外ども

銀の福音事件から1日が経って、特別課外実習も終了した日のこと。ここに至るまで篠ノ之箒は終始ご機嫌であり、他の専用機組もどこか満足したような、ワクワクしているような顔をしている。ただ一人、南美を除いて。

 

そうして最終日の実技を終えて、旅館に挨拶をした一同はぞろぞろと大型バスに乗り込んでいく。

 

 

「もう帰るのか~、もっと遊びたかったな~。」

 

などと生徒達は口にしている。

なかにはガッツリと日焼けしている者もおり、この課外実習を満喫していたことが窺える。

 

そして1年1組の生徒一同が乗り終わると金髪の美女が乗り込んできた。

 

「え、誰…?」

 

「誰かの親戚?」

 

突如現れた金髪美女の存在によってバスの中は俄に騒がしくなる。

しかしその金髪美女はそんなざわつきなど気にせず、一夏の座っている座席にまっすぐ歩いていく。

 

 

「貴方が一夏くんね。」

 

「え、あぁはい。そうですけど。」

 

美女の呼び掛けに一夏が彼女の顔を見て立ち上がると、不意に一夏の両頬に彼女の手が優しく添えられた。

そしてその状況を一夏が完全に認識する前に、彼女の唇が一夏の口を塞いだ。

 

「─────…っ!?」

 

その事実を認識した一夏は驚愕のあまり思考が止まり、何も出来ずただされるがままにキスされ続けていた。

そして同じく1年1組の一同も乱入してきた見慣れぬ金髪美女の行動を傍観するしかない。

 

「──っ、案外初なのね。可愛い。」

 

一夏から唇を離した美女は妖しく微笑む。

その笑顔を向けられた一夏は口をぱくぱくさせながら顔を真っ赤にしている。

 

「あ、あ、あの、貴女は…?」

 

「あら、覚えてないかしら? 私はナターシャ・ファイルス、貴方達が止めてくれた銀の福音のパイロットよ。」

 

顔を真っ赤にしながら尋ねる一夏の耳元で美女は囁く。

それがまた耳を擽って、一夏はますますドギマギする。

 

「貴方達にお礼が言いたくてね。あの子を止めてくれてありがとう。本当に助かったわ。」

 

「い、いえ…。」

 

ナターシャの真っ直ぐな謝礼の言葉に一夏はむず痒くなって視線を逸らす。

そんな彼の反応を可愛い物を見る目で見ていたナターシャは途端に鋭く睨み付けてくる複数の視線を感じてクスリと笑う。

 

「それじゃあ、それだけだから。あまり長居しちゃうとアレだしね。じゃあ、さようなら。」

 

ナターシャはクルリと踵を返して歩みを進める。

優雅に髪を揺らしながら去っていく彼女の後ろ姿は同性の目さえも惹き付けていた。

 

 

 

「…あまり、ガソリンを注いでくれるな。」

 

バスを降りてきたナターシャに一言だけ千冬はそう言った。

そんな彼女の言葉にナターシャは薄く笑った。

 

「すいません、千冬さん。でも、お礼が言いたかったもので…。彼らのお陰であの子は人を殺めるなんて過ちを犯さなくて済みましたから。」

 

「…あの暴走も、けっこうキナ臭いけどね。」

 

千冬の横でそう呟かれた藤原の言葉にナターシャは黙って頷いた。

その顔はどこか思い詰めているように見える。

 

「…ナターシャ・ファイルス、君が何を考えているのかは知らない。だが、あまり無茶はしないことだな。」

 

「…人生の先達としてのアドバイスですか?」

 

「いや、IS乗りの先輩としてのアドバイスさ。嫌なら聞き流してくれても構わない。」

 

それだけ言って千冬はバスに乗り込んでいく。そして小さく彼女の声がしたと思った瞬間にピタリとバスの中の喧騒が収まった。

 

「まぁ、そういうことさ。じゃあねナターシャちゃん。縁があればまた会おう。」

 

ナターシャに背を向けて藤原は後ろ手を振りながら去っていった。

そんな藤原の後ろをいつものジャージ姿の束がとことこと歩いてついていく。

 

「……。」

 

ナターシャは暫く俯いたまま、何かを考えていたが、顔を上げると吹っ切れたような表情で旅館に向かっていった。

 

 

 

 

「「「…………。」」」

 

出発から数分、バスの中は沈黙であった。

その理由は簡単で、一夏とナターシャのキス事件が原因である。あの一件により専用機組は不機嫌になり、さっきまでご機嫌であった箒までもが微かに殺気を漏らしている。

さすがの1年1組の面々であっても、こんな状況で楽しくお話、なんてことができるほど神経が図太くないのである。

 

 

オートコナラー

 

「来ったぁぁあああっ!!!」

 

そんな重苦しい空気をぶち破るように誰かのスマートフォンが鳴り、そして一人の生徒が叫んで立ち上がった。

その空気ブレイクに何事かと皆が視線を集めるとその生徒は興奮した様子で鼻息を荒らげている。

 

「ちょ、どうしたの?!」

 

「来たんだよ速報が! 第五回モンド・グロッソの国家代表が次々と発表されてるよ!!」

 

「え! マジ!?」

 

「ホントに!?」

 

その生徒の言葉に皆一様にしてスマートフォンを取り出してニュースをチェックする。

 

「うわ、ホントだ! ロシア、ドイツ、フランス、イタリア、アメリカ、フィンランド、スイス、前回大会の上位国がどんどん発表してる! うっわ、ヤバ!」

 

スマートフォンで速報を確認した生徒達の興奮が伝播していき、バスの中が同じ話題の興奮に包まれる。

 

「イギリス代表、インテグラ=ヘルシング、専用機はキング・アーサー!」

 

一番最初に叫んだ生徒が次々と読み上げていく。

その度にバスの中で歓声が湧いた。

 

「ロシア代表、更識楯無! 専用機霧纏いの淑女《ミステリアス・レディ》!」

 

「生徒会長キター!」

 

「日本代表、井上真改、斬月!」

 

「お姉さまもキター!!!」

 

 

「ドイツは、…初出場! ヒルデガルト・ワーグナー、13歳! 専用機はラインの乙女《Frau der Rhein》!」

 

「13歳!? 嘘でしょ!」

 

 

「スイス代表! イザベル=ローエングラム、ギルガメッシュ!!」

 

「金ぴかクイーンも出てきたぁ!!」

 

 

「スペインはソフィア・ドラゴネッティ! 恋するドラゴン《ドラゴン=エネモラーデ》!!」

 

「ドラゴン来たぁ!!ってことは?」

 

「もちろん! イタリア代表アナシタージア・ブロット! 専用機はもちろんアナザーブラッド!」

 

 

次々と読み上げられていく代表の名前に生徒達の興奮はマックスに到達しようとしていた。

 

「最後にアメリカ代表、来た、来たよ! ハスラー・ワン!ナインボール!!」

 

「はぁ!? 第四回チャンプ!?」

 

「マ、闘技場の覇者《マスター・オブ・アリーナ》がまた出るの?!」

 

「みたいだよ。本人のコメントもあるもん。」

 

 

 

どんどん国家代表が報告されていくなかで、その渦中にいる彼女達はと言えば───

 

 

 

スイス某所で、狭い事務所のような場所では金髪の女性と青髪の女性が向き合って座り、青髪の方は新聞を読みながらわなわなと震えている。

 

 

「み、ミトメナイヤー」

 

「ふん、お前が認めようが認めまいが、今回も国家代表はこの我だ。」

 

青髪が新聞をテーブルに叩きつけて正面に座る金髪、イザベル=ローエングラムに叫ぶ。

しかし、イザベルはそんなものはどこ吹く風かと受け流す。

 

「もし我を抑えて代表になりたいなら、選考会の試合で我に勝てばよかろう、ベルンカステルよ。」

 

「むむむ…。」

 

「なにが“むむむ“だ。」

 

歯噛みして悔しがる青髪、ベルンカステルを横目にイザベルは部屋から出ていった。

 

 

 

ライバル同士がじゃれあっているスイスのご近所、ドイツではというと…

 

 

「ヒルダ、今日からお前が正式に国家代表だ。」

 

「えへへ、ヒルダ頑張ったよ、ほめてほめて!」

 

軍用施設とも思える場所の一角で、眼鏡をかけたツインテールの少女が甘えてくる茶髪の少女の頭を撫でる。

撫でられている茶髪の少女、ヒルデガルト・ワーグナーは嬉しそうに目を細めている。

 

「さて、もう教えることもないからなぁ。どうする?」

 

「ヒルダね、ヒルダね、ミュカレとお昼寝する!」

 

「仕方ない、か。今日だけだぞ? お前の代表就任祝いだ。」

 

眼鏡をかけたツインテはヒルデガルトを抱えて自身の部屋に向かっていった。

 

 

 

さてまたご近所のフランスでは──

 

 

「おめでとうアンジェ、さすがは君だよ。」

 

「…ジャック・デュノア…。」

 

自社のパイロットが国家代表に選ばれたにも関わらず浮かない顔のデュノア社社長、ジャック・デュノアを見てフランス国家代表のアンジェ・オルレアンは呆れたように溜め息を吐いた。

 

「其処まで気にするのなら最初からやらねばよかっただろうに。」

 

「…それでも、あぁしなければ今ごろ会社は潰れていたよ。そうなればシャルやアイツだけじゃなく、もっと多くの人間が不幸になっただろう。」

 

「本当に愛する家族と大勢の社員とを天秤にかけた結果、か…。」

 

「…嗤うなら嗤ってくれて構わないよ。」

 

ポツリと呟かれたアンジェの言葉に自嘲気味に返したジャックを見て、アンジェは首を横に振った。

 

「嗤うものかよ。お前があの人を本当に愛していたことも知っている。シャル嬢がいることも知って色々やったこともな。」

 

上等な椅子に座って項垂れるジャックに背を向けてアンジェはドアに手を掛ける。

 

「…見ていろ、今回の大会でデュノア社に大口援助の話を引っ張って来てやる。」

 

それだけ言い残してアンジェは部屋を出ていった。

 

 

 

そんなやり取りがあったフランスのお隣、スペインのISアリーナでは…

 

 

「大喝采!!」

 

そう叫んで空中で数回転して着地するのはスペイン代表に選ばれたソフィア・ドラゴネッティである。

彼女の眼前に広がるアリーナの床はどこもかしこも焦げてしまっているのが見てとれる。

 

「…いかん、火力の調整を間違えた…。」

 

ISを解除した彼女は周囲に広がる惨状を見て頭を掻く。

 

 

 

そんな焼き野原作製装置のソフィアのライバルと呼ばれているアナシタージア・ブロットのいるイタリア某所はというと…。

 

 

「ふふふ、ふふ、あは、あははははははっ!!」

 

パソコン画面の前、流れてくる速報を見て彼女は高笑いしていた。

妖艶な笑みを浮かべ、その視線は画面に写るソフィアの写真に注がれている。

 

 

 

様々な人間の思惑や野望が絡むモンド・グロッソ、その開幕は今年の冬、残り4ヶ月を切っていた。

 

 

 

 





本作ではモンド・グロッソは3年に1度開かれるという設定です。

では今回のMUGENストーリー紹介のコーナー!

「Dr.えーりん診療所」(にせぽに~ 氏)

言わずと知れたMUGENストーリーの名作。
八意永琳の営む診療所で繰り広げられるほのぼの日常系のお話。
主人公?は狼男のガロン(本作のガロンはMUGEN三大主夫の一人に数えられている。)、ヒロインは鈴仙。ややツンデレな鈴仙と朴念仁なガロンとの2828するやりとりや、公式からキモい扱いされる主人公の乱入してくるどたばたなど、見所は沢山あります。
また、視聴者コメントの仲もよく、本編を1回、コメントで1回、両方込みで1回と何度見ても面白い動画となっています。


では皆さん、よいお年をノシ



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