もう今年もあと少しで終わりという事実に驚きを隠せない作者です。
それと祖父からもらった鹿肉うめぇ。
では本編をどうぞ↓
「一夏!」
「ワリ、待たせた、ってか心配かけたな。」
洋上で銀の福音と対峙しながら一夏は公開通信回線《オープンチャンネル》でその場の全員に声を掛ける。
声を聞き、姿を確認したメンバーからは小さく安堵の息が漏れた。
「心配かけた分、ちゃんと働かせてもらうぜ。」
「おけ、じゃあ働け。」
一夏の言葉に鈴はスパッとそう言い切った。
それに対して一夏は“おう”とだけ返して福音に向き直る。
「射撃班は向こうの注意を引いて。一夏入れたフロント4枚で勝ちに行くから。」
「セシリア了解。」
「ラウラ了解。」
「シャルロット了解。」
「簪了解。」
鈴の提案に射撃部隊の四人は次々に返した。そ
して四人の返事を聞いた鈴は次に前衛を張る一夏、箒、南美の3人に指示を出す。
「さーて、攻め手が揃ったから正攻法で正面突破といきましょうか。」
「任せろ!」
「了解した。」
「止めは任せろー!バリバリー!」
各々がそれぞれの得物を構えて福音を取り囲む。
福音はその四人に注意を向けつつも、その四人の背後から自身を狙っている射撃組にも意識を向ける。
(…一夏。)
(オーケー。)
個人間秘匿通信回線で合図を送ると、一夏はスッと前に出る。それに合わせて、一夏と同じ側にいた簪が射線を確保しようと横にずれる。
その動きに福音の意識はそっちに傾いた。
どれだけ銀の福音が優れていようが、意識の全てをそれぞれに向けては、どこかに綻びが出る。それを全員が見逃さなかった。
「ゥゥアチャァアッ!」
仕掛けたのは位置取り的に一夏と正反対にいた鈴。
瞬時加速を使って一気に距離を詰め、青竜刀を福音の腹に向かって払う。
福音もさすがにそれには気付いた。急いで体を回し鈴の方を向くと、横薙ぎに振り払われる青竜刀を受け止める。
そして鈴の青竜刀を受け止めた福音の背後から、移動していた一夏が迫る。
「ズェアッ!!」
鋭く振るわれた一夏の刀は福音が振り向いて刃を止めるよりも早く、福音の片翼を引き裂いた。
「La…♪」
福音は振り向き様に鈴の胴体を蹴り飛ばし、一夏の方を向いて光弾を放つ。
鈴はそれを腕で横に払い、一夏は光弾を切りながら二人とも福音から距離を取る。
その二人の離脱を援護するように四方から銃弾の雨が福音に降り注ぐ。
「チェェストォオオッ!!」
「フゥゥゥ、ショオォッ!!」
そして足が止まった福音に箒と南美が二方向からの強襲を仕掛ける。
福音は強引に弾幕から外れ、箒と南美を視界に入れると、光弾をそれぞれ射撃組に飛ばしながら二人を相手取る。
「その首、置いてけぇえ!」
「南斗聖拳の前ではゴミ屑同然だ!」
右からは箒が、左から南美が福音に迫る。
福音は後ろに下がりながら振り下ろされる箒の刀を掴んで止めるが、同時に放たれたエネルギー刃で右のマニピュレーターを破損する。
そしてマニピュレーターが破壊されたことで一瞬だけ動きの止まった福音に南美の追撃が迫る。
「カクゴ──キリサケッ」
何発も放たれた南美の手刀は的確に福音へ致命傷を与える。
そして腕を振り切った南美は最後の締めに福音の腹を蹴り飛ばした。
そしてその先で待ち構えていたのは──
「ァァァアタァアッ!!」
鈴である。
飛んできた福音の顔面に鋭い軌道で右拳が襲いかかり、クリーンヒットする。
「まだまだぁ! ゥゥ──ファチャアッ!」
龍砲と左右の拳を合わせた高速のラッシュを福音の体に打ち込み、最後に大振りの回し蹴りで福音を蹴り飛ばす。
「最後は決めなさい、バカ一夏!!」
「任せろ!」
福音の蹴り飛ばされた先で待ち構えていた一夏は刀を水平に構える。
「───ズェアッ!!」
そして自身の方へ吹き飛ばされてくる福音に向けて鋭く1歩踏み出して突きを放つ。
突きが福音を捉えたかと思えば、1本、また1本と黒い何かが一夏と福音を覆い隠していく。
そしてそれが弾け飛ぶと、福音は力尽き、パイロットが剥き出しになった状態で海へと真っ逆さまに落ちていく。
「あっ…──」
パイロットのことまで考える余裕のなかった一夏は呆然とそれを見送る。
しかし、福音のパイロットはそれ以上落ちていくことはなかった。
「全く、肝心な所でそうやってミスする。」
「鈴…、助かったよ。」
既に万全の態勢でサポートに回っていた鈴によって口々に福音のパイロットは受け止められたのだ。それに一夏はホッと一息ついて右手に握る刀を背中の鞘に納める。
「…終わったか…。」
「えぇ、これで落着よ。」
一夏が確認するように鈴に尋ねると、鈴は簡潔に返す。そのやり取りに他の専用機組もホッと安堵して体から力を抜く。
その後、通信で帰還の連絡を入れた面々は旅館近くの砂浜に着地するとISを待機状態に戻した。
「思ったより、疲れたな…。」
「まぁ、しゃあないんじゃない?」
日に照らされて暑くなった砂を踏みしめた一夏がしみじみと呟く。
その隣では、福音のパイロットをお姫様抱っこして運ぶ鈴の姿がある。
他の専用機組もどこか疲れた様子でお互いを労っている。
そうしながら砂浜を歩いて旅館に向かっていると正面からとてつもない勢いで走ってくる人物がいた。
「一夏ぁ!!」
「千冬姉!? のぉっとぉ?!」
その人物、織斑千冬はその走ってきた勢いのまま一夏に飛び付いた。
その千冬の勢いと、全身の疲労が重なって一夏は受け止めきれずにそのまま押し倒された。
そして千冬は一夏のISスーツの首もとを掴んで上体を引き起こし、顔を近付ける。
「馬鹿者、この大馬鹿野郎が!!」
「ご、ごめんよ千冬ね…え…?」
謝ろうとした一夏を千冬は両腕で力強く、それでいて優しく抱き締めた。
千冬は顔を見られないように一夏の首もとに顔を押し付ける。
「バカ、が…。心配掛けさせやがって…。ホントに、ホントに心配だったんだぞ、お前が、一夏がいなくなるんじゃないかって、死んじゃうんじゃないかって…。」
震える声で絞り出すようにそう言って千冬は一夏に体を押し付ける。
肩を震わせて体を押し付けてくる千冬を見て、そして弱気になった彼女の弱々しい言葉を聞いた一夏はそっと彼女を抱き締めた。
「ごめんよ千冬姉…。いつも迷惑かけて、心配かけて…。でも、大丈夫だよ千冬姉。オレはもういなくならないから。」
「一夏…、一夏ぁあ…。」
ぎゅっと千冬は一夏を抱き締める力を強める。一夏はそれをしっかりと受け止め、千冬を抱き締め返す。
そんな二人だけの世界に、周りの専用機組は何も言葉を発せなかった。
専用機組たちはアイコンタクトを取りながら、誰かが言葉を発するように互いに牽制しあっている。
そんな空気を蹂躙するかのように、ある人物が突進してきた。
「いっくぅううううんっ!?」
何を隠そう篠ノ之束である。
束は砂浜を猛ダッシュして一夏に飛び掛かり抱きついた。
「いっくんだ、ホントのホントにいっくんだぁ…。生きてたよぉ…。」
束は一夏の後頭部に腕を回すと、ぎゅうっとその豊満な胸部に一夏の顔を押し付けるように抱き締めた。
一夏とて男であるからそんなことをされたら反応してしまうというもの。そうならないように束を引き剥がそうとしたが、元を辿れば心配をかけた自分が悪いのだからと、束の抱擁を受け入れた。
冗談抜きで世界を変えた女性二人がわんわんと泣きながら一人の少年に抱きついているという絵面にその場にいた7人は言葉を失い、ただその光景を見ていることしか出来なかった。
そんな状況を見てゆっくりと砂浜を歩いていた藤原はアハハと軽く苦笑いを浮かべた。
「アー、アー、え~とぉ…、聞こえてるかなぁ?」
誰かが仕切らなければ延々と続くだろうと判断した藤原はわんわんと泣いている千冬と束に声を掛けた。
藤原の声によってやっと正気に戻った二人は一夏から離れて、身なりを整える。
「大丈夫だ。わたしは しょうきに もどった!」
「それダメなヤツじゃん…。で、篠ノ之はもう大丈夫か?」
「大丈夫、問題ない。」
「お、おう…。」
なんとも不安になる返しをしてきた二人に藤原は少しの不安を感じながらも、専用機組に目を向ける。
「お疲れさん、今山田先生が身体検査・診断の準備してるから近江の間に向かってくれ。」
部外者が一番まともと思わせる状況に皆疑問を抱かずにはいられなかったが、この状況なら仕方がないと自分を納得させ、言われた通り旅館に向かった。
「……落ち着いたか?」
「あぁ、すまない。お前に引率者の役割を投げてしまって…。」
「ご、ごめんね藤原…。」
専用機組の八人が去ってから暫くして藤原は二人に尋ねる。
深呼吸を繰り返した二人は大きく頷くと、いつもの顔に戻っていた。
「唯一の家族がああなったんだ。平然としてられる方がおかしいよ。篠ノ之も、惚れた男が相手だしな。取り合えず帰ろう。織斑はあいつらから報告聞かなきゃだろうしな。」
それだけ言って藤原はもと来た道を引き返して旅館に向かう。千冬と束も同じように藤原の後ろをついていった。
その後、診断の結果、専用機組の全員に異常はないことが判明。
報告会が終了し、各自解散となって部屋を出ていくとき、千冬が一夏に“お前には山ほど説教がある。……楽しみに待っていろよ”と告げ、告げられた一夏が真っ青になったとか、ならなかったとか。
そんな日の夜、月が綺麗に海を照らしているのがよく見える場所で束は月を眺めていた。
「何を一人で黄昏てんの?」
一人で月を眺めていた束の隣に藤原が座り込む。右手に一升瓶、左手にはお猪口を3つ持っている。
そのお猪口の数と頭数を合わせるように千冬が表れ、藤原とは反対側に座った。
「藤原、ちーちゃん…。」
「ハッハッハ、あの映像ログを見たら、気になっちゃってさぁ…。篠ノ之の意見も聞きたくなった。」
一升瓶の蓋をあけ、お猪口に注ぎながら藤原はグリンと顔を束に向ける。
そうして出てきた質問に束もう~んと唸る。
「…よく、分からないのが実情、かな。白式のアレ、セカンドシフトの後のアレは全然知らないもん。」
チビチビと両手で持ったお猪口を何回も小さく傾けて、注がれた酒を舐めるように味わいながらそう返す。
その返答に藤原はふぅむと唸ってからお猪口の酒を喉に流し込む。
「…そもそも、初期段階で、フォーマットとフィッティングが終わった段階で澪落白夜を使えていたこと自体がおかしいことだろう。」
「それは、そうなんだけどね。でも織斑も薄々分かってるんだろ?」
「ある程度はな。」
千冬はもう一度お猪口に注いで一升瓶を目の前に置く。
そして揺れる酒の水面に映った月を見ながら切り出した。
「白式のISコア、アレは白騎士のものだろう? コアナンバー00、文字通り最初のISコアだ。」
「ご名答、さすがは織斑だ。」
「大方、白騎士をバラしたあと、ISコアを初期化して他のものと一緒に世界中の企業に送った。ナンバー00は倉持技研に渡った。そんなところか。」
「大当たりだよ。ま、誤算だったのは倉持技研で作られた白式が澪落白夜を起動させたことだね。」
「まさか初期化が不十分で残ってたなんて思わなかったよ。うぅ、ごめんねいっくん…。」
チビチビと酒を舐めていた束が膝を抱えてうずくまる。
それを見た藤原と千冬は「また始まったよ」というような顔で束を見た。
「私にもっと威厳とか、権力とか、そういうのがあればあんな形で発表することもなかったし、ちーちゃんや藤原に迷惑かけることだってなかったのに…。ごめんよ、ごめんよ~…。」
「ありゃ誰のせいでもねぇって。まったく。」
ボロボロと大粒の涙を流して泣く束を見兼ねた藤原は彼女を抱き寄せて背中を優しく撫で、宥め始めた。
「あの事件はオレも、織斑だって反対しなかった。だからアレは全員の責任なんだよ。むしろ、IS開発の名義をお前一人に押し付けたオレにも大きな責任がある。だから、泣くな。」
「うぅ、藤原ぁ~。」
そう言って慰める藤原に抱きつき、束はその藤原の厚い胸板に頭を押し付ける。
その様子を横から見ていた千冬は微笑ましそうに笑ってお猪口に口をつけた。
「…こうして、3人揃って話すのも、懐かしいな。」
「確かにね…。あ~、あの頃も楽しかった。」
月を見上げていた千冬がポソリと呟くと、藤原がそれに同調する。
そんな二人のやり取りを聞いていた束は、自分も同じ方を向こうと向きを直して座る。
「あの頃は、いや、あの頃も充実してたよねぇ。オレと篠ノ之が作って、織斑が試して、またオレ達が改良して。」
「それでISとか、いろんな物ができたよね。最初は私の妄想だったのが、いつのまにか形になって…。」
それまでチビチビと酒を舐めていた束が、そこで言葉を止めると、お猪口に残っている酒を一気に飲み干した。
「ちーちゃん、藤原、ありがとう。」
酒が入って口の軽くなった束は二人の方に向き直ってそのまま二人にむかってダイブする。
千冬も、藤原もそんな束のダイビングを受け止めて一斉に後ろに倒れた。
「ギャハハハハハ!!」
「ふん、このやんちゃ娘が。」
「えへへへへ。」
千冬も、藤原も束も童心に返ったように笑いあった。
鮮やかな月夜に彼らの笑い声と、微かな銃声が木霊したという。
うちの束さんはお酒が入ると涙もろくなったり、素直になったりします。
そんなこんなでMUGENストーリー紹介のコーナー!
「夢幻暁光奇譚」(Mr.ティン 氏)
アカ白ファンの聖地とも言える動画。
開幕から砂糖を撒き散らす甘々な製糖派な動画かと思えば、シリアスにも定評があります。
ストーリーが進むにつれてシリアス多めになりますが、その分番外編では砂糖マシマシになっていきます。
熟年夫婦のように安定したアカツキと聖のやり取りにニヤニヤすること間違いなし。
大甘波の到来により糖死者多数!
是非一度ご覧あれ。