連日投稿!
大学の講義で仁義無き戦いを見ることになりました。
何の講義かは皆さんのご想像にお任せします。
では本編をどうぞ↓
特別実習二日目、自由日だった昨日とは違って今日からは本格的なISの実習となる。
そしてそれは専用機組も同じである。
専用機を企業や国から与えられている一夏、南美、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロット、箒、そして企業から半ばぶん獲った簪の8人は一般生徒とは違う場所に集合していた。
「それでは専用機組はこれよりパッケージ装備の実技に取りかかる。各自、運搬は済んでいるな?」
「「「「はい!」」」」
「いやいや、楽しみだねぇ!」
威勢のいい返事と同時に高笑いの声が響く。
千冬がやや不機嫌そうな顔つきでそちらを見ると、椅子に座ってタブレット端末をいじる藤原と、その横でノートパソコンを操作する束がいた。
「おい、何故だ、何故お前たちがここにいる!」
ドスの効いた声で凄む千冬。普通の人間ならば震えが止まらないであろうそれを受けても藤原は平然としていた。
「あの程度でオレを拘束できる訳がないだろぉ? 縛るならもっと徹底しなきゃね~。」
「お、怒んないで、ちーちゃん…。その、忍びこんだのは悪かったから、謝るから~。」
「自由行動は許可したが、これへの参加は許可していないぞ。」
全く悪びれもしない藤原と怯えた様子で縮こまる束という対照的な二人の言動に千冬は舌打ちを打って一夏達の方に向き直る。
「あ、あの織斑先生…。その二人はどなたでしょうか?」
「ああ、気にするな。私の幼馴染みのバカ二人だ。その二人は喧しい空気だと思ってくれて構わない。」
「あらら、厳しいねぇ。」
疑問を口にしたシャルロットに苛立ちを隠さない口調で千冬は告げる。
その一方で箒はハァと大きな溜め息を吐いていた。
「よし、気を取り直して──」
「先輩先輩大変です!!」
切り替えて実習を再開させようとしていた千冬に慌てた様子の真耶が駆け寄る。
そして千冬に耳打ちすると、千冬の眉間にシワが寄った。
「山田先生は一般生徒を室内に戻るように誘導してください。専用機組!お前らは近江の間で待機していろ!」
いつも冷静沈着な千冬にしては珍しく、慌てた様子にただ事ではないと察した専用機組たちは直ぐ様指示された通りに近江の間へと急いだ。
「揃っているな。ではブリーフィングを開始する。」
旅館の一室、専用機組の集められたその部屋では千冬が真剣な面持ちで告げる。
その横では真耶が酷く緊張した様子で端末を操作していた。
「事は緊急だ。アメリカ・イスラエル共同開発の軍用ISが暴走している。諸君らにはこれを鎮圧してもらう。これがそのIS、銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》だ。」
そういって千冬は端末の画面を見せる。
そこには一機のが写っていた。
銀色の機体カラー、顔を覆う物理装甲、そして最も目を惹くのはその巨大な翼にも見える背部パーツである。
「スペックは広範囲一掃型、広域殲滅をコンセプトにしたオールレンジアタッカーだ。」
「速度は、最高で時速2450キロ…。速すぎる…。」
「広域制圧のエネルギー兵器か…。速度も相まって私は役に立てんな。」
「と言うよりも、この速度に追い付けるかどうかでしょ。」
「…やりようはあるんじゃないか?」
口々に話し合う中で放たれた一夏の言葉によって部屋中の視線が彼に集まる。
「相手は速い。けど固いって訳じゃない。だったらオレの零落白夜を一撃でも当てれば良いんだ。」
説明を終えると拳を掌に打ち当てて一夏は顔を上げる。
しかし全員の顔は思わしくなかった。
「確かにそれが一番合理的なのでしょうけど…。」
「あんた、正気なの?」
言い淀むセシリアの隣で鈴は一夏を睨み付ける。
彼女の鋭い眼光を正面から受け止めて一夏は頷いた。
「このままだと色んな人や場所に被害が出る。それを止めるには誰かがやらなきゃいけない。オレが、白式の力がそれに適役だ、…だからオレがやる。それだけさ。」
平然と言ってのけた一夏にその場の空気が固まる。
実際一夏の言った“何度も攻撃する機会がないのだから一撃で決めてしまおう“という考えは正しい。
だがそれは銀の福音の持つ広範囲殲滅射撃に正面から挑むことを意味している。
「……ミスれば、死ぬよ?」
「大丈夫だ、問題ない。」
南美の言葉に迷いなく切り返した。
そこに慢心は見えない。むしろ自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「オレは出来る。任せてくれ。」
「………。」
「…実際問題、それしかないのよね、たぶん…。」
沈黙を破って鈴が賛同する。
それでも彼女の表情には迷いが浮かんでおり、理屈では分かっていてもどこか割り切れていない様子だった。
そんな鈴の心情を察したのか、それともこの部屋の空気に耐えきれなかったのか、一夏は鈴の隣に行くとポンと彼女の肩に手を置いた。
「…鈴、これはオレ達のやらなきゃいけない事なんだ。心配しなくてもオレは大丈夫だ。」
その力強い言葉にその場の空気が吹っ切れた。
沈黙も重苦しいものではなく、一夏への信頼のあらわれとなっていた。
「じゃあ次はどうやって一夏を銀の福音まで送り届けるか、ね。」
「オレが飛んでく、じゃダメなのか?」
「当たり前ですわ。白式の速度は高いですが、機動にエネルギーを割く訳にもいきません。」
「白式のエネルギーを温存しつつ、銀の福音にコンタクトを取らなきゃってこと。」
「白式と同レベルの速度か…。スペックだけなら私の鳳凰と箒ちゃんの紅椿じゃないかな?」
“う~ん”と皆が唸って考えていると、部屋の襖がガラッと開けられ藤原と束が現れた。
「話は聞かせてもらったよ!」
「出てけ!!」
空気を読まずに飛び込んで来た藤原を千冬が怒鳴り付けるも、藤原はチッチッチと指を振った。
「織斑、仲間外れはよくないなぁ。オレも入れてくれないと。」
「い、一応ね、その、解決策っていうか、えっと、外付けの加速装置があるんだけど。」
おどおどした様子で束が見せてきた画面にはロケットエンジンのような物を束ねた物が写っていた。
それはISよりも大きく、外見でもそれがとてつもなく速いことを物語っている。
「ヴァンガード・オーバード・ブースト、略してV.O.B…。速度はおよそ時速2500キロ、その気になれば3000はいけるよ。」
「ちょっとした興味本位で作った代物なんだけどね?篠ノ之妹に試してもらおうと思って持ってきてたんだよ。」
アハハハハハと高笑いする藤原に眉をピキピキさせながら千冬は右の握り拳を左手で押さえつける。
そんな千冬の怒りを知ってか知らずか、藤原は高笑いを止め、一夏の肩を掴む。
「コイツを使ってキミを銀の福音の懐まで送り込む。そっから先はキミ次第だ…。」
「……。」
一転して真剣なトーンになった藤原にそう告げられ、一夏は息を呑む。
「…やれます。」
「そうかい。」
真っ直ぐな眼差しで迷いなく答えた一夏に藤原は満足そうに頷いて背を向けた。
そして束とアイコンタクトを取ると、そのまま襖に手を掛ける。
「早速準備に掛かろう。着いてきな。」
「はい!」
背中越しに掛けられた言葉に一夏は力強く返事をしてその背中に着いていった。
「接続オーケー、各部リアクションに異常無し。篠ノ之、そっちは?」
「こっちも大丈夫。出力問題なし。各パーツ安定性オールグリーン、いつでも飛べるよ。」
浜辺では白式の背中に巨大なブースターを取り付ける作業が行われていた。
世界的、歴史的大天才の束と如月重工の技術屋による作業は一瞬で片付いた。
そして作業が刻一刻と完了していく中で、一夏は深呼吸を繰り返していた。
「い、いっくん…。」
「束さん?」
「V.O.Bは馬鹿げた出力で、無理矢理高速で飛ばす装備なの。だから旋回とか細かい動作はほぼ不可能。」
いつものおどおどした様子とは違い、真っ直ぐな目で一夏に説明をする束の顔は一人の技術者のそれであり、とても気高く美しく見える。
こんな時でなければ見惚れていたかもしれないなと一夏は心の中で呟いた。
「──でね、移動中は対応できなくなっちゃうから直掩として二人、北星さんと箒ちゃんがつくから。」
「分かりました。」
束の説明を受けて一夏は右手を胸に押し当てる。
失敗の出来ないミッションに一夏の心臓は高鳴っていた。
そこへ専用機を装備した南美と箒が合流する。
「やっほ、一夏くん。格好いいね~。」
「私と南美がお前のサポートに入る。やれるな?」
普段と変わらない様子の二人に一夏は変に力んでいたことをバカらしく思い、拳をほどいた。
「束さん、藤原さん、いつでも行けます!」
「オーケー! 見せてみな、お前の力を。」
一夏の言葉に藤原はニィと笑って一夏から離れ、束と一緒に仮設風防のある場所へと移る。
そして南美と箒はV.O.Bの側面にある取っ手を掴んだ。
「行くよ!3…、2…、1…、ファイヤ!!」
束のカウントダウンと共にV.O.Bは火を吹いて飛び出した。
経験したことのない速度に一夏は驚きながらも二人を背負っていることもあり、直ぐに冷静さを取り戻した。
すると、公開通信から千冬の声が届いた。
「一夏、聞こえているな?」
「あぁ、聞こえてるよ千冬姉。」
公開通信だと気付いていない一夏はついいつものように返した。
通信の向こう側からは千冬の咳払いの声がしたが、すぐ後にまた言葉が続く。
「初めての超高速戦闘だ。目を回すなよ?」
「大丈夫、必ず帰るからさ。待っててくれよ千冬姉。」
「ああ、待っているとも。」
優しさを湛えた千冬の声が聞こえるとそのまま通信が切れた。それを確認した一夏はフゥと息を吐いて目の前を向く。
「ハイパーセンサーに感あり、見えたよ。あれが標的だ。」
V.O.Bの側面から南美が告げる。
つられてハイパーセンサーの倍率を上げるとその先には確かに銀の福音が飛んでいた。
「…遅い? いや、動いていないのか?」
「…っ! 撃ってくる!!」
何かが光ったことを認識した南美が側面からV.O.Bの本体を横に押す。
ISからの力を受けたV.O.Bは横へとズレ、さっきまで飛んでいたラインをエネルギーの津波が通り過ぎた。
「奴さん、どうやらこっちを迎え撃つつもりみたいだね。」
「…結局こうなるのか。」
「上等だ、正面から打ち破る!」
一夏は拡張領域から刀を取り出して右手でキツく握り締める。
飛んでくるエネルギーは南美と箒が軸をずらすことで避け、高速で銀の福音まで飛んでいく。
そしてあともう少しの距離となってV.O.Bがパージされた。
「行ける!」
V.O.Bがパージされるも、勢いを保ちそのままブースターを吹かして一夏は突撃する。
「ズェアアアアッ!!」
「La……♪」
銀の福音から歌のような音と同時に広域にエネルギーの波が放たれる。
それを一夏は零落白夜で一部を切り裂いて、避けながら肉薄する。
「La……♪」
「無駄だぁあああああっ!!」
新たに放たれた射撃を無効化させながら一夏は遂に銀の福音の懐まで到達した。そして上段に構えた刀を振り下ろす。
零落白夜と直前で放たれたエネルギー波がぶつかり合い、強烈な光が迸る。
「…やったか…?」
「フラグが立ったな。」
一夏よりも離れた位置で見守っていた二人はハイパーセンサーで激突した場所へと視線を移す。
そこには健在状態の白式と、先ほどまでと外見の違う銀の福音が存在していた。
「「っ!?」」
二人は直ぐ様武装を取り出して突撃する。
「La……♪」
「第二次移行《セカンドシフト》!? ちっ!!」
驚いて初動が遅れた一夏は銀の福音のエネルギー波に僅かではあったが巻き込まれた。
致命傷には至らないものの、それは恐怖を教えるには十分な一撃だった。
(マジかよ…。ここで、決めらんないのか…。)
刀を握り締めながら一夏は銀の福音の周りを旋回する。
一ヶ所に立ち止まったら死ぬと、さっきの一撃で理解してしまったからだ。
「一夏くん!」
「一夏ぁ!」
槍と刀を携えた二人がそれぞれ距離を保ちながら一夏と合流し、3人で銀の福音を取り囲む。
しかし福音は一夏を最大の脅威と見なしているのか、体の向きは常に一夏へと向けていた。
「……仕掛けるよ!!」
「了解!」
南美が槍を投げつけると同時に箒と一夏が斬りかかる。
銀の福音は数発の光弾で槍を吹き飛ばすと、一夏と箒をわざと懐へと呼び込んだ。
そして二人に遅れる形で南美もその乱戦に参加する。
「ズェア!」
「チェストォオッ!!」
「ちょこまかと!」
福音は近接に特化した3人の猛攻を捌きながら、時には光弾を放つことで牽制する。
3人も、時おり不意を討つように放たれるその光弾に虚を突かれて攻めあぐねていた。
「埒が開かないね…。」
「零落白夜の一撃だけは全力で避けにいってる。このままだと、オレのシールドエネルギーがもたない。」
「さて、どうする?」
3人は1度距離を取って通信を介して話し合う。その間も銀の福音からの攻撃は止むことなく飛んでくる。
3人とも、それまでのやり取りで軍用ISのスペックの高さをまじまじと実感していた。
「…私と箒ちゃんで隙を作るから、一夏くん、その一瞬で片付けて。」
「でも二人の装甲じゃ…。」
「決定力ならばお前の方が上だ。それに何より、当たらなければどうという事はない。」
「そういうこと。私達が心配なら一撃で決めておくれよ。」
気負った様子もなく、二人は銀の福音に突撃する。それを迎撃するように放たれる光弾が時折二人を掠めていくのが一夏にも見えた。
「南美達には敵わねぇな…。オレももっと強くなんねぇと…。だからこそ、この一撃で決めてやる!」
その時だった。刀を両手で握りしめた時、不意に一夏の頭の中に何かの風景が流れ込んできた。それは木々の立ち並ぶ風景、直ぐ側を小川が流れ、暖かな日差しが照らす、そんか光景だった。
懐かしいような、新鮮なような、そんな不思議な感覚が頭の中を駆け巡る。
「なんだ、これ…。どこ、の、──」
その景色を頭の片隅から引き出そうとしたした時、スッと一夏の意識が刈り取られたように途切れ、白式ごと一夏の体は海までまっ逆さまに落ちていった。
「──白式の信号、ロスト!」
「なんだと!?」
レーダーの前に座り込んでいた藤原が声を上げると千冬が割り込むように藤原を押し退けて画面を見る。
そこには銀の福音を示す青いマーカーと、南美、箒を示すそれぞれ黄色と赤のマーカーだけが光っていた。
「そんな…。」
千冬の小さな声だけがその空間に響いた。
撃墜される訳でも、恋愛的に墜とされるわけでもなく、原因不明での墜落。その直前に見えた謎の景色。
そして白式の信号がロスト、これが意味する物とは!
次回に続く!!
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