IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

104 / 182

早めに書き終わったので、投稿しました。

では本編をどうぞ↓


第84話 死兆星の輝く夜に

特別実習1日目の夜、島津の間と書かれた部屋の前では鈴、シャルロット、ラウラ、箒の四人が戸に耳を押し当てて聞き耳を立てていた。

 

「あ…ん…、お上手ですのね、一夏さん、あっ…。」

 

「まぁ、千冬姉とか相手にしてたし…。」

 

戸越しに聞こえてくるのは艶っぽいセシリアの吐息混じりの声と、一夏の声。

そのやり取りや声に盗み聞きしていた四人の顔は真っ赤に染まる。

 

「そこだぁ!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

部屋の中から響いた一夏でもセシリアでもない声と同時に戸が開く。

戸に耳を押し当てていた彼女たちは支えを失ったことで部屋の中に雪崩れこんだ。

 

「…盗み聞きとは趣味が悪いな。」

 

「お、織斑先生…。」

 

「あ、あはは…。」

 

少女達の雪崩れこんだ先には腕を組んで見下ろす鬼教官。

もはや言い逃れできない状況に追い込まれた四人は冷や汗を流した。

 

「あれ、どうしたんだ?」

 

そこで声を上げたのは一夏である。浴衣姿であるが額には玉の汗が浮いている。

そしてその隣でうつ伏せになっているセシリアもまた四人を見て驚愕の顔を浮かべていた。

二人の衣服は乱れておらず、予想が外れた四人の顔はますます赤くなった。

 

「おうおう、マセガキども。どんなことを想像してたんだ?」

 

意地の悪い笑みを浮かべた千冬が視線の高さを合わせて問い詰める。

その尋問に対して四人は目線を逸らすことでささやかな抵抗をする。

そんな四人に千冬は“まぁいい”と口にして一夏の方を向く。

 

「一夏、風呂に入ってこい。今なら女子も使ってないだろう。その汗を流せ。」

 

「あ、うん。」

 

千冬に言われて額の汗に気付いた一夏はタオルでそれを拭うと着替え一式とタオルを持って大浴場へと向かった。

部屋の戸が閉められ、パタパタと遠ざかる音がしてから数秒後、沈黙を破って千冬が冷蔵庫を開ける。

 

そして中に入っていた缶ジュースを無造作に取り出しては5人に投げ渡す。

 

「飲め、私の奢りだ。」

 

「は、はぁ…。」

 

そう言って千冬は椅子に座り、5人をその周りに座るように目線で促した。

猛獣の前の小動物同然の5人はそれに逆らうことなどできるわけもなく、促されるままに座り、缶を開ける。

5人全員が開けたのを確認した千冬はニヤリと笑い、盃を取り出した。

 

「さて、飲んだな?」

 

千冬は5人に目配せをして、背中の後ろから桐箱を取り出した。そしてそれを丁寧に開けると1本の日本酒が姿を現す。

その中身を盃に注ぎ、匂いを嗅ぐと小さく微笑んだ。

 

「ふん、藤原の奴め…。中々良い酒を選ぶじゃないか。賄賂のつもりだな。」

 

きゅっと盃の中身を飲み干した千冬は満足したように呟く。

そんな千冬の様子を呆然と5人は眺めていた。

 

「どうした? どいつもこいつもカバの欠伸みたいに口を開けて。」

 

「あ、いえ…。その意外だなぁって…。」

 

「私だって酒くらい呑むさ。そうじゃなきゃやってられない時も、今まで幾つもあったしな。」

 

シャルロットの言葉に当然だと言うように返した千冬はまた盃に酒を注ぎ、あおるように呑む。

それに感化されたように5人もまた缶の中身を口にする。

 

そうして数分後、若干酒が回って来たのか、頬を薄紅色に染めた千冬は瓶と盃を脇に置く。

 

「それで、お前らはあのバカのどこに惚れたんだ?」

 

「「「「「えっ!!?」」」」」

 

あのバカ、それは一夏のことであるのは明らかであった。まさかその話題を実の姉であり、担任である千冬から振られるとは思ってなかった一同は目を泳がせる。

 

「いや、その…あたしは別に…あいつのことなんて。」

 

「た、ただの幼馴染み、というだけで、別にその…。」

 

「くく、そうか。じゃあアイツにはそう伝えておく。」

 

「「伝えなくて結構です!!」」

 

長い髪を弄って誤魔化す二人に意地悪な返しをすると、二人揃って同じ事を叫んだ。

 

 

「私は、一夏さんは、素敵な殿方だと思っていますわ。一夏さんと出会えたから今の私があるのですし。」

 

「ハッハッハ、そうかいそうかい。あのバカも人を変えられるくらいには成長したか…。」

 

 

「ボクは、優しいところが、好きです。」

 

「アイツは全員に等しく優しい奴だぞ?」

 

「それがちょっと妬ましい…ですかね。」

 

 

「強いて言うなら、強いところ、でしょうか。」

 

「アイツは弱いぞ?」

 

「いえ、強いです。私なんかよりも、ずっと。」

 

 

セシリア、シャルロット、ラウラの思い思いの言葉を聞いた千冬は笑い、思い詰め、見つめた。

その目にどんな感情が込められていたのかを5人は知る由もなく、また踏み込もうと思えなかった。

 

 

 

「炎の匂い、しーみーつーいてー──」

 

「ご機嫌ですね。」

 

「むせ──ふぁあっ!?狗飼さん!」

 

大浴場の湯舟に浸かりながら歌を口ずさんでいた一夏はいつの間にか隣で湯に浸かっていた狗飼に驚愕する。

そんな弟子のリアクションにも動じず、狗飼は一夏の方を向いた。

 

「そこまで驚くことでもないでしょう。修行が足りませんよ。コレが終わったら一稽古付けましょうか?」

 

ピンと右手の人差し指を立てて説教するように言う狗飼に一夏は呆然としていた。

それと同時に神出鬼没なこの師匠を相手に気配を察せない時点で自分は未熟者だということも悟った。

 

「あの、狗飼さん…?」

 

「なんでしょうか?」

 

「…気配察知の技術を教えてください。」

 

狗飼に正面から向き合って一夏は頭を下げた。

その口調は真剣そのもので、軽い気持ちではないことも分かる。

 

「…教えてどうこうなるものじゃないですよ。経験あるのみです、こればっかりはね。」

 

「やっぱりそうですか…。」

 

狗飼の言葉に一夏は顔を下に向ける。

そして数拍してから顔を上げると狗飼に掴み掛かった。

 

「狗飼さん! えっと、その…、もっと、もっと稽古を付けてくれませんか?!」

 

「それは、構いませんが…。」

 

鬼気迫る表情で迫ってくる一夏に狗飼は呆気にとられる。

そして真剣な瞳で見つめてくる一夏に溜め息を吐いて立ち上がった。

 

「仕方ありませんね。これからは今までよりも厳しくいきますよ。」

 

「はいっ!!」

 

頭にタオルを乗せたまま大浴場を後にする狗飼の後ろを一夏は着いていった。

 

 

 

「…マ~ジで…?」

 

波の打ち寄せる音が響く浜辺で、南美は一人夜空を見上げて呟いた。

彼女の目に写るのは満天の星空に輝く北斗七星、そしてその横で寄り添うように光る小さな星だった。

 

 

 





やめて!銀の福音の広域殲滅射撃で、シールドエネルギーを焼き払われたら、白式に乗っている一夏の体まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで一夏!あんたが今ここで倒れたら、銀の福音は誰が止めるの? エネルギーはまだ残ってる。ここを耐えれば、零落白夜で勝てるんだから!
次回、「一夏墜つ」。ISスタンバイ!


アンケートはこちらから↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=164933&uid=171292

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=141386&uid=171292


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。