1週間ほど間が開きましたね。
…忙しかったんです。
では本編をどうぞ↓
「海だー!!」
トンネルを抜けるとそこはビーチが広がる海だった。
眼前に広がる海を見て、バスに乗っている1年1組の一行のテンションはいつもよりハイになる。
中には既に服の下に着ていた水着を見せている者までいる。
そんな事にも慣れているのか千冬はハァと小さく息を吐くだけだった。
「さて、ここがお前たちが世話になる旅館だ。迷惑を掛けるなよ?」
「「「よろしくお願いします!!」」」
旅館の前で整列した一同は女将さんに向かって頭を下げる。
そうして各自割り振られた部屋の鍵を受け取り、荷物を置くと我先にと言わんばかりに海に飛び出して行った。
そして一夏はと言うと──
「それじゃあ行ってくるよ。」
「あぁ、あまり羽目を外しすぎるなよ?」
「分かってるって。」
同室の織斑千冬に一言掛けて海に向かっていた。
元々一夏の部屋は一人部屋となる予定だったのだが、経費削減と彼の部屋に女子が忍び込まないようにという配慮から山田真耶の提案によって千冬と同室になったのだ。
「ヒャッハー海だー!!」
「ハラショー!!」
思い思いの声をあげて水着姿の女子たちが砂浜を走る。
瑞々しい若い肌を惜しげもなく披露する彼女たちに一夏は二の足を踏んでいた。
そんな一夏に物陰から声を掛ける人物がいる。
「何を躊躇っているんです?」
「っ!?狗飼さん!!」
そう、一夏の師狗飼瑛護である。
狗飼の服装はIS学園にいる時と変わらない黒のスーツ姿。そのことからここにいるのは仕事なのだろうと分かる。
「どうも、1週間ぶりですね。一夏くん。」
「え、あ、はい。お久しぶりです。」
マイペースに飄々とした態度で話し始める狗飼に動揺しながらも一夏は挨拶を返す。
時折狗飼は一夏から視線を外しては逃げるように物陰に隠れる。
「えっと、今日もまた見つかっちゃいけない的な感じですか?」
「はい。今のところ私の存在は教師と君しか知りません。」
「それならなんで自分に声を掛けたんですか?」
その問いに狗飼はすーと一夏から目線を逸らす。
何か言いにくいことを言うべきか悩んでいる顔である。
「…教え子が困っているようだったので…。」
目を泳がせて狗飼は告げる。子どもでも分かる嘘だ。
しかし一夏はそこに触れない。
その嘘にも少なからず本音が含まれていると直感したからだ。
「君とて健全な男子。目の前の光景に躊躇う気持ちもまぁ、分からないでもないです。ですが、楽しまなくては損ですよ。」
「え?」
「君がここにいられるのは色んな人の配慮やらなんやかんやがあったからです。だから、その人達の為にも楽しんでください。」
物陰に隠れながら告げられた狗飼の言葉に一夏は考える。
世界唯一の男性操縦者という特異な存在である自分の置かれた状況を、そしてそんな自分の周囲にいる人たちの事を。
「そうですね、そうさせてもらいます!ありがとうございます狗飼さん!」
一夏は勢いよく頭を下げると体の向きを変えて砂浜のほうに走っていった。
そして狗飼は一夏が砂浜に走っていったのを確認するとハァと盛大に溜め息を吐いた。
(言えませんよねぇ…。君の副担任と1週間同じ部屋で寝てたなんて…。)
がっくりと項垂れた狗飼はブンブンと頭を横に振り、頭の中を切り替えて仕事モードになると、どこかに姿を消していった。
side 一夏
やや様子が変だった狗飼さんに背を向けてビーチに来ると、南美が砂で作ったベンチに座ってオレの方を見てきた。
「遅かったじゃないか、一夏くん。」
やけにいい声だったような気がするのは気のせいだろう。うん、そうに違いない。
バリトンボイスな女子学生なんてそうそういるはずがないんだ。
そんな南美の格好はスポーツ水着だ。
左胸に小さくメーカーのロゴがプリントされてる。
ビーチに来ているというのに全く色気付かないその水着は何となく南美に似合っている。
「南美は何してんだ?わざわざそんな大がかりな物まで作ってさ。」
「アッハッハ、何となくかなぁ。ちょっと面白そうだから作っちゃった。ねー本音!」
「そうそう~、面白いは何物にも優先されるんだよ。」
そう言ってベンチの陰から布仏さんが手を振ってきた。
たった二人でこの超大作を作ったというならそれはもはや人間業ではない。
そして手を振ってくる布仏さんの水着、いや、水着と言っていいのか甚だ疑問でしかない。それは着ぐるみパシャマ的な感じの物だった。
これで水に浸かって大丈夫なのだろうか…。
まぁ布仏さんは海で泳ぐようなタイプに見えないし、大丈夫なんだろう。きっと。
この二人はこの二人で楽しんでるみたいだし、邪魔しちゃ悪いよな。
さて、どこかにオレと同じ暇人はいないかなっと…。
そうやって南美と布仏さんから離れたオレは暇をもて余してそうな人を探して歩き出す。
探し人は直ぐに見つかった。
side out...
「セシリアは泳がないのか?」
「えぇ、まぁ…。」
一夏が声を掛けたのはビーチパラソルで作った日陰に座るセシリアだった。
そしてセシリアも一夏が声を掛けてきたのはこれ幸いとばかりに一夏の腕を掴んだ。
「それよりも丁度良かったですわ。その、サンオイルを塗っていただけませんか?」
セシリアは上気したやや色っぽい顔で一夏に頼む。
一夏もサンオイルを塗ってくれと頼まれ、どこを触るのかを想像してしまったのか、頬を少しだけ赤く染める。
「そ、その…オレで良いのか?」
「構いませんわ。一夏さんの事は信頼しておりますもの。」
セシリアの言葉に反論の余地を無くしたのか、一夏はセシリアの隣に諦めたような顔つきで座る。
「ふふ、よろしくお願いしますわ。」
セシリアは一夏にサンオイルの入れ物を渡すと、胸を覆う水着を外してはうつ伏せになる。
自重で潰され、腋から見えるその豊満な胸が青少年の目に眩しい。
一夏は生唾を飲み込むと、その胸から目を逸らす。
そして1度大きく深呼吸してからサンオイルを掌に落とす。
そして掌の上で冷たいオイルを人肌に暖めてから慣れた手付きで塗り始める。
「あら? 一夏さん…。随分と慣れてらっしゃるのね…。」
「いや、まぁ…色々と、ね。」
言葉を濁す一夏にセシリアは“ふ~ん”と小さく唸る。
そんな彼女の反応を受けた一夏は小さく笑い声を溢すしか出来なかった。
「ほ、ほら、終わったぞ。」
無心にサンオイルを塗り終わった一夏はセシリアにそう告げて背中を向ける。
一夏に終わりを告げられたセシリアはやや残念そうに体を持ち上げて水着を着る。
その表情から若干の不満が見てとれた。
水着を着終わったのを確認した一夏が振り向くと、不満顔をしたセシリアに驚く。
「ど、どうしたんだ?」
「いえ、別に…。」
不満を抱いていると隠していないセシリアに一夏は困ったなと頭を掻く。
そして考えること数秒、良い案が思い付いたとセシリアに顔を近付けて耳打ちする。
一夏の提案を聞いたセシリアは喜色満面と言った面持ちで一夏の手を握る。
「では今夜!必ず!」
「お、おう…。」
ブンブンと握られた手を上下に振られて一夏は困惑する。
しかしどうにか機嫌を直してもらえたことにその困惑はどこかに吹っ飛んでいった。
そしてセシリアは“こうしてはいられませんわ!”と呟くとどこかに立ち去っていった。
そうしてまた一人になった一夏はビーチパラソルの陰から誰か暇な人がいないかを探し始めた。
「フハハハハハハ!中々やるなぁ凰鈴音!!」
「そっちこそ!!ただのメガネキャラじゃないわね!!」
ビーチの一角では水着姿の鈴と簪がビーチフラッグで対決していた。
どこから持ち出されたのか不明な黒板にはそれまでの勝敗がかかれており、今のところ6戦して勝率は半々と互角の勝負である。
「じゃあ行くよー!」
スターター係の生徒が寝そべっている二人に声を掛ける。二人は既に準備は済んでいると言わんばかりにサムズアップして見せた。
それを見たスターター係は右手を掲げる。
「ステンバーイ、セットレディGo!!」
掛け声と同時に振り下ろされた腕を見て、二人はほぼ同時に起き上がり走り出す。
「ぬぉおりゃあっ!!」
「ハハハハハハッ!!」
二人は一斉に数十メートル先にある旗目掛けて疾走する。
若い肢体が何本も行われた全力疾走によりしっとりと汗に濡れ、砂にまみれる。そしてさらなる運動によって流れた汗が夏の日差しによって輝いて見える。
「「獲ったぁ!!」」
ほぼ同じ速度で疾走する二人は旗の手前で同時にダイブした。
二人の着地した衝撃で砂煙が立ち上ぼる。
そんな土煙を掻き消すように二人の人影が立ち上がる。
「「獲ったどぉおお!!」」
掲げられた二人の手には旗が握られていた。
簪が根本を、鈴がその上を握る形で掲げられたそれは勝負の結果を告げていた。
「引き分けだねー。」
旗の側で勝敗を見ていた生徒が二人に告げる。
その言葉にぐぬぬと唸った二人は“もう1回!”と告げて先ほどのスタートラインに戻っていった。
「ラウラ、出てきなって!!」
そこから少し離れた場所ではシャルロットが逆さまになった大きめの段ボール箱に話しかけていた。
話しかけられた段ボールは抗議するようにガタガタと左右に揺れる。
「う~、なぜ私はこんな色気のない水着なんだ…。」
段ボール箱の中からはラウラの声が響く。その声から少しばかり泣いていることが読み取れる。
「だから言ったじゃないか、皆おしゃれしてくるって!ほら、諦めて出てきなって!」
「嫌だ…。こんな姿を嫁に見られたら嫌われる…。」
どうにかして段ボール箱を引き剥がそうとするシャルロットであるが、内側のラウラの抵抗によってその努力はなかなか実を結ばないでいた。
「…楽しそうだな…。」
鈴と簪、シャルロットとラウラの四人の光景をそれぞれビーチパラソルの陰から見ていた一夏はぽつりと呟く。
そんな一夏に近寄る陰があった。
「暇そうだな。」
「千冬ね、織斑先生…。」
一夏に話し掛けた人物は千冬であった。
もちろん水着は着用しており、その抜群のプロポーションを惜しげもなく披露していた。
程よく肉付きがありつつもしっかりと引き締まった体つきに豊満な胸部、そしてそれらを強調する黒のビキニ姿は同性である生徒達の目を惹き付ける。
「どうした? 鳩がアハトアハトを撃ち込まれたような顔をして。」
千冬の魅力的な肢体に釘付けになっていた一夏の顔を覗き込み千冬は尋ねる。
その問いにハッと我に返った一夏は千冬の目を見るとやんわりと微笑む。
「黒で良かった。やっぱりそっちのが千冬姉には似合うよ。」
「そうか、まぁなんだ。折角弟が選んでくれたんだ。着てやらねば可哀想だと思ってな。」
真っ直ぐな褒め言葉に千冬は照れ臭そうに目を逸らした。
「ぐぬぬぬぬ…。いっくんてば、あんなに鼻の下伸ばしちゃってぇ…!」
茂みの中で双眼鏡を覗き込んでいる束は歯噛みして悔しがっていた。
その格好はいつものジャージ姿ではなく夏物のワンピースである。髪もボサボサではなくしっかりと手入れされており、彼女の持つ本来の美貌を引き立てている。
「でもやっぱりちーちゃんもキレイだなぁ…。」
「篠ノ之も負けてないと思うけどねぇ…。」
やや諦めたような顔つきで呟く束に隣で双眼鏡を覗いている藤原はぽつりと呟いた。
二人ならんで茂みの中で双眼鏡を覗いているというその光景、誰かに見られたなら即通報ものだろうが、普段のこの二人はそんなヘマはやらかさない。
…のだが、今回ばかりは相手が悪かった。
「ドーモ不審者=サン、警備員デス。」
「「アイエエエエ!!警備員!?警備員ナンデ!?」」
振り向いた二人の後ろには日本刀の柄に手を掛ける狗飼がいた。
首からはKGDO警備員の証であるパスが提げられている。
目付きはもはや人殺しのそれであり、一瞬でも怪しい動きを見せれば斬ると瞳が語っている。
そんな目付きで睨まれた二人は抵抗することなどなく、簡単にお縄を頂戴することとなった。
それに気付いた者はいない。
…泳げよ…。
まぁね、KGDOのいる場所に不法侵入したらそりゃ捕まるよね。仕方ないね。
え?ラウラの着ていた水着は何かって?
胸元の名前欄に「らうら」って書かれたスク水に決まってるじゃないですか。片仮名じゃないです。平仮名です(←これ重要)。
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機体名
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