IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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昨日の21:00で今後の展開についてのアンケートは締め切りました。
意見を寄せていただいた方、ありがとうございました。

それでは本編をどうぞ↓


第82話 二つ目のパッケージ装備

「これが“鳳凰”ですか…。」

 

「ああ、水鳥が万能性を高めたのに対して、これは機動力を尖らせたものだ。そして今のところ唯一武装がある。」

 

「それってもちろん…。」

 

「槍だ。」

 

薄暗い格納庫の中で淡々と行われるやり取り、その最後の暁の言葉に南美は“ですよね~”と言葉を漏らす。

 

今南美の目の前に置かれているのは水鳥に続く二つ目のパッケージ装備、その名も“鳳凰”である。

鳳凰をイメージした赤と橙をメインにしたカラーリングと翼を模した非固定浮遊ユニットが特徴的だ。

 

「最高速度だけなら白式にも負けず劣らず。それを活かした制圧的な攻撃性能も高い。その反面、脆い。受けに回った瞬間に溶けるくらいにな。」

 

「ピーキーなんてもんじゃないですね。」

 

「だが、君なら使いこなせるだろう? 少なくとも私達はそう信じている。」

 

真剣な眼差しを南美に向ける暁。その瞳に南美はふぅと息を吐き出して髪を手櫛で解く。

 

「そこまで言われちゃ使いこなさない訳にはいきませんね。任せてくださいよ!」

 

「良い返事だ。それでこそ、と言うべきかな。」

 

南美の返答に暁は軽く笑みを浮かべてインストール作業に取りかかった。

作業自体は簡単なものですぐ終わり、さて調整をという段階に移る。

 

「さて、実戦で感覚を確かめてほしいのだが…。」

 

「ん~、簪ちゃんは出掛けてるし、誰かいるかな?」

 

暁の提案に南美は顎に手を当てて唸る。

今誰かちょうど良いスパーリング相手がいなかったかみんなの予定を頭に思い浮かべていた。

 

「いますね、一人。」

 

「よし、なら早速データを取ろう。」

 

キランと輝いた目で暁は格納庫の外に出る。

南美は急いで鳳凰を待機状態に戻してその後ろを追う。

 

 

 

「いやぁ、ごめんね箒ちゃん。急に模擬戦の相手を頼んじゃってさ。」

 

アリーナに浮きながら南美はアハハと笑って頭を掻く素振りを見せる。

その正面には紅椿を纏った箒が既に臨戦モードで浮いていた。

 

特別実習前の休日に街に繰り出さずに残った箒は南美の試し台に採用されたのだ。

そしてそんな絶好の機会を逃す藤原と箒ではなく、南美の提案を即決で承認した。

 

「ハハハハハッ! 盛り上がって来たねぇ!!」

 

管制室のモニターを眺めながら藤原は声を張り上げて笑う。その横で暁は手元のタブレット端末に写る数字をを目で追う。

 

 

「さぁ、南美…。いざ尋常に──」

 

「──勝負っ!!」

 

二人は掛け声と同時に前に出る。

機先を制したのは南美だった。

 

 

「飛べぇ!」

 

踏み込んだ右足を勢いよく振り上げると、箒は二振りの刀でそれを受け止める。だが南美は力ずくで無理やり振り抜き、箒の体を浮かせる。

 

「ふんっ!でりゃ!そぉおい!!」

 

手刀を突き3発打ち込み、叩きつけるように踵を落とす。

強烈な一撃を叩きつけられ、箒の体は地面に打ち付けられる。

そして、ダウンした箒に更に追撃を掛ける。

 

「南斗爆星破っ!!」

 

南美が腕を交差させて振ると、十字型のエネルギー波がゆっくりとした速度で放たれる。

 

「ちっ!?」

 

「ワハハハハハッ!!」

 

起き上がりとほぼ同時に眼前まで迫るエネルギー波と南美の姿に箒は苛立ちながら後退する。

 

「退かぬ!媚びぬ!!」

 

「甘く見るな」

 

交差させる手刀から、突きの二段攻撃を箒は器用に捌くと、今度は前に踏み出して攻勢に出る。

 

「ちぇええすとぉおおっ!!」

 

「うおっと?! ふんっ!!」

 

力強い踏み込みから放たれた強烈な一閃、それをギリギリのところでかわす。

顔を掠めた刃を目で追った南美は直ぐ様踏み込んで箒の胸に手刀を突き込む。

 

「倍返しだ! その首置いて逝け!」

 

胸に突きを受けた箒は動きを止めずにもう1本の刀を南美の首に目掛けて振り払う。

咄嗟の判断で頭を下げて難を逃れた南美は後ろに跳躍し距離を開ける。

だが、

 

「逃がさん!!」

 

後ろに下がった瞬間に箒はブースターを吹かして南美に詰め寄る。

そして左手の雨月を鞘にしまい、右手の空裂を両手で握って振り下ろす。

 

「っ!? ちょおっ!?」

 

白刃取りしようと両手を構えた南美は振り下ろされる直前に何かを感じとり、直ぐに身を捩る。

南美が身を捩るのと同時に刀身と、エネルギーの刃がそこを通り抜けた。

 

「勘のいい奴だ…。」

 

「怖いわー、箒ちゃん怖いわー(棒)」

 

「ふん、あのタイミングで回避するお前の方が怖いわ。」

 

南美は箒の突進に警戒しながら距離を取る。

その南美を見送りながら箒は雨月を抜く。

どちらも火力と機動力に特化し、防御を捨てているからこそ、迂闊な攻めはできない。それが分かっているからこそ、二人は睨み合う。

 

「さーて、どうしましょうか、ねっ!!」

 

「ふんっ!」

 

均衡状態を打ち破ろうとして南美は槍を1本、拡張領域から取り出して投げつける。

唐突に投げつけられた槍を箒は慌てることなく弾き飛ばす。目の前には既に拳を引き絞った南美の姿。それを見た箒の行動は至極単純だった。

 

「ちぇすとぉお!!」

 

回避でも防御でもない。向かってくる南美に向かって踏み込み、正面から迎え撃つ。

真っ直ぐに突っ走ってくる南美に向けて空裂と雨月を同時に振り下ろす。

だが、その刀は宙を切るだけに終わり、南美を捉えることはなかった。

 

「ワハハハハハッ!!」

 

「くそっ!?」

 

次の瞬間には横に回り込んでいた南美は箒の肩を掴んで鳩尾を蹴り、投げ飛ばす。

そして背部のブースターを吹かして更に追撃を掛ける。

 

「飛べぇ!」

 

箒の体を蹴りあげ、南美もまたそれを追って宙に跳ぶ。

 

「でりゃあ!南斗爆星破!!からの~、そぉい!」

 

打ち下ろす蹴りからエネルギー波に繋げ、空中で箒の体を掴み、下に向けて投げつける。

 

しかし箒は地面に叩きつけられる直前に体勢を立て直して着地し南美の方を見やる。

 

「やられたらやり返す!!」

 

「かかってこいよぉ!!」

 

2本の刀を構えて箒は南美に斬りかかる。

南美はそれを上手く受け流しながら懐に潜り込もうとするが、そう簡単にはいかない。

熾烈な箒の攻めは南美の勢いを殺し、自身の守りを高める。攻撃こそ最大の防御という言葉を正に体現したような姿勢である。

 

「ちぇすとぉお!!!

 

「ちぃ!?」

 

豪快に横一文字に振るわれた一閃に南美は舌打ちして下がる。

そして拡張領域から槍を1本取り出して構える。

しかしその構えは箒からすれば隙だらけ、素人同然のものだった。

 

「ふん、武器の扱いは苦手と見える。」

 

「そりゃ私の専門は徒手空拳だからね、得物は拳だけさ。」

 

「ふん、なら拳でかかってくればいいだろう?わざわざ槍なんか構えずに。」

 

「まぁ、そうするよね!!」

 

二言三言言葉を交わすと、南美は持っていた槍を投げつける。そしてその槍の後ろをついていくように走り出す。

 

「それはさっき見た!!」

 

槍投げを見た瞬間に箒は空裂を振り、エネルギー波で槍を迎撃すると、その槍の後ろにいる南美に向かって雨月を突き出して刺突のエネルギーを放つ。

 

「わおっ!?」

 

「そこだっ!! その首、貰ったぁあっ!!」

 

刺突のエネルギーを横に跳ねてかわした南美の首筋を箒の空裂が捉えた。

もちろん絶対防御のシステムによって死にはしないものの、衝撃や痛みはしっかりと感じるし、何よりもその一撃でごっそりとシールドエネルギーが削れた。

 

南美の体は大きく吹き飛び、数回地面に擦れた後、地面に転がって倒れる。

 

「ぁぁ、痛いなぁ…。」

 

弱々しく南美は言葉を呟く。そしてゆっくりと立ち上がると油断なく構える箒を見る。

 

「けどまぁ…、死ななきゃ安い…ってね。」

 

ボロボロではあるが瞳の闘志は消えていない。

南美は胸を張ると、だらりと両腕から力を抜く。そして脱力した腕を左右に広げる。

 

「さぁ、受けてみると良いさ。南斗108派最強、南斗鳳凰拳の奥義を…。」

 

「あぁ、お前の全力を受けきってみせる。そして勝つ。」

 

独特な構えを見せる南美に対して箒はあくまでもオーソドックスな構えを取る。

 

「南斗鳳凰拳奥義──」

 

「篠ノ之流──」

 

南美は逆立ちの状態から腕を使って飛び上がり、箒は雨月を鞘にしまうと、右手で握った空裂を引き絞るように引く。

 

「天翔十字鳳!!」

 

“鳳凰”の背部スラスターからエネルギーの塊が溢れるように立ち上る。

それはまるで炎を纏う巨大な鳥にも見えた。

そして南美はそんなエネルギーの塊を纏った状態で箒に突進する。

 

「篠突き!」

 

箒は巨大なエネルギー塊になった南美に向けて全身のバネを使った突きを放つ。

二人が激突した瞬間、アリーナは眩い光に包まれた。

 

 

 

「……決着は…?」

 

「もう着いたみたいだねぇ。見なよアレ…。」

 

不意を打たれ、もろに光を見てしまった暁と藤原は暫くたってからまだチカチカする目を開く。

箒と南美の激突によって舞い上がった砂埃も晴れ、アリーナの中央で横たわる二人の姿が確認できた。

 

そんな二人の姿を見た二人は手元のタブレット端末の画面に目を向ける。

 

「シールドエネルギー、ゼロ…。」

 

「こっちもだね。ダブルK.O…いやいやぁ、面白いねぇ!!」

 

暁が驚きの声をあげ、藤原は愉快そうに高笑いした。

 

 

「引き分けかぁ…。」

 

「次は勝つ…。」

 

アリーナで倒れている二人は顔をあげてお互いを見つめ合う。

爽やかに笑い合う二人は歳に見合った幼さを感じさせる。

 

 

 

そんな女子二人が更なる友情を築いている時、IS学園行きの船の甲板ではというと──

 

「今日はありがとうございます椛さん。」

 

「いえいえ、構いませんよ~。」

 

甲板の上で一夏は携帯電話越しに犬走に礼を言う。礼を言われた犬走は何でもないと言うような口調で返す。

 

「いや、ホントに助かりました。お陰様で良いものが買えましたし。」

 

そう言って一夏は紙袋を持ち上げる。見えてはいないものの、電話越しの音からそれを想像した犬走は“若いって良いですね~”と溢す。

そんな犬走の発言に一夏は小さく苦笑いを浮かべる。

 

「ホントにありがとうございます。たぶん狗飼さんならこうはいかなかったと思いますし。」

 

「アハハ、確かに先輩はそういうのには疎そうですもんね。」

 

クククと電話越しに笑う犬走の声を聞いて一夏は小さく笑う。

 

「さすがに笑いすぎじゃあ…。」

 

「一夏くんもじゃないですか、ク、クク…。」

 

「それじゃあ、そろそろ切りますね。今日は本当にありがとうございました。」

 

「いえいえ、どういたしまして。私でよければ休日の都合がつけば付き合いますよ。」

 

「はい、その時はお願いします。」

 

一夏は頭を下げてから二言三言言葉を交わして電話を切った。

そして日の落ちて暗くなった空を見上げる。

北斗七星を見つけた一夏は小さく呟いた。

 

「…あの小さな星、前よりも明るくなってる…?」

 

 

 

一夏が船の上で犬走と話している最中、とある海辺の旅館では──

 

「へっくし!」

 

畳張りの部屋の中で浴衣を着て胡座をかいて座る狗飼は小さくくしゃみをした。

そんな狗飼に浴衣姿の真耶は心配そうに近寄る。

 

「風邪ですか? もしかして湯冷めでもしましたか?」

 

「い、いえ…。誰かが噂でもしたんでしょう。」

 

「ダメですよ、風邪はひきはじめが大事なんですから!」

 

真耶から顔を逸らした狗飼に真耶は更にずずいと詰め寄る。

すると、狗飼の顔が耳まで赤くなる。

 

「ん~、顔も赤いみたいですし、今日は早く寝ましょう。明日から生徒のみんなも合流しますから。」

 

そう言って真耶は部屋の真ん中に敷かれた二組の布団に目を向けた。

 

 

 

 

 





次回から水着回に入れる…はず。

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それではまた次回に会いましょう!


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