魔法少女リリカルなのは 黒い鳥、星光とともに 作:如月シュウ
機動六課部隊長八神はやては、彼女の友人である高町なのはと、フェイト・T・ハラオウンの二人と談笑していた。立場、所属ともに違う三人はなかなか都合が合わず、直接会うのは随分と久しぶりだ。
「そやフェイトちゃん、少し頼みたいことがあるんやけどええかな?」
そして話題は、ある男の事へ。
はやては、自分が集めた情報をホロウィンドとして、フェイトに渡す。
「これは?民間協力者…えーっと名前は、アレックス・オーンスタインか、聞いたこと無いね」
「クロノ提督のお墨付きの実力者や。立場は、機動六課の遊撃手として動いてもらうんやけど、今日六課に来ることになっとるから、良ければ模擬戦でその実力を確かめてほしいんやけど」
「自営業で傭兵を営んでいるって珍しいね。……うん、いいよ」
「おおきにな。予定としては、そろそろ来るはずなんやけど……」
はやてが言葉を切った時、備え付けの自動ドアが開いた。そして、入ってきたのは、銀髪に赤みがかった黒い瞳、茶色い六課の制服に身を包んだ若い青年だった―
「ここか」
クロノに渡された地図を横目に、歩くこと約二十分。今日会う予定の、八神はやて二等陸佐の部屋にやって来た。久々に来た管理局だが、ここが身内ばかりで構成された部隊だからか、俺がいたときでは考えられないほど平和な雰囲気が、流れていた。
管理局も変わったなと思いながら、軽く手で紙を整えつつ、これまたクロノに渡されたカードキーを差し込み、部隊長室に入る。
「失礼、八神はやて部隊長は居るか?」
部屋のなかには、三人の女性がいた。
栗色の髪をサイドテールにまとめた女性、金色の髪の女性、そして、短めな茶髪の女性。
「お、来たみたいやな。えー、初めまして、私は八神はやて。で、この二人が……」
「高町なのはです。よろしくね♪」
「フェイト・T・ハラオウンです」
短めの茶髪の女性が、八神はやて、栗色の髪の女性が、高町なのは、金色の髪の女性が、フェイト・T・ハラオウン。
なるほど、噂のエース揃い踏みのようだ。確か、この三人は幼馴染だと聞いているから、俺がここにいると物凄く場違い感が半端じゃないんだが……。
まぁいいか。
「初見となるな、アレックス・オーンスタインだ。今回は、民間協力者として力を貸すことになった。よろしく頼む」
「よろしく。早速で悪いんやけど、アレックスさんの実力を知りたいから、フェイトちゃんと模擬戦をしてもらうから、訓練所に行ってくれるかな?」
ん?おい待て、テスタロッサと模擬戦とか言ったか、この人。さすがに、荷が重いんだが……。
俺の苦々しい表情を読み取ったのか、八神はにこりとと笑って、
「あぁ、フェイトちゃんには出力リミッターがかかっとるから、全力では戦えんのよ。だから、安心してええよ」
なんのフォローにもなっていないアドバイスを飛ばしてきた。
さてさて、やって来たのは六課ご自慢の訓練施設。
俺の正面には、黒いバリアジャケットに身を包んだ、テスタロッサ執務官殿が、愛機『バルディッシュ』を持ち、キリッとした瞳でこちらを見ている。
俺は、灰色のバリアジャケットをセットし左手でデバイス、『ブラック・ホーク』のRFモードを握っている。
「いつでもいいよ。かかってきて」
構えに全く隙が無い。わかっていたことだが、彼女を相手にして勝利を収めるには相当の覚悟が必要だ。だからといって、負ける気は全く無いわけだが。
「なら、お言葉に甘えて…!」
素早くライフルを三発発射する。それが、戦闘開始の合図となり、テスタロッサも動き始める。当然だが、相手の力量がわからない以上、無闇に突っ込むのは下策だ。彼女もそれはわかっているようで、発射した三発の弾丸を横に移動して回避する。
「フォトンランサー!」
お返しと言わんばかりに金色の魔力弾を、発射してきた。ライフルの即座に発射、向かってくる魔力弾を、正確に撃ち抜く。さらにスライドしつつ、テスタロッサに弾丸を飛ばしていく。
中距離戦での弾丸の応酬が続く。テスタロッサの放つ魔力弾を、こちらの弾丸で相殺し、テスタロッサ本人に弾丸を放つも、持ち前の機動力で難なく避けられる。
「MGモード、セット」
ブラック・ホークをマシンガンに変えて、スライドしていただけだったのを止めて、前方へと進路を変更、マシンガンを乱射しながら、接近戦へと持ち込む。
彼女も俺の狙いがわかったようで、デバイスを鎌の形に変えて、こちらへと突っ込んでくる。
すれ違う。金色の刃が振り下ろされる。
「貰ったッ!」
勝った、と思った。彼は、中距離戦闘がおもなタイプのようで、フォトンランサーを撃ち抜かれたのにはかなり驚いたが、接近戦はこちらに分がある。あのデバイスは銃型だから突然、近接武器になったりはしないはずだ。
そのはずだった。
だけど、私の目の前には、バルディッシュの刃を受け止める、薄紫の刃があった。
「まさか…マルチデバイス⁉」
マルチデバイスとは、異なった二つのデバイスを同時に使用する技術だ。それによって、苦手な分野を克服したり、より特化した戦いかたにしたりすることができる。そんな便利な能力だが、欠点がある。
まず、二つのデバイスは一部の例外を除いて、同時使用は不可能なのだ。
その、一部の例外というのが使用者の先天的才能によって最初から使えるのと、メインデバイスとサブデバイスで使い分ける方法がある。
彼は前者のようで、左手で先ほどまで撃っていたマシンガンを。右手には、黒い円柱状のデバイスから薄紫の刃が伸びている。
「……まさか、マルチデバイスができるなんて思わなかったよ」
「生憎、これくらいしか取り柄がなくてね。少々、魔力効率が悪くてもこうするしかないのさ」
強気に笑うアレックス。
ブォンという独特の重低音が鳴り響き、バルディッシュの鎌が、弾きあげられ、追撃の一太刀が私を襲う。それを、バックステップして回避し、バルディッシュをデバイスモードに切り替え、ランサーを展開。合計50にも及ぶそれを一斉に発射する。アレックスは、先ほどよりもかなり多いランサーの数に顔をしかめるが、冷静に撃ち落としていくが、如何せん数が多いのか、少しずつ被弾が増えていく。
相手が犯罪者なら、容赦なく削り倒すところだが、さすがにこのままというわけにもいかない。この模擬戦は彼の実力を見ることが目的なのだから。
そこで、私はランサーを全て発射したあと、あえて大きく距離をとった。
かろうじて、弾幕を耐えきった彼は、レーザーブレードの刃を納め、銃の形を変えた。
「チィッ、やっぱり強いな……」
先ほどから翻弄されっぱなしである。金色の魔力弾の雨をマシンガンで撃ち落としつつ、作戦を練る。俺の遠距離攻撃手段は、レーザーライフルと、スナイパーライフルの二つだ。レーザーライフルの方は、相手の防御をすり抜けるという特殊効果があるし、ホーミング性能が高いから命中精度がいい。ただし、威力の距離減衰が激しく、この距離で撃ったところで大したダメージは与えられない。
スナイパーライフルの方は、弾速が速く、威力も高い。だが、今回に限ってはこちらの位地がバレているなら普通に避けられる。
まずいな。彼女のような、高速機動戦を得意とする相手に距離を取られると、かなりまずい。
「……やれやれ、プランDか。嫌な状況だが、打破する手段はある」
作戦は決まった。ならば、早速実行するだけだ。まず、展開しているムーンライトを待機状態に戻し、ブラック・ホークをライフルに切り替える。射程としてはギリギリだが、目的は牽制だ。当たらなくてもいい。そして、ライフルを乱射しつつ、前方へと魔力放出を行い、急速接近する。
へしゃげるような強い圧迫感が全身を襲うも、今は無視。
距離がおおよそ400mまで近づいたところで、魔力放出を解除、減速しつつライフルのマガジンを交換し、魔力をチャージする。
そうこうしている間にも、テスタロッサは棒立ちしている訳じゃない。鎌の形のデバイスを振りかぶるように構え、大きく振り下ろした。
「アークセイバー!」
その刃は鎌から外れ、回転ながら襲い掛かってくる。その速度はかなりのもので、回避は難しい。仕方なく、不得手な防御魔法を発動。ガリガリッ!と凄まじい速度で回転する刃は、俺の脆弱なプロテクションを削っていく。このまま受けきるのは無理だと判断して、プロテクションを張っている左手を反らそうとした瞬間、セイバーが光輝き、破裂した。プロテクションは見事に砕け散り、体勢が崩される。それを見逃すテスタロッサではない。
「これで、終わり!プラズマスマッシャー!」
彼女の正面に展開された魔方陣から、金色の電撃が発射される。と同時に、ライフルのチャージが完了。即座に銃口を向け、発射。
金色の電撃と、スパークを起こした弾丸がすれ違い、通り抜ける。
「ぐぅっ……」
「うぁッ!」
金色の電撃が左肩に命中し、弾丸は鳩尾に命中した。すぐに体勢を立て直し、デバイスを向けたところで、
ビィッー!
という模擬戦終了のブザーが鳴り響いた。
結果は、俺の判定負け。
だが、一発クリーンヒットを入れただけで充分すぎる成果だろう。そう思い、俺はバリアジャケットを解除した――
初の戦闘シーン。こんな感じでいいんでしょうか。