僕は最初澪推しでした・・・!
それではどうぞ!!
「ふぅああああああ・・・」
とてつもなく大きな欠伸をする。昨日、いや今日は本当に疲れた。
誰もいない朝の校舎を歩く。
朝の澄んだ空気と日差しが心地よい。
今は一部の教師しかいないのではないだろうか。そのレベルで早い時間に学校に着いていた。
昨日あんなことがあれば普通寝れないよなぁ・・・。
「あっ」
ふと声が漏れる。目の前には秋山澪ちゃんがいた。
ちゃんとセットされた髪に透き通る瞳がハッキリわかる。
「おはよう」
「お、おはよう・・・」
少し恥ずかしがりながら返事を返してくれる。
彼女もまた寝れなくて早めに来たのだろうか。まだ朝礼まで二時間もある。
「昨日はありがとうな・・・尾形くん」
「いいってことよ―――。」
会話が途切れてしまう。
なんとか繋ぎ止めなきゃ。
「・・・体育館行かね?」
「えっ、でも―――」
「ごめん、何か用事でもあった?」
「ないけど・・・」
「じゃあ行こう。バスケでもしよーぜ」
しばらく考え込んだ後、了承してくれた。
2人で歩き出す。
彼女の性格なのか、自分からは話し出さない。
とても人見知りがすごい子なのかな?
だから気を遣わない田井中さんとかにはあの口調なのか。
「うーん、誰もいない校舎は気持ちいいな~」
「そうだな~」
彼女も大きく手を広げ、深呼吸をしていた。
体育館へと着く。
中からは音は聞こえない。
本当に誰もいないんだな・・・。
体育館の事務員の方はいたので、体育館の鍵を拝借する。
部室からボールを一つ出し、ダムダムとドリブルさせながら秋山さんの方へと向かう。
「そういえば、尾形くんはバスケ部だったな。」
「うん」
シュッとボールを放つ。
何の抵抗もなく、ボールはリングの中を通過する。
「おおっ!凄い!」
「あざ~す!」
バスケ部では決めて当たり前のシュートだったが、こんなにも褒められると逆に照れた。
秋山さんは目を輝かせて、こちらを見る。
「秋山さんも打ってみなよ、シュート」
「えっ、私は無理だよ!運動音痴だからな・・・」
「いいから」
ボールを渡す。
慣れない手つきで、えいっ!とボールを放る。
ボールはリングを通過することはなく、その手前へ落ちていく。
「ほらな・・・」
やれやれという表情でこちらを見る。
・・・可愛いっていうか美人だな。
こんな顔も出来たんだ、この子。
今まで目も合わせてくれなかったくらいだからな。
「膝を使うんだよ、手だけで打ってるから届かないんだ」
「膝?」
「そう、思いっきり曲げて打ってみ?」
「分かった」
再び秋山さんはボールを放る。先ほどと違うのは、膝を曲げていること。
シュパッ!
と気持ちのいい音が鳴った。
ボールがリングに当たらず、ネットだけを通過する音だ。
「やったぁ!!」
バンザイをしながら、ピョンピョンと飛んで喜ぶ彼女。
思わず見惚れてしまう―――。
「凄いな、尾形くんは!」
「・・・相馬でいいよ」
「えっ?」
なんて事を言ってしまったんだ俺は!!!
何の躊躇いもなしに言ってしまった!!
しかも秋山さんに限って・・・!
嫌われたか・・・。
「分かった。相馬は中学MVPなんだろ?」
「えっ、あぁ・・・そうだよ。昔の話だよ」
あれ、すんなりと呼んでくれた。
この気持ちはなんだろう・・・本当に嬉しい。
「昔っていっても一年前でしょ?」
「あぁっと、そうだった―――」
「面白い奴だな」
ウフフ、と笑う秋山さん。
俺も自然と笑みが零れた。
「私のことも澪って呼んでくれ。私だけじゃ恥ずかしいからな・・・」
「分かった、み―――」
「なーにやってんの~お二人さーん」
「うわあああああ」
2人して大声をあげて驚いてしまう。実際ニヤニヤしてしまう場面だったけども!!
そこに居たのは田井中さん。
そしてその後ろからひょこっと唯と琴吹さんも出てくる。
「律・・・驚かすなよ・・・」
「なかなかいい感じの雰囲気だったからさぁ~ん」
「うるさいよ田井中さん」
「2人ともバスケしてたの?いいな~!」
唯、空気読みなさい。
「澪ちゃん、大丈夫そう?」
「あぁ、もう大丈夫!」
「澪~良かったよ~!私も後でソレを知ったからさ~」
「うん、相馬が守ってくれたんだ!」
「おお~!男前だね尾形くん!」
「あざーす。」
「いや待てそれより澪、今なんて呼んだ・・・!?」
「相馬だけど・・・」
「やはり進んでいたか」
「お前殴るぞ」
「ひゃ~」
なんかいつもの日常に戻って良かった。
高校に入って女子ばっかで嫌なところもあったけど、これはこれで毎日楽しいな。
「今日放課後お前も来いよ!相馬!」
ふいに田井中さん。
「なに、なんて?」
「君も軽音部に入るんだ、相馬さん!」
色々急すぎてついていけないんだけども。
「気が向いたらな」
・・・・・。
軽音部に入る、か。
思ってもみなかった一言。
しかし、今思ってみれば。
どこか気持ちの奥底で考えていたのかもしれない―――。
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時は、昨晩に巻き戻る。
俺は夜の道を駆け、駅方面へと向かっていた。
本当に嫌な予感がする。
そしてそれに伴い痛みを増す頭痛。
絶対に何かが起きているに違いなかった。
キャーと声が聞こえた。
もう近くだ・・・!
急げ―――。
曲がり角を曲がると、そこには秋山さんと琴吹さんがいた。
それと男の影が3人。
思わず息を飲む。
男達は一目瞭然、酔っ払いであった。
一人は秋山さんの肩を掴んでいた。
「や、めろ―――ッ!!」
無我夢中で駆けだす。
秋山さんを掴むその手を振り払う。
「尾形くん!」
「もう勘弁してください、相手は女子高生ですよ」
彼女ら二人を自分の背の後ろへ。
「お~い兄さん男前だねぇ~!かっこい~」
「ヒュ~ヒュ~」
酔っ払いらは俺を煽り始める。
そんな低俗な挑発には乗らない。
「逃げろ。とりあえず今は全力で―――」
「えっ・・・」
恐怖で足が竦んでるのか動けない二人。
「早くッ!!!」
言われるがままに逃げ始める二人。
酔っ払いは追うことはしなかったものの、俺に対しての目つきは変わっていた。
男なんてこんなもんだ。
酔っぱらっているフリなど、いくらでもできる。
民度の低いことを・・・。
「お前さ、自分のこともっと大事にしろよ」
「あれ、友達?」
「そうです」
「偉いね~もっちょっとでお持ち帰りできたのに」
「そんなことさせねーよ」
「威勢のいい高校生だな、まぁ今回はこれで勘弁してやるよ」
男達はどこか闇の中へ消えていった。
すぐさま俺は彼女らの後を追っていく。
2人を探し出すのに時間は掛からなかった。
近くの公園にいたからだ。
秋山さんは泣きながら蹲っている。
「大丈夫?」
「尾形くん・・・」
琴吹さんは心配そうな表情だった。
「もう俺が追っ払っといたから大丈夫だ!な!」
「うん・・・」
ゆっくり頭をポンポンとする。
「それじゃ、帰ろう。家まで送っていくからさ」
「うん・・・」
「それと財布、唯ん家に忘れていったろ?憂ちゃんが届けてくれたよ」
「ありがとう・・・」
三人で並んで駅へ向かう。
琴吹さんと俺が会話をし、秋山さんは黙っているままだった。
少しでも気分が良くなれば、と思い明るい会話をした。
そして次の日の朝、二人の関係は進展することになるのであった―――。
生まれる絆―――。