博麗霊夢の小間使い   作:喜怒哀LUCK

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ブラックコーヒー一缶120円
タバスコ一本470円

どちらかを片手に持って読むことをおススメします



やっとタグの恋愛を書けてる気がするよー

都合上短いですが、ご容赦堪忍お願いします



記憶は記憶 守るは目の前の恋する少女

 小間使いと霊夢の言葉に、誰よりも早く理解を示したのは意外にも妖夢だった。霊夢は小間使いを知っているが、小間使いは霊夢を知らないという矛盾。ただ小間使いが忘れている可能性もあるが、そんな薄い関係でないことは感じ取れた。

 そもそも小間使いは記憶を失くしている。それを霊夢は知らない。

 妖夢は小間使いが誰かに仕えていたということを知っている。小間使いの見た目を考えると、並の主ではないことは予想できたが、それが博麗の巫女ともなれば納得できる、というか実際そうだったのだろう。

 違う、そうじゃない。

 ここでもし、霊夢が小間使いとの関係を話したら? 何かの拍子に記憶が戻るかもしれない。そうしたら、小間使いはどうするのだろうか。

 小間使いは優しい。きっと私たちを無下にすることなんてしないだろう。しかし、それは彼女に対しても言えることで。つまりそれはどういうことかというと。

 あれこれと考えを纏めようとすることは、妖夢は得意ではない。とりあえず何か目標を決めて、それに向かって一途に走る方が性に合っている。だから、霊夢の気持ちも分からなくはないが、それでも自分の意思を貫きたかった。

 

(この人と離れるのは、嫌だ)

 

 その想いが確固たるものとなった今、妖夢は迷わず行動に出た。痛む身体を引きづり、霊夢と小間使いの間に身体を入れる。

 

「申し訳ないですけど、これ以上私たちに関わらないでもらえますか? 異変は私たちの負けで終わったのだし、もういいでしょう」

 

 それは懇願だった。これは異変とは関係ない、彼と彼女の個人的な話で、寧ろ部外者なのは私の方だ。それに負けたのは私たち、勝者に何を言われようと従うしかない。だからこその、お願いだった。

 それがお願いだということは霊夢にもわかった。妖夢がなぜそこまで必死なのかも、完璧にとはいわないが理解できる。そう短くない時間を共に過ごしたから、そうなってしまうのだろう。

 しかし、それとこれとは話は別。

 

「貴女には関係ないでしょう。これは私とコイツの話よ」

「っ!」

 

 その通りだ、何も言い返すことはできない。悔しさと悲しさが胸を占め(心を満たし)胸を閉め(それ以外の感情を排除し)胸を締め(心を痛くする)あげる。諦めを含んだその眼で男を見つめ、幽々子を受け取ろうと手を伸ばす。

 

「なるほど。君が私と何か関係があることはわかった」

 

 手を伸ばす。

 

「だからといって、君が私の大切な人を傷つけるのは看過できない」

 

 手を伸ばし。

 

「今日は帰ってくれないか」

 

 手が、握られ、抱き寄せられ。

 守ってあげなければいけないのに、私よりも力の弱い男に守られてしまった。そこにはもう、悔しさや悲しみはなく、ただただ小間使いの心の強さに、惹かれるだけだった。

 

 小間使いは基本、身内を贔屓にする。霊夢と過ごした三年間、全てにおいて霊夢を優先させてきた。それには当然、心を通わせるだけの時間をかけたが、少なくとも霊夢が心を開いたころにはそうしていた。

 何も小間使いに友人がいないことはなく、その穏やかな性格と容姿端麗な振る舞い、男女問わず人気はあった。当然、遊びに誘われることや食事に誘われることなど、多々あっただろう。小間使いに休みの日がないわけもなく、休日はそうした過ごし方もできたはずだ。

 しかし、それをしなかったのは、小間使い自身が優先順位を変えたからであろう。それに後悔はないし、そんなことで友を止めるような者もおらず、だからこそ三年間霊夢に尽くすことができた。

 白玉楼にいる二人が、それだけ小間使いと心を通わせることができたのは、冥界が隔絶された場所にあり、普段買い物をするときにしていた交流ができなくなったからである。その分二人と触れ合う時間は多くなり、自然と身内としての意識が芽生える。これも記憶がなくなったという条件があるが。もし記憶があって、こうした状況に陥ったとしたら、結果はどうなったかわからない。

 しかし、『今』の小間使いは、白玉楼側にある。幽々子と妖夢を身内とし、特別な人物としていた。故にこの反応がある。

 

「なによ、それ」

 

 今にも泣きだしそうな妖夢を見て、罪悪感がなかったわけではない、それでも譲りたくないことだったのだ。それなのに、男が私に見せる顔は、怒った顔。あの時に見た顔と同じ。

 

「霊夢、今は引こう」

「私は、わたしはただ」

「わかってる。だから今日は引いて、落ち着いたらまた来よう」

 

 傍観していた魔理沙が、恐らく男が生きていることに安堵、霊夢以外に対して優しくする困惑、怒りを向けられたことによる絶望、疎外感、その他多くの感情が霊夢から冷静さを奪っていると判断し、そう諭した。これでは、あの時の二の舞ではないか、冷静さを失い、失ってしまったあの時と同じだ。

 だから引く。

 

「また来るぜ。そんときにはちゃんと話してくれよな」

「えぇ。二人を傷つけないと約束するなら」

「生憎約束事は苦手なんだが、わかったぜ」

 

 霊夢を担ぎ箒に跨った魔理沙は、冥界から帰っていった。

 

「とりあえず、帰って宴会だ。一回酒でも飲んで忘れようぜ」

 

 誰に言うでもなく、そう呟きながら。

 

 

 驚くほどに静かだと、会話が進まないことは多々あるが、そんなことには無縁だと思われていた妖夢と小間使いは、縁側に隣り合って腰かけていた。幽々子は疲れもあってか、食事を済ませると早々に寝床に付いた。気遣ってくれたのだろう、これでも従者の心配はするほうだ。

 そして小間使いと隣り合う妖夢は、内心複雑だった。素直に、自分を大切だと言ってくれたことへの嬉しさと、多分迷惑をかけたことへの自虐。記憶を失くした男が、記憶を取り戻すチャンス、それを自分の我儘で不意にしてしまった。小間使いだって戻ることなら記憶を戻したいと考えるだろう。

 

「ごめんなさい」

 

 謝るほか、妖夢にはできなかった。

 

「何がだい?」

「私の我儘です。貴方と離れたくがないために、記憶が戻るかもしれない機会を不意にしてしまいました。あの人は、多分元々貴女が仕えてた人だと思います」

「うん、それは何となくわかったよ」

「はい……」

「私は、記憶が戻るなら戻ってほしいけど、それが妖夢さんの我儘で機会を失ったなんて思っていないよ」

 

 優しくしないでほしい。どうせなら怒って突っぱねて欲しい。そうされた方が、もし記憶が戻って、やっぱりあちらの方が良いと、離れ離れになってしまった時に、気が楽になる。

 だから、そんな言葉をかけないで。

 

「確かに、記憶が戻って欲しいとは思うけど、それも絶対に戻るなんて決まっていない。もし戻ったとしても、それで妖夢さんと幽々子様から離れるなんて決まってない。そんな不安定なものより、ハッキリと大切だと思ったから、ああ言ったんだ。だから妖夢さんは悪くない」

 

 そんな言葉をかけられては、期待してしまうじゃないか。

 

「君は、悪くないよ」

「私は……私はっ」

 

 

「貴女のことが、好きです」

 




告白っていいですよね


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