ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ほとんど最後の日常パートなので、この日の昼の話は少し話数がかかる予定です



第098話 つまりそういう事

 キリトと別れた後、部屋で熟睡していた八幡は、突然意識が覚醒するのを感じた。

八幡は、目をつぶったまま周囲の気配を探った。

どうやら誰かが見舞いに来ているようだ。そう理解した八幡は、

特に危険な気配は感じられなかった事もあり、とりあえずその会話に耳を傾ける事にした。

 

「先輩、寝てますかあ?」

「お兄ちゃんはどうやらぐっすりお昼寝してるみたいですね。起こしますか?」

 

(実はもう起きてるんですけどね)

 

「起こす事はすぐ出来るのだし、寝ている間に何か出来ないか考えるというのはどうかしら」

 

(おい雪乃、何かって何だ何かって。おかしな方向に話を誘導するな)

 

「こういう時の定番って、足にはめたギプスに落書きするとかだよね?」

 

(確かに定番だが、足に直接マジックで書くとかはやめてねゆいゆい)

 

「さすがに今の状態だとそれは無理ね……これ、折ってしまおうかしら」

「ノーノー!何て恐ろしい事を相談してやがるんだお前ら」

 

 八幡はさすがに看過出来ず、慌てて飛び起きた。

 

「あら、やっぱり狸寝入りだったのね、八幡君」

「ぐっ、気付いてやがったのか。あれはわざとか」

「当たり前じゃない。いくら私でも、ギプスに落書きをするためだけに足を折ろうなんて、

確かにそういうのに憧れた事もあったけど……みんな、やっぱり折りましょう」

「おい馬鹿やめろ、小町、雪乃を抑えろ!」

「お兄ちゃん、小町はね、お兄ちゃんの事が大好きだけど、雪乃さんの事も大好きなの。

だからどちらかの味方をするわけにはいかないんだよ。諦めて」

「くっそ……ゆいゆい、お前は俺の味方だよな?」

 

 八幡のその問いかけに対し、結衣は目を逸らしながら答えた。

 

「えーっと……私もちょっとそういうのに憧れてたっていうか……」

「一色!生徒会長の権限で止めてくれ!」

「いつまでも私の事を苗字でしか呼ばない先輩なんか知りません!

ついでに私はもう生徒会長じゃありませんよ?進学祝いだってしてもらってません!」

 

 いろはは頬を膨らませて、ぷいっと顔を背けた。

 

「あ……」

 

 八幡はその言葉を聞き、見事な土下座をした。

 

「すまん一色、いや、いろは。お前の進学の事は完全に忘れてた。

今回の事件が終わったら、必ず俺主催でお祝いをするから勘弁してくれ」

 

 その八幡の態度に、いろはは逆に慌ててしまった。

 

「ちょ、先輩、嘘ですよ嘘!今が大変な時なのは分かってますから!」

「しかしな……」

「いいんです先輩!その気持ちだけで嬉しいです!

お祝いの事は落ち着いたらまた考えてくれる程度でいいので、顔を上げて下さい!」

「任せておけ。盛大に祝うからな」

「はい、期待しないで待ってますね、先輩!」

 

 八幡は立ち上がってベッドに座り直し、改めて四人に言った。

 

「とりあえずみんな、見舞いに来てくれてたんだな、ありがとな。

それにしても四人で見舞いなんて久々じゃないか?」

「あー、うん」

「えーっと……」

「ん?何か特別な用事でもあったのか?」

「雪乃さん……」

 

 小町はすがるように雪乃に呼びかけた。結衣といろはも同様だった。

 

「そうね、ここは正直にいきましょう。八幡君、実はちょっと聞きたい事があるのよ」

「おう、何だ?」

「実は昨日、四人で集まった時に出た話で盛り上がってしまって、

それで是非本人に直接聞こうという事になったの」

「お、おう、そうか」

「で、その話の内容というのが、八幡君のSAOでの戦闘スタイルの事なのだけれど」

「俺の戦闘スタイル?」

 

 八幡はその言葉に意表をつかれた。

 

「ええ。迷惑だったら答えなくてもいいのだけれど、差し支えなければ教えてもらっても?」

「別に構わないぞ。お前らが興味を引かれる要素はそんなに無いと思うけどな」

「ただの興味本位、そう、興味本位なの」

「興味本位な、まあいいや。で、俺の戦闘スタイルだが、

そうだな……分かりやすく言うと、基本パリィした後無防備な敵の首を刎ねる、

もしくは敵の攻撃が出る瞬間を見極め、その攻撃を潰して即首を刎ねる、だな」

「とりあえず首は刎ねるんだね……」

「パリィはともかく、攻撃が出る瞬間うんぬんってのが分からないわ」

「それじゃ試しにやってみるか。そうだな……

ゆいゆい、ちょっと俺に攻撃してきてくれないか?何か武器を持ってるイメージで頼む」

「私でいいの?」

「ああ」

 

(気になる事はあるが、これでまあはっきりするだろう)

 

「うーん、わかった!やってみるね!」

 

 そう言うと結衣は構えをとった。その構えはかなり様になっていた。

 

「よし、いつでもいいぞ」

「行くよ…………あっ」

 

 結衣は攻撃しようと右手を振りかぶろうとしたが、

その瞬間に八幡に右肩を止められ、少し後ろによろめいた。

その瞬間に八幡の手刀が、結衣の首に添えられた。

 

「やっぱりゲームの中みたいに速くは動けないな。今はこれが精一杯だ」

「嘘……」

「先輩、何ですか今のは……」

「ちょっとにわかには信じがたいわね。まるで姉さんを見ているようだったわ」

「おい、陽乃さんはどんだけ強いんだよ……」

「言わなかったかしら?姉さんは合気道の免許皆伝よ?」

「まじか……」

「むーん、何か悔しい……えいっ」

「ちょ、ゆいゆいやめ、おわっ」

「きゃっ」

 

 結衣は悔しかったのか、いきなり八幡に攻撃をしようとした。

八幡は辛うじてその攻撃を受け止めたが、勢いあまって背中からベッドに倒れこんだ。

結衣は八幡を押し倒す格好となり、その時病室の扉がガラッと開いた。

 

「陽乃さん、ノックノック!」

「え~?」

「あ……」

 

 入り口を見ると、そこには陽乃とキリトと見知らぬ少女が立っていた。

その見知らぬ少女は、顔を真っ赤にしてこう言った。

 

「失礼しました!」

 

 そして少女は走り去った。陽乃はにやにやこちらを見ていた。

キリトは固まっていたが、我に返ったかと思うとすぐさま外へ飛び出した。

キリトはしばらく外できょろきょろしていたが、やがて諦めたのか病室に戻り、こう呟いた。

 

「やれやれ、紹介は今度でいいか」

 

 そう言ってキリトは、今度は顔を赤くしながら八幡の方を向き、八幡に尋ねた。

 

「で、これはどうなってるんだ?」

「その前にゆいゆい、色々とまずいんでとりあえず俺の上からどいてくれ」

「あっ、ごめん」

 

 結衣は顔を赤くしながら慌てて八幡から離れた。

 

「ふう」

 

(危なかった。さすがに破壊力は抜群だ……)

 

 八幡は、結衣のある特定の部位に一瞬だけ視線を走らせると、

陽乃とキリトの方を向き、事情を話し始めた。

 

「………………と、いう訳ですね」

「なるほどねぇ」

「ところでさっきの女の子は?」

「あ、あれは俺の妹の直葉だよ。八幡に紹介しようとしてたんだ」

「そういえば前に言ってたか」

「話した事はあったよな。あれがスグ……直葉だよ」

「頼む、誤解は解いておいてくれ」

「ああ、わかった」

 

 キリトは笑いながらそう答えた。八幡はそれを聞いて安心したようだ。

 

「ねえ雪乃ちゃん、事情も変わった事だし、もう話しちゃった方がいいと思うんだけど」

 

 突然陽乃がそんな事を言い出した。

 

「……そうね、その方がいいかもしれないわ」

 

 雪乃もそれに同意した。

 

「何の事だ?」

 

 キリトが不思議そうに尋ねた。その問いに答えたのは、何と八幡だった。

 

「雪乃達がALOをやってて俺達と明日合流する、つまりそういう事だろ?」

「えっ……」

「ヒッキー、知ってたの?」

「いや……まあ推測しただけだが」

「いつ気付いたのかしら?」

「ついさっきの雪乃との遣り取りだな」

「そう……私、何か迂闊な事を言ったかしら」

「そうだな、かなり迂闊だったと思うぞ」

「……説明してくれるかしら」

 

 雪乃は自覚が無かったのだろう、少し悔しそうにそう言った。

陽乃とキリトはさっきの遣り取りを聞いていなかったため、興味深そうに耳を傾けていた。

 

「昔の雪乃だったらこんな事にはならなかったと思うけどな、

なあお前、実はかなりALOをやりこんでるだろ?」

「……っ」

「そもそも戦闘に色々なスタイルがあるなんて、ゲームをやってる人間にしかわからない」

「それは……」

「パリィと言っただけで意味が理解出来るってのもそうだな。

まあこれは他の三人の誰からも質問されなかったんだけどな」

 

 結衣、小町、いろはの三人は、しまったという顔をした。

 

「やるなぁお兄ちゃん」

「先輩が何かすごい……」

「最後に、ゆいゆいの構えは素人の構えじゃなかった。

この四人の中じゃ、お前が一番戦いとかに無縁なイメージがあったからな。

そのお前が実に堂々とした構えをとった。それでまあ、決まりだなって確信したな」

「そっかぁ……だから私を選んだんだね」

「ああ。更にお前、盾までイメージしてただろ。素人のはずがない」

「う……いつもの癖で……」

「あはははは、これはみんな一本取られたね」

「そうね……さすがは銀え……」

「陽乃さん!妹さんには絶対内緒でってお願いしたじゃないですか!」

「ん~?ごめんなさ~い、記憶にございませ~ん」

「ぐっ、とぼけやがって……」

 

 雪乃はその遣り取りを聞き、少しは溜飲を下げたらしい。

 

「ふふっ、一本取り返せたかしらね」

「ああ、降参だ」

 

 八幡は両手を上げ降参のポーズをとり、場は笑いに包まれた。

ひとしきり笑って落ち着いた後、再び陽乃が音頭をとった。

 

「そういうわけで、今後の話をしましょう」


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