ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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SAO編、かなり長くなりました。
本日からALO編になります。宜しくお願いします。


第二章 ALO編
第084話 それぞれの目覚め


 アスナは開放感に包まれながら目を覚ましたのだが、

そこは予想していた通りの病室のベッド……ではなく鳥篭のような場所で、

アスナはどうやらそこに閉じ込められているようだった。

 

「えっ……何ここ……まさかまだSAOの中なの?」

 

 周囲は一面の空、空、空。そして巨大な木。

アスナの入っている鳥篭は、どうやらその巨大な木にぶら下がっているようだ。

 

「ハチマン君!キリト君!……茅場さん?」

 

 アスナは動揺していたが、せめて落ち着こうと深呼吸をした。

 

(ハチマン君がよく言っていた。どんな時でも冷静であれと。

こんな時こそ落ち着いて落ち着いて、まず周囲の観察から……)

 

 まず周囲の景色の観察を行おうと思い、アスナは鳥篭から下を覗き込んだ。

地面は遠すぎて見えないようだ。ここはかなりの高所なのだろう。

次にアスナは、自分の体を観察した。

 

(この体はアバターだね。という事は、ここは何か他のゲームの中……?

SAOでは無い……と思う。どの階層にもこんな高い場所は無いはず)

 

 アスナはこの状況から、自分はSAOから直接ここに移動させられたのだろうと推測した。

おそらく……囚人に近い形で。

 

(私が誰かに囚われたのだとしたら、私の目覚めを知って誰かがここに来るかもしれない。

今はそれを待つしかないかな……)

 

 そのアスナの考えはどうやら正しかったようだ。

鳥篭から木に通じる通路の方から、人影が走ってくるのが見えた。

その人影はかなり派手な服装をしていた。

アスナは漠然と、古代のギリシャかローマの人みたいな格好だな、と思った。

 

「報告を受けてすぐにログインして走ってきたが、まさか本当にいるとはね」

 

(ログイン……やっぱりここはゲームか何かの中なんだね)

 

「あなたは誰?ここはどこなの?」

「おやぁ?私とあなたは何度も面識があるんですが、こんな姿では分かりませんか?」

 

 アスナはそう言われ、知り合いの顔を色々と思い浮かべてみたが、該当する顔は無かった。

まあこれは、相手のアバターが正確に顔を再現しているとは限らないので仕方ないだろう。

 

「ごめんなさい記憶に無いわ。この場所もどこなのか、まったく分からない」

 

 そう言いながら振り向き周囲を眺めたアスナは、下の方に動く黒い点がある事に気付いた。

アスナは不思議そうにそれを見つめ、それにつられてその男も下を覗き込んだ。

 

「なっ、あれは……プレイヤーか?どうやってここまで飛んできたんだ。

ALOの仕様でこんなに高くまで飛べるはずがない!」

「あれは……羽根の生えた人?プレイヤー?」

「あの動きは……まさかこちらを撮影しているのか?

くそっ、下を覗き込むな、後ろに下がるんだ!」

 

 アスナはその言葉を聞き、これはこの男にとって都合が悪い事態なのだと悟り、

一心不乱にそのプレイヤーに手を振り、呼びかけた。

 

「私はここにいるよ!気付いて!」

「やめろ!」

 

 男は鳥篭の中に入ってきて、アスナを後ろに引き倒した。

アスナはそれでも抵抗し、必死にその人物に姿を見せようとした。

だがその努力も空しく、その人影は力尽きたのか、下へと舞い戻っていった。

 

「くそっ、よりによって、まさかこのタイミングでこんな事が起こるとは……」

 

 その男はウィンドウらしきものを開き、どこかに連絡をとっているようなそぶりを見せた。

 

「今から緊急メンテを行って、すぐに対策をとらないといけません。

後ほどまた話をしに来ますよ、アスナさん」

「あなた……誰?」

「まあ隠す意味も余り無いですねぇ。私はあなたのお父上の部下の、須郷ですよ」

「須郷……さん?そう、須郷さんだったのね。この事を父は知っているの?ALOって何?」

「色々疑問なのは分かりますが、ちょっと急いでいるのでね、その話はいずれまた」

 

 須郷はそう言ってすぐに消えていった。よほど慌てていたのだろう。

アスナは今の出来事について考えようと思ったが、

臨時メンテが開始されたせいか、そのまま急速に意識を失った。

 

 

 

 キリトが覚醒すると、目の前は真っ暗だった。

 

「あ、そうか」

 

 ナーヴギアをかぶっていた事を思い出し、キリトはナーヴギアをゆっくりと外した。

周囲を見渡したキリトは、やはり病院のようだと思いながら体を起こし、

これからどうしようかと考えた。

 

(立てるかな……)

 

 試しにキリトは立ってみる事にした。腕には点滴の管が繋がっていたので、

慎重に立ち上がったキリトは、少しよろけながらも、立つ事が出来た。

 

「うわ、これはきついな。かなり筋力も落ちているみたいだ」

 

 そう言いながら改めて自分の体を見たキリトは、その痩せ方に背筋が寒くなった。

 

「これは……百層まで行ってたら、やっぱりその前に死んでたかもしれないな……」

 

 キリトはそう呟き、ベッドに腰を下ろした。

 

「さて、やるべき事、やりたい事はいくつかあるが、まあまずはこれだよな」

 

 そう言いながらキリトは、ナースコールのボタンを押した。

 

 

 

 クライン、アルゴ、シリカの目覚めも同じようなものだった。

一番幸運だったのは、エギルであった。

エギルが目覚めた時、目の前にあったのは、何度も夢に見た、愛する妻の姿だった。

 

「あなた!」

 

 たまたま見舞いに来ていたエギルの妻は、ぽろぽろと泣きながら、エギルに抱きついた。

 

「ごめん……ただいま」

「お帰りなさい」

 

 二人は医師と看護婦が来るまで、もう離れないという風に、ずっと抱き合って泣いていた。

 

 

 

 覚醒したリズベットは、夢の中でずっと暗闇の中を彷徨っていた。

 

「キリト、キリトー!」

 

 いくら呼んでも当然キリトが姿を現す事は無かった。

私は確かにSAOがクリアされたのを確認したのに、一体ここはどこなんだろう。

もしかして、今まであった事は全部夢で、本当の私は実はもう死んでいるのだろうか。

そんな事を考えながらも、リズベットはそれでも諦めずにキリトの姿を求めて歩き続け、

そして再び完全に意識を失った。

 

 

 

 三浦優美子はその日も八幡の見舞いに来ていた。面会時間がまもなく終わるので、

そろそろ帰ろうかと席を立った三浦は病室の扉を開けようとしたが、

ふと背後の方から物音がしたような気がして、振り返った。

そこには、きょとんとした顔をしてこちらを見る、八幡の姿があった。

 

「あっ……」

「え、何これ。何で最初に見るのがあーしさん?もしかしてまだ夢の中なのか?」

「ヒキオ!」

 

 三浦は泣きながら、八幡の顔を胸に抱いた。

 

「あれ、なんか柔らかい……夢じゃないのか?もしかして本物のあーしさんか?」

「あーしさん言うなし」

 

 そう言いながらも、三浦は八幡を離そうとはしなかった。

八幡は困りながらも、三浦の好きにさせたまま話しかけた。

 

「ここ、病院だよな。もしかして見舞いに来てくれてたのか?」

 

 三浦はその冷静な八幡の声に少し驚き、やっと八幡を解放した。

 

(昔のヒキオだったら、こんな事されたら絶対に恥ずかしがってきょどってたはずなのに)

 

 そう考えた三浦は、八幡の顔をまじまじと見つめた。

八幡の目の腐りが、ほぼ無くなっているように見える。

 

「ヒキオさ、なんか格好良くなったね。少しやせすぎだけど」

「おい、何でいきなり俺を褒めてんだよ。ドッキリか何かなのか?あと早く質問に答えろ」

「あはは、そういうとこ変わらないね。うん、ここは病院だよ。

あーしさ、今この病院の近くの大学に通ってるから、たまにあんたの事見に来てたんだよね」

「そうなのか。長い間すまん。ありがとな、三浦」

「ううん、おかえり、ヒキオ」

「ああ」

 

 三浦は涙を拭き、八幡に笑顔を見せた。

 

「今ナースコールするから待ってて。後は……まずは陽乃さんに連絡かな」

「三浦は陽乃さんと知り合いになってたのか。という事は、ここは雪ノ下関係の病院か?」

「そうだよ。陽乃さん、ヒキオのためにすごい頑張ってたよ。会ったらお礼を言っときな」

「そうか……わかった、そうする」

「まあ、他にも色々あんたの情報を教えてくれたりもしてくれたんだけどね」

「情報?」

「後ろの壁、見てみな」

「後ろ?……うおっ」

 

 そこには引き伸ばされた、ハチマンとアスナの結婚写真が貼られていた。

 

「おい……何でこれがここにある?」

「データを抜き出してうんぬんとか言ってたかな。あーしには難しくてわからないけど」

「まじかよ……何この公開処刑」

「ちなみに全員の同意を得て飾ってるから、外しちゃだめだからね」

「全員って誰だよ……」

「雪ノ下さん、結衣、いろは、小町ちゃん、川崎さん、あーし」

「ほぼ俺の知り合い全員か……」

「ねえ、それがあんたの好きな人なんでしょ?」

「はぁ……そうだよ。これが俺の妻のアスナだよ」

 

 三浦はその返事を予想していたのか、頷きながら話を変えた。

 

「ヒキオさ、結衣や雪ノ下さんの気持ちにはなんとなく気付いてたんでしょ?」

「あいつらの気持ち、な……」

「うん」

「なんとなくそうなのかなと思ってはいたが、

あの頃の俺はそういうのからとことん逃げてたからな」

「もう逃げないの?あの二人、これを悔しそうに見てたよ。

あ、おまけでいろはとあーしもね」

「三浦も?おい、葉山はどうした」

「優美子でいいよ。隼人とは、卒業式の時ふられてそれきりかな」

「そうか……」

「まあそんなわけで、結構な回数あんたの見舞いに来てたあーしは、

先日その写真を見せられたんだけど、その時なんか、格好いいとか思っちゃったんだよね」

「それは一時の気の迷いだ。それに俺にはもうアスナが……」

「まあそう言うとは思ってたけど、

あーしは隙があったらガンガンいくから覚悟しておきな。多分残りのみんなもね」

「まじかよ……寝てる間にモテ期が到来してやがったのか。

まあ俺の気持ちが変わるとも思わないが、それでも誠実に向き合う覚悟はしておく。

色々と教えてくれてほんとありがとな……優美子」

「えっ」

 

 三浦は八幡に優美子と呼ばれた事に、かなり驚いたようだ。

 

「あんた、やっぱりすごく変わったね」

「お世話になった人に優美子と呼べって言われたらな、やっぱそうしないとな」

「まあ、いいんじゃないかな?」

 

 三浦は、満面の笑顔で八幡に微笑んだ。

そして医師と看護婦が到着し、八幡は軽い診察を受ける事になった。

 

「お医者さんも来た事だし、あーしは一度帰るね。また見舞いに来るから」

「その、目が覚めた時一人じゃなくて、なんか嬉しかったわ。またな、優美子」

「またね……八幡」

 

 三浦は手を振りながら病室から出ていった。

 

(優美子、か。普通に呼べたな。俺ももう昔とは違うって事なんだろうな)

 

 八幡は、医師の診察を受け終え、安静を言い渡されて、再びベッドに横になった。

そしてしばらくしてから、再び病室の扉が開いた。


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