ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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SAO編最終話となります。
長い間お付き合いありがとうございました。


第083話 エピローグ~ALOにて

「みんな、送った写真は見てくれたかしら」

「先輩達と一緒に、知らない二人組が写ってましたね」

「見ました見ました!大きい生き物でしたねぇ」

「釣り竿を持ってるって事は、魚なのかな?」

「そうかもしれないわね」

 

 雪乃、結衣、小町、いろはの四人は、ALO内で雑談をしていた。

ここは四人がよく集まっている、中立都市、央都アルンにある仮の拠点のような場所だった。

央都アルンは、ALOのグランドクエストの目的地である世界樹の根元に広がる街で、

積層構造を持つ巨大な街であった。

ちなみにグランドクエストは、出現する敵の攻撃のあまりの激しさに、

まだどの種族もクリアする事が出来ていない。

四人は、どの勢力にも属していない独立パーティの一つとして、そこそこ有名な存在だった。

ちなみに雪乃はユキノ、結衣はユイユイ、小町はコマチ、いろははイロハ、

という、ド直球なプレイヤーネームを使用していたのだが、

ALO開始時点で初心者だった彼女らにとっては、仕方のない事だったであろう。

ちなみにユキノにだけは二つ名が付いていて、その名を、《絶対零度》と言う。

初めて他人にそう呼ばれた時のユキノの憮然とした顔を見た三人は、

その二つ名では絶対に呼ばないように気を付けていた。

 

「ユイユイ、三浦さんはどうなっているのかしら?」

「あと二ヶ月くらいでアミュスフィア買えそうだって!今頑張ってバイトしてるみたい!」

「そう、楽しみね」

「三浦先輩本気だったんですね~」

「そうね、私も少し意外だったわ。比企谷君の事はともかく、

ログイン出来たらみんなで歓迎しましょう」

「はい!」

「ところでユイユイ経由で、シルフ領主のサクヤさんからこんな依頼を受けたのだけれども」

「まあ私もリーファ経由で相談された話なんだけどね!」

 

 ユキノが切り出したのは、二ヶ月後くらいに予定されている、

シルフとケットシーの同盟の調印式での護衛の依頼の話だった。

ユイユイはシルフだったので、ユキノへの繋ぎ役として、

友達であるリーファというプレイヤーを介してこの手の依頼の窓口となる事が多いのだった。

ちなみにユキノはウンディーネ、コマチとイロハはケットシーである。

 

「私達はケットシーですし、ユキノさんがいいなら全然おっけーです!」

「私もユキノ先輩がおっけーならおっけーでーす!」

「それじゃ、受ける方向で話を進めましょうか」

「は~い」

「ありがとう、ユキノン!」

「まあ、サクヤさんと、ケットシー領主のアリシャさんとは友好的な関係を築けているし、

よほどの事が無い限り断る理由も無いわね」

「アリシャさんは、他種族であるユキノさんとユイユイさんにも公平に接してくれてますし、

何かあったら手伝うくらいの事はしたいですしね」

「そうね、最初の頃私もあの二人にはお世話になった事だし」

 

 実はユキノは、ゲーム開始時にウンディーネを選んでしまったため、

他の三人とはかなり離れた場所からのスタートとなってしまっていた。

現実世界で連絡をとりつつ、なんとか合流しようとシルフ領に向かっていたのだが、

その途中でサラマンダーのパーティに襲われ、

そこをサクヤとアリシャに救われた事があったのだ。

二人とはそれ以来、友好的に付き合っているのだった。

 

「しかし、あの二人は兄とどんな関係なんですかね」

 

 話が一段落したところで写真の事を思い出したコマチが、そう切り出した。

 

「どうやらもう一人の男性が、レベルトップスリーのもう一人らしいわ」

「あーそういえばトップスリーとか言ってましたね。

そうするとあの女性は、その人の彼女さんか何かなんですね」

「かもしれないわね」

「まあ、元気そうな兄の姿を見れて、コマチはとっても満足です!」

「確か今七十五層だったわよね。仮に一層を五日くらいで突破するとしたら、

約四ヶ月後には比企谷君と再会出来る計算になるわね」

「……それまで兄の体は持つんですかね」

「姉さんもうちのスタッフも、全力を尽くしてくれるみたいだし、

そこは信じるしかないわね。大丈夫よコマチさん。かならず比企谷君は帰ってくるわ」

「はいっ!」

 

 ユキノはコマチの頭を優しくなでていた。

それはまるで姉妹のように見え、ユイユイとイロハも対抗心を燃やしたのか、

コマチの頭をなではじめた。

 

「わわっ、何ですかいきなり!」

「むーっ、なんか二人とも仲の良い姉妹みたいだし」

「コマチちゃん、本当のお姉ちゃんはここにいますからね~」

「はぁ……まあ結局決めるのは兄なんで、

外堀を埋めようとしても結局どうにもなりませんけどね」

「コマチちゃんがやさぐれた!」

「いえ、まあよくよく考えてみると、たまに兄の事、

このハーレム野郎って思う事も多々あるんですよね……」

「そうね……一体何人の女性が、彼の帰還を待ちわびているのかしらね」

「コマチはもう嬉しいやらとまどうやらで、誰にも肩入れするわけにもいかず、

毎日が針のムシロなのです!」

「まあ、今はとりあえず彼の無事を祈りましょう」

「はい」

 

 返事をしたコマチは、上を向きながら、こう呟いた。

 

「しかし、七十五層って、どのくらいの高さなんですかね」

「一層あたり百メートルとしても、七千五百メートルになるわね」

「それって百層まで行ったら一万メートルじゃん!空気無いじゃん!」

「成層圏まで行っちゃってますね……」

「まあ、イメージとしてはそんな感じかしら」

「……私達も、四人がかりならかなりの高さまで飛べますかね?」

「……そうだね、少しはヒッキーに近付けるかもしれないね」

「……今日は特にやる事も無いし、試しにやってみますか?」

「そうね……もしかしたらグランドクエスト無しに、

世界樹の上まで到達できる可能性も、無くは無いわね」

「とりあえず、上がどうなってるか撮影してみてもいいね!」

 

 なんとなくそんな会話をしていた四人は、本当になんとなく準備を始めていた。

そしてなんとなく郊外に移動し、なんとなく飛ぶ順番を決めていた。

下から、ユイユイ、ユキノ、イロハ、コマチの順番であった。

 

「なんとなくここまで来てしまったわね。まあ、やるからにはベストを尽くしましょう」

「そうですね、兄に少しでも近付けるかもしれないですしね!」

「小町さん、先にこれを渡しておくわ」

「これって撮影用の課金アイテムですよね。普通のスクショより解像度がいいっていう」

「そうよ、やるからにはベストを、ね」

「わっかりましたぁ!小町がバッチリいい写真を撮ってみせます!」

「案外上空に、アインクラッドが浮いていないかしらね」

「もし本当にあったらいいね!」

「まあその可能性は零なのだけれど、夢を見るのは自由よね」

「そうですね、ユキノ先輩!」

「それじゃみんな、本気でいくわよ」

「はい!」

「頑張ろー!」

「おー!」

 

 ユイユイの上にユキノ、イロハ、コマチが順番に乗っていき、

上の三人は軽く翼をはためかせ、ユイユイの補助をした。

ユイユイは全力で翼に力をこめ、力強く羽ばたき、四人は舞い上がった。

 

「ごめんユキノン、そろそろ限界っ」

「下で休んでいてちょうだい。次は私が推進力となるわ」

 

 まずユイユイが離脱し、残った三人はぐんぐんと上に上がっていった。

遠くに世界樹の枝が見える。そのまましばらく飛び、ユキノにも限界が訪れた。

 

「イロハさん、交代よ!後はお願い!」

「はいっ、先輩目掛けて飛びます!」

 

 ユキノはイロハに後を託し、そのまま地面へと滑空していった。

二人は尚も、ぐんぐんと上に向かって飛んでいった。

さきほどまでかなり遠くに見えていた枝が、近付いてきているのがはっきりと見える。

しかしそこで、イロハにも限界が訪れた。

 

「コマチちゃん、先輩目掛けて飛んで!」

「はいっ!お兄ちゃ~ん!」

 

 コマチは全力で翼をはためかせ、上へ上へと上っていった。

だが、ほどなくして限界が訪れようとしていた。ギリギリ枝には届かないようだ。

 

「だめだ、届かないか……あ、あれ?何か鳥篭のようなものが……

中に誰かいる?こっちを見てる?せめて写真を!」

 

 コマチは用意していた撮影アイテムをその鳥篭の方に向け、写真を撮りまくった。

かなりの枚数を撮る事が出来たが、ついに限界が訪れ、

コマチもそのまま下へと滑空していった。下では三人が待ち構えていた。

 

「コマチさん、首尾はどうかしら」

「すみませんユキノさん、ぎりぎり届きませんでした」

「残念~!」

「まあ、先輩のいる所に少しは近付けた気がします!」

「もしかしたら、リーファさんの助けを借りれば届くかしらね」

「今度試してみようか!」

「そうね、検討してみましょう」

「あっ、それでですね、何か鳥篭……」

 

 その時いきなりシステムメッセージが表示され、臨時メンテに入る旨が告知された。

 

「いきなり何?」

「まさか、今の私達の行動のせいかしら。それにしては動きが早い気もするけど、

思ったよりこのゲームの運営は有能なのかしら……それとも何かを恐れた……」

「まあ、リーファちゃんがいたら本当に届きそうでしたしね!」

「まあ、メンテが終わったら詳細も分かると思うし、拠点に戻ってログアウトしましょうか」

「はい!」

 

 ログアウトした小町は、一人で夕飯を食べていた。

そんな時突然、小町の携帯が着信を告げた。どうやら陽乃からのようだ。

 

「もしもし小町です。陽乃さん、どうかしましたか?」

「小町ちゃん、すぐに病院に来て!比企谷君が、比企谷君が、今目を覚ましたの!」

 

 小町はそれを聞いた瞬間、返事もせずに通話を終了し、すぐに病院へと向かった。

向かう途中に親に連絡を入れ、病院に着くと面会時間ぎりぎりだったが、

どうやら待っていてくれたのだろう、陽乃が小町に駆け寄ってきた。

小町は陽乃と共に病室へと向かい、扉を開けた。


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