「それでは今から回廊結晶を使う。諸君の健闘を期待する」
ヒースクリフの宣言と共に、ボス部屋の前に設定した回廊が口を開け、
選ばれた精鋭達が次々と移動していった。
全員の移動が確認され、討伐隊はそのままボス部屋の門をくぐり、中に入った。
情報通りボスの姿はなく、まだ扉も閉まってはいない。
「まず俺が中央まで進む。みんな、扉が閉まったら周囲を警戒だ。特に上に気を付けてくれ」
そう言うと、ハチマンは奥へと慎重に進んでいった。
ある程度進んだ所で、扉が閉まり、それと同時に、アスナが声をあげた。
「いた、上!」
それを聞いた瞬間にハチマンは入り口の方へと全力で走った。
ボスはハチマン目掛けて飛び降りたがハチマンの速度の方が勝り、
ハチマンの背後に着地する形で、ついにボスがその姿を現した。
「《ザ・スカル・リーパー》」
「ムカデはムカデでも、骨のムカデだったか」
「あの両手の鎌は攻撃力が恐ろしく高そうだ。絶対に直撃は避けてくれ!
他の足もどうやらかなり鋭い刃状になってるみたいだ。
横から攻撃する者はそれを常に頭に入れておいてくれ」
ハチマンの予測が概ね当たっていた事に、キリト、クライン、エギルは舌をまいた。
アスナだけはいつもの通り、さすがは私のハチマン君だねとぶつぶつ呟いていた。
「タンク部隊、ヒースクリフを中心に半円状に展開!
敵の攻撃力がどんなものか、正面から当たって確認してくれ!
他の者は左右から遠巻きに敵の動きをチェック!
下半身がおかしな動をするそぶりを見せたらすぐに報告!」
「了解!」
「タンク部隊、前へ!」
ヒースクリフがハチマンの言葉を受け前に出た。
そのヒースクリフに鎌が振り下ろされ、ヒースクリフはその攻撃を盾で受け止めた。
ヒースクリフは微動だにしなかったが、もう片方の鎌を受けた者は、後方に飛ばされた。
「横にスライドして開いた穴をすぐ埋めてくれ!」
そう言いながらハチマンは飛ばされたタンクの下に駆け寄り、
ポーションを飲ませながら尋ねた。
「敵の攻撃を受けた感じはどうだった?」
「めちゃめちゃ重い攻撃だった。直撃したら一瞬でHPが0になる可能性もあると思う」
「そうか……完全に回復するまで待ってから復帰してくれ」
「おう!」
ハチマンは声を張り上げ、注意を喚起した。
「あの鎌の攻撃はやばい。直撃したら即死の可能性もある!
慎重に敵の攻撃を受け止めながら、ヒット&アウェイで少しずつ削っていこう」
一撃で即死と聞いて一瞬緊張が走ったが、さすがは選ばれた精鋭達である。
誰も怖気づく者はおらず、皆やる気に満ちた表情をしていた。
「左右は大きな動きは特に無いです!側面の足は基本迎撃用だとおもわれます!」
「なるほどな。それなら片側を捨てるのもありだな」
ハチマンはその情報を元に即座に指示を飛ばした。
「ヒースクリフ、右の鎌を抑えてくれ!敵が右に向かおうとしたらけん制してくれ」
「簡単に言ってくれるね」
ヒースクリフは戦いながら、苦笑した……ように見えた。
「やばかったらすぐに言ってくれ。頼むぜ団長」
「心得た」
「左の鎌は聖竜連合のメインタンク部隊に任せる。抑えるだけでいい。
基本左に受け流す感じで、正面から攻撃を受け止めるな!」
「分かった!」
「残りのタンク部隊は敵の右側面に防御を集中させろ!左は捨てる!
アタッカーは敵が刃を振り下ろしたタイミングに合わせて一撃離脱!
決してその場に踏みとどまるな!硬直時間の短い技を確実に当てろ!」
「おう!」
次にハチマンは、ネズハに指示を出した。
「ネズハ!お前はヒースクリフの後方からとことん奴の頭を攻撃しろ!
上手くいけばスタンさせられるかもしれん」
「わかりました、ハチマンさん!」
戦況は安定していたが、ボスの鎌担当のタンク部隊は、
敵の攻撃を受け止めるだけでもかなりのダメージが蓄積されていく。
左担当のタンク部隊はまめにスイッチしてポーションを飲んでいたのだが、
ヒースクリフはさすがと言うべきか、一人で長時間敵の攻撃を防いでいた。
それだけではなく、敵が向きを変えようとする度にうまく防いでいた。
(これはキリトとのタイマンは相当やばい戦いになりそうだな。
明らかに以前と比べて腕が上がっている)
ヒースクリフのHPの減り方から逆算して、最終段階で出来るだけHPを減らすために、
一度ヒースクリフに後退指示を出す事にしたハチマンは、まずアスナを呼んだ。
「アスナ、しばらく指揮は交代だ。くれぐれも安全第一で頼むぞ」
「わかった。団長と交代するの?」
「ああ」
「くれぐれも無理はしないでね」
「まあアスナを一週間で未亡人にするわけにはいかないからな」
「もしそうなったら、私もすぐ後を追うけどね」
「これは絶対に死ねなくなったな。ヒースクリフ、交代だ!
そんなに長くはもたないから、回復し次第スイッチを頼む!」
ハチマンはそう言い、ヒースクリフとスイッチした。
今回相手にするのは敵の鎌一つであったため、
人型のモンスターを相手にするのとさほど変わらない感覚で戦う事が出来たハチマンは、
さすがにパリィを仕掛けるには敵の攻撃が重すぎたので、
とにかく敵の攻撃に重さが乗る前に的確に打撃を与え、敵の攻撃を潰しまくった。
具体的には超接近戦を挑み、とにかく鎌の付け根を狙っていた。
時々逆の鎌がハチマンを狙おうとしていたが、
シュミットがその攻撃をことごとく防いでくれた。
「シュミット、サンキュー、な」
「ハチマンには、借りが、あるからな。絶対に、俺が、守って、やるぜ」
二人は敵の攻撃を防ぎながら、断続的に会話を交わしていた。
ハチマンがタンク役になった事での副産物もあった。敵の攻撃を潰しまくっていたため、
ちょうどそのタイミングでネズハの攻撃がクリティカルヒットし、敵がスタンしたのだ。
「全員総攻撃!足の何本かを切り落としてやれ!
タンク部隊は隊列を崩さず敵の復活に備えてくれ!敵のスタンがとけたら俺が合図する!
キリトは大技を放て!エギルとクラインは、キリトが硬直したら後方に運び出せ!」
ちょうどヒースクリフが回復を終えて前に出てきたので、
ハチマンはスイッチし、右側面に回った。
ヒースクリフは早速右の鎌の隣の足を斬り飛ばしていた。
キリトとハチマンも数本の足を切り落としたが、さすがに他の者には難しいようだった。
アスナは攻撃力は申し分はないが、レイピア使いのため、切断には向いていない。
ボスの頭のスタンマークが消えた瞬間ハチマンが指示を出した。
「隊列を元に戻せ!」
その言葉に、そろそろスタンがとけるだろうと備えていたのであろう、
一同は即座に対応し、素早く元の陣形に戻った。皆集中出来ているようだ。
足の数が減った分味方の攻撃回数が増えたためか、ボスのHPは順調に減っていった。
特にキリトとアスナの活躍は凄まじかった。
キリトは硬直の短い多段技を短いスパンで放ちまくり、
アスナは元々ヒット&アウェイが得意なため、こちらもかなりの回数攻撃を叩きこんでいた。
そしてまもなくボスが発狂するというところまで削った時、再びハチマンから指示が飛んだ。
「左タンク部隊は俺と交代だ。一応シュミットだけは残って俺の左側を守ってくれ!
残りの者は右側面に展開してくれ!リンド、統率を頼む」
「了解!」
「ヒースクリフ、ネズハの攻撃に合わせて少し強めにパリィを狙ってくれ!
こっちもタイミングを合わせて敵を仰け反らせる」
「これまた簡単に言ってくれるね」
「やれるだろ?」
「まあ努力しよう」
「回復させてやれなくて悪いが、最後だと思って踏ん張ってくれ」
「ああ」
そしてハチマンは、全員に聞こえるように叫んだ。
「いいかみんな、こいつが発狂モードになる前に、スタンさせて一気に削りきる!
ボスの頭にスタンマークがついた瞬間タンク陣も全力で攻撃だ!」
「おお!」
「ネズハ、行け!」
「はいっ!」
ネズハは全力で攻撃し、着弾の寸前にヒースクリフが盾でソードスキルを放った。
同時にハチマンも渾身の力を込めて鎌の攻撃を潰し、今度はそこで攻撃の手を止めず、
そのまま前に出てアハトファウストで鎌に追撃をかけた。
ボスはバンザイをする格好となり、完全に無防備状態に陥った。
その瞬間ネズハの攻撃が着弾し、ボスはハチマンの目論見通りスタン状態となった。
「いけえええええええええええええ!」
「おおおおおおおおおおおお!」
色とりどりのソードスキルの光が辺り一面を覆い、
ボスのHPが見る見るうちに減っていった。
そしてスタンから回復する事も無いまま、ボスは光に包まれ、爆散した。
《CONGRATULATIONS!》の文字が現れ、攻略組は三度目にして始めて、
クォーターポイントのボスを犠牲者無しで攻略する事に成功した。