ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2017/10/29 修正


第005話 アスナさんはあざとい?

 ハチマンは正座をしながら、何故こうなったのかと、必死に考え続けていた。

 

(いくらなんでも女の子と二人きりとか、俺にはハードルが高すぎだろ……つかどうしてこうなった)

 

「ハチマン君」

「あっ、ハイ」

 

 びくびくしているハチマンを見て、アスナは苦笑しつつも続けて言った。

 

「あの混乱から助けてくれて、本当に感謝しているけど、

女の子をいきなり宿に連れ込むのはどうかと思うよ?」

「そ、そうですね、反省してます……」

「でも安全なのは確かみたいだし、あの状況じゃ仕方なかったのもわかる。

色々教えてもらったしたくさん励ましてももらったし、だから…」

 

 そしてアスナは、何かを思い出しつつドヤ顔でこう言った。

 

「これでチャラにしましょう」

「あざとい……」

 

 ハチマンは、つい反射で、慣れ親しんだ返しをしてしまい、やばい、と思いながら固まった。

そんなハチマンにアスナは、頬を膨らませてこう言った。

 

「私、別にあざとくなんかないですし~」

「ぷっ」

 

 二人はお互い顔を見合わせ、どちらからともなく笑いだした。

しばらく笑い続けた後、ハチマンは立ち上がりながらこう切り出した。

 

「とりあえず交代で風呂に入ろうぜ。

部屋の扉は、パーティメンバーしか開けられないように変更しとくわ」

「うん、その後色々相談するとして、気分が落ち込む事も沢山出てくるだろうけど、

色々ありすぎたし、とりあえずは落ち着きたいよね」

「それじゃお先にどうぞ」

「うん、お先にいただきます」

 

 そう言って、風呂場に向かいかけたアスナだったが、何かを思い出したように振り返った。

 

「覗いたらどうなるかは、わかってるよね?」

「俺にそんな度胸は無いから」

「それならよろしい」

 

 そしてアスナは、今度こそ風呂場に入って行き、

一人になったハチマンは、やっと落ち着く事が出来た。

考える事はたくさんあった。茅場の事、デスゲームの事、そしてアスナの事。

そして、もう会えないかもしれない人達の事。

 

(とりあえず、俺はクリアを目指すとして、今の問題はアスナだ。アスナには確かに素質がある。

だが、自分の命がかかっているこの状況だと、

安全マージンを取りつつ、中堅プレイヤーとして、自分の命を守っていくのが得策だろう。

まずは一層を突破して、体術スキルを取らせるところからだな。あれは全体の底上げになる)

 

 その時だった。

 

「ふああああああああああああああああああああああ」

 

 風呂場から、突然大きな声が響き、ハチマンは、一瞬硬直した。

 

(びっくりした……まあリラックスは出来てるようだし、とりあえずは何よりだ)

 

 少しほっこりしつつ、バイト時代に茅場に説明された事を、色々と思い出しながら、

更にハチマンが考え込んでいると、突然「コンコンココーン」とドアがノックされた。

ハチマンはドアの前にいき、ノックの主に声をかけた。

 

「アルゴか?」

「なあハー坊、なんだいあのメッセージは。わかりにくいぞ?あとセクハラだな。訴えるゾ」

「いやいや、お前、しっかりここに来てるじゃねーかよ……あと本当にすみませんでした」

「まあそこはそれ、蛇の道は蛇ってやつだよ。まあ監獄入りは勘弁してやるよ。

とりあえず、中に入ってもいいカ?」

「ああ、今ドアを開ける」

 

 ドアを開けると、そこにはしっかりと顔にペイントをした、アルゴが立っていた。

アルゴをソファーへ案内すると、ハチマンは一番気になっていた事を聞いた。

 

「なあ、そのペイントどうやってやったんだよ……あれの直後にはもう塗ってたよな?」

「デリカシーが無いなぁハー坊。女の秘密ってやつだヨ」

「まじか、女の秘密すげえな」

 

 感心するハチマンに、アルゴは逆に聞き返した。

 

「ところで女の秘密って言えば、細剣使いの女の子はどうしたんダ?」

「え、あ、いや、女の子って何の事だ?」

「はぁ?だってさっき、女の子を連れて、すごい勢いで走ってたじゃないカ」

「いや、だから、なんで女の子だって」

「情報屋だからな、見ただけで性別くらいはわかるゾ?」

 

(まずいな、とりあえず誤解されないように、ちゃんと説明しないと)

 

「あ、あ~アレはアレだ……」

 

 ハチマンは焦ってちらりと風呂場の方を見た。

それを見逃さずに、アルゴは目をきゅぴっと光らせ、風呂場の方に突撃し、

ハチマンが止める間もなく、いきなりドアを開けた。

 

「こんばんわ~細剣使いさ………あ」

 

 ハチマンが焦って顔を上げると、固まるアルゴの向こうに、アスナがいるのが見えた。

幸い全裸ではなかったが、アスナの見えてはいけない所が、

ハチマンには色々と見えてしまった。

 

「きゃああああああああああああああああああああああ」

 

 アスナの大声が響き、アルゴはあわててドアを閉めた。そんなアルゴに、ハチマンは言った。

 

「なぁ……アルゴ」

「なんだいハー坊」

「あ、ありがとう?」

「………ハー坊」

 

 数分後、顔を赤くしたアスナが風呂場から出てきた。ハチマンとアルゴは、

アスナに言われるまでもなく、すぐにその場に正座をした。

 

「まずハチマン君」

「あっ、ハイ」

 

(このやり取り何度目だよ……やっぱりごみいちゃんはごみいちゃんなのか小町……)

 

「何か見た?」

「あ、ありがとう?」

 

 それを聞いた瞬間、アスナは頬を赤らめながらも、すごい目つきでハチマンを睨んだ。

 

「すみませんでした……」

「さっき見た物は、全部忘れる事、いい?」

「はい………」

 

 それからアスナは、しばらく目をつぶって、何事か考えこんでいた。

そしておもむろに、アルゴの方を向いて、自己紹介をはじめた。

 

「始めまして、私はアスナです」

「オレっちは情報屋のアルゴ。以後よろしくね、アーちゃん」

 

 アスナはそう呼ばれ、きょとんとしてアルゴに聞き返した。

 

「アー、ちゃん?」

「アスナだからアーちゃんだな。ちなみにハチマンはハー坊だぞ」

「そ、そうですか、で、何故ここに?」

「あ、ここに逃げてくる途中に、俺が連絡しといたんだよ。情報も欲しかったしな」

「なるほどね」

 

 ハチマンのその答えに、アスナは納得したように頷いた。

 

「で、外は今どうなってるんだ?」

「その情報は百コルだけど、今日のところはサービスしとくよ。

で、今の状況だけどはっきり言ってまずいな。

外は大混乱で、死人も沢山出てる。オレッチの予想だと、

後一週間くらいは、こんな感じで混乱したままだろうナ」

 

 死人が出ていると聞き、ハチマンは、鎮痛な表情で呟いた。

 

「やっぱりそうだよな……でもなんで晶彦さんはこんな事を……」

「晶彦さん?茅場晶彦?ハー坊茅場晶彦の知り合いなのカ?」

 

 アルゴはその言葉を聞き逃さなかった。

ハチマンは内心しまったと思ったが、平静を装い、そのまま言葉を続けた。

 

「ああ、前に言っただろ、β前にバイトしてたって。

その時知り合って、それなりに親しくさせてもらってたんだよ。

けどまさかこんな事を考えていたとはな……だがまあ思い当たる事もあるが」

「思い当たる事?」

「ああ、晶彦さんも俺と一緒で、本物ってのを求めていた。

そしてこのゲームで、本物を手に入れたいみたいな会話をした事があるんだよ」

 

 それを聞いていたアスナがいきなり立ち上がって言った。

 

「そんなの、そんなの全然わからないよ!

本物って何?そんな物のために、私たちはこんな目にあってるの?」

「落ち着け。そういう会話があったってだけだ。俺も詳しく理解しているわけじゃない」

 

 アスナは納得していないようだったが、とりあえずその場に座りなおした。

 

「まあこうなっちまったもんは仕方ないさ。で、二人はこれからどうすル?」

「俺はクリアを目指す。まあ自分の命が大事だから、無理はしない」

 

 アルゴはそれを聞き、目を細めながら、ハチマンに言った。

 

「本当か?さっきアーちゃんの手を引っ張って走ってたハー坊は、

とてもそんな風には見えなかったけどナ」

「ぐっ、それはだな……男だと思ってたし、成り行きとはいえ、

他人の世話はきちんと最後までしろって妹に教育されてるんだよ」

「いい妹さんだナ」

「ああ、妹の小町は世界一いい子でかわいいぞ」

「シスコン!?」

 

 それまで黙っていたアスナがいきなり突っ込んだ。

 

「ばっ、当たり前だろ、千葉の兄妹なんだからな」

「千葉って……そうなの?」

「まあまあ話を戻そうぜ。で、アーちゃんはどうするつもりダ?」

「私は……もうちょっと考えたい」

「そうだな、ニュービーのアーちゃんには、ちょっと展開が急すぎたから仕方ないよナ」

 

 ハチマンはその意見に頷き、アスナを安心させるように言った。

 

「とりあえずどうなるにしても、俺がしっかりサポートするから心配すんな。

うちの部活の理念でもあるからな」

「部活って、何の部活?」

「奉仕部だ」

「奉仕部って、エロいやつカ?」

「まったく違う。これは部長の受け売りだが、うちの理念はな、

飢えた人間に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えるっていう感じだな」

 

 二人はそれを聞いて、納得したようだった。

 

「なるほどな、思ったよりまじめな、いい部活なんだナ」

「うん、すごいと思う」

「お、おう…ありがとう。なんか嬉しいわ」

 

 今までやってきた事は間違いではないのだと、ハチマンは、頬が熱くなるのを感じた。

 

「それじゃ、情報交換を密にしてくって事で、とりあえず解散だな」

「それじゃオレっちは帰るけど、

ハー坊はオネーサンの見てないところでアーちゃんを襲うんじゃねえゾ」

「いや、ハラスメントコードがあるだろ。

俺なんか基本ぼっちだから、見てるだけで監獄に送られるまであるぞ……

っていうか、お前は女なんだし、ここにいればいいんじゃないか?外は危ないんだろ?」

「今のハー坊は、まったくぼっちじゃないと思うけどな。後、オレっちはもう、

宿は確保してあるから問題ないぞ。それじゃあナ」

「そうか、それじゃあまたな」

「またね、アルゴさん」

 

 三人はお互いにあいさつを交わし、その場はお開きとなった。

アスナとアルゴはフレンド登録をしたようだ。

 

「ハチマン君、私たちもフレンド登録しておきましょ。今後何かと便利だろうし」

 

 ハチマンは、フレンドという言葉に、内心激しく動揺していたが、

これは必要な事だ、ただの儀式みたいなもんだと自分に言い聞かせて、

深呼吸をした後、登録を承諾した。

 

「これからよろしくな、アスナさん」

「うんよろしくね、ハチマン君」

 

 改めて挨拶を交わした後、ハチマンは唐突に、こんな事を言い出した。

 

「それじゃアスナさん、俺もどっか宿探すから、明日また連絡するわ」

「え?ここでいいんじゃない?」

 

 ハチマンはその提案に、常識的な返事をした。

 

「え、それはちょっとまずいだろ」

「む~、何か変な事考えてる?ハラスメントコードがあるんだから実害はないんでしょ?」

「それはそうだが、やっぱり年頃の男女が一緒ってのはな……」

「衝立でも立てればいいんじゃないかな?

ちょっと恥ずかしいけど、間違いの起こりようもないんだし、

そもそも追い出すみたいで何か悪いよ。それに、今の外は危険すぎる」

 

 ハチマンは、少し悩んだが、アスナの言う事も一理あると思い、

その言葉に大人しく従う事にしたようだ。

 

「そうか……じゃあお言葉に甘えるわ。俺はソファーで寝るから、アスナさんはベッドな」

「ありがとう。あとさ、アルゴさんは呼び捨てなんだから、私もアスナでいいよ?」

「いやお前も君づけだろう?」

「男の子と女の子は違うの!」

「はぁーわかった、それじゃ、ア、アスナ」

「うんっ、ハチマン君!」

「それじゃ俺も風呂入っちゃうから、先に寝てていいぞ」

「わかった。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 

 その後風呂に入りながら、今日の出来事を振り返っていたハチマンは、

あまりにも自分らしくない行動に、悶絶するのだった。


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