ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第053話 新たな力

 その頃食事に行った三人は、当然のようにハチマンの話題で盛り上がっていた。

 

「キリトとエギルは、ハチマンとは一層からの付き合いなんだよな?」

「ああ、まあそうだな」

「どんな出会いだったんだ?」

「俺は最初は、面白い奴がいるなって程度だったな。最初から親しかったわけじゃないな」

「俺は、一層の攻略会議でハチマンとアスナにパーティに誘われてからの付き合いだな」

「まじかよ、あの二人最初から一緒だったのかよ。リアルで知り合いなのか?」

「いや、聞いた話だと違うらしいぞ」

 

 キリトは、差し触りの無い程度にクラインに説明をした。

 

「かーっ、ハチマンいい奴だな!見ず知らずの男の子を保護するために走り出すとかよぉ!

そしてそれが実は女の子だったなんて、思いっきりドラマみたいじゃねーか」

 

 エギルもそれに同意した。

 

「俺もその話を聞いた時、こいつ格好いいなって思ったな」

「ああ、なんかいい話だよな」

「で、それからキリトもずっとハチマンとつるんでるわけだろ?何か理由でもあったのか?」

 

 その問いに、キリトは少し考えつつ答えた。

 

「なんか、ハチマンといると楽だったんだよな……」

「楽って、戦闘がか?」

「それもあるけど、何ていうか、人の心に無闇に踏み込んでこないっていうか、

俺が俺のままでいられるって感じだな。自然体で付き合えるっていうか」

「ソロ嗜好同士ってのもあるかもしれないな」

「ああ、まあ、それはあるかもな」

「でもそれだけでずっとつるめるもんか?」

「うーん、何か楽しいんだよな。色々理由は付けられるけど、それが一番だな。

戦闘面でも、全力で戦っても安心して背中を任せられるし、まあ、そんな感じだな」

「確かに二人が揃うと、無敵な感じがあるよな。意思疎通もスムーズだしな。

アスナさんと三人だと、ヒースクリフすら瞬殺出来そうだ」

 

 エギルが重々しくそう言うと、それを受けてクラインが付け加えた。

 

「戦闘と言えばよぉ、ハチマンは人相手にはめちゃめちゃ強ええよな!」

「あれでも全力じゃないらしいぞ。何かが足りないって言ってたな」

 

 クラインはそれを聞き、呆然と呟いた。

 

「まじかよ……キリトとは別の意味での化け物だな」

「おいクライン、さらっと人を化け物扱いするな」

「今のハチマンぽいな!キリトも影響受けてんじゃねーか?さっきのアスナさんみたいに」

「まじか……否定出来ない……」

「でもそうなんだよな。影響を受けるくらいアスナさんはずっと傍にいるんだよなぁ」

 

 それを聞き、キリトはちょっとずれた答えを返した。

 

「確かにそうだな。アスナの戦闘スタイルも、

かなりハチマンに合わせたものになってるかもしれない」

「そういう意味じゃなくてよぉ」

「どういう意味だよ」

 

 きょとんとするキリトに、クラインはにやにやしながら言った。

 

「もちろん男女の仲的な奴に決まってんじゃねーかよ。

ああー俺も早くアスナさんみたいな素敵な女性に巡り会いたいぜ!

さっきアスナさんが、ハチマンの服をちょこんと摘んでいるのを見た時は、

目茶目茶ヤキモチを焼いちまったぜ!」

「ああ、あれな……たまにやってるんだよな。本人は自覚が無いみたいだが」

「まじかよ、あれ無自覚なのかよ!でもいいよなぁアスナさん。エギルもそう思うだろ?」

「ん、ああ、俺は現実ではもう結婚してるからな」

 

 その言葉に、キリトとクラインは驚いた。

 

「まじかよ!この裏切り者!」

「クラインうるさいぞ。そうか、エギルは結婚してるのか」

「ああ。だからまあ、巡り会いたいとかは無いんだが」

 

 エギルはそうは言ったものの、話には加わりたかったらしい。

 

「しかしあの二人はあんなにお似合いなのに、なんであの二人の間から、

恋愛関係の話がまったく伝わってこないのか、アインクラッド一番の謎だな」

 

 エギルのその言葉に、キリトは少し考えた後、

 

「ハチマンは、妙に自分を低く見るところがあるから、

アスナに好かれてるって何となくは思ってても、

これは自分の妄想だって片付けちゃうんじゃないか?」

 

 と答えた。

 

「あー……」

「確かに……」

 

 二人はその言葉に、かなり納得した。

 

「アスナもアスナで、ハチマンのそういうとこや、繊細な性格を理解してるだろうし、

よほど大きな事でもないと、これ以上進展はしないんじゃないか?」

「まじかよーこのままじゃハチマンの奴、誰かにアスナさんを取られちまうんじゃないか?」

「いやいや無い無い」

「ああ、無いな」

「まあ、無いよな」

 

 クラインも本気で言ってたわけではないようで、一緒に頷いていた。

 

「まあ今のままでも十分お似合いだから別にいいんだけどよぉ。

あの二人には、本当の意味で幸せになって欲しいじゃねえかよ」

「ああ」

「本当にそうだな」

「それじゃ、俺達の大好きなあの二人に改めて乾杯といこうぜ!」

「おう!」

「乾杯!」

 

 その後も二人の話題でひとしきり盛り上がった後、その日は解散する事になった。

昼間の出来事についての話は、まったく出なかった。

誰もが思い出したくはない類の出来事であり、

暗黙の了解で、今後もその話が普段の会話で出る事は無いのだろう。

 

「それじゃ二人とも、またな」

「おう、またな」

「またなー!」

 

 

 

 キリトは適当に宿をとり、先ほどの会話について、考えていた。

もっとも、戦闘面の事というのがキリトらしいのだったが。

 

「化け物か……俺があそこから更に強くなったハチマンを相手にするには、

やっぱりスキル構成から考えないとだめか……」

 

 そう言って、スキル画面を呼び出したキリトは、そこに見慣れないスキル名を見つけた。

 

「なんだこれ……いつから覚えてたんだ?」

 

 そのスキルの説明を見たキリトは、しばらく何事か考えていたが、

しばらくしてからハチマンにメッセージを送った。

 

 

 

 次の日ハチマンは、キリトの訪問を受けていた。

 

「よう、昨日は悪かったな」

「もう平気なのか?」

「ああ。ちょっと自分を見失ってたみたいでな、アスナに助けてもらったわ」

「そうか、さすがはハチマン番のアスナだな」

「なんだよハチマン番って……」

「で、今日は相談があって来たんだよ」

「わざわざここに来るって事は、人に聞かれたくない話か」

「ああ」

 

 二人はソファーに腰掛け、キリトはハチマンに、昨日見つけたスキルの事を話し始めた。

 

「二刀流?」

「ああ」

「ゲームじゃよくあるスキル名だが、SAOでは聞いた事が無いな」

「取得条件が書いてないんだよ、これ」

「まじか、ユニークスキルかよ」

「多分そうだな……」

 

 ハチマンはその言葉を受けて、しばらく考え込んでいた。

 

「ハチマン、どうすればいいと思う?」

「まあ、今のところは絶対に他人に知られないようにしないとだな」

「やっぱそうだよな……」

「ヒースクリフのように、ギルドの後ろ盾がある奴ならまだしも、俺達はソロだからな。

余計ないざこざを防ぐためにも、その方がいい」

「でも訓練は必要だよな?」

「ああ。うちの庭で練習すればいい。誰にも見られる事は無いしな」

「じゃあ、しばらく庭を借りる事にするよ」

「ソードスキルはあるのか?」

「ああ」

「それじゃ、ソードスキルをマスターするのが優先だな。

慣れたらどこかでこっそり実戦だ。出来ればインスタンスエリアが望ましいな」

「なるほど、それなら誰にも見られないな」

 

 キリトは、何か適当なクエストはあっただろうかと考え始めた。

 

「でも、それだけじゃ駄目だな」

「他に何かあるのか?」

「ああ。そのスキルを生かすには、もう一本エリュシデータ並の武器が必要になる。

そうじゃないと、バランスが悪すぎる」

「そうか……しかしこれくらいの武器ってなるとな……」

「プレイヤーメイドで作ってみてもいいんじゃないか?リズに頼んでみろよ」

「リズ?誰だそれ?」

 

 その答えに、ハチマンは少し戸惑った。

 

(あれ、そういやキリトとリズって面識無かったか?

そういえば一緒にいる所を見た事がないな……

今の返事だと、名前すら聞いた事が無いみたいだが、会話に出た事も無かったのか。

これは思わぬ盲点だったな。まあ面白そうだから、このまま黙っておこう)

 

 ハチマンはそう考え、悪そうな表情が出ないように気を付けながら、キリトに言った。

 

「すまん。リズってのは、鍛冶屋の名前だ。アスナのランベントライトを作った奴だ」

 

 アスナの武器は、今はランベントライトという、

リズベットの作った高性能の剣だった。

 

「まじかよ、あれはかなりすごい武器だぞ」

「だから腕の方は信頼出来るぞ。そういや最近、最高傑作が出来たとか言ってた気がする。

店の場所を教えてやるから、行ってみたらどうだ?」

「ありがとな。それじゃ明日にでも早速行ってみるよ」

「ああ、場所は四十八層の……」

 

 キリトが帰るとハチマンは、リズベットの店へ向かった。

 

「あれハチマン、久しぶりじゃない」

「おう、ちょっと武器のメンテを頼むわ」

「わかったー仕事が立て込んでるから、ちょっと待っててね」

 

 どうやら仕事も順調のようで、ハチマンは安心した。

 

「繁盛してるみたいだな」

「ハチマンとアスナのお陰でね」

「俺達なんて宣伝くらいしかしてねえよ。リズの腕のおかげだろ。もっと誇っていいぞ」

「うん、ありがとう!」

「そういや最近、武器の素材に関する新たなクエストが見つかったらしいな」

「そうなんだ?どんなクエスト?」

「五十五層の雪原エリアがあるだろ。あそこの山の上に、白竜ってのがいるらしいんだが、

そいつが、クリスタライトインゴットってのを持ってるらしい」

 

 リズベットは、その名前には聞き覚えがあったようだ。

 

「それ、かなり高位のインゴットだね。でも流通したって話は聞かないなぁ」

「ああ。確かにそこに存在するって情報ははっきり示されてるのに、

まだ誰も入手出来た事が無いんだと。もしかしたら他に条件があるのかもしれないな。

マスタークラスの鍛冶屋が一緒じゃないと駄目だとかな」

「なるほどね。でも五十五層かぁ。今の最前線は六十三層だっけ?」

「ああ」

「それくらいなら、ハチマンでもその白竜っての、ソロで倒せる?」

「特に問題はないな」

「なるほど、それくらいの強さなんだ。今度取りにいってみる?」

「そうだな、今度行ってみるか」

 

 そうやってしばらく雑談をしていたが、武器のメンテが終わったので、

ハチマンは店を辞した。

リズベットは、たった今聞いた情報について考えていた。

それがハチマンの計画通りだとは、当然気付いていなかった。

 

 

 

 そして次の日。

 

「ごめん下さ~い」

 

 と、店の方からのんびりとした声が聞こえた。どうやら来客のようだ。

リズベットは、今日も頑張ろうと思い、張り切って店に顔を出した。

 

「いらっしゃいませ!今日はどんな武器をお求めですか?」

「オーダーメイドで、予算は気にしなくていいので、今出来る最高の武器をお願いします」


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