その頃食事に行った三人は、当然のようにハチマンの話題で盛り上がっていた。
「キリトとエギルは、ハチマンとは一層からの付き合いなんだよな?」
「ああ、まあそうだな」
「どんな出会いだったんだ?」
「俺は最初は、面白い奴がいるなって程度だったな。最初から親しかったわけじゃないな」
「俺は、一層の攻略会議でハチマンとアスナにパーティに誘われてからの付き合いだな」
「まじかよ、あの二人最初から一緒だったのかよ。リアルで知り合いなのか?」
「いや、聞いた話だと違うらしいぞ」
キリトは、差し触りの無い程度にクラインに説明をした。
「かーっ、ハチマンいい奴だな!見ず知らずの男の子を保護するために走り出すとかよぉ!
そしてそれが実は女の子だったなんて、思いっきりドラマみたいじゃねーか」
エギルもそれに同意した。
「俺もその話を聞いた時、こいつ格好いいなって思ったな」
「ああ、なんかいい話だよな」
「で、それからキリトもずっとハチマンとつるんでるわけだろ?何か理由でもあったのか?」
その問いに、キリトは少し考えつつ答えた。
「なんか、ハチマンといると楽だったんだよな……」
「楽って、戦闘がか?」
「それもあるけど、何ていうか、人の心に無闇に踏み込んでこないっていうか、
俺が俺のままでいられるって感じだな。自然体で付き合えるっていうか」
「ソロ嗜好同士ってのもあるかもしれないな」
「ああ、まあ、それはあるかもな」
「でもそれだけでずっとつるめるもんか?」
「うーん、何か楽しいんだよな。色々理由は付けられるけど、それが一番だな。
戦闘面でも、全力で戦っても安心して背中を任せられるし、まあ、そんな感じだな」
「確かに二人が揃うと、無敵な感じがあるよな。意思疎通もスムーズだしな。
アスナさんと三人だと、ヒースクリフすら瞬殺出来そうだ」
エギルが重々しくそう言うと、それを受けてクラインが付け加えた。
「戦闘と言えばよぉ、ハチマンは人相手にはめちゃめちゃ強ええよな!」
「あれでも全力じゃないらしいぞ。何かが足りないって言ってたな」
クラインはそれを聞き、呆然と呟いた。
「まじかよ……キリトとは別の意味での化け物だな」
「おいクライン、さらっと人を化け物扱いするな」
「今のハチマンぽいな!キリトも影響受けてんじゃねーか?さっきのアスナさんみたいに」
「まじか……否定出来ない……」
「でもそうなんだよな。影響を受けるくらいアスナさんはずっと傍にいるんだよなぁ」
それを聞き、キリトはちょっとずれた答えを返した。
「確かにそうだな。アスナの戦闘スタイルも、
かなりハチマンに合わせたものになってるかもしれない」
「そういう意味じゃなくてよぉ」
「どういう意味だよ」
きょとんとするキリトに、クラインはにやにやしながら言った。
「もちろん男女の仲的な奴に決まってんじゃねーかよ。
ああー俺も早くアスナさんみたいな素敵な女性に巡り会いたいぜ!
さっきアスナさんが、ハチマンの服をちょこんと摘んでいるのを見た時は、
目茶目茶ヤキモチを焼いちまったぜ!」
「ああ、あれな……たまにやってるんだよな。本人は自覚が無いみたいだが」
「まじかよ、あれ無自覚なのかよ!でもいいよなぁアスナさん。エギルもそう思うだろ?」
「ん、ああ、俺は現実ではもう結婚してるからな」
その言葉に、キリトとクラインは驚いた。
「まじかよ!この裏切り者!」
「クラインうるさいぞ。そうか、エギルは結婚してるのか」
「ああ。だからまあ、巡り会いたいとかは無いんだが」
エギルはそうは言ったものの、話には加わりたかったらしい。
「しかしあの二人はあんなにお似合いなのに、なんであの二人の間から、
恋愛関係の話がまったく伝わってこないのか、アインクラッド一番の謎だな」
エギルのその言葉に、キリトは少し考えた後、
「ハチマンは、妙に自分を低く見るところがあるから、
アスナに好かれてるって何となくは思ってても、
これは自分の妄想だって片付けちゃうんじゃないか?」
と答えた。
「あー……」
「確かに……」
二人はその言葉に、かなり納得した。
「アスナもアスナで、ハチマンのそういうとこや、繊細な性格を理解してるだろうし、
よほど大きな事でもないと、これ以上進展はしないんじゃないか?」
「まじかよーこのままじゃハチマンの奴、誰かにアスナさんを取られちまうんじゃないか?」
「いやいや無い無い」
「ああ、無いな」
「まあ、無いよな」
クラインも本気で言ってたわけではないようで、一緒に頷いていた。
「まあ今のままでも十分お似合いだから別にいいんだけどよぉ。
あの二人には、本当の意味で幸せになって欲しいじゃねえかよ」
「ああ」
「本当にそうだな」
「それじゃ、俺達の大好きなあの二人に改めて乾杯といこうぜ!」
「おう!」
「乾杯!」
その後も二人の話題でひとしきり盛り上がった後、その日は解散する事になった。
昼間の出来事についての話は、まったく出なかった。
誰もが思い出したくはない類の出来事であり、
暗黙の了解で、今後もその話が普段の会話で出る事は無いのだろう。
「それじゃ二人とも、またな」
「おう、またな」
「またなー!」
キリトは適当に宿をとり、先ほどの会話について、考えていた。
もっとも、戦闘面の事というのがキリトらしいのだったが。
「化け物か……俺があそこから更に強くなったハチマンを相手にするには、
やっぱりスキル構成から考えないとだめか……」
そう言って、スキル画面を呼び出したキリトは、そこに見慣れないスキル名を見つけた。
「なんだこれ……いつから覚えてたんだ?」
そのスキルの説明を見たキリトは、しばらく何事か考えていたが、
しばらくしてからハチマンにメッセージを送った。
次の日ハチマンは、キリトの訪問を受けていた。
「よう、昨日は悪かったな」
「もう平気なのか?」
「ああ。ちょっと自分を見失ってたみたいでな、アスナに助けてもらったわ」
「そうか、さすがはハチマン番のアスナだな」
「なんだよハチマン番って……」
「で、今日は相談があって来たんだよ」
「わざわざここに来るって事は、人に聞かれたくない話か」
「ああ」
二人はソファーに腰掛け、キリトはハチマンに、昨日見つけたスキルの事を話し始めた。
「二刀流?」
「ああ」
「ゲームじゃよくあるスキル名だが、SAOでは聞いた事が無いな」
「取得条件が書いてないんだよ、これ」
「まじか、ユニークスキルかよ」
「多分そうだな……」
ハチマンはその言葉を受けて、しばらく考え込んでいた。
「ハチマン、どうすればいいと思う?」
「まあ、今のところは絶対に他人に知られないようにしないとだな」
「やっぱそうだよな……」
「ヒースクリフのように、ギルドの後ろ盾がある奴ならまだしも、俺達はソロだからな。
余計ないざこざを防ぐためにも、その方がいい」
「でも訓練は必要だよな?」
「ああ。うちの庭で練習すればいい。誰にも見られる事は無いしな」
「じゃあ、しばらく庭を借りる事にするよ」
「ソードスキルはあるのか?」
「ああ」
「それじゃ、ソードスキルをマスターするのが優先だな。
慣れたらどこかでこっそり実戦だ。出来ればインスタンスエリアが望ましいな」
「なるほど、それなら誰にも見られないな」
キリトは、何か適当なクエストはあっただろうかと考え始めた。
「でも、それだけじゃ駄目だな」
「他に何かあるのか?」
「ああ。そのスキルを生かすには、もう一本エリュシデータ並の武器が必要になる。
そうじゃないと、バランスが悪すぎる」
「そうか……しかしこれくらいの武器ってなるとな……」
「プレイヤーメイドで作ってみてもいいんじゃないか?リズに頼んでみろよ」
「リズ?誰だそれ?」
その答えに、ハチマンは少し戸惑った。
(あれ、そういやキリトとリズって面識無かったか?
そういえば一緒にいる所を見た事がないな……
今の返事だと、名前すら聞いた事が無いみたいだが、会話に出た事も無かったのか。
これは思わぬ盲点だったな。まあ面白そうだから、このまま黙っておこう)
ハチマンはそう考え、悪そうな表情が出ないように気を付けながら、キリトに言った。
「すまん。リズってのは、鍛冶屋の名前だ。アスナのランベントライトを作った奴だ」
アスナの武器は、今はランベントライトという、
リズベットの作った高性能の剣だった。
「まじかよ、あれはかなりすごい武器だぞ」
「だから腕の方は信頼出来るぞ。そういや最近、最高傑作が出来たとか言ってた気がする。
店の場所を教えてやるから、行ってみたらどうだ?」
「ありがとな。それじゃ明日にでも早速行ってみるよ」
「ああ、場所は四十八層の……」
キリトが帰るとハチマンは、リズベットの店へ向かった。
「あれハチマン、久しぶりじゃない」
「おう、ちょっと武器のメンテを頼むわ」
「わかったー仕事が立て込んでるから、ちょっと待っててね」
どうやら仕事も順調のようで、ハチマンは安心した。
「繁盛してるみたいだな」
「ハチマンとアスナのお陰でね」
「俺達なんて宣伝くらいしかしてねえよ。リズの腕のおかげだろ。もっと誇っていいぞ」
「うん、ありがとう!」
「そういや最近、武器の素材に関する新たなクエストが見つかったらしいな」
「そうなんだ?どんなクエスト?」
「五十五層の雪原エリアがあるだろ。あそこの山の上に、白竜ってのがいるらしいんだが、
そいつが、クリスタライトインゴットってのを持ってるらしい」
リズベットは、その名前には聞き覚えがあったようだ。
「それ、かなり高位のインゴットだね。でも流通したって話は聞かないなぁ」
「ああ。確かにそこに存在するって情報ははっきり示されてるのに、
まだ誰も入手出来た事が無いんだと。もしかしたら他に条件があるのかもしれないな。
マスタークラスの鍛冶屋が一緒じゃないと駄目だとかな」
「なるほどね。でも五十五層かぁ。今の最前線は六十三層だっけ?」
「ああ」
「それくらいなら、ハチマンでもその白竜っての、ソロで倒せる?」
「特に問題はないな」
「なるほど、それくらいの強さなんだ。今度取りにいってみる?」
「そうだな、今度行ってみるか」
そうやってしばらく雑談をしていたが、武器のメンテが終わったので、
ハチマンは店を辞した。
リズベットは、たった今聞いた情報について考えていた。
それがハチマンの計画通りだとは、当然気付いていなかった。
そして次の日。
「ごめん下さ~い」
と、店の方からのんびりとした声が聞こえた。どうやら来客のようだ。
リズベットは、今日も頑張ろうと思い、張り切って店に顔を出した。
「いらっしゃいませ!今日はどんな武器をお求めですか?」
「オーダーメイドで、予算は気にしなくていいので、今出来る最高の武器をお願いします」