ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第045話 本当の悪

「次の目標は、どうやらあのパーティみたいだな」

「そうだな……ん、おい見ろキリト、あの小さいの。あれ、なんだ?」

「あれは……使い魔か?珍しいな」

「そういえば竜使いとかいうプレイヤーの噂なら聞いた事があったな、あれがそうか。

確か名前は、シリカ、だったと思う」

 

 あれからハチマンとキリトはロザリアを徹底マークし、

数日後ロザリアが、新しい獲物に目をつけた事を知った。

ロザリアは、竜使いシリカがいるパーティと、しばらく行動を共にするようだ。

 

「しばらくは、俺があのパーティをマークするよ」

「それじゃ、俺はその間、街で情報収集だな」

「ああ。何かあったらすぐ連絡する」

「了解だ」

 

 ところがその何かは想像以上に早く、その日のうちに動きがあった。 

ハチマンは、パーティの監視をキリトに任せ、十九層周辺を捜索していたのだが、

狩りがそろそろ終わったであろうくらいの時間に、キリトから緊急メッセージが入った。

どうやらロザリアの監視を交代して欲しいらしい。

ハチマンは、何かあったのだろうと思い、今日の狩場であった迷いの森へと急行し、

森から出てくるロザリアの姿を確認すると、すぐにキリトに、

ロザリアの監視引継ぎ完了、と連絡を入れた。

 

(パーティに、シリカだけがいないな)

 

 ハチマンは、まさか襲われたのだろうかと一瞬思ったが、シリカがいないだけで、

他のメンバーには特におかしな様子も無いように見えたので、

どうやら何かがあって、別行動になったのだろうと当たりをつけた。

時々メンバーが、ロザリアに目をやりつつ心配そうに後ろを振り向く様子が見えたので、

多分ロザリアとシリカが揉めたのだろう。

 

(ロザリアは、いかにもシリカが気に入らない様子だったしな。

キリトはどうやらシリカを追いかけたのか)

 

 ハチマンはそのままパーティの監視を続けていた。

街に戻ってしばらくすると、キリトとシリカが森の方から一緒に戻ってきて、

それを見つけたロザリアが、シリカにからみ始めた。

キリトはハチマンの姿を見つけたようで、密かにこちらに合図した後ロザリアに何か言い、

そのままシリカを伴って、どこかに消えていった。

ハチマンは、そのままロザリアの尾行を続けつつ、キリトからの連絡を待った。

ロザリアは、ぶつぶつと呟きながら、キリト達の尾行をしているようだった。

 

(今、あの女気に入らない、って聞こえたな。

こっちに聞こえるくらいの声で言うとか、相当むかついてるんだな。予想以上の嫉妬深さだ)

 

 キリトからの連絡は、すぐに来た。予想通り、ロザリアとシリカが言い争いになり、

シリカがパーティを飛び出してしまったらしい。

慌てたキリトはすぐにハチマンに連絡し、

監視の引継ぎが終わるや否や、すぐにシリカを追いかけたそうなのだが、

シリカ本人の救助は間一髪間にあったが、使い魔の子竜は死んでしまったらしい。

 

(そうか……あいつ死んじまったのか……

まあ、キリトも蘇生の方法は知ってるはずだし、問題はないか)

 

キリトは明日、シリカが使い魔蘇生のアイテムを四十七層で取るための、

付き添いをするようだ。

これから宿で、シリカにミラージュスフィアを使って場所の説明をするらしい。

その時ハチマンは、ロザリアがキリトたちの入った宿に入っていくのを確認した。

その後のハチマンとキリトの遣り取りを、会話風に表現すると、

 

「キリト、今そこにロザリアが入ってったぞ。多分部屋の外で盗み聞きするつもりだ」

「そうか……で、どうする?」

「とりあえず誘いをかけよう。大きめの声で、目的地を説明してくれ。

その後、いかにも今気付いた風に、ドアを開けて外を確認してくれ」

「了解」

「ロザリアは、相当シリカの事が嫌いみたいだぞ」

「シリカもロザリアが嫌いみたいだ」

「まあそうだろうな。とりあえず後は俺がロザリアを尾行して、どう動くか確認する」

 

 外に出てきたロザリアは、何かウィンドウを操作していたが、

その後はまっすぐに自分の拠点へと戻った。

ハチマンは、ロザリアが現地にいる場合といない場合の二つのケースを想定する事にした。

 

 

 

 次の日ハチマンは、ロザリアが四十七層の拠点から、

転移門を使わずにそのまま街の外へと向かったのを確認し、後をつけていった。

ロザリアはそのまましばらく歩いていたが、どうやら待ち合わせをしていたのだろう。

人目につかない岩の陰に集まっていた仲間と合流し、思い出の丘方面へ移動を始めた。

 

(ついに見つけたぞ、タイタンズハンド)

 

 ハチマンは、どうやらロザリアは自分の手でシリカを襲うつもりのようだ、

と、キリトにメッセージを送った。

そのまま一味の監視を続けていたが、しばらく後、キリトから連絡がきた。

 

(キリト達は、思い出の丘に着いたようだな)

 

 目的を達成したのでこれから街へと戻るという、キリトからのメッセージを確認した後、

ハチマンはロザリア達が、おそらくそこで襲うつもりなのだろう、

思い出の丘から街へのルートの途中にある、木陰に潜むのを確認し、

その襲撃予想地点の位置情報をキリトへと送った。

キリトは、レベル差から考えても、問題なく一人で対処出来ると言ってきたので、

ハチマンはそのまま監獄へ移動し、ロザリアを尋問するため待機する事にした。

 

 

 

 監獄エリアは、いわゆる牢屋のような部屋が並ぶ、犯罪者を隔離するためのエリアだ。

グリーンプレイヤーは出入り自由だが、

過去に一度でもオレンジネームになった事があるプレイヤーは、

エリアの外に出られないようになっている。

回廊結晶さえ使えば、故意にプレイヤーを閉じ込める事も可能だが、

回廊結晶はとても高い上に希少価値もあるので、

今のところそのような事例は報告されていなかった。

ここに入れられた犯罪者は、エリア内ならどこにでも移動出来る。

個室の扉は、個人認証さえすればその者にしか開けられないため、

最低限のプライバシーも守られる。食事も一日三回しっかりと支給される。

ちなみにグリーンプレイヤーが個室に個人認証をしてしまうと、

そのプレイヤーはここから出られなくなる。

ただ生きていくためだけなら、ここを利用するのもありだろう。

ちなみにハラスメントコールで移動させられたプレイヤーは、

その重さに応じて一定期間外に出られないシステムになっている。

通報する女性側の裁量次第という事だ。

 

(お、来たか)

 

 しらばくして回廊が開き、タイタンズハンドの連中が送り込まれてきた。

連中がとても大人しいのでハチマンは、

 

(おいキリト、お前何やったんだよ)

 

 と、苦笑してしまった。

ハチマンは話を聞くためロザリアに近づいていった。

 

「始めましてだな、俺はハチマンと言う。早速だが、お前らの黒幕は誰なんだ?」

「………」

「ジョーって男と会ってたよな。やはりあいつらが黒幕か?」

 

 その言葉を聞いた瞬間ロザリアは、ハチマンに襲い掛かった。

その瞬間、ハチマンはロザリアの後ろに回り込んだ。

ロザリアは、突然ハチマンの姿が消えたので、狼狽していたが、

 

「どこ見てるんだ。後ろだ後ろ」

 

 と、声をかけられ、慌てて振り向き、再び襲い掛かってきた。

だが次の瞬間、再びハチマンがロザリアの後ろに回り、

ロザリアの背中に全力の攻撃を放った。

監獄エリアは圏内のため、ダメージはまったく負わなかったロザリアだったが、

その衝撃で数メートル前方に吹っ飛ばされた。

 

「あと何回吹っ飛びたいんだ?」

「……攻略組ってのは化け物の集まりなのね」

「否定はしないが、俺とキリトはその中でも特殊な方だけどな」

「わかったわよ、知ってる事は全部話すわ」

 

 ロザリアは本当に心を折られたのだろう。聞いていない情報まで、全て喋りだした。

それを確認したハチマンは、ロザリアをその場に放置し、監獄エリアを出た。

 

 

 

「おいキリト。お前、どうやってあいつらの心を折ったんだ?

ロザリア以外は、全員大人しかったぞ」

「ああ、まず、全員の攻撃を無防備で受けたんだが、

自然回復の数値以上のダメージは負わなかった。

その後ロザリアに接近して、首に剣を突きつけた」

「簡単に言ってるが、相手に好きにさせて無敵アピールとか、お前鬼だな」

「ハチマンの話だと、ロザリアは反抗したのか?」

「ああ。攻撃しようとしてきやがったんで、二度背後に回って、

死角から全力で攻撃してぶっ飛ばした」

「お前も、容赦ないな……」

「で、得られた情報がいくつかある。正直事態はもっと深刻だった」

 

 ハチマンとキリトは、アルゴを交え、得られた情報を共有する事にした。

 

「ラフィンコフィン?」

「ああ。それが奴らの上位ギルドの名前らしい」

「笑う棺桶?趣味の悪い名前だナ」

「リーダーは、ポンチョを着た男。名前は、PoHというそうだ」

「プー、か?何かの略なのかな」

「キー坊、そいつは多分、ブレイブスに詐欺のやり方を教えた奴と同一人物じゃないかナ」

「……そうか、あの時の話に出てきたポンチョの男か」

「そして、構成員でわかっているのは、モルテとジョー、他にはザザって奴が幹部らしい」

「二十五層から姿を消したあいつらか……ザザって奴は聞いた事がないな」

「どうやら、裏でやばい組織が出来上がっているみたいだ」

「一応オレっちが、主だったギルドに注意するように連絡を入れとくカ?」

「そうだな。気をつけるにこした事はない。

ラフィンコフインは、ロザリアの話だと……純粋な殺人ギルドだ」

 

 

 

 今回の問題は確かに解決出来たが、更に大きな問題が発覚してしまった。

いずれ、ラフィンコフィンのメンバーと戦う時がくるかもしれない。

多かれ少なかれ、攻略組の人間は皆、死に対する価値観が変わってしまっている。

現実に帰還する事が出来たら、その事が問題になる可能性もある。

もし彼らと戦う事になり、相手を無力化する事が出来なかったら、

自分はその時どうするのだろうか。もし仲間が危険に晒された時は……

ハチマンは心の中で、覚悟を決めた。


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