ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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18時にもう1話投稿します


第037話 再始動

 アスナが血盟騎士団に入団したその日の夜、ハチマンが家に帰ると、

何故かそこにはアスナがいた。連絡無しで来るのは初めてだった。

 

「で、何でアスナがここにいるんだよ」

「え?だって、どうせまたすぐ秘密基地に行くって言ったじゃない」

「すぐとは言ってない」

「そうだっけ?まあ男の子が細かい事を気にしないの」

「へぇへぇ分かりましたよ副団長様。

せっかくのさっきまでの感動のシーンが台無しじゃねーかよ……」

「あ、夕食作っといたから」

「おう、料理スキル結構上がったのか?」

「まあ、問題なく人に振舞える程度には、ね」

 

 今後はどうなるかわからないが、結局二人の関係はほとんど変わっていないようだ。

ハチマンは、アスナにはやっぱりかなわないな、と思った。

 

「あ、あと今日泊まってくからよろしくね」

 

 アスナがいきなり言い出し、ハチマンは驚いた。

 

「はぁ?お前いきなり何言っちゃってんの?」

「あ、あと今日泊まってくからよろしくね?」

「いや内容はわかってるから……

はぁ……友達といえども節度を持ってだな、ってこんな会話、前もした気がするな」

「大丈夫、リズもすぐ来るから!今日はお祝いね!」

「はいはい、了解だよ副団長様」

 

 その後すぐにリズベットも到着した。

どうやらこれから、アスナの血盟騎士団入団と、副団長就任のお祝いの会を開催するらしい。

 

(どうして女子はこう、何かとお祝いしたがるのかね)

 

 ハチマンはそれでもまあ、今日くらいはアスナの好きにさせてやろうと思っていた。

 

 

 

 会はまず、アスナの制服のお披露目から始まった。

 

「じゃーん!これが私の新しい制服です!」

「アスナ、かわいい~」

 

 どうやらアスナは、もらった制服を見せたくて仕方がなかったようだ。

その制服は、防御力もしっかりとした、鎧タイプの制服であるようだった。

 

(これならまあ、性能的にも安心だな)

 

 アスナは何かを期待するようにハチマンに聞いてきた。

 

「ハチマン君、これどうかな?」

「ああ、防御力もしっかりしてそうだし、いいと思うぞ」

 

 そのハチマンの答えは、誰が聞いても落第といえるものだった。

 

「ハチマン君……」

「ハチマンさあ……」

「な、何だよ……」

「もう一度やり直し」

「お、おう……」

「それでは改めまして、ハチマン君、どうかな?」

「に、似合ってるんじゃないか。悪くないと思うぞ」

「ありがとう!」

 

 こんな調子で夜も更けていき、ハチマンは早々に自室へと退散した。

二人は一緒にお風呂に入り、そのまま今日は一緒に寝るようだ。

 

(はぁ、今日は色々あったな……)

 

 ハチマンは今日、自分の駄目なところを散々見せつけられ、少しへこんでいた。

 

(俺はアスナを自分の物扱いしていたのかな……

友達の事をそんな風に思うなんて、俺はやっぱだめな奴だな……はぁ……)

 

 友達いない期間長かったしな……と考えながら、ハチマンは眠りについた。

 

 

 

「ねえアスナ、本当に良かったの?」

「ん、何が?」

「本当はアスナ、ハチマンの作るギルドに入りたかったんじゃないの?」

「あー、リズもやっぱわかってたんだ」

「そりゃねぇ……」

「でも、もしそうなったらハチマン君、メンバーのために自分を犠牲にしそうじゃない?」

「あー………それはありそう」

「だから、これで良かったんだよ。

血盟騎士団の話を聞いて、これだって思ったのは間違いないんだし」

「まあ、アスナが納得してるならいいけどさ」

「うん」

「ところで、アスナはハチマンの事が好きなの?」

「え?ハチマン君は友達だよ?好きとかそういうんじゃないよ」

 

(うわぁだめだ~この二人よっぽどの事がない限り自覚しないわ~)

 

 リズベットは頭を抱えた。

こうして初めての三人の夜は更けていった。

 

 

 

 そして夜が明けた。

 

「二人とも、昨日はよく眠れたか?」

「うん、大丈夫」

「ハチマンとアスナは今日はどうするの?」

「俺は攻略会議の開催の手配だな。後はまあ、各所に連絡と報告だな」

「私はギルドの方に顔を出して、フォーメーションとかの練習とか色々かな」

「それじゃ私は今日も鍛冶に精を出しますか!」

 

 その後ハチマンは関係各方面に連絡をしまくった。

ドラゴンナイツには、攻略会議開催の要請を。

血盟騎士団には、今までの攻略のルールやフォーメーション等の説明をし、

キリトやネズハ、エギルらに連絡をとった。

そしてついに次の日、久々の攻略会議が開催された。

 

「ハチマン君、何か進展があったのかい?」

 

 まず最初に、先日会ったシヴァタがハチマンに声をかけてきた。

 

「ああ、シヴァタさん。やっと解決の糸口が掴めました」

「そうか、戦力さえなんとかなれば、攻略自体は出来るはずだしな」

「幸い、って言っちゃいけないんでしょうが、情報はありますからね」

「この層に限ってはほとんど回りつくしたしな」

 

 そこに、リンドもやってきて、会話に加わった。

 

「リンド、すまない。勝手に会議を召集しちまって」

「いや、それは構わないよ。どうせこのままじゃ当面打つ手も無かったし」

 

 リンドはハチマンにそう答えた。リンドも精神的にかなり参っていたようだ。

 

「とりあえず戦力はなんとかした。後は細かいところの調整とかになると思う」

「血盟騎士団だっけ?実力はどうなんだ?リーダーがユニークスキル持ちだと聞いているが」

「防御に関しては格段に上がると思う。攻撃に関しては、まあ隠し玉があるしな」

「なるほど」

 

(まあプラスマイナスでトータルの攻撃力は上がらないんですけどね)

 

 その後エギルにも声をかけ、会議が始った。

会議の冒頭、まずハチマンがあいさつした。

 

「皆、いきなり集まってもらって申し訳ない。

今日集まってもらったのは、まず新しい戦力の紹介をするためだ。

紹介しよう、血盟騎士団だ」

 

 その言葉と同時に、血盟騎士団の面々が入場してきた。

揃いの制服を着て、統一されたその動きは、かなり迫力のあるものだった。

皆は興味深く眺めているようだったが、

アスナが入ってきたところで、やはり驚きの声があがった。

 

「私は、血盟騎士団の団長、ヒースクリフ。隣にいるのは副団長の、閃光のアスナさんだ」

「アスナです。改めまして、宜しくお願いします」

 

 ハチマンは、閃光、と呼ばれたところでアスナの眉がピクッと上下したのに気付いたが、

アスナに睨まれたので、見えなかったふりをした。

 

「我々血盟騎士団のメンバー十七人、攻略組への参加を希望する」

 

 ヒースクリフが堂々と名乗りをあげ、皆もこれを歓迎した。

皆が期待に盛り上がる中、後ろの方にいたキリトが、ハチマンに話しかけてきた。

 

「どういう経緯でアスナが血盟騎士団に入る事になったんだ?」

「ああ、アスナの希望なんだよな、実は」

「ん、そうか。無理やりとかじゃないんだな」

「ああ、もちろんだ」

「……ハチマンはそれで良かったのか?」

「何がだよ」

「いや、ハチマンがいいならいいんだよ。頑張ろうぜ」

「おう、頼りにしてるぜ」

 

 

 

 こうして戦力も揃い、再びボスへと挑む事が決定した。

第二十五層に到達してから、実に一ヶ月がたっていた。

今回の編成は、フルレイドとなる。

ドラゴンナイツが二十四人の四パーティ、血盟騎士団が十七人の三パーティ、

エギル軍団四人に加え、キリトとネズハで一パーティ。総勢四十八人。

ハチマンは、血盟騎士団のパーティでアスナとコンビを組む事になっていた。

模擬戦の結果、血盟騎士団のメンバーの中には、アスナの速さに合わせられる者がおらず、

ハチマンとアスナのコンビで組ませるのが最適だとヒースクリフが判断したためだった。

そのコンビネーションは、始めて見る血盟騎士団の団員を、戦慄させた。

団外の団員として、誰もハチマンを侮る者はいなかった。

 

 

 

 こうした紆余曲折を経て、再び二十五層の階層ボスとの戦闘が始まった。

話に聞いていた通り、ボスは恐ろしく速く、重い攻撃を仕掛けてきた。

だが、そんな強いボスの攻撃を、ヒースクリフがほとんど封殺していた。

皆、神聖剣の強さを目の当たりにして驚きを隠せないようだった。

 

「ハチマン君、なんかすごいね」

「ああ。なんであんな奴が今まで表に出てこなかったんだろうな」

「不思議だよね」

「お、どうやらボスのHPがレッドゾーンに突入するぞ。

こっちもここらできっちりと、存在感見せとくか」

「うん、行こう。私達二人なら絶対負けないよ」

 

 戦いはその後も熾烈なものとなったが、犠牲者を出す事なく無事終了した。

やはり目立ったのは、血盟騎士団の堅実な戦いぶりと、

ヒースクリフの超人的な防御力だった。

そして今まで攻撃力不足だった部分も、アスナの加入により、解消された。

血盟騎士団の名は確固たるものとなり、今後の攻略を引っ張っていくのは確実と思われた。

 

 こうして今後の攻略のめどがたち、再び攻略組の快進撃が始まる。


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