ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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今日も18時にもう1話投稿します


第035話 突然の崩壊

ハチマンが、秘密基地ともいえる自らの拠点を手に入れてから、

一ヶ月ほどの時間が経過していた。

攻略は順調に進み、つい先ほど二十四層の攻略も無事終えたところだったのだが、

そこで問題が発生した。

毎回の事ながら、ジョーとモルテの言い合いが始まったのだが、

今回それが、リンドとキバオウの言い争いにまで発展してしまったのだ。

 

「エギル、何があったんだ?」

「ああ、ハチマン。ボスへのとどめの時に最近いつも解放隊がないがしろにされてると、

あのジョーってやつが言い出してな。リンドがそれに反論したみたいなんだが、

どうやら言い方が悪かったらしく、キバオウがそれに切れたみたいなんだ」

「そんな理由でか……」

「あんまりラストアタックにこだわらないハチマンや、俺達にはそうかもしれないが、

大手のギルドには主導権争いとか色々あるんだろうさ」

 

 その場は一応収まったが、火種はどうやら燻り続けているらしかった。

その日の夜、一応お疲れ様会という事で、ハチマンの家にアスナとリズベットが訪れた。

 

「ハチマン、アスナ、攻略お疲れ様」

「リズ、今回はほんとに疲れたよ」

「主に攻略後にだけどな」

「攻略そのものじゃなくて、攻略が終わってからなの?」

「ああ。どうしても人が集まると、もめごとが起こっちまうからな」

「やっぱりそういうのあるんだね」

 

 何とかしようにも、こればかりはハチマンにもどうしようもなかった。

本来は一つの組織としてまとまってくれれば何の問題も無いんだが、

いまさらそれは不可能だろう。

 

(今のところ攻略自体に支障は出ていないが……)

 

 考えても仕方ないと思い、ハチマンは話題を変える事にした。

 

「リズ、そういや最近髪型とか服装、変えたんだな」

「うん、アスナに色々いじられちゃって」

「そうなのか」

「リズは絶対こういうのが似合うと思ったんだ」

「ああ、まあ、悪くないんじゃねえの」

「こういうの苦手な方だったんだけど、でも悔しい事に、

アスナに色々されてからの方が明らかに露店の売り上げが多いんだよね……」

「でしょでしょ!」

 

 リズベットの髪は、少し前までは茶色だったのだが、今はピンク寄りの茶色になっていた。

服も、少し派手目な赤いワンピースになっていた。

商売の時は、そこに白いエプロンをつけているようだ。

本来ピンクや緑や青などといった髪の色は、どうしても不自然に見えてしまうものだが、

ゲーム内だからという事もあるのだろうか、不思議と違和感は感じられなかった。

 

「ハチマン君の髪とかもいじってあげようか?」

「絶対にやめてくれ……」

「じゃあ普段着とか」

「ああ、それならまあ頼む事は無くもないな。実際現実だとほとんど妹任せだったしな」

「それじゃ今度機会があったら見にいこう!」

「お、おう……」

 

 その後も雑談をし、その日はお開きになった。

二人とも気を遣っているのか、まだ一度も泊まった事はなく、

ハチマンは二人のその配慮に感謝していた。

もっともしっかりと部屋は二つ確保し、各自でコーディネイトしているようだった。

リズベットは泊まりこそしないものの、ちょくちょく離れで鍛治仕事をしているようだ。

きっちり連絡を入れてから来るので、バッタリ鉢合わせということはない。

たまに素材調達を頼まれたり、一緒に狩りに行く事もあるが、

その距離感はしっかり保たれていて、ハチマンにとっては特に苦痛という事も無かった。

 

「それじゃ、二人ともまたな」

「またね、ハチマン君」

「明日昼ごろまた鍛治をしに来るから宜しくね、ハチマン」

「ああ、了解だ、リズ」

 

 二人が帰るとハチマンは、そのまま風呂に入って寝る事にした。

 

 

 

 それから数日後、今回も攻略は順調に進み、

二十五層の突破も時間の問題だと思われた頃、その事件は起こった。

ハチマンは、自宅に突然アルゴとアスナの訪問を受けた。

ちなみにアルゴには、守秘義務を徹底するのと引き換えに、家の事を話していた。

いつか自然にバレるよりは最初から言って口止めした方がいいとの考えからだ。

 

「なんかアルゴさんが、私達に話があるんだって」

「しかし相変わらずここはいい家だよな。オレっちが欲しいくらいだヨ」

「絶対譲らないぞ。で、今日は何の用だ?」

「ハー坊、アーちゃん、心して聞いてくれ。ついさっき、解放隊が壊滅した」

「……………は?」

「………え?」

 

 ハチマンは、たっぷり数十秒時間をかけた後、

やっと言葉の意味を理解したのか、呆然とアルゴに聞き返した。

 

「おい、どういう事だよ。一体何があった?」

「解放隊が少し前にボス部屋を発見したらしいんだが、

あいつらその情報を隠して単独でボスに挑んだみたいなんだヨ」

「単独って、なんでそんな事を」

「生き残りの話だと、どうやらボスに対しての有効な情報が手に入ったから、

単独でいけるとふんで突撃したらしいんだけどな、

その情報がでたらめだった上に、ボスの強さが今までとぜんぜん違ったらしいんだよナ」

「生き残りって……」

 

 生き残り、という言葉に不吉な響きを感じたのだろう。アスナはハチマンの方を見た。

ハチマンは、意を決してアルゴに問いかけた。

 

「……何人参加して、何人生き残ったんだ?」

「七パーティ四十二人が参加して、生き残りは……八人だよ、ハー坊」

 

 その数字を聞かされ、二人は絶句した。ハチマンが先に立ち直り、アルゴに質問を続けた。

 

「七パーティって、それ適正レベルに届いていないメンバーも結構いたんじゃないのか?」

「ああ、二パーティくらいは若干低レベルだったみたいだナ」

「キバオウはどうなった?」

「何とか生き残ったみたいだゾ」

「………まさか、あのジョーってやつがまた何かしたのか?」

「生き残りの話だと、ボスの攻略情報はそいつが持ってきたらしいナ」

「くそっ、くそっ」

 

 ハチマンは机を何度も叩き、悔しがった。

自分がもっと気をつけていれば。自分がどうにか手を打てていれば。

後悔が後から後から押し寄せてくる。

そんなハチマンの様子を心配したのか、アスナはハチマンに声をかけた。

 

「ハチマン君、別にハチマン君のせいじゃないよ」

「違うんだアスナ、俺はジョーって奴絡みの情報を持っていたんだ。

もしかしたらなんとか出来たかもしれないのに、俺は何も出来なかったんだ」

 

 ハチマンは、以前見た事を、アスナとアルゴに話した。

 

「なるほど、そんな事があったのカ」

「ああ。下手に手を出すと、危険かもしれないと思って、誰にも言えないでいた。

それが完全に裏目に出た」

「ハチマン君……」

「ハー坊、気持ちはわかるけどな、さすがに今回の事はどうしようも無いと思うゾ」

「そうかもしれないが……くそっ」

「ハチマン君は何でも一人で背負おうとしすぎだよ。

私達に出来る事を考えて、みんなでやってくしかないよ」

「くっ…………」

 

 アスナはしばらくハチマンの頭をなでていた。

アルゴは何も言わなかったが、やはりハチマンを気遣っているようだ。

ハチマンはしばらく慟哭していたが、何かを決意したように顔を上げた。

 

「すまん二人とも。もう大丈夫だ。今後の事を一緒に考えよう」

 

 自分の無力さを感じつつも、ハチマンは前を向く事を決断したようだ。

 

「まずいくつか聞きたい。ジョーって奴はどうなった?」

「それは確認してある。生き残った後、すぐに姿を消したみたいダ」

「解放隊の生き残りで戦えるメンバーは何人残った?」

「ボス戦に参加できそうな強さを持ってるのは、いいとこ六人くらいだろうナ」

「ドラゴンナイツはどうしてるんだ?」

「どうやら人集めに奔走しているらしいな。攻略が続けられるかの瀬戸際だからナ」

「ここでしばらく足止めになりそうだな……」

「一日や二日でどうにかなる問題じゃないからナ」

「………キリトは?」

「まだ知らせてないぞ。このところずっと下層で戦ってるみたいだしナ」

「最近攻略に顔を出してこなかったから、忙しいんだと思って連絡してなかったが、

キリトにも手伝ってもらわないと今回ばかりは駄目だろうな」

「キリト君ならきっと来てくれるよ」

 

 その後も色々と情報をまとめていったが、やはり問題は戦力の増強だった。

ドラゴンナイツが出せて二十四人、エギルチームとハチマン中心の勢力が八人くらい。

解放隊の生き残りはほぼ当てに出来ないだろう。すっかり心を折られているように見えた。

やはり戦力がぜんぜん足りない。

改めてアルゴにジョーとモルテとポンチョの男についての調査を頼み、

その日の話し合いはそこまでとなった。

 

 

 

 後日アルゴから報告が入った。情報は何も無し、目撃情報すら無し。

モルテも同時に姿をくらましたそうだ。

三人がどこに潜んでいるのか、まったく情報は出てこなかった。

戦力増強も思うように進まず、事態は停滞していた。

 

 

 

「久しぶりだな、キリト」

「ハチマン、久しぶり」

 

 ハチマンとキリトは、久しぶりに会って話をしていた。

 

「話は聞いたか?」

「ああ。大変な事になったな」

「人さえいれば攻略は目指せるんだが、戦力の事はどうしても、な」

「俺に何か出来る事は無いか?」

「ボス攻略に参加してもらえれば、それで大丈夫だ。とにかく今の問題は戦力だからな」

「そうか……しばらく参加してなくて、すまん」

「いや、キリトが謝る事なんて何もないだろ。

実際うまくいってたんだし、別にキリトも遊んでたわけじゃないだろ」

「それはそうなんだが……」

「ギルド、入ったんだろ?」

「……ああ」

「今はそっちに集中していればいい。いずれ助けを借りる事になるが、それは今じゃない」

「そうか」

 

 ハチマンは、キリトに笑顔を向けた。

 

「その代わり、本番では頼むぜ」

「ああ、全力で手伝うぜ」

 

 二人はハイタッチをかわし、そのまま別れた。


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