ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第034話 秘密基地

 いつものように鍛治に精を出していたリズベットは、アスナに呼び出された。

 

「リズ、なんか最近ハチマン君が怪しいの」

「ハチマンが怪しいのはまあいつもじゃない?」

「そうなんだけど、なんかいつもと違うんだよ」

 

 アスナは、最近ハチマンが、

普段は絶対に行かないような小物やら家具やらの店を、

やたらと見てまわっているのを怪しんでいた。

リズベットは最初、ハチマンが怪しいのはいつもじゃないかな、と思っていたが、

話を聞くと、確かにいつもとは違う。

 

(むむむ、女の気配?いやいやハチマンに限ってそれはない。うーん何だろう)

 

「確かに今までのハチマンの怪しさとは正反対に怪しい」

「でしょ?」

「よし、アスナ。ハチマンの後をつけよう」

「ええっ?ハチマン君の後をつけるとか無理じゃない?絶対気付かれるよ」

「大丈夫よアスナ。我に秘策あり!」

 

 リズベットは何故かノリノリで、そう宣言した。

 

「で、オレっちに何か用事カ?」

 

 リズベットの秘策とは、どうやらアルゴだったようだ。

 

「一応聞くけどアルゴさん、ハチマン君の行動が最近怪しい理由とかの情報ってある?」

「いや、特に何もないな。ハー坊が何か怪しいのカ?」

 

 アスナは、最近のハチマンの行動をアルゴに説明した。

 

「確かにハー坊らしくないというか、怪しいとしか言えない行動だナ」

「というわけで、アルゴさんに依頼をお願いします。ハチマン君を尾行して下さい」

「面白そうだな。その依頼引き受けたゾ」

 

 こうしてハチマンの知らぬ間に、ハチマン包囲網が出来あがったのだった。

そんな事も露知らず、ハチマンはうかれながらも着々と家の設備を整えていた。

それをアルゴが全部見ていたとも知らずに。

 

 

 

 数日後アルゴから、調査結果が報告された。

 

「どうやら二十二区の街の圏内の、とある塔周辺に入り浸ってるみたいなんだが、

その塔の近くにハー坊が行くと、何故かそこで姿が消えるんだよナ」

「そのあたりに何かあるのかな?」

「それが調べてみたけど何も無いんだヨ」

「むむむ、やっぱりこれは怪しいよアスナ」

「どうすればいいかな?」

「これはもう待ち伏せて現場を押さえるしかないんじゃないカ?」

「うーんハチマン君に気付かれないかな?」

 

 三人は知恵を振り絞ってどうすればいいか考えた。

その結果、なんとかいけそうな案が一つ浮上した。

 

「いいか二人とも。一番まずいのは、遠くから発見されて、

近づいて来ないまま逃げられる事ダ」

「ふむふむ」

「そこで、あえて向こうから見えるように、あからさまな隠れ方をする。

具体的には誰かがいるのはわかるが、誰かはわからないようにする」

「うーん、つまりどういう事?」

「具体的には、目立つ布を被って近くに隠れておくんだよ。

そうすれば、罠にしちゃ目立ちすぎてるし、かといって放置するわけにもいかなくて、

必ずハー坊はこっちに近づいてきて中を確認しようとするはずだ。

あからさまだってのがポイントだナ」

「わかった、やってみる!」

「で、近づいてきた瞬間に二人で取り押さえれば終了だナ」

「それじゃそれでやってみよう、アスナ」

「結果が出て、教えられるものなら後で教えてくれよナ」

「うん、ありがとうアルゴさん!」

 

 こうして二人は、タイミングを見計らって塔の近くまで近づいた。

 

「これかー、確かに何もないただのオブジェみたいな塔に見えるけど……」

「どこかに何かの秘密があるんだろうねきっと」

「それじゃそろそろハチマンが来ると思うし隠れようか」

「うん」

 

 こうして二人は潜み、しばらくたった頃、遠くにハチマンの姿が見えた。

ハチマンはこちらを見てぎょっとしたが、おそるおそる近づいてきていた。

 

「さすがに慎重になってるみたいだね」

「うん。あんまり早く出すぎると逃げられちゃうかもね」

「アスナ、ギリギリまで引きつけよう」

 

 息を潜めてハチマンを待つ二人。じりじりと近づくハチマン。

どれだけの時間が経っただろうか、ついにハチマンが布に手をかけた。

 

「今だ!アスナ!」

「うん!」

 

 その瞬間に二人は飛び出し、ハチマンを捕まえようとした。が、わずかに届かなかった。

 

「お、お前ら何でここに……くそっ、やっぱり罠か」

 

 ハチマンは、そのままきびすを返して街の方へと逃げはじめた。

だがアスナもまったく油断はしていなかったようだ。

アスナはいつの間にか装備していた武器で、

ハチマンの背中に容赦なく《リニアー》を放った。

圏内なのでダメージは発生しないが、ハチマンは吹っ飛ばされて倒れた。

そこをリズベットが確保して、どや顔で決めゼリフを放った。

 

「さあハチマン。ハラスメントで監獄に飛ばされたくなかったら大人しくしなさい」

「お、お前ら本当に容赦ねえな………」

 

 

 

「で、ハチマンはここで何をしていたの?」

「ぐっ、い、いずれ話すつもりだったんだよ機会があれば」

「機会があれば、ねぇ……その機会は本当に来る予定だったのかな?」

「うぐっ、た、多分?」

「ごめんねハチマン君、痛かったでしょう?」

「いやまあ痛くはないけど、お前あれ本気だっただろ」

「気のせいじゃないかな」

「そ、そうですね」

 

 アスナの笑顔がまったく笑っていなかったため、ハチマンはつい敬語になった。

 

「で、ここには何があるの?」

「はぁ……仕方ない、こっちだ」

 

 ハチマンがウィンドウを操作すると、塔の側面に扉が開いた。

 

「え?何これ?悪の組織の秘密基地かなんか?」

「あー……ここは……俺の家だ」

「ハチマンの家!?」

「ハチマン君の家!?」

 

 二人はあまりの予想外の返事に驚愕したが、とりあえず中に入ってみる事にしたようだ。

中に入ると、そこには螺旋階段があり、上へと続いていた。

 

「へぇ~、なんかおしゃれな感じかも。

アスナ、よく見てみたいからちょっと私の代わりにハチマンを押さえてて。

逃げようとしたらハラスメントコード発動で」

「あっごめんリズ。

私、ハチマン君相手のハラスメントってとっくに表示しないように設定してて……」

「え?」

「は?」

 

 ハチマンとリズベットは揃ってポカーンとしてしまった。

 

(だから前アスナに触れた時ハラスメントコードに抵触した気配が無かったのか……)

 

 リズベットもすぐ我に返ったようだ。

 

「ハチマン、ハチマンは今、何も聞かなかった。オーケー?」

「お、オーケー……」

「それじゃまあ、上に行ってみよう。ハチマン案内お願い」

「お、オーケー……」

 

 上に出ると、二人はまず予想外の広さにまず驚いた。

そして設備を見て驚き、離れを見て驚いた。

 

「いつの間にこんな豪華な家を……」

「ハチマン君、こんな家買ってたんだ……」

「なんかこの前アスナと出かけた日の夜に盛り上がっちまって、

色々探してたら隠されてたここを偶然にも見つけちまったんだよ。

そしたらもうここ、買うしかないだろ?」

「まあ、ここなら私でも買いたくなるかも……」

「なんかすごい景色もいいよね……」

「で、どうしてこそこそしていたの?」

「いやほらこれ秘密基地だから、男のロマンだから」

「もう秘密じゃないね、リズ」

「もう秘密じゃないよね、アスナ」

「もう秘密じゃないですね……」

 

 アスナとリズベットは、こそこそと何か相談していたが、何かの同意に至ったらしい。

二人とも笑顔で、ハチマンの方に手を差し出した。

 

「えーと、その手は……?」

「私ここの鍵、欲しいな。ハチマン君」

「私あの離れを作業場に使いたいな、ハチマン」

「う…………ちなみに拒否権は」

「拒否してもいいけど、ここの情報をアルゴさんも知りたがってたんだよね」

「拒否してもいいけど、私ハラスメントコード有効にしてあるんだよね」

「うす…………どうぞ」

 

 二人は鍵をもらい、とても喜んでいるように見えた。

 

「住みつくとかは勘弁してくれよ」

「うん、そこはまあ節度を持ってだよ!」

「泊まってもいいけど、出来れば二人セットで頼むわ」

「オッケーオッケー。ハチマン太っ腹!」

「あー、部屋は一応三つ余ってるから、二人同じ部屋でも別でもいいから、

家具は適当に好きに運び込んでくれ。決まったら、本人しか開けられないように設定しとく」

「うん!それじゃ早速買いにいこうか、リズ!」

「どうしよっかー。あ、ハチマン離れに鍛治道具置いといてもいい?」

「おう、あそこは使う予定無かったから、好きに使ってかまわないぞ」

「ありがとう!それじゃアスナ、行こう!」

 

 こうしてハチマンの隠れ家は速攻二人にバレてしまった。

 

(まあ、これはこれで悪くはない、のか、な)

 

 昔から変わらず押しに弱い自分と、

昔とは変わって他人があまり苦手じゃなくなった自分を発見して、

ハチマンは、今後も自分はどう変わっていくのかと、未来の自分に思いを馳せるのだった。




今後は昼12時に投稿し、2話投稿の時はその時間を記載しようと思っています
今後とも宜しくお願いします

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