次の日は、とりあえず一日他のクエストを消化してしまおうという事になった。
キャンペーンの続きを発生させるのに、
そのあたりのクエストがフラグになっている可能性があるという事になったからだ。
キリトとネズハにも連絡し、
分担してクエストの攻略情報を交換しながら進める事にした四人は、
一日かけて街中のほとんど全てのクエストを攻略し終えた。
夕方になって、フィールドボスが早くも発見されたという情報が入り、
明日の朝早速会議が開かれ、その後そのまま攻略という事になったようだ。
そして次の日、フィールドボスとの戦闘が始まった。
注目すべきは、キリトとネズハのコンビだった。
キリトが船を操作している時は、ネズハが遠くからチャクラムで確実に削り、
ネズハが船を操作している時は、キリトが様子を見ながらしっかりと削っていた。
「やっぱりネズハの遠隔攻撃は、この層にすごいマッチしてるよな」
「すごいね、ネズハ君!私達も頑張らなくちゃだね」
ハチマンとアスナは、基本ハチマンが船の操作で、削りはアスナが担当した。
船上の戦いだと、リーチの短い武器はどうしても不利なようだ。
その後も皆無難に戦闘を繰り広げ、特に特筆すべき出来事も無く、
あっさりとフィールドボスは討伐された。
その後、再び探索が開始された。
どうやらキリトの記憶によると、
以前は南にあるダークエルフの城で、イベントが発生していたとの事だったので、
その周辺を重点的に調べてみようという事になった。
「どうやらあの城にかかっている霧は、迷いの霧の森以上の幻惑ギミックだな。
このままだと島に行く事は出来ないみたいだ」
「周辺の岸に何かあるかもですね」
「そんな難しい条件じゃないはずだし、何か見落としがありそうだよな」
「三層で野営地に出入りしていた時は……」
そんな時、アスナが何かに気付いたようだ。
「指輪じゃない?あれが無いと野営地に入れなかったし」
「そうか!あれからずっと外したままだったな。試してみるか」
どうやらキリトとネズハも同じ指輪をもらっていたようで、
一行は指輪をつけ、再び城へと近づいていった。
するとまず、先行していたキリトとネズハの姿が、船ごと消えた。
「キリト君!ネズハ君!」
「どうやらこれは、インスタンスエリアに飛ばされたんじゃないか?」
「あ、そうか!それじゃあ正解だったのかも」
アスナがそう答えた瞬間、二人の視界が開け、正面に城の桟橋のようなものが見えた。
どうやら桟橋に立っている者がいるようだ。
近づいていくとそれは、数日前に第三層で別れたキズメルだった。
「キズメル~」
アスナが嬉しそうに手を振り、船が桟橋に近づくと、
アスナは待ち切れないかのように船から飛び降り、キズメルに抱きついた。
ハチマンは船のロープを桟橋の舫に取りつけ、
しっかり固定されたのを確認した後、船を下りて二人に近づいていった。
「よく来たな二人とも。待ちかねたぞ」
「ごめんね、ここに来るために、指輪をする事に気が付かなくって」
「そうか、説明しておけば良かったな。すまなかった」
キズメルは頭を下げた。相変わらずNPCとは思えない、自然な対応だった。
「よう」
「ハチマンも元気そうで何よりだ。早速で悪いのだが、少し問題が発生していてな」
その声と共に、キズメルの頭の上に【!】が表示された。
どうやらここからキャンペーンクエストの続きが始まるようだ。
二人はキズメルに、城の家老の元へと案内される事になった。
「城主の元へじゃないんだな」
「城主さまは聖堂にこもって、祈りを捧げておられるのだ」
(なるほど、最終的には聖堂に行ってその城主様に会うか何かするのか)
ハチマンはそう推測しつつ、キズメルについていった。
「そなたらが、秘鍵を集めてくれた者達か。この度はご足労願って申し訳ない」
「いえ。それで、一体何があったのでしょうか」
「実はな……」
家老の話だと、どうやら人族の海運ギルドが、
こちらに対して何かを仕掛けようと企んでいるとの情報が入ったそうだ。
ハチマンとアスナは、再びキズメルと行動を共にし、その調査を行う事になった。
「この布を船に被せれば、しばらくの間船の姿を隠す事が出来よう。頼んだぞ」
(時間限定の潜入ミッションか)
三人は暗くなるのを待ち、海運ギルドの定期便に何かが運び込まれ、
出航したのを確認すると、その船の後をそっと追い始めた。
船が到着したのは、巧妙に偽装してある小さな島の拠点だった。
海運ギルドの船は積み荷を下ろすと、そのまま街の方へと戻っていった。
三人はこっそり船を桟橋につけ、もらった布をかぶせて船を隠し、
キズメルに三人の姿を隠してもらって、拠点の中に侵入した。
「まずは積み荷の確認だな」
三人は、慎重に倉庫らしき建物へと向かった。
そこにあったのは、船のパーツらしき部品の入ったいくつかの箱と、
頑丈だが空っぽの、沢山のただの箱だった。
「もう中身は運び出されたのか?そんな様子には見えなかったが」
「とりあえず次はどうしようか?」
「あっちに何かの作業場のような大きい建物があるからそこに行ってみよう」
「わかった」
入り口には見張りがいるようだったので、三人は中が覗ける場所を探した。
どうやら倉庫の隣にある木から、高所にある窓の所に行けるのを発見し、
その窓から中の様子を覗きこんだ。
そこにいたのは、数人のフードをかぶった男だった。
「完成した船はこれで何隻だ?」
「まもなく十隻、残り二隻も明後日までには完成の予定です」
どうやらその集団は、ここで船を製作しているようだ。
「禁忌さえ無ければ、人族の手など借りる事もなく船を全て完成させ、
地下水路を通ってフォレストエルフに船を提供し、
もっと早くにダークエルフ城を攻めさせる事が出来たのだが……」
そう言いながらフードを外したその人物の顔は、
以前見たフォールンエルフの物だった。
「禁忌って何だ?」
「我らは、自分達で木を切り倒したりする事が出来ないのだ。
しかしまさか、フォールンエルフが裏にいたとは……」
そうキズメルが呟くと、キズメルの頭の上のマークが【?】に変化した。
どうやら必要な情報は全て得られたようだ。
「よし、情報も得られたし退却だ」
ハチマンのその指示で、三人はシバルリー号の元へと急いだ。
まもなく船が見えるという所で、
三人はちょうど新たな積み荷が届くところに出くわしてしまった。
道が積み荷で塞がれ、前に進む事が出来ない。
「アスナ、キズメル、先行して船を動かしてくれ。
俺はこいつらを一瞬足止めした後にその船に跳び乗る」
「わかった。気をつけてね」
二人は姿が見つかるのを覚悟で、荷物を飛び越してシバルリー号の方へと走り出した。
大きな音がして、二人の姿隠しの効果が切れた。
「誰かいるぞ!捕らえろ!」
ハチマンは、声を出した船員の背後から襲い掛かり、船員を吹っ飛ばしたが、
船員達の中に一人、フォールンエルフがまじっていたようだ。
船を背にしていたハチマンは、
このまま振り返って走っても、追いつかれる可能性があると考え、
意を決してそのフォールンエルフに斬りかかった。
数合斬りあった所でパリィして、前蹴りで相手を吹っ飛ばす事に成功したが、
その瞬間横合いから船員の一人が体当たりをしてきた。このままだとまずい。
そう思った瞬間、その船員は、突然現れたキズメルによって、気絶させられた。
どうやらキズメルは、姿を隠して戻ってきていたようだ。
「キズメル悪い、助かった」
「二人とも、跳び乗って!」
アスナの声が聞こえ、二人は振り向きざま全力で走り、そのままの勢いで船に飛び乗った。
船には勢いがついていたため、そのまま逃げ切る事が出来たようだ。
こうして襲撃の情報を得た三人は、そのままダークエルフ城へと無事帰還し、
家老に、得られた情報を全て報告した。
「明後日には、フォレストエルフの軍勢が攻めて来ると言う事か」
「はい、どうやらそのようです」
アスナが代表して説明を始めた。
「しかしあの者たちの城とは水路が繋がっていないはずなのだが……」
「地下水路を通ると言っていました」
「そんなものが……」
その瞬間に家老の頭に【!】が表示された。
「三人には明日、聖堂のあるダンジョンへと向かってもらいたい。
そこで祈りを捧げている我らが城主を連れてきて欲しいのだ。
ダンジョン近くにもう一隻迎えの船を用意しておく。頼んだぞ」
「わかりました。私達にお任せ下さい」
(アスナはこういうの様になるよなぁ……俺がやってもいまいち決まらないんだよな)
こうして明日から三人で、聖堂ダンジョンを攻略する事になった。