ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第026話 秘鍵の約束

「我らが君達に頼み事をするのは、これが最後となるだろう」

 

 以前から、終わりをほのめかす言葉はあったが、

今回はっきりと、終わりを示唆する司令の言葉から、クエストは始まった。

どうやらキャンペーンクエスト第三層最後のクエストで間違いないようだ。

もっとも特殊なルートゆえ、全体としてこれが最後になる可能性もあるが、

まあその可能性は今は置いておけばよいだろう。

 

「前回女王蜘蛛を操っていた者の正体がわかった。

古の時代、我らと分かれた闇のエルフ族の残党が、未だに生き残っていたのだ」

 

 こんな言葉から始まった最後のクエストは、

隠された迷宮の奥にいる、フォールンエルフと呼ばれる者を倒せというものらしい。

しっかり準備をして三人は出発した。別のNPCの戦士も三人別に同行してくれるようだ。

合計六人で、隠し迷宮に突撃した。

 

(これもしかして、本来のバランスは、プレイヤー一人とNPC三人なのかもな)

 

さすがに六人と戦力は豊富だったので、戦闘は五人に任せてハチマンが主に偵察に出る事で、

数時間でボス部屋らしき部屋を発見出来た。

中にいたのは、サソリとクモを足したような奇怪な昆虫の姿をしたボスだった。

 

「ハチマン君。あれって、何?」

「ちょっと自信はないが、多分ウデムシって奴かな。世界三大奇虫の一つだったと思う」

「そんなのよく知ってるね」

「男には誰でも、世界何大なんとかってのに憧れる時期があるんだよ」

「そ、そうなんだ」

 

 微妙な空気になってしまったが、三人は気をとりなおしてウデムシボスに挑んだ。

幸い強さは大したものではなく、キズメルとアスナの圧倒的な強さの前に、

ボスはあっさりと沈んだ。

ハチマンには相性がいい敵では無かったので、あまり活躍する事は出来なかったのだが。

 

 

 

 そのまま奥に進み、基本同じパターンで戦闘を繰り返し、

ついにフォールンエルフのアジトらしき小屋を発見した。

中には、黒緑色の肌をした戦士らしき風貌のエルフが五人ほどいた。

ハチマン一行は、奇襲でまず二人の敵を倒し、そのまま二対一の戦闘に持ち込んだ。

体制を整えられてからは多少時間がかかったが、問題なく犠牲者無しで戦闘を終えた。

その小屋の後ろで、洞窟を発見した一行は、そのまま奥へと進む。

 

 

 

 そしてついに、敵のボスらしきエルフと、その取り巻き三人を発見し、

最後のボス【フォールン・エルフ・コマンダー】との戦闘が開始された。

 

「我らが周りの敵を抑える!キズメル殿達はあの司令官を!」

 

 三人の戦士は、うまい事取り巻き三人を引き離し、一対一に持ち込んだようだ。

その隙にまずハチマンが前に出る。

司令官は、どうやら最初に倒したフォレストエルフの戦士よりも、強いようだった。

だがあの時とは、キズメルのレベルも、アスナの武器も違う。

そして人タイプの敵が相手となると、やはりハチマンは強かった。

鉄壁の防御で、相手の攻撃を弾き、潰し、敵の体制が崩れた瞬間に、

キズメルとアスナが威力の高い攻撃を叩き込んでいく。

もしこれが、同じ人型でももっと巨大なモンスターだったら、

かなり被弾もしてしまうのだが、このサイズの敵相手だとほぼ問題は無いようだ。

そしてそんな連携を何度か繰り返していると、ついにボスは倒れた。

その後三人は周りに加勢し、順番に取り巻きを倒していった。

そしてついに、全ての敵の殲滅を終えた。

 

「これが、目的の品かな?」

「そうみたいだな。フォールンエルフの密書か」

「それじゃ、はい、キズメル、これ」

「ありがとう二人とも。これでフォールンエルフの計画の全貌が明らかになるだろう」

 

 無事クエストを終えた六人は、そのまま野営地に帰還した。

さすがにクエストクリアの報酬は破格で、数多くのお宝が手に入った。

かなり遅い時間だったので、その日も二人はそのまま野営地に宿泊する事にした。

 

 

 

 その日の夜遅く、ハチマンは人の気配を感じて目を覚ました。

インスタンスエリアのため、他のプレイヤーの可能性は無い。

おそらくキズメルだろうと当たりをつけ、ハチマンは声を掛けた。

 

「キズメルか?」

「ああ。夜遅くにすまない。少し話があってな」

 

 その会話でどうやらアスナも目を覚ましたようだ。

 

「あれ、キズメル?こんな時間にどうしたの?」

 

 明かりをつけると、そこにはフル装備のキズメルが立っていた。

 

「今日はお別れを言いにきた」

「お別れ?キズメルはどこかに行っちゃうの?」

「あの密書を調べた結果、フォールンエルフどもが、

あそこに見える天柱の塔を上ったところにある、

我らの聖堂を襲撃する計画を立てている事がわかったのだ」

「天柱の塔って」

「おそらく迷宮区だな」

「つまり、四層に行くって事なんだね」

「そこで、二人に渡しておくものがある」

 

 そう言ってキズメルは、秘鍵を二つ取り出し、ハチマンとアスナに渡した。

 

「その二つの鍵と、私の持つ一つの鍵。三つ揃わないと聖堂の扉を開く事は出来ない。

私は聖堂の前でハチマンとアスナが来るのを待っている」

 

 アスナはキズメルに抱きつき、

 

「うん。必ず行くから、だからまた必ず会おうね、キズメル」

 

 と言った。

ハチマンも、言葉短かに、

 

「必ず行く」

 

 と答えた。

キズメルはハチマンをじっと見つめていたが、突然ハチマンにハグをした。

 

「アスナの真似をしてみた。人族の慣習なのだろう?」

 

 そう言って、キズメルは去って行こうとしたが、

そのキズメルに、顔を赤くしていたハチマンが慌てて問いかけた。

 

「そうだキズメル。あの天柱の塔にいる、このフロアの主と戦う時、

何か気をつけないといけない事はあるか?」

「そうだな、ほとんど全てが毒の攻撃だと聞いている。他には特に無いな。

二人なら必ず倒せるだろう」

「……そうか、ありがとう、キズメル」

「ああ。二人と共にいるのはとても楽しかったぞ」

 

 そういい残して、キズメルはどこへともなく去っていった。

 

「また会えるよね」

「ああ。必ず次の層で再会しよう」

 

 二人は秘鍵に誓い、決意も新たに、その日は眠りにつく事にした。

 

 

 

 次の日二人は、鍛治屋に別れを告げに行った。

もしかしたら武器の強化でまたここに来る事になるかもしれないが、

それまでにリズベットが成長するかもしれない。

そう考えると、またここに来る保証は無かったためだ。

NPC相手だが、アスナはとても丁寧に頭を下げた。

 

「素晴らしい剣をありがとうございました。大切にします」

 

 そんなアスナの言葉に、鍛治屋は、フン、と言った後、一言付け加えた。

 

「その武器に負けない戦士になれよ」

 

 そういい残して、鍛治屋は奥に消えていった。

 

 

 

 そして二人は、本格的に街へと戻る事にした。まずアルゴに連絡をとると、

どうやら昨日のうちに、フィールドボスは退治されたようだ。

今日は、キャンペーンクエストを進めていたチームを集めての軽い会議があるらしい。

ハチマンは、アスナを帰らせ、自分だけその会議に出席する事にした。

 

 

 

 会議自体は何ともあっけなく終わった。

まずドラゴンナイツと解放隊のクエスト担当チームが、

これは予想通りだったが、何も情報は無かったという報告をした。

一堂は落胆したが、次の瞬間期待のこもった目でハチマンを見つめた。

ハチマンは気まずそうに、話し始めた。

 

「あー期待してもらってるみたいで悪いんだが、

やはりこっちにも、クエスト自体にはボス絡みの情報はまったく無かった」

 

 一堂はさらに落胆したが、ハチマンはそこにこう付け加えた。

 

「確かにクエスト自体には何も無かったんだが、

この前見ただろう、ダークエルフの女戦士から、少しだけ有益な情報は聞けた」

 

 一堂は顔を上げ、今度こそと期待のこもった目でハチマンを見つめたが、

 

「あー、ボスの攻撃はほとんどが毒攻撃だから、毒消しを大量に持っていくように。

後、他に特殊な攻撃は無いから、問題なく勝てるだろう、だそうだ」

 

 それを聞いた一堂は、

 

「それだけか……」

「いや、事前に準備できるならとても有効な情報じゃないか?」

「いやいやしかしな……」

 

 ハチマンは、伝えるべき事は伝えたとばかり、その場を後にした。

 

(おそらく明日から本格的な迷宮区の攻略が始まるだろう。

だが、キズメルの言葉の通り、案外あっけなく終わるのではないだろうか。

油断は決して出来ないが)

 

 

 

 ハチマンは予定通り、アスナ、キリト、ネズハとパーティを組み、

迷宮区の攻略、並びにボス戦に参加した。

今回のボス戦に参加したのは、ドラゴンナイツ十八人、解放隊十八人、

エギルチーム四人、そしてハチマンチームの四人の、計四十四人だった。

ボスは毒攻撃を頻発してきたが、豊富な毒消しの数の前にはほとんど意味がなく、

ハチマンの予想通り、第一層、第二層とは比べ物にならないくらいあっさりと、

第三層の攻略は終了したのだった。


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