ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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プログレッシヴではキリトとアスナが一緒に行動しているため
必然的に、ハチマンとアスナの行動に自由度を与えられないでいます
早く当初の構想に戻したいので、残るストックを消費して、
駆け足でプログレッシヴの範囲(三層、四層)の投稿をしてしまう事にしました
ちなみに第五層は先に繋げられないので、飛ばす予定でいます
今後とも宜しくお願いします





第024話 受け継がれるもの

 翌朝、再びキズメルがやってきた。

今日は女王蜘蛛の洞窟という場所で、女王蜘蛛と戦闘をするらしい。

女王蜘蛛は、誰かに操られているようで、ダークエルフを専門に狙っているのだという。

どうやら毒持ちのようで、毒消しを多めに持って行く事にした。

キズメルは、毒対策は問題がないようだった。

どうやら、何度でも使える解毒アイテムを持っているらしい。

 

「女王蜘蛛か……名前だけでも強そうだな……」

「まあキズメルも、強敵だけど大丈夫って言ってたし、大丈夫じゃないかな」

「そうだといいんだが。アスナは蜘蛛とか平気なのか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

(アスナって意外とこういうの平気っぽいんだよな……)

 

 三人は例によって敵をあっさり殲滅しながら目的地に向かっていった。

女王蜘蛛の洞窟らしきものが見えたあたりでハチマンは、

中からプレイヤーが数人走り出てくる気配を感じた。

 

(おそらくドラゴンナイツか解放隊のどちらかだと思うが、ちょっと隠れて様子を見るか。

まずい、もうそこまで来てるな)

 

 ハチマンはキズメルに隠れるように言い、アスナの手を引き、物陰に走りこんだ。

アスナが声を出そうとしたので、ハチマンは咄嗟に手でアスナの口を塞ごうとした。

結果的に後ろからアスナを抱いてしまう形となった。

 

「アスナ、あれ見ろあれ。誰か来る」

「んーんー」

「す、すまん」

 

 ハチマンは慌ててアスナを離し、謝罪したが、

今のは確実にハラスメントコードに引っかかっているはずだ。

だが予想に反してアスナがウィンドウを操作するそぶりは見えなかった。

 

(あれ、今のはセーフだったのか?慌てていたとはいえ、気をつけないとだ……)

 

「ハチマン君、誰か出てくるね」

「ああ。どうやらあれは……解放隊か?」

「あっ、キバオウさんもいるね」

「情報交換した方がいいと思うか?」

 

 アスナは、うーんという風に悩むそぶりを見せた。

 

「あんな化け物がいるなんて聞いてねえぞ!」

「目的の護符は手に入れたぞ!」

「よし、撤収や」

 

 どうやら彼らの会話を聞いている限り、二人とは内容が違っているようだ。

 

「なんか私達のやってるクエストと、内容が違うみたいだね」

「そうだな……やっぱりキズメルの存在のせいか、通常とは別物なのかもしれないな」

「まあ、ここはこのまま隠れてればいいんじゃないかな」

「そうするか……」

 

 開放隊の一行が立ち去った後、三人は洞窟の中に入った。

 

(化け物と戦って倒せって事になるのか……難易度上がってませんかねこれ……)

 

 女王蜘蛛は、とても巨大だった。

お尻の先から糸を出すから、それに気を付ける事。

目が光ったら口から毒を吐くから、くらったらすぐ毒消しを使う事、など。

三人は軽く打ち合わせをして、女王蜘蛛に攻撃を始めた。

 

 結果的に、討伐自体はキズメルの力が大きく、問題なく終わった。

序盤こそ蜘蛛の出す糸に苦しめられたが、

尻尾の先の糸を出す部分を切り落とす事に成功してからは、一方的な展開となった。

巣を調べ、四つ目の秘鍵を手にいれた時、再びキズメルの頭の上に【!】が表示された。

 

「また何かのクエストみたいだな」

「キズメルがいないと開始されないクエストなのかな?」

「ああ。多分そうだな」

 

 キズメルは、蜘蛛の巣の奥の方から、エルフの力を感じると言った。

三人が奥に進むと、そこには繭のようなものがあった。

 

「この中だ」

 

 キズメルの言葉に従い、二人が繭を切り裂いて中を見ると、

そこには青く輝く不思議な金属があった。

 

「エルヴンインゴット?」

「おお、なんかいいやつっぽいな」

「何がどうってわけじゃないんだけど、すごい惹かれる気がする……」

 

 アスナはその金属に魅せられたようだった。

 

「アスナ、以前言ってた武器の魂の継承を、その金属でやってみたらどうだ?」

「え、それは悪いよ。二人で見つけたんだし」

「俺達の戦闘スタイルだと、基本アタッカーはアスナだ。

アスナが強くなれば、俺達の安全度も格段に上がるんじゃないか?」

「そうなのかな」

「それにな、俺はこのクエストが始まる時、楽をしたくて、

無理に敵を倒そうとはしなかった。アスナが決めたおかげで、今これが手に入ったんだ」

「うん……わかった、ありがとう」

 

 三人は首尾よく目的を達成したため、そのまま野営地に戻った。

難易度のせいか、不思議とキャンペーン中だと思われるプレイヤーの姿を見る事は無かった。

今回初めて解放隊に遭遇したが、どうやら進めているのは数組しかいないようだ。

 

 

 

 野営地に戻ったハチマンとアスナは、キズメルに鍛治屋の場所を尋ねた。

 

「さっきのインゴットで新しい武器を作るのか。

実はこの前助けた友人も鍛治屋なんだが、ちょっと変わり者でな。

恐ろしく強い武器を打つ事もあれば、なまくらを打つ事もある。

普段営業している鍛治屋は、平均的にいい武器を打ってくれる。

どちらにも紹介できるが、どうする?」

 

(あれはこのフラグだったか……キズメルがいなかったら発生してなかったんだろうな)

 

「おい、アスナこれ……」

「うん。あの助けた人に頼もう。きっとそういう事なんだと思う」

 

 助けた鍛治屋のところに案内されると、その鍛治屋はこちらをぎろっと見て、言った。

 

「フン、この前は助かったぜ。ありがとな」

「今日は武器の製作をお願いしたいんです。材料はこの剣とこの金属で。

プロパティはスピードタイプで」

 

 そう言うとアスナは、別れをおしむようにウィンドフルーレを撫でると、

両手で大切そうに差し出した。

ハチマンは、鍛治屋が、フンとでも言うのかと思って見ていたが、

予想に反してその鍛治屋は、とても丁寧にそれを扱った。

そしてウィンドフルーレをインゴットにして、

エルヴンインゴットとそのインゴットを一つの金属に変えた。

通常、SAOでの武器製作は、決まったレシピで決まった武器が出来るわけではなく、

基本ランダムに生成される。その際叩いた回数で、武器の強さが決まる。

平均で二十五回といったところだ。つまり、元の金属の性能からして、

二十五回を超えれば問題なく前の武器より強い武器が完成する。

 

「ハチマン、アスナの左手を握れ。私は右手を握る」

 

 キズメルが突然、こんな事を言い出した。

キズメルの説明だと、強い気持ちが強い武器を産む。

三人分あわされば、きっととても強い武器が出来るに違いないとの事だ。

ハチマンが躊躇う間もなく、アスナが真剣な顔で、二人の手を握った。

そして武器製作が始まった。ハンマーが金属を叩く音だけが辺りに響く。

十回、十五回、二十回。そしてついに、目標の二十五回を超えた。

まだ武器が生成される気配はない。ハチマンの手を握るアスナの手に、力がこもった。

つられてハチマンも、しっかりと手に力をこめた。

三人が固唾を飲んで見守る中、さらに数える事、合計四十回。インゴットが眩い光を放ち、

ついにアスナの新しい武器が、その姿を現した。

 

「……いい剣だ。魂がこもってる」

 

 鍛治屋は感嘆したようにそう言い、アスナに剣を渡してきた。

 

「すごい……」

「ああ。これはすごいな……」

「これはすごい業物だな。おめでとう、アスナ」

 

 キズメルも感嘆しているようだ。ハチマンは、武器の性能を見て驚愕した。

 

(なんだこれ……四層どころか六層くらいまで使えるんじゃないのか……

それにこの強化可能回数、十五回?どのくらい強くなるのかまったく底が見えないぞ)

 

「シバルリック・レイピア……」

 

 アスナは武器の名前を呟き、構えをとると《リニアー》を放ってみた。

それはまさに、閃光が走ったとしか言えない迫力に満ちていた。

 

「気に入ったか、アスナ」

「うん、ありがとうハチマン君。ありがとう、キズメル」

 

 そしてアスナは鍛治屋にとても丁寧に頭を下げた。

今度こそ、フン、と一言だけ発した鍛治屋は、自分の仕事に戻っていった。

 

 

 

 蜘蛛討伐の報告を終えると、どうやら次のクエストの開始はしばらく後のようだった。

それまでは、武器を強化するための素材を集めようという事になり、

キズメルの的確な案内と、クエスト報酬の素材を有効に使い、

シバルリック・レイピアを、五段階強化する事に成功した。

驚いた事に、キズメルのレベルも上がるらしい。

ハチマンが気付いた時には、キズメルのレベルは最初に会った時より一つ上がっていた。

 

「しかしやっぱりすごいなその武器。攻撃力だけでもキリト並なんじゃないか?」

「キリト君も絶対強くなってるから、そこまではどうかな」

「そういえばずっと篭りきりで、誰にも連絡してなかったな。ちょっとまずいか?」

「そうだね、心配かけちゃってるかもしれないから、一度街に戻ろうか」

「ああ。それじゃ……ちょっと待て、何かいい争ってる声がする。

様子を見てくるからアスナとキズメルはここで待っててくれ」

「わかった」

 

 ハチマンは、慎重に隠密スキルを使いながら、その声の方へと進んでいった。


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