ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第022話 キャンペーンクエスト

 攻略も無事終了し、一行はリンドの提案で全員で第三層へと向かう事となった。

仲間意識を強調したかったのであろう。

ネズハは仲間達と何事か話しながら手を取り合っているようだ。

 

「レジェンドオブブレイブス、続けるみたいだな」

「そうみたいだね。うん、良かったね」

「まあ、悪くはないな」

 

 三人も第三層へと続く階段へと向かおうとしたが、

そこへしばらく黙っていたキバオウが近づいてきた。キバオウは、ハチマンとアスナには、

 

「おおきに」

 

 と短く声をかけた。そしてキリトに対しては中々声をかけられないようであったが、結局、

 

「次もこき使うたる」

 

 とだけ言い残して、仲間達と共に階段を上っていった。

 

「次もちゃんと来いってさ」

「らしいな」

「なら次も頑張らなきゃね」

 

 そこへ、今度はネズハが走ってきた。

ネズハはまず頭を下げ、今度は僕が仲間を支えてみせますと言って微笑んだ。

三人は応援し、ネズハは仲間の元へと戻っていった。

第三層への長い階段を上り始めたその後ろに、いつの間にかアルゴがいた。

 

「ハー坊、最後はうまくまとめたよナ」

「俺は自分のやれる事を、効率よくやっただけだぞ」

「ハチマンがいなかったら今回は相当やばかったと思うけどな」

「まあハチマン君らしいけどね」

「相変わらず自己評価が低いんだよナ……」

「ばっかやろう、お前らの俺に対する評価が高すぎんだよ」

 

 そしてついに第三層へと到着した一行が見たものは、一面に広がる森であった。

 

「辺り一面ひたすら森か……」

「そしてあそこに見えるのが、第三層の主街区、ズムフトだナ」

「とりあえず俺は休みたい……さすがに疲れた……」

「私も安心したからか、どっと疲れが……」

「二人はオレっちのせいで二日近くほとんど休まずに走らせちまったからナ」

 

 ハチマンとアスナはへたり込み、ネズハも糸が切れたかのように座り込んだ。

ネズハの消耗が一番激しかったので、キリトは肩を貸し、

ブレイブスのメンバーが集まっている方へとネズハを連れていった。

 

「それじゃ俺達も最後の一踏ん張りといきますかね」

 

 リンドとキバオウに転移門をアクティベートしてもらい、一行は家路についた。

キリトは第二層の宿へと向かい、

ハチマンとアスナは第一層の、二人がいつも使っている宿へと向かった。

アルゴは二人に報酬の一部だナ、と言って第三層のガイドブックを渡して、

どこへともなく去っていった。

 

「アスナ、風呂で寝ないようにな」

「うん……あんまり自信はないかな」

「本当に気を付けてくれ」

 

 ハチマンはアスナを宿へと送り届けた後、

自分の宿に辿り着いた瞬間ベッドへと倒れ込み、そのまま眠りについた。

 

 

 

 次の日昼過ぎまで、ハチマンは起き上がる事ができなかった。

起き上がりたくないという気持ちも相当強かったようである。

確かにSAOに囚われてからのハチマンは、働きすぎかもしれない。

 

「ここで一生分の労働意欲を使い果たしちまうかもしれないな……」

 

 ハチマンは寝直そうとしたが、アスナからのメッセージが来ている事に気が付いた。

メッセージには、今日は休みにするとしても、

ちょっとだけガイドブックを見ながら話さないかとの提案が書いてあった。

まあすぐ近くだし構わないかと思い、ハチマンは承諾の旨をメッセージにしたため、

返事を確認後、起き上がって準備をはじめた。

 

 

 

 ハチマンがアスナの宿に着くと、アスナはガイドブックを取り出し、話し始めた。

 

「ちょっとリズと一緒にズムフトにいって、軽く見回ってきたんだけどね」

「元気だな……」

「途中でキリト君とネズハ君に会ってね、それでちょっと話したんだよね」

「ネズハも俺より疲れてたはずなのに元気だな……」

「そしたら、ガイドブックに書いてあるこれ、

このキャンペーンクエストってのを二人でやりにいくんだって」

「これか……報酬も良さそうだし、難易度は高そうだがやってみてもいいんじゃないか」

「うん、私もそう思ったんだよね。明日あたり行ってみない?」

「そうだな……俺としてはその前にまず、森での戦闘をもうちょっとやってみたいな。

明日はリズベットを連れてこの層の敵や地形に慣れるためにレベル上げにして、

そのキャンペーンは明後日からってのはどうだ?」

「確かに私達、前の層の最後は走り回ってただけだしね。

それじゃ、そうしよっか!リズには私から聞いてみるね」

「ああ、頼む。それじゃ俺はもうちょっと寝てくる」

「うん!それじゃ後で連絡入れとくね」

「おう、頼むわ」

 

 

 

 次の日は、三人で移動狩りをしながら森での注意点を話し合っていった。

 

「視界が狭くなってるせいか、奇襲されないように余計に気をつけないといけないな」

「ハンマーもちょっと振りにくいなぁ」

「私も咄嗟に振り向いたりとか厳しいかも」

「基本広場みたいなところを拠点にしないとだめだなこれは」

 

 三人は移動しながら更に狩りを続け、ある程度満足した結果も得られたため、

その日の戦闘は終わる事にした。

 

「明日は私達は、

ガイドブックに載ってるキャンペーンクエストってのをやってみようと思ってるんだけど、

リズはどうする?良かったら一緒にやらない?」

「うーん必要そうなレベルに全然届いてないし、私は遠慮しておこうかな」

「そっか、わかった」

「二人とも気を付けてね」

「ああ。それじゃまたな、二人とも」

 

 

 

 そしてキャンペーンシナリオ開始当日、二人は開始予定地へと向かっていた。

 

「クエスト開始地点は、迷い霧の森ってとこらしいね」

「霧で方向感覚がおかしくなるのか。気をつけないとな」

「キリト君の話だと、まず最初フォレストエルフとダークエルフの人が争ってるんだって。

で、私達が介入する事になるんだけど、どっちもすごい強くて、

私達じゃとてもかなわないんだって」

「おいアスナそれ、こっちのHPが全損する可能性もあるって事か?」

「私も気になって聞いたんだけど、私達どっちかのHPゲージが半分になった瞬間、

味方した方の人が奇跡の力で相手を倒してくれて、そのまま自分も死んじゃうんだって」

「なるほどな。結局どっちも死ぬんだな……」

「うん。それで味方した方のシナリオで固定されて、

ドロップしたアイテムを、加担した方のエルフ族の拠点に届けるらしいね」

「どっちの味方をするかでどんな差があるんだろうな」

「どうなんだろうね」

 

 結局どっちの味方をするかはその場に着いたらという事になり、

アスナも、それでいいんじゃないかなと同意した。

二人は迷い霧の森の力に惑わされ、何度も迷いつつも、ついに目的地らしき場所を見つけた。

 

「ハチマン君、あれじゃない?」

「そうみたいだな。いくか」

 

 目的地に着くと話に聞いていた通り、

頭の上にクエスト開始マークである【!】が表示された二人のNPCが争っていた。

フォレストエルフは男で、ダークエルフは……女だった。

 

「ハチマン君」

「ダークエルフの味方をしたいんだろ?俺もこの状況で男の味方をするのはちょっとな」

「ありがとう」

 

 二人が飛び出すと、NPCの頭上のマークが、進行中を示す【?】に変化した。

 

「人族がこんな森の中にいるとは!」

「そなたたち何者だ!」

 

 二人は黙ってダークエルフに背中を向け、フォレストエルフに武器を向けた。

フォレストエルフのカーソルは、恐ろしく黒に近い赤だった。

敵のカーソルは、自分から見て弱い敵ほど明るい色で表示される。

これほどまでに黒くみえるカーソルの敵には、通常どうやってもかなわない。

 

「貴様ら、ダークエルフ族の味方をするか!お前らも我が剣の錆にしてくれる!」

「錆になるのはあなたよ、このDV野郎!」

 

(あっれ~アスナさん目茶目茶熱くなってませんかね……)

 

「お、おい、アスナ。防御主体な、防御主体」

「わかってるよハチマン君。防御主体で絶対に倒す」

 

(まじか~本気でやるしかないか……さぼったら絶対後で怒られる……

まあ聞いた感じからして、こっちはすぐにやられちまうと思うが)

 

 

 

 そして十数分後………二人の目の前で、フォレストエルフが、光となって、消えた。

 

「まじか……なんか倒せちまった……」

「さすがは対人型モンスター特化のハチマン君だね」

「いや、そりゃもう必死でしたからね……」

「お二人のご協力に感謝する」

 

 突然声を掛けられた二人は振り向き、その声の主を見た。

頭の上のマークは【?】のままで、どうやら無事クエストは進行しているようだ。

カーソルの色は、味方NPCを表す黄色に変化していた。

 

「私の名はキズメル。そなたらのおかげで、秘鍵を守る事ができた」

 

その声の主はキズメルと名乗った。

キズメルは、フォレストエルフが倒れた場所に落ちていた布袋を大切そうにを拾い、

それを胸にかき抱いた後、そっと呟いた。

 

「これで一先ず聖堂は守られた」

 

 その瞳は、色々な感情を秘めているように見えた。

 

「改めて感謝する。我らが司令からも褒章があろう。是非我らの野営地まで同行して欲しい」

「それじゃお言葉に甘えます」

「あ、アスナ、NPCにはYESかNOかを明確に言わないと……」

「わかった。それでは案内しよう。着いてきてくれ」

 

 アスナの答えを聞き、ハチマンは訂正をしようとしたのだが、

驚いた事にキズメルは、アスナの言葉を正確に理解したらしい。

二人はキズメルによって、ダークエルフの野営地まで案内される事となった。

同時にパーティメンバーの加入を告げるメッセージが表示され、

キズメルが、パーティメンバーとなった。

二人は、キズメルがプレイヤーとまったく区別がつかない事に驚いていた。

 

「ハチマン君。私詳しくないからわからないんだけど、これってプログラムで動いてるの?」

「俺も驚いてるんだが……まるで高性能のAIみたいだな。というかそうとしか思えん」

「すごいね……まるで普通の人みたいだよ」

 

 どうやらダークエルフは迷いの霧の森の中を普通に歩けるようだ。

出てくる敵は片っ端からキズメルが一刀両断し、

三人はあっという間にダークエルフの野営地に到着した。


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