ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/02/18 句読点や細かい部分を修正


第198話 私はあんたを信用出来ない

「ねぇシャナ、勢いで何となく乗っちゃったけど、これってどういうメンバーなの?

何でこんなに女の子が多いの?まるであんたのハーレムじゃない」

「その言い方だと、お前もそのハーレムの一員だって事になるからな」

「あんたね、勝手に私をあんたのハーレムメンバー扱いするんじゃないわよ」

「お前が今、自分で言ったんだろうが……」

 

 シャナは、話にならないという風に、ため息をつきながら言った。

ちなみに席順は、運転席ににシャナ、助手席にシズカ、

後部座席は、左からピトフーイ、ベンケイ、シノンの順であった。

ちなみにこのハンヴィーは、ここが日本サーバーという事もあり、右ハンドルである。

 

「とりあえず、これはどういう関係の集まりなのかだけ教えてくれない?」

「そうだな、しばらく行動を共にする事になった訳だし、自己紹介でもしておくか」

 

 シャナにそう促され、助手席に座っていたシズカが後ろへ振り返り、シノンに挨拶した。

 

「私はシズカ、シズって呼んでね。さっき言った通り、今日始めたてほやほやの新人だよ!」

 

 シズカはそのきつく見える外見には似合わず、随分と柔らかい性格のようだ。

シノンはそう思いながらも、シズカにシャナとの関係を聞いた。

 

「二人はどういう関係なの?」

「えっと、その……し、将来を誓い合った仲?」

 

 さすがのシズカも、身内以外に対して正妻宣言をするのははばかられたらしく、

いつもより婉曲な表現で、そう言った。

シノンはその意味を理解すると、確認するようにシズカに尋ねた。

 

「ふ、二人は恋人同士なんだ……」

 

 ちなみにその自分の声に、少し残念そうな響きが混じっていた事には、

シノン自身はまったく気付いていなかった。

 

「当然大人の関係だよ!」

「おっ……大人……?」

 

 ピトフーイがそう混ぜっ返し、シノンは何かを想像したのか、顔を赤くして俯いた。

 

「おいピト、余計な事を言うな」

「え~?私、そういうのを当てるのには自信があるんだけどなぁ」

「いいから黙れ」

「はぁい」

 

 そして次にシャナは、シノンと同じように、

実はさっきから顔を赤くして俯いていたシズカに言った。

 

「シズカも、もっとポーカーフェイスを身に付けような。その、俺も恥ずかしいから……」

 

 そのシャナの声が、とても優しい声だったので、

シノンは、やっぱりそうなんだと思いながらも、少し面白くないという表情をした。

当然本人は気付いていない。ピトフーイは、自分に対してとはまったく違う、

そのシャナの態度に拗ねたのか、プイッと横を向いた。

 

「次は私の番だね!私はベンケイ!ケイって呼んでね、同じく新人だよ!

え~っと、シャナとの関係は……いも……ん~……一緒に暮らしてる仲?」

 

 それを聞いたシノンは、やっぱり、という顔で、シャナの顔を睨んだ。

 

「あんたね……」

「違う、ケイは俺の妹だ」

「えっ、妹?」

「シャナ、言っちゃっていいの?」

 

 ベンケイは、普段は身内と言うばかりで、

シャナが一度も自分の事を妹だと言った事が無かった為、

その表現は使わないように気を遣っていたのだった。

もっとも一緒に暮らしているという表現が、適切だったかどうかは別問題である。

 

「まあ、この二人が相手なら、別にいいだろ」

 

 それを聞いたピトフーイは、すぐに機嫌を直し、シノンも信用された事を嬉しく感じた。

 

「まあシャナがそう言うんなら改めて、シャナの妹のベンケイです!

お二人とも、宜しくお願いしますね!」

 

 ベンケイは、シャナのお許しが出たと思ったのか、慣れない口調から、

普段通りの妹感に溢れる話し方に戻す事にしたようだ。

 

「おお、ケイ!我が妹!」

 

 ピトフーイは、ベンケイがシャナの妹だと知ると、外堀を埋めるつもりなのか、

ベンケイに笑顔を向けながら、いきなり抱き付いた。

 

「おい、ケイは確かに俺の自慢の妹であり、もはや世界の妹と呼べる存在かもしれないが、

それでもピト、お前に妹と呼ばれる筋合いはまったく無い。さっさとケイから離れろ」

「お兄ちゃん、シスコンぽい。って言うか、はっきり言って気持ち悪い」

「うっ……」

 

 思わず素に戻って放たれたベンケイの言葉に、シャナは落ち込んだ。

 

「それにピトも、私の関心を買おうとしても無駄です。

最近のお兄ちゃんは、何故かグレードの高い方々にモテまくっているから、

ピトがそれを望むなら、それらのライバルを、全て倒さなくてはいけないのです」

「えっ?他にも私の知らない強敵が?具体的には?」

「具体的、ですか……」

 

 ベンケイは、少し考えながら、いくつかの名前を羅列した。

 

「えっと、シズは言うまでもなく、氷の女王に獄炎の女王、

ゆ……え~っと、て、鉄壁の胸と……あざと会長と……あ、多分ロザリアさんもそうか……」

「お前、鉄壁の胸って何だよ……」

 

 シャナは呆れた顔でベンケイに言った。

それに対してベンケイは、顔を赤くして反論した。

 

「だって、他に表現が!」

「お、おう、まあ、あいつには二つ名がついてる訳じゃないからな」

「そんなにライバルがいるの……?」

「他にも多分、何人かいますけどね。あ、肝心な人を忘れてた!」

 

 ベンケイは、周りに誰もいないのを確認するように、

きょろきょろと辺りを見回してから、その名前を言った。

 

「魔王」

「魔王きたああああああああ!」

 

 ピトフーイは、興奮ぎみに、そう叫んだ。

 

「魔王を知ってるんですか?」

「あ、うん、存在はね。シャナに聞いた~!」

 

 ピトフーイがそう答えると、シズカとベンケイは、シャナをジト目で見つめた。

 

「……これは、魔王に報告の必要があるかな?」

「ですね……」

「お、おい馬鹿やめろ、早まるな、話せば分かる」

 

 尚も二人のジト目が止まらなかった為、シャナは汗をだらだらとたらしながら、

二人の顔色を伺うように、自分から言った。

 

「ケ、ケーキ食べ放題でいい、です……か?」

 

 それを聞いた二人は、途端に喜色満面な顔で言った。

 

「今、私は何も聞きませんでした」

「うん、今ここでは、何もありませんでした」

「あ、ありがとな……」

「あはははははは」

 

 いきなり笑い声が聞こえ、残りの四人は、その笑い声の主を見た。

その主は、今まで静かにしていたシノンだった。

シノンは、ベンケイが何人もの名前を羅列していた辺りでは、

呆れたような目でシャナを見つめていたのだが、

今のやり取りを聞いた瞬間、どうやら笑いを堪えきれなくなったようだった。

 

「あ、あんた達、いつもそんな漫才みたいな会話をしてるの?」

「失礼な」

 

 シャナは真顔でシノンに言った。

 

「たまにだ」

「あはははははは、たまにって、十分多いわよ。後、あんたモテすぎ」

 

 シノンは普段、こういう風に笑う事はほとんど無い。

GGOを始めてからもそれは同じだった。

シノンは本当に久しぶりに、心の底から笑う事が出来た自分に、少し驚いていた。

それと同時にシノンは、成り行きとはいえ、

もう少しこのメンバーに付き合ってみるのも悪くないかな、と思った。

そんなシノンを見て、ピトフーイが言った。

 

「オーケーオーケー、今度シャナのおごりで、ここにいる全員でケーキ屋さんに行こう!」

「何をいきなり訳の分からない事を言ってるんだよ、ピト」

「私は別に構わないけど?」

「私もです!」

 

 シャナがピトフーイのリアルを知っているような事を言っていたのを、

先ほどの会話で聞いていたシズカとベンケイは、即座にそれに同意した。

シノンは、すぐにはその意見に同意する事は出来なかった。

それも当然だろう、ゲームの中でリアルを晒すような事をするのは、とてもリスクが高い。

どれだけシャナを信頼しているのか、即決出来るシズカとベンケイがおかしいのだ。

このメンバーならリアルでも会ってみてもいいかなと、シノンは思わないでも無かったが、

それには一つ、大きな問題があった。ピトフーイの存在である。

 

「……ねぇピト、あんたさ、はっきり言って、評判最悪よね」

「いきなり何?ハッキリ言うなぁ、シノノン」

 

 いきなりそんな愛称まがいの呼び方をされ、シノンは驚き、ピトフーイに聞き返した。

 

「シ、シノノン?」

「うん、シノノン、かわいいでしょ?」

「まあ、かわいく無くは無いけど……」

 

 シノンは、とことんフレンドリーな、今のピトフーイに戸惑っていた。

あまりにも聞いた噂と違うのだ。

 

「ねぇピト、あんた、以前知らない人と狩りに出かけて、やばいモブが出てきた時、

その仲間を盾にして自分だけ逃げたりした?」

「うん!」

「気に入らない事を言ったプレイヤーを、笑いながら銃で射殺したりした?」

「うん!」

「やっぱりピトは、あのピトフーイなんだ……」

「ピトフーイなんて名前のプレイヤー、私しかいないでしょ。毒鳥だよ、毒鳥!」

「だよね……」

 

 シノンは、やはりという思いで、そのピトフーイの言葉を聞いた。

 

「ピトって、そんな事をしてたんだ……」

「まさに悪って感じですね!」

「みんなと一緒の時は、絶対にしないけどね!」

 

 シノンは、二人にそう笑顔で答えるピトフーイの姿を見て、

そのギャップに苦しみつつも、はっきりとピトフーイに言った。

 

「短い付き合いだけど、あんた達と一緒にいるのも、正直悪くないなって思った。

だから正体を明かさないって条件で、ケーキ屋に行くのもまあ、有りかなって思う。

シャナ以外は全員女の子だしね。だけどやっぱり私は、あんたを信用しきれないよ、ピト」

「まあそうだよね。でもシャナがいる限り、それは無いから安心していいよ、シノノン」

「シャナがいる限り?」

 

 シノンはそれが何の保証になるのかと首を傾げた。

影でピトフーイが何かをしても、シャナには分からない。

そんなシノンに、ピトフーイは自己紹介を始めた。

 

「まだ自己紹介の途中だったね。私はピトフーイ、ピトって呼んでね。

趣味は気に入らない奴を罠にはめる事、特技は気に入らない奴を殺す事。

そんな私はシャナの下僕一号です!」

 

 ロザリアがいたら怒り出しそうな事を、ピトフーイは平気で言った。

ロザリアは今はいないのだから、言った物勝ちだと判断したのだろう。

それを聞いたシノンは、再びシャナをジト目で見ながら言った。

 

「下僕って……あんた、やっぱり……」

「あ、違うよシノノン、そうじゃない、シャナは何もしてない。

私が勝手にシャナの下に押し掛けただけだよ」

「え、そうなの?」

「うん、シャナの事が気に入っちゃったの。これはもう好きって言ってもいいよ!

ただし、シズがシャナの一番で、私はあくまで下僕だけどね!」

「何それ……」

 

 シノンは、呆れた顔で、シャナに言った。

 

「あんた、これって一体どうなってるの……?」

「仕方ないだろ、聞いた通り、俺の冗談を真に受けて、一方的に押し掛けてきたんだよ。

こいつは下僕の癖に、その事については、俺が何を言っても言う事を聞かないんだよ」

「押し掛けられた、ねぇ……まあそういう事にしておいてあげるけど、

でもそれって、別にリアルで会っても問題がない理由にはならないんじゃない?」

「あ、シノノン、それは心配無用だよ」

 

 ピトフーイはシノンにニヤリと笑いかけると、次に堂々と宣言した。

 

「私、車の運転免許証のコピーを、自発的にシャナに渡してあるの。

だから、私を煮るも焼くも犯すも……あっごめんなさいシズ、冗談、

冗談だから、叩かないで!えっとつまり、私のリアルは完全にシャナに支配されてるの!

だからシャナが、シノノンに迷惑をかけるなって言ったら、私はそれを忠実に守るよ!」

 

 それはこの日一番の、ピトフーイのカミングアウトであった。


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