ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/02/18 句読点や細かい部分を修正


第195話 本当の姉妹のように

 八幡が神崎エルザと会った日の朝、明日奈と小町は、

雪ノ下家の陽乃の下に、三人で集まっていた。人呼んで、比企谷家の魔王女子会である。

ちなみに他称ではなく、陽乃の自称である。何故こんな呼び方をしているかというと、

事あるごとに八幡が、陽乃の事を魔王呼ばわりする為、陽乃が少し拗ねて、

八幡への当てつけとして付けた名称なのであった。

 

「で、私を訪ねてくるなんて、二人とも今日はどうしたの?」

「あ、えっと、姉さんにちょっと聞きたい事があって」

「ですです、陽乃姉さんは、銃での戦い方のコツとか、

銃を持って戦う上での必須技能とか、知ってたりしませんかね?」

 

 それを聞いた陽乃は、即座に近くに控えていた都築に声を掛けた。

 

「都築、至急病院を手配して!救急セット、救急セットはどこ!?」

「わ!待って下さい、私達どこもおかしくないですから!」

「都築さん、待って!何でもないですから!誰か姉さんを止めて~!」

 

 ……というドタバタがあったのだが、とりあえず落ち着いた陽乃は、

詳しい事情を二人から聞く事にした。といっても、八幡に実弾演習をさせたくらいなので、

陽乃が薄々事情を分かっていたのは間違いない。

が、当然二人に実弾演習をさせるつもりは無く、様式美として都築に振っただけであった。

しかしまあ、八幡から二人の事を相談された訳では無かった為、

陽乃は、とりあえず二人から事情聴取をする事にした。

 

「なるほどね、それで二人は、八幡君の足を出来るだけ引っ張らないように、

事前に何か出来る事は無いかと思って、私に相談に来た訳ね」

「うん、姉さん、何かアドバイスとか無いかな?」

「これは出来た方がいい、とか、一般人でも出来るレベルで何か無いですかね?」

「そうねぇ……」

 

 陽乃は何かを考えるそぶりを見せた後、おもむろにスマホを操作しだした。

 

「銃を持って戦場を駆けるゲームなんだよね?それなら例えばこういうのとか」

 

 そう言って陽乃が見せたのは、懸垂降下の動画であった。

 

「あ、これ、知ってる!」

「ビルの上からロープを使って、ト~ント~ンって、壁を蹴って降りる奴ですね」

「あと、それの別バージョンがこれ」

「え、何これ?無理無理無理!」

「お、お義姉ちゃん、この人達、向きが逆だよ!地面に向かって壁を走ってるよ!」

「別に現実でこれをやれなんて、さすがの私も言わないわよ?」

 

 陽乃は二人のテンパりぶりを見て、笑いながらそう言った。

 

「ALOで練習すればいいのよ」

「あっ!」

「なるほど!」

「いい?二人とも、そもそもVR技術ってのは、

そういう方面で活用するのが本来のあるべき姿なのよ。という訳で、今から特訓よ!」

「お~!」

「やりますか!」

 

 こうして二人は、ナーブギアとアミュスフィアを取りに一旦家に戻り、

その後再び雪ノ下家に向かうと、三人でALOへとログインした。

 

「さて、それじゃあ最初は壁に立つ事から始めましょう。

ポイントは恐怖心を無くす事よ。落ちそうになったら飛べばいいんだしね」

「ソレイユさん、これ、やっぱり最初はちょっと怖いね」

「ちなみにこれ、ハチマン君は出来るわよ」

「えっ?本当に?」

「実は前に、一人で練習してる所を見ちゃったんだよね」

 

 そう言った陽乃は、その時の事を思い出していた。

 

 

 

「……ねぇ、さっきから一人で何やってるの?」

「えっと、自衛隊に入ろうと思って」

「な、に、を、や、っ、て、る、の、?」

「えっと、懸垂降下って奴ですね。ロープを使って崖とかを素早く降ります」

「……それ、何かの役にたつの?」

「まあ、多分」

「ふ~ん」

 

 そう言って黙々と練習に励むハチマンを、ソレイユは、飽きもせず見つめていた。

時には素人考えながら、アドバイスをしたり、足をすべらせたハチマンを笑ったり、

珍しく二人きりの、そんな貴重な時間が、ソレイユにとってはとても楽しかった。

そしてついにハチマンが、その技術を完全に習得した時、

ソレイユはその事が我が事のように嬉しかった。

そして今、二人の妹が同じ事に挑戦しようとしている。

ソレイユは、出来るだけ二人の力になろうと、

ハチマンの時に聞いたコツや力加減等を、惜しみなく二人に教えていた。

 

「姉さん、出来た!」

「コマチも出来ました!」

「え……は、早くない?ハチマン君は半日くらいかかってたけど」

 

 二人はその技術を、三時間ほどで会得していた。

考えてみれば、ソレイユがハチマンから聞いた情報を伝えていた訳で、

度胸さえあれば、それだけ習得も早くなる道理である。

 

「姉さん、他に何か、持っていた方がいいっていう技術って無いかな?」

「そうねぇ……ちょっと都築に聞いてみるわ。彼、軍人上がりだから。

と言っても、元傭兵ってだけなんだけどね」

「ええええええええええ」

「まじですか!」

 

 二人もこれには、さすがに驚きを隠せなかったようだ。

まさか身近に、そんな過去を持つ人がいるなどとは普通思わない。

ここは平和な日本なのだ。その時陽乃が、いきなり何かを思い出したのか、あっ、と叫んだ。

 

「そういえば、先日都築とハチマン君が、二人でコソコソしていたような……」

「も、もしかしてハチマン君も、都築さんの教えを受けた可能性が?」

「お兄ちゃんって、確か免許を取る時、都築さんに教わってましたよね?

その時に都築さんから、昔傭兵をやってたって聞いたのかも?」

「ありうるわね。二人とも、一旦ログアウトするわよ」

「うん!」

「了解です!」

 

 そしてログアウトした三人は、都築に話を聞く事になった。

 

 

 

「はい、確かに八幡君には、そのような指導をしました」

「やっぱり!お兄ちゃんめ……」

「都築さん、是非私達にも、同じような指導をお願いします!」

「指導……ですか。私は基本的な事を教えただけなんですけどねぇ」

「そうなんですか?それじゃあ一体八幡君には何を?」

「屋内への突入の仕方とか、懸垂降下のやり方、後、様々な乗り物の運転方法、

フリークライミング、その場にある適当な物を使っての防御陣地の構築、

後は、常に正しい射撃体勢をとる事、等でしょうか」

 

 都築にそう教えられると、二人は、どうすればいいか悩み始めた。

どう見ても、運転技術の習得等は時間が足りそうになく、

フリークライミングをやるには、基本的な筋力が足りそうにない。

その事を伝えると、都築は笑いながら言った。

 

「お二人は、もっとゲーム的なアプローチを考えた方がいいと思いますよ。

例えば運転、これは交通ルール等は覚える必要が無く、ただ動かせればいいんです。

ゲームの中に、信号があったり歩行者がいる訳では無いですからね。

逆に敵なら、車やバイクで轢いてしまっても何の問題も無いはずです。

それにフリークライミングは、高さ三メートルくらいの所で練習すればいいんですよ。

ゲーム内では疲労もしませんし、力だって、現実よりはよほどあるでしょう?

だから、コツさえ掴めば問題ありませんよ」

「あっ!」

「そっか、確かにそうですね」

 

 都築は、それなら自分達にも出来そうだと、盛り上がる二人を見て、

穏やかな眼差しを見せると、笑顔で言った。

 

「後は、常に正しい射撃姿勢をとれる事にするくらいでしょうか。

そんな感じで良ければ、私が指導致しますが」

「はい、お願いします!」

「宜しくお願いします!」

「それじゃあ、今日一日一緒に頑張りましょう」

 

 こうして二人は様々な技術の習得を目指し、都築の指導を受けた。

モデルガンを持ち、障害物のあるコースを走る、走る、走る。

都築が笛を鳴らしたら、即座に射撃体勢をとる。

その都度、そのままの体制で停止し、正しい姿勢がとれているかチェックしてもらう。

雪ノ下家の敷地内で、車やバイクを運転する。これなら免許も必要無い。

唯一問題だったのは、車がオートマ車しか無かった事なのだが、

これは機会があったらマニュアル操作を学んでおいた方がいいとアドバイスされた。

そして二人は調子に乗って、モーターボートの操作方法まで座学で学んだ。

さすがに雪ノ下家の敷地とはいえ、ボートを操縦出来るような水場は存在しない。

離れを使い、突入の訓練をする。そのついでに二人は、

八幡も知っているからと聞き、ハンドサインも覚える事にしたようだ。

防御陣地の組み方については、さすがにいい素材が家の敷地内に転がっているはずもなく、

とりあえず座学を受けただけだった。ついでに基本的な銃の扱い方も、一緒に教わった。

こうして二人は、GGOにおけるスキル外スキルを、着実に習得していった。

もっとも本来、若い女の子が習得する必要のあるような技術では無いのだが、

二人は八幡の足を引っ張りたくないとの一心で、頑張ってメニューをこなした。

そして日が暮れ、ついにレッスンの終わりの時が来た。

 

「「都築さん、今日はありがとうございました!」」

 

 仲良く頭を下げた二人に、都築はにこやかに言った。

 

「お二人とも、ゲームなんですから、楽しんできて下さいね」

「はい!」

「本当にありがとうございました!」

 

 二人は改めて都築にお礼を言い、見学していた陽乃のはからいで、

疲れを癒す為に雪ノ下家のお風呂に入る事になった。

 

「うわぁ、大きいお風呂」

「お義姉ちゃん、運動した後に入るお風呂っていいよね!」

「もう手も足もパンパンだよ」

「でも、ちょっと痩せたかも」

「あっ、そういえばそうかも。やったね!」

 

 大きいお風呂に感動しながら喜び合う二人の下に、少し遅れて陽乃も合流した。

 

「二人とも、今日はお疲れ様」

「陽乃姉さん、今日はありがとうございました!」

「そういえば、姉さんは、雪乃と一緒にお風呂に入ったりはしないの?」

「う~ん、小さい頃はよく一緒に入って、背中の流しっこをしたりしてたんだけどね、

中学生になった頃から、あんまり一緒には入らなくなっちゃったなぁ」

 

 少し残念そうにそう語る陽乃を見て、明日奈は言った。

 

「それじゃあ今日は、私が姉さんの背中を流すよ!」

「じゃあ私が、お義姉ちゃんの背中を流すね」

「それじゃあ三人で並びましょうか」

 

 こうして三人は、並んで背中を洗い始めた。

明日奈は後ろから陽乃の胸を見ながら、少し羨ましそうに言った。

 

「やっぱり姉さん、胸が大きいなぁ……」

「お義姉ちゃんだって、十分けしからん胸をしていると思うけど」

「あっ、ちょっと小町ちゃん、どこ触ってるの!」

「ほら二人とも、さっさと洗って湯船につかるわよ」

「「は~い」」

 

 小町の背中は、陽乃と明日奈が二人がかりで洗った。

そして三人は、並んで湯船につかり、ふう~っと満足そうな息を吐いた。

血の繋がりこそ無い三人だが、その並んだ姿は、まるで本当の姉妹のように見えた。

そして三人は、その後も楽しそうに会話を続け、のぼせないように気を付けながら、

しっかりと疲れを癒したのだった。


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