ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/13 句読点や細かい部分を修正


第177話 大丈夫、準備済だ

「ユイ!」

「ユイちゃん!」

 

 ハチマンとアスナが、前回ログアウトした宿屋の一室にログインした瞬間、

その場にユイが現れた。光を纏いながら、くるりんと回転しながら現れたユイに、

二人は矢継ぎ早に声を掛けた。

 

「ユイ、寂しくなかったか、大丈夫か?」

「ユイちゃん、いつも一人にしてごめんね」

「パパ?ママ?私はパパのアカウントに紐付けされているから、

前回お別れしてから、今パパとママに再会するまで、一瞬でしたよ?」

 

 ユイは、いつもと少し違う二人の様子に、キョトンとしながらそう言った。

それでも二人は、決してユイの傍を離れようとはせず、

交互にユイの頭をなでたりしていたので、ユイは疑問に思いつつも、

思う存分二人に甘える事にした。しばらくそうしていた三人だったが、

やがてユイは満足したのか、おずおずと二人に話し掛けた。

 

「その、パパ、ママ、もしかして、私に何か話があったんじゃないんですか?」

 

 ユイはどうやら、二人の様子から、そう判断したようだ。

それを聞いたハチマンは、何とも言えない表情で、ユイに話し掛けた。

 

「ユイ、説明しないといけない事が、いくつかあるんだ」

「今日の本題ですね、パパ、お願いします」

 

 ユイは、少し緊張した表情でそう言った。

それを受けてハチマンは、ユイに先ほどアルゴから聞いた話の説明を始めた。

 

「ユイ、実はな……もうすぐこの世界に、アインクラッドが現れる事になったんだ」

「そうなんですか!?」

 

 ユイも、そんな事はまったく予想をしていなかったのか、とても驚いた顔でそう言った。

 

「ああ、どうやらアインクラッドのデータが、丸々レクト社に残っていたらしいんだよ。

でな、それと同時に、ザ・シード規格のカーディナルシステムを、

新たにここに導入する事になったらしいんだが……そっちの中に、

ユイと同じタイプのMHCPがあったらしいんだ」

「あっ……つまり、それによって、私が消滅する事になるかもしれないって、

パパとママは心配してくれたんですね」

 

 ユイはさすが理解が早く、すぐにその事に気が付いたようだ。

 

「さすがユイ、話が早いな。で、実際の所、どうなんだ?やはり上書きされてしまうのか?」

「そうですね……今の私の状態はとても不安定なので、多分そうなると思います。

でも今ある索敵機能とかの、カーディナルシステム由来の能力を全て切り離せば、

単体で自立し続ける事は可能です、パパ、ママ」

「そ、そうなのか……?」

「はい!」

 

 ユイは、多分ドヤ顔なのだろう、得意げな顔で、そう言った。

ハチマンとアスナは驚きの表情のまま顔を見合わせたのだが、

とりあえずアルゴから聞いた説明を続ける事にした。

 

「次に、良い知らせの方なんだが、実はアルゴがな……」

 

 ハチマンはユイに、アルゴに言われた内容通りの説明をした。

それを聞いたユイは、目を輝かせながら、満面の笑顔で二人に言った。

 

「すごいです、すごいです!私、絶対そっちの方がいいです!」

「そうか、でも、長期間封印される事になって、寂しくないか?」

「そうだよ、しばらくお別れになっちゃうんだよ?」

「パパ、ママ、アルゴさんも言ってた通り、私にとっては一瞬なので、大丈夫です。

でもそんなに私を大切に思ってくれて、ありがとうございます!」

 

 ユイはそう言うと、二人の顔に飛びつき、交互に頬ずりをした。

二人はそんなユイを愛おしく思いながらも、寂しさを感じていた。

 

「俺は……しばらくユイに会えなくなるかと思うと、やっぱり寂しいぞ」

「私も……」

「パパ、ママ……」

 

 ユイはそんな二人の姿を見て、より一層甘え始めた。

 

「大丈夫、大丈夫ですから、二人は存分に、アインクラッドを楽しんで来て下さいね。

次に会う時は、秘密基地の中で笑顔で再会ですよ!パパ、ママ、約束ですよ!」

「お、おう、任せろ、約束だ!」

「待っててね、ユイちゃん、ママが最速で手に入れてあげるからね!」

「はい!」

 

 こうして、ユイに励まされた二人は、笑顔でユイとの別れを済ませ、そして今に至る。

 

 

 

「二人とも、心配だったろうに、長く待たせちまってすまなかったな。

やっとユイちゃんとキズメル復活の目処が立ったんだゾ」

「おお、アレがついに完成したのか?」

「ああ、なんとか二十二層の実装に間に合わせたゾ」

「アルゴさん、本当にありがとう」

 

 明日奈は目を潤ませながら、電話の向こうのアルゴにお礼を言った。

 

「気にすんなよアーちゃん、これがオレっちの仕事でもあるしな。

それよりそっちの準備の方はどうなんだ?最速で二十二層に到達出来るのカ?」

「任せろ、事前に二十一層の攻略計画を作成して、既に全員に配布済みだ」

 

 その返答に虚を突かれたアルゴは、呆れた口調で言った。

 

「そんなのよく覚えてたナ……」

「集合知って奴だな。経験者全員の知識を持ち寄って、何とか細部まで詰める事が出来た」

「家の購入資金は大丈夫カ?」

 

 八幡は、この日の為に、思い付く限りの準備を整えており、

それは当然資金面にも及んでいた。八幡はアルゴに、自信満々にこう答えた。

 

「あの時の購入金額と、当時の相場との比較を元に、

ALOの市場調査を行い、綿密な計算をして、その倍の金額を集めてあるぞ」

「……リズっちが、相当頑張ったのカ」

 

 アルゴは仲間達の中で、唯一金策が可能なスキルを持つリズベットが、

おそらくフル稼働したのだと推測し、その苦労に少し同情しつつ、そう言った。

ところがそれに対する八幡の返答は、予想外のものだった。

 

「いや実はそうでもないんだよな。よく考えてみろ、

俺とキリトの資金は、須郷を倒す時にほとんど使い切っちまったが、

SAO時代に豊富な資金を持ち、その資産が手付かずだった人物が一人いるだろ?

そのおかげで、稼ぎ直した金額は、そこまで莫大な額じゃないんだよな」

「SAO時代に金持ちだったプレイヤー……?商売をしてた、エギルの旦那……?

いや、でもエギルの旦那は、その資金のほとんどを、

中層プレイヤーの育成につぎ込んでいたはずだしナ……」

「えへんおほん、んっんっ、んーん」

「ああ!」

 

 アルゴは少し悩んだのだが、明日奈のわざとらしい咳払いで、それが誰の事か理解した。

 

「お、気付いたか」

「まあ、本人が激しくアピールしてきたからな。

当時はそんな贅沢してるようにはまったく見えなかったから、盲点だったゾ」

「はい!実はお金持ちだったのは、私でした~!」

 

 明日奈は、アルゴからは見えなかったが、手を上げながらそう言った。

 

「そうかそうか、確かにアーちゃんなら、そのくらい貯めてそうだよナ」

「SAOの時は、借りてた家の設備と服くらいにしか使い道が無かったけど、

家の方は途中から秘密基地に移ったから、たまる一方だったしね。

武器に関してはリズがいたし、防具はギルドからの支給だったしね」

「確かにナ」

 

 アルゴは、とりあえずそっちについては問題無さそうだと思い、

次の問題点を八幡にぶつけてみた。

 

「ちなみに二十一層のボスクラスになると、かなり手強いと思うけど、

戦力は大丈夫なのか?オレっちとボスは、当日は多分参加出来ないゾ」

 

 その問いに対し、八幡は再び余裕そうな口調でこう答えた。

 

「大丈夫だ、まず、キリトと戦う権利をエサに、ユージーンを雇った。

その流れで、カゲムネも参加する事になった」

「キー坊を生贄に差し出したのか……」

「次に、リーファとユキノに泣き落としをさせて、

サクヤさんとアリシャさんに手伝いを頼んだ」

「……あの二人、絶対に泣かなさそうだから、効果抜群だったろうナ」

「最後に、パワーレベリングでクリスハイトを促成栽培した」

「菊岡の旦那も災難な……」

「いや、菊岡さん結構ノリノリだったよ?」

「そうなのか……仕事柄、ストレスを貯めてたのかもナ」

 

 アインクラッドが導入されて少しした頃、菊岡が、情報収集の一環としてと言いながら、

クリスハイトというキャラで、ハチマンの仲間になりたいと申し出て来た。

仲間達に事情を話して相談した結果、クリスハイトの加入は快諾された為、

今ではクリスハイトも、すっかりチーム・ハチマンの一員となっていた。

 

「と、いう訳で、全て問題ない。こっちの準備はバッチリだ」

「オーケー、ハー坊、アーちゃん、こっちの事は任せてくれ。そっちの事は頼むぞ。

オレっちも、ユイちゃんの事は大好きだからナ」

「おう!今日はわざわざ連絡ありがとな」

「ありがとう!全力で頑張るよ!」

 

 こうしてアルゴからの連絡を受けた二人は、仲間達に連絡を回し、

全ての根回しを終え、その日を楽しみに待つのだった。


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