ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/13 句読点や細かい部分を修正


第166話 もたらされた情報

「GGO?」

 

 八幡は、その名前にはまったく聞き覚えが無かった為、薔薇に詳しい説明を求めた。

 

「聞いた話だと、今度新しくリリースされる、『ザ・シード』規格のFPSらしいわね」

「FPSか……まあ確かにVR環境だと、本人視点のゲームになるよな。

で、そのゲームについて、他に何か情報はあるか?」

 

 八幡の問いに、薔薇は少し考え込んでからこう答えた。

 

「ごめんなさい、私はその手の情報にはあまり詳しくないのよね。

あ、でももしかしたら、材木座さんならもっと詳しく知ってるかもしれないわ」

「そっか、それじゃあ後でそれとなく話を振ってみるわ。それにしても、材木座さん、か。

実際の所どうなんだ?あいつはこの職場で上手くやれているのか?」

 

 少し心配そうにそう尋ねてきた八幡の表情を見て、薔薇は微笑みながらそれに答えた。

 

「そうね、少なくとも、材木座さんの事を悪く言う人間は見た事が無いわよ」

「そうか」

 

 その答えに、あからさまにホッとした表情を見せた八幡を見て、

薔薇は微笑みを絶やさないまま、逆に八幡に問いかけた。

 

「そんなに材木座さんの事が心配だったの?」

「ばっ、何言ってんだお前、俺があいつの心配をする訳無いだろ。

ただちょっと、昔は人付き合いに問題がある奴だったから、それが心配だっただけだ」

「何動揺してるのよあんた……今自分で、心配だったって言ったわよ……」

「気のせいだ」

 

 八幡は一言だけそう言うと、薔薇から目を背け、薔薇は声を殺しながら笑った。

 

「材木座さんはね、その……年齢の割りに見た目が落ち着いてるっていうか、

自分からはあまり喋らないけど、何か質問すると丁寧に答えてくれるし、評判はいいと思う」

「そうか」

 

(年の割りに落ち着いてるってのは、ふけてるって事で、

自分からは喋らないのは昔からだし、質問すると丁寧にってのは、

てんぱって必要以上にくどく説明してるともとれるが……社会人補正だろうか)

 

 八幡は表面上は頷きながらも、そんな失礼な事を考えていた。

しかし遠目に見ても、天敵に囲まれているはずの義輝が、

話しかけられた時に目を背けるような事も無く、聞かれた事にはきっちり答えている姿に、

八幡は正直感動を覚えていた。

 

「あいつも昔と比べると、かなりいい方に変わったみたいだな」

「まあ、昔の事は知らないけど、今は何も問題無いと思うから、安心していいわよ」

「別に心配なんかしてなかったけどな」

「あんたさっきから、矛盾しまくってるわよ……」

 

 そして二人はしばらく義輝の雄姿を眺めていたが、しばらくして八幡が薔薇に言った。

 

「それじゃあそろそろ戻るわ、貴重な情報をありがとな」

 

 薔薇は八幡に頷くと、どうやら気になっていたのだろう、最後に一つ、質問をした。

 

「ねえあんた、もしかして、GGOをやってみようとか思ってる?」

「どうだろうな、まあ、その可能性は否定出来ないが」

「……多分危険は無いと思うけど、でも相手が相手なんだから、一応気を付けなさいよ」

 

 それを聞いた八幡は、堪え切れなかったのか、プッと噴き出した。

 

「な、何よ」

「いやすまん、まさかお前に心配される日が来るなんてって思ったら、

ちょっとおかしくなっちまってな」

「わ、私だって、他人の心配くらいするわよ」

「そうだな、すまんすまん、それじゃまたな、薔薇」

「ええ、またね……八幡」

 

 薔薇はそう言うと、踵を返し、去っていった。

八幡はその薔薇の背中に、頑張れよと呟きながら、義輝達の方へと歩いていった。

 

 

 

「盛り上がってるみたいだな」

「八幡君!」

「八幡!何故我を一人にする!」

 

 八幡の名を呼び、駆け寄ろうとした明日奈だったが、

その機先を制し、義輝が真っ先に八幡に駆け寄った。

明日奈はその義輝の素早さに、きょとんとして立ち止まったが、

八幡と義輝の仲のいい姿を見て、素直に引き下がり、一歩下がって手を後ろで組みながら、

その光景を微笑ましそうに見ていた。

 

「材木座、お前、女子と普通に話せるようになったんだな。それにしても……」

 

 八幡は義輝の耳に口を近付け、声を潜めて言った。

 

「今ここにいるのって、高校時代のお前にとっては天敵と呼べる奴だらけだろ。

正直お前がこの面子の中で普通に話せるとは思っていなかったわ。すごいなお前」

「我も成長したのだよ、八幡!まあしかし、我としては、

そんな連中と普通につるんでいる八幡の方が驚きなのだが……特にあの獄炎の……」

「あ~、まあ、慣れだ慣れ」

「慣れか……やはり逃げているだけでは、何も変わらないのだな……」

「それが分かっただけでもいいんじゃないか?」

「そ、そうかな?」

「ああ」

 

 そして八幡と義輝は、顔を見合わせながら楽しそうに笑った。

その姿を見て、二人の話が一段落したと思ったのか、

明日奈を筆頭に、他の者たちもわらわらと二人の周りに集まってきた。

そして再び雑談が始まったのだったが、八幡は丁度いいチャンスだと思ったのか、

先ほど薔薇に教えられた、GGOというゲームについての話を、義輝に尋ねた。

 

「ところでこの前、『ザ・シード』関連がどうなってるかと思ってちょっと調べたんだが、

最近どうなんだ?評判がいいゲームもいくつか出てきてるみたいだけど、

そうだな、例えばGGOとかどんなゲームなんだ?材木座、知ってるか?」

 

 この八幡のセリフを聞いた明日奈は一瞬硬直したが、

次の瞬間明日奈は、何でもないような表情を作り、

表面的には興味深そうに義輝の返事を待つそぶりを見せた。

 

(今、八幡君、自然さを装いながら、確信犯的に話を振った、私には分かる。

自分で言うのもアレだけど、妻の勘って奴。

でもやましい事があるようには見えない。こういう時の八幡君は、

多分何かしっかりとした目的を持って行動しているはず。例えば私を守る為とか……

ってのは自意識過剰かもしれないけど、ここは八幡君の邪魔をしないようにしよう。

でもGGOか……ゲームの名前らしいけど、そのゲームに、一体何があるんだろう)

 

 明日奈はそう考え、GGOの名前を心に留めた。

 

「GGOか……八幡はどこまで知っているのだ?」

「いや、まったく分からん。名前とFPSって事と、評判は悪くないらしいって事くらいだ」

「そうか。GGO、正式名称は、ガンゲイル・オンライン。今八幡が言った通り、FPSだ」

「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?FPSって何?」

 

 優美子が、きょとんとしながら八幡に尋ねた。よく見ると、他の者たちも、

よくわからないという顔をしていたので、八幡は、簡単に説明した。

 

「一言で言うと、銃で撃ち合うゲームだな」

「ああ~、そういうの、ゲーセンにもあったかも」

「サバイバルゲームみたいなものなのかしらね」

「サバゲーですね!」

「まあ、そうだな。材木座、続きを頼む」

 

 八幡は、皆が理解したのを見て、材木座に説明を続けるように求めた。

 

「世の中にはFPSなんてものは沢山あるが、GGOには強力な売りがある。

GGOでは、プレイヤーがゲーム内で稼いだお金を、リアルマネーと交換出来るのだ」

「ああ、昔あったな、そういうゲーム」

「何とかライフって奴?」

 

 義輝は頷きながら、もう一言付け加えた。

 

「大会なんかもあるらしいし、プレイヤー間の殺し合いもALO並に自由だから、

我が思うに、そういった、なんというか殺伐とした面が、

今の社会状況的に人気の原因になっているのではなかろうか」

「なるほど、そういうゲームか」

 

(聞くだけじゃ完全には理解出来そうにもないが、確かにあいつら好みのゲームかもしれん。

とりあえず一応キャラを作って、潜入調査をしてみる必要があるか……)

 

 八幡は義輝の説明を聞き、GGOを始める事を決意した。

明日奈はそんな八幡の姿を静かに見つめていた。

 

(何をするつもりか分からないけど、危ない事はしないでね、八幡君……)

 

 その後、全員でサイゼに行って食事をし、その日の見学はそこで終わりとなった。

義輝は、久々に八幡と会えた上に、過去に自分が苦手としていた者達とも、

ある程度普通に会話をする事が出来た為、それが自信にもなったのだろう、

とても晴れやかな顔をしながら、一行を見送った。

そして帰り道、八幡は明日奈を寮まで車で送っていたのだが、

寮の前に着いた時、八幡は、自分から明日奈にGGOの話を持ち出した。

 

「なぁ明日奈、さっき気になってたみたいだけど、GGOの事なんだけどな」

「あ、うん」

「まあその……あれだ、心配しないでくれ。ただの取り越し苦労で終わるかもしれないし、

今はまだ何とも言えないんだ。もし問題がありそうだったら、詳しい事はその時に話すから」

「うん分かった。それにしても、よくあの一瞬で私の反応に気が付いたね」

 

 明日奈は八幡の顔を覗き込みながらそう言った。

 

「俺は明日奈の視線には敏感だからな」

 

 その言葉に喜びながらも、明日奈は少し心配そうな表情で言った。

 

「危ない事はしないでね?」

「ああ、約束する」

 

 八幡はその明日奈の言葉に、しっかりと頷いた。

 

「それじゃあ今日の所はまあ、それでいいかな。

もっとも何も言われなければ、その事には触れないつもりだったんだけど、

ちゃんと私に話してくれたのは、ちょっと嬉しいかな」

「なんかすまん」

 

 そんな謝る八幡の頬に、明日奈は笑顔で軽くキスをした。

 

「それじゃあまたね、八幡君。送ってくれてありがとう!」

「ああ、またな、明日奈」

 

 明日奈はそう言って、手を振りながら、寮の中へと入っていった。

残った八幡は、GGOについて考えを巡らせながら、帰途についたのだった。


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