ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/11 句読点や細かい部分を修正


第162話 ハチマンの、参考にならない対ボス戦法

「よし、それじゃあ皆、こっちだ。この階段を上ると第二層に到達する。

そこにある転移門をアクティベートすれば、一層から二層へと一瞬で移動出来るようになる」

「ここを上るのは二度目だね」

「懐かしいよな」

 

 誰一人欠ける事無く、無事にボスを撃破した一同は、

ハチマンの案内で二層への階段を上っていた。

 

「今日と違って回復魔法も無い、死んだら次は無い、周りが全員味方とは限らない、

そんな状態で、これを七十四回ね……」

 

 ソレイユが、ボソッとそう呟いた。その言葉がキッカケになったのか、

今日初めてアインクラッドを訪れた者達は、その困難さを改めて実感したようだ。

特に顕著な反応を示したのは、コマチだった。

コマチは、先頭を歩くハチマンとアスナの後ろからいきなり二人に抱きつくと、

涙まじりの声で二人に向かって言った。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、本当によく無事で帰ってきてくれたね……」

 

 ハチマンは足を止めて振り返ると、黙ってコマチの頭を撫で、

アスナはコマチを優しく抱き返し、穏やかな声でコマチに語りかけた。

 

「大丈夫、私達は今ここに居て、どこかに行ったりはしないから。

コマチちゃんを、もう決して一人になんかしないからね」

 

 一同は、その光景を、優しい目で見つめていた。

一方、もう一人の妹的存在であるリーファであったが、

実のところリーファも、コマチと同じような感情にとらわれていた。

だが性格の違いもあるのだろう、リーファはキリトの後姿を見つめながら、

手を伸ばしかけては戻し、また手を伸ばすという動作を繰り返していた。

皆コマチの方に気を取られていた為、そのリーファの仕草に気が付いていなかったのだが、

その事に気付いた者が二人いた。そのうちの一人であるリズベットは、

リーファの手を優しく握り、キリトの方へと誘った。

そしてもう一人、レコンが、リーファの背中を優しくそっと押した。

リーファはあたふたしながら二人の顔を交互に見たが、

やがて覚悟が決まったのか、二人に頷き、深呼吸をした後にキリトの方へと向かった。

そしてリーファはおずおずとキリトの服の袖に手を伸ばし、

今度は伸ばした手を戻さずに、ちょんちょんっとキリトの袖を引っ張った。

それに気付いたキリトは、ん?という感じで振り向いたが、

リーファの顔を見てその意図に気が付き、努めて明るい顔で言った。

 

「リーファ、改めて心配かけてごめんな。俺ももう大丈夫だから、安心してくれよな」

 

 そう言いながら頭を撫でてくれたキリトに、リーファははにかみながら微笑んだ。

そんな二組の兄妹に、クラインが場を和ませようとしたのかこう言った。

 

「ハチマンにキリトよぉ、それでもいつかは二人とも嫁に行って、

最終的には家を出る事になるんだぜ?」

 

 そんなクラインに、二人は光の速さで即答した。

 

「コマチは嫁には行かん」

「リーファは嫁には行かさないぞ」

「ハチマン君……さすがにそれはどうかと思う」

「キリト、あんたさぁ……実はハチマン並のシスコン?」

 

 そう突っ込んだアスナとリズベットの冷たい視線を受け、二人は再び同時に言った。

 

「わ、分かった。俺にタイマンで勝った奴が相手なら、認めるのもやぶさかではないな」

「うう、仕方ない……俺に勝てた奴が相手なら、認めてやってもいい」

 

 それを聞いたアスナとリズベットは、ハチマンとキリトの頬をつねり、

いい加減にしなさいと説教を始めた。ちなみにレコンは明らさまに焦っていた。

それを見ていた他の者達は、その条件って無理ゲーじゃないか?と思い、

更にハードルが高くなったレコンに対して深く同情していた。

二人の妹はその光景を見て同時に笑い出した。

 

「あはははは、お兄ちゃん、コマチは例えお兄ちゃんより弱い人が相手でも、

好きになったらお兄ちゃんの意見は無視して自分の意思で家を出るよ」

「ふふっ、心配しなくても、私はそんな事考えた事も無いですよーだ」

 

 そんな二人に釣られて皆笑い出した。しばらく場は笑いに包まれていたが、

やっとアスナに許してもらったのだろう、ハチマンの号令によって、

一同は再び二層への階段を上がり始めた。

 

「ところでハチマン、どうやってあんなに早くボスを倒したんだ?」

 

 キリトが興味津々といった感じでハチマンに尋ねた。

どうやら他の者達もその話を聞きたがっているようだった。

 

「確かにハチマンは人型の敵を相手にするのが得意のはずだけど、敵があのサイズだと、

通常サイズの敵を相手にする時みたいには上手くカウンターも取れないはずだよな?」

「確かにそうだな。やはり一番の問題は、敵の大きさなんだよな」

 

 ハチマンはキリトに頷きながら、次にとんでもない事を言った。

 

「だったら、同じサイズになればいい、と、俺は考えた」

「同じ!?」

「サイズ!?」

 

 皆が驚く中、ハチマンはニヤリとしながら魔法を唱え始めた。

そして次の瞬間、ハチマンはもはや定番となった背教者ニコラスの姿に変化した。

 

「あ~!」

「制御出来るようになったのか?いつの間に魔法スキルを上げたんだよ……」

「えっ、何これ?あーし初めて見るんだけど」

「ここに来る時に、ハチマンが何かに変身してただろ?それがこの姿なんだよな」

「あ、あーしは後ろにいたからよく見えてなかったんだよね」

 

 ハチマンは、すぐに元の姿に戻り、ニカっと笑いながら言った。

 

「今の姿で、ユイユイと二人で敵を挟んで、敵が背中を向けている時はとことん急所狙い、

敵がこっちを向いたら、こっちのサイズを生かして通常攻撃も含めて、

全ての攻撃にカウンターをくらわす、よろめいたら三人がかりで攻撃、

多少のダメージはメビウスさんが癒してくれたから、

足を止めたまま延々とそれを繰り返す。な、簡単な仕事だろ?」

「簡単だろって……」

「通常攻撃を含めて全ての攻撃にカウンター……」

「それって敵は何も出来ないんじゃ……」

「それが出来るのはハー坊だけだと思うけどナ」

 

 全員から突っ込みをくらいながらもハチマンは、冷静に言葉を続けた。

 

「もっとも、サイズは大きくなっても強さは変わらないから、

これが出来るのは、精々五層くらいまでじゃないか?

まあしばらくは、強さの調整的にボス戦でも有効だとは思うけど、

この戦法が有効でなくなるのも時間の問題だろうな。だから今だけだ」

「まあ、それはそうかもしれないけど……」

「でも、久しぶりに攻撃しまくれて、あたしはすごい楽しかった!」

 

 ユイユイは、先ほどの戦闘の事を思い出しながら、とても嬉しそうにそう言った。

普段は仲間内で唯一の純タンクとして、地味な役回りが多いユイユイは、

今回ボスを三人で討伐するという快挙を成し遂げ、気分が未だに高揚しているようだった。

 

「そうだな、まあ、楽しいのが一番だ」

「うん!」

 

 ハチマンが綺麗に纏め、とりあえずボスの早期妥当のからくりに関しては、

一応皆が納得したようだった。

 

「それにしても、チラッと視界に入っただけだが、

アスナ達の方もすごかったんじゃないか?見えたのはアスナが前に出た辺りだけだが」

「あ、うん……」

「あっ……」

「お兄ちゃん!」

「ん?」

 

 それを聞いた瞬間、アスナの目から光が消えた。

ハチマンは何事かと疑問に思ったが、そんなハチマンに、コマチがこっそりと、

先ほどの経緯について耳打ちした。

 

「あー……バー……おほん、超攻撃的ヒーラー、うん、まああれだ、

新機軸でいいんじゃないか?俺はいいと思うぞ」

「そ、そう……かな?」

 

 ハチマンに褒められて少し気分を良くしたのか、アスナはやや明るい声で言った。

アスナから見えない所にいる者達は、ハチマンに、

あと一押しだ、何とかしろというアピールを行っていたが、

それを見て、空気を読んだハチマンは、アスナに対して、続けてこう言った。

 

「ああ、攻防一体、俺のカウンターに通じる物があるよな」

 

 更に、トドメ!トドメ!というコマチのアピールを見て、ハチマンは最後にこう言った。

 

「あ~……やっぱりいつも一緒にいるから、どうしても戦闘スタイルが似通っちまうのかな」

「さすがは『うちの』お姉ちゃんだよね!」

「やっぱり?うん、そうだよね、やっぱりいつも一緒だからそうなるよね!」

 

 コマチが、間髪入れずにその流れに乗って、『うちの』お姉ちゃんアピールをし、

アスナがすっかり機嫌を直してそれに乗っかったのを見て、皆安堵した。

そしてその後、雑談をしながら階段を上り続けていた一同の目の前に、

ついに二層の主街区がその姿を現した。横には転移門らしき物も見える。

 

「お、あれが次の街かな?」

「隣にあるのが、転移門って奴?くぐる時どんな感覚なのか、あーし興味あるわ」

 

 そのユイユイとユミーの言葉を聞いて、ハチマンは、今更ながらある事に気が付いた。

 

「そうか、転移門に似たシステムは、ALOでは初めてなのか」

 

 ユミーはまだそこまでALOをやりこんでいないので、

何となくイメージで言っただけだったが、ユイユイは、その通り!という感じで頷いた。

 

「まあとりあえずだ、皆、二層へようこそ。ここが二層の主街区『ウルバス』だ」


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