ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/13 句読点や細かい部分を修正


第161話 いつか隣に立とう

 アスナの雄叫びと共に、取り巻きの一匹は撃破された。

直後にキリトチーム担当の敵も、光のエフェクトと共に消滅し、

残るはリーファチームが担当している一匹だけとなった。

一応フォローしておくと、リーファ達は、終始優位に戦っていた。

削りの速度も、三人にしては並以上であり、順調にいけば、おそらくこのまま倒せたはずだ。

今回の場合は、アスナチームが異常だったと言わざるを得ない。

そんな訳で、善戦するリーファの隣にアスナが駆けつけた時、リーファは驚愕した。

 

「リーファちゃん、お待たせ!」

「えっ?えっ?担当の敵は?」

「うん、倒してきたよ!」

「えええええっ?」

 

 リーファがチラリと周囲に目をやると、既に他の敵の姿はなく、

後方からキリト達が走ってくるのが見えた。

 

「レコン!ちょっとだけ一人で支えてて!」

「う、うん、分かった!」

 

 リーファはレコンにそう頼むと、イロハを伴い、少し涙目でアスナに尋ねた。

 

「わ、私達、倒す速度がかなり遅い?」

「もしかして、私達って弱いですか?」

「二人とも、そんな事無いよ!」

 

 リーファとイロハの焦りを含んだ問いを、アスナは即座に否定した。

そこに合流したキリトチームの面々も、同じようにその言葉を否定した。

 

「リーファ達はまったく普通だろ。むしろ並以上だと思うぜ!」

「そうそう、このバーサクヒーラー様が異常なんだって」

「アスナのバーサクっぷりには、さすがの私もちょっと驚いたかな……」

「ちょっと、キリト君?リズ?一体何を言ってるの?」

 

 アスナは、本当に訳が分からないといった感じで二人に聞き返したが、

二人は曖昧に頷くだけで、直接その事には言及しなかった。

 

「え?え?シリカちゃん?」

「あ、いや~、うん、アスナさんすごかったです……」

「クラインさん?」

「いやぁ、あはははは、さすがっす!」

「エギルさん?」

「あー……確かにアスナと比べると、キリトが大人しく見えたかもな」

「あ、アルゴさん?」

「オレっちは何も見てない、オレっちは何も見てないゾ……」

 

 ちなみにこの間、レコンは一人で敵相手に激しい戦闘を繰り広げていた。

アスナはおろおろしながら、最後の頼みとばかりにユキノに尋ねた。

 

「ゆ、ユキノ?私何かおかしかった?ねぇ、どうだった?」

 

 ユキノはその問いに、少し困ったようにこう答えた。

 

「私、ああいうのは普段の姉さんで結構見慣れてるから、大丈夫よ」

「それはフォローになってない!」

 

 アスナは絶叫し、助けを求めて一緒に戦っていた二人に尋ねた。

 

「コマチちゃん!」

「コマチはお姉ちゃんの味方だから、お姉ちゃんが何をしても大丈夫です!」

「それもフォローになってない!」

 

 アスナは再び絶叫し、最後に期待のこもった目でソレイユを見た。

ソレイユは、うんうんと頷きながら、アスナの肩をポンと叩いた。

 

「アスナちゃんがあんなに激しいなんて、お姉さん予想外だったなぁ」

「嫌ああああああああああ」

 

 アスナは再び絶叫し、その場に崩れ落ちた。

ちなみにレコンは未だに一人で敵と戦っていたが、さすがにそろそろつらくなってきたようだ。

 

「り、リーファちゃん、そろそろ……」

「ちょっと待ってねレコン、もう少し!」

「わ、分かった……」

 

 一人で戦い続けるレコンを放置し、一同はアスナを交代で慰め、

一応仲間内では、バーサクヒーラーという呼び名は自主規制される事となった。

だがしかし、アスナはその後、ボス戦等に参加する度に同じような戦い方をしたため、

バーサクヒーラーの呼び名を知らない者達からもバーサクヒーラーと呼ばれるようになり、

アスナ自身も次第にその呼び名に慣れてしまい、まったく気にしないようになる。

 

「り、リーファちゃん、もうやば……あ」

 

 レコンは、未だに一人で奮闘中であったが、徐々に劣勢に立たされていた。

何とか隙を見て、リーファに声をかけたレコンであったが、

その瞬間に敵の攻撃が、レコン目がけて振り下ろされた。

 

「あ、まずい!レコン!」

 

 レコンがまさに敵の攻撃をくらおうとする瞬間、レコンの体が回復魔法の光に包まれた。

 

「大丈夫よ、ちゃんと見ているから」

 

 そう言ったのはユキノだった。ユキノはこんな状態でも、レコンが死なないように、

しっかりと戦闘の様子をチェックしていたようだった。

 

「もっともレコン君にはこの機会に、自分の限界まで頑張ってもらおうと思って、

少しドキリとさせてしまったかもしれないわね、ごめんなさい」

「ううん、ユキノさん、ありがとう!」

 

 レコンはユキノが見ていてくれた事に素直に感謝し、同時に不思議な安心感を得た。

 

(そうか、ヒーラーを信頼するってこういう事なんだな)

 

 シグルド達と組んでいた時にはまったく感じた事の無かったその安心感に、

レコンは、新たな仲間達との出会いと、そこに参加出来る事に、喜びを感じていた。

同時に、これだけ安心出来る環境なら、もう少し思い切って、

リーファにいい所を見せられるかもしれないなと打算的な事を考えながら、

レコンは疲労した体に鞭打ち、再び敵へと立ち向かおうとした。

だが次の瞬間、キリトを先頭に、アスナが、リーファが、ソレイユが、

戦場に乱入し、敵をタコ殴りにし始めた為、緊張の糸が切れたレコンはその場に座りこんだ。

 

「あは……僕の苦労は一体……」

 

 そう呟くレコンの肩を、誰かがポンと叩いた。

 

「よく頑張ったわね、レコン」

「リーファちゃん!」

 

 レコンの肩を叩いたのはリーファだった。レコンは内心とても嬉しかったが、

自分の実力が、仲間達と比較して、若干劣る事も自覚していた為、

必要以上に虚勢を張りながら、リーファに答えた。

 

「まだ全然やれたけどね、ちょっと休んだら、僕もまたすぐ戦闘に参加するからね!」

 

 そんなレコンの隣にリーファは腰を下ろし、そのままレコンに話しかけた。

 

「ねぇレコン、あの人達と私達の違いって、考えた事ある?」

 

 レコンはその問いが想定外だった為、すぐには何も答えられなかった。

 

「観察してると、技は私の方が上だって思うんだよね。

でも、例えばガチでお兄ちゃんとやり合ったとして、最後に立っているのは、

やっぱりお兄ちゃんだと思うんだよね。レコンはどう思う?」

 

 レコンは躊躇いながらも、その問いに対し、正直に答えた。

 

「う、うん、リーファちゃんには悪いけど、やっぱり僕もそう思う」

「だよね!」

 

 リーファは何故か嬉しそうに言った。

 

「やっぱり戦闘経験の差なのかな……前は目標とする人って、ユージーンくらいだったけど、

今は周りにすごい人が多いせいで、目標とかそういう意識が、すっかり飛んじゃったよ」

「リーファちゃん……」

「ねぇレコン、あの人達の隣に、本当の意味で立ってみたいって思わない?」

「思う!」

 

 レコンは、そのリーファの問いに、身を乗り出して即答した。

 

「やっぱりそうだよね、よし、早くあの人達に追いつけるように、一緒に頑張ろう。

これからも宜しくね、レコン!」

「うん、僕も誰が相手でも、リーファちゃんの背中をしっかりと守れるように頑張るよ!」

「その意気その意気。あ、見て、そろそろ終わるよ」

 

 リーファの言葉通り、敵のHPは、今まさに無くなろうとしていた。

そして次の瞬間、誰の攻撃がトドメになったかは分からないが、

三体目の取り巻きの姿は、エフェクトと共に消滅した。

 

「よし、雑魚の殲滅はこれで完了だ!ダメージを負っている者は、今のうちに回復を!

元気な者から、順次ボスへの攻撃を開始しよう!」

 

 キリトがテキパキと指示を出し、一同はコンディションを整え、

ボスへと向かって突撃を始めた。

だが、次の瞬間≪CONGRATULATIONS≫の文字が空に表示され、

一同は、遠くで消滅していくボスの姿と、その前に立ち塞がるハチマンの姿、

そして、その後方でガッツポーズを取って喜んでいる、ユイユイとメビウスの姿を見た。

慌ててハチマンらに駆け寄った一同に向けて、ハチマンはドヤ顔でこう言った。

 

「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

「構わんのだろう?」

「構わない……よね?」

 

 ユイユイもドヤ顔でハチマンに追従し、メビウスも、問いかけるようにそう追従した。

 

「そのセリフ、一度言ってみたかっただけだろ!くそう……せめて俺も一撃くらいは……」

 

 どうやら一太刀でもあびせたかったのだろう、キリトはその場に崩れ落ち、

他の者は倒す早さに驚いたようで、口々にハチマンに尋ねた。

 

「おいハチマン、さすがに早くねーか?一体どうやったんだよ!」

「さっすが私のハチマン君!」

「お兄ちゃんは、本当にお兄ちゃんなの?コマチちょっと信じられないんだけど」

「そういえば、ハチマンが得意としてるのって、人型のモンスターじゃなかった?」

「あー……」

「でもそれだけじゃないような……」

「リーファちゃん、僕達この人達に追いつけるのかな……?」

「あ、あは……」

 

 ハチマンはそんな仲間達に向けて、頭をかきながら言った。

 

「すまん、俺もちょっとテンションが上がりすぎてたみたいで、つい倒しちまった。

今度また、取り巻きのいないタイプのボスに挑んで、皆で一緒に倒そう」

「約束だぞ!約束だからな、ハチマン!」

 

 キリトは立ち上がると、ハチマンに向けて詰め寄った。

そんなキリトに、おう、とか、もちろんだ、とか言っていたハチマンは、

仲間達を見渡しながら、言った。

 

「とにかく、俺達は勝利した。このまま二層の門をアクティベートして、凱旋だ!」

「うおおおお!!」

「やった、やったんだね!」

「一層だけあって、予想以上に楽勝だったな!」

「このまま二層に一番乗りだぜ!」

 

 一同は、改めて勝利を自覚したのか、喜びを爆発させた。

こうしてハチマン達の手によって、実装初日に、新生アインクラッドの一層はクリアされた。


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