ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

155 / 1227
2018/06/12 句読点や細かい部分を修正


第154話 これからは私がいる

「よし、それじゃあとりあえず風呂に入っちまうとしようぜ。

三人が料理してた間に、風呂は俺がいれといたからな」

 

 食事を終えた後、八幡がそう提案した瞬間に、明日奈が顔を赤くしてビシッと固まった。

 

(明日奈の奴、また何か勘違いしてるな)

 

 八幡は明日奈の態度からそう察し、訂正しようと考えたのだが、

その八幡より先に口を開いたのは小町だった。

 

「お兄ちゃん、もちろん変な意味じゃないよね?」

「当たり前だ。俺がおかしな事を考えるわけが無いだろ」

「そうだよね。お兄ちゃんに限って、お姉ちゃんに一人でお風呂に入れなんて、

そんな冷たい事を絶対に言う訳がないよね。当然お姉ちゃんを一人にはしないよね。

お兄ちゃんを疑った小町が悪い子でした、ごめんなさい」

「おう、分かればいいんだ分かれば……あ?」

 

 その瞬間、しょぼんとしていたように見えた小町が豹変した。

 

「はい、言質頂きました!お姉ちゃん、今日のクライマックスだよ、頑張って!」

「う、うん、頑張るよ!八幡君、ふつつか者ですが、宜しくお願いします」

 

 八幡は呆れた顔で両親を見たが、両親は、ついに初孫が、とか、式はいつにする?とか、

そんな事を言うばかりであり、八幡は完全に孤立していた。

 

「はぁ……めんどくさい……めんどくさいが、まあ仕方ない……」

「お兄ちゃん、何か言った?」

「おい小町、ちょっとさっきの自分の台詞を思い出してみろ」

 

 小町は少し考えた後、先ほどの自分の台詞を、出来るだけ正確に再現した。

 

「お兄ちゃんに限って、お姉ちゃんに一人でお風呂に入れなんて、

そんな冷たい事を絶対に言う訳がないよね。当然お姉ちゃんを一人にはしないよね」

「そうだな、小町の言う通りだ。分かったらさっさと明日奈と一緒に風呂に入ってこい」

「えっ?」

「確かに俺は、明日奈に一人で入れなんて言わない。当然明日奈と一緒だ、小町がな。

俺は明日奈が誰と一緒に入るかについては、一言も触れてはいない」

 

 小町は自分の顎に手を当てて、んん~?と考え込み、

明日奈も頭を抱えて、ノー!と叫んだのだが、理論武装した八幡に敵うはずもなかった。

小町はぷるぷると震えながら、最後の抵抗とばかりに八幡に抗議した。

 

「お兄ちゃん、ずるい!小町はお兄ちゃんのそんな大人ぶった面を見たくはなかったよ!」

「ああん?今のは完全に小町のミスだろ。他人に何か策略を仕掛ける時は、

二重三重に罠をしかけておかないと、敵によってはそれを逆手にとって、

今の俺みたいに逆襲してくる事があるもんだ。今後はもう少し言葉の使い方に気を付けろ」

「ぐぬぬ……さすがは元血盟騎士団参謀……」

 

 小町は悔しがったが、自分のミスのせいもあるので、それ以上は何も言えなかった。

明日奈は残念そうではあったが、さすがに恥ずかしかったのだろう、

どこかほっとしたような顔をしているようにも見えた。

 

「まあ小町も、我ながら無茶を言ってるって気もしないでもなかったし、

今回は仕方ないかぁ。それじゃお姉ちゃん、今日は小町と二人でお風呂に入りましょう!

そしてお兄ちゃんが後悔するくらい、二人でいちゃいちゃしましょう!」

「あ、う、うん、残念だけど、仕方ないね」

「それじゃあレッツゴーです!」

「うん、レッツゴー!」

 

 八幡は、明日奈が意外とあっさりと引き下がった為、ホッと胸を撫で下ろしていた。

もし明日奈にごねられていたら、さすがの八幡も、うっかりオーケーしたかもしれなかった。

八幡が明日奈に対して甘いのは、周知の事実である。

 

(まあもしそうなった場合は、昔のように、水着を着て入るだけだけどな)

 

 八幡は、明日奈と一緒に水着を着て露天風呂に入った時の事を思い出し、

懐かしさを感じると共に、今度一緒に温泉に行くのも悪くないなと考えた。

同時に、その時一緒だった、もう一人の仲間、キズメルの事を考えた。

キズメルを復活させる為には何が必要か、今度アルゴに相談してみよう、

とんでもない公私混同になるかもしれないが、それくらいは勘弁してもらおう。

そんな事を考えながら、八幡は、想像以上にガックリしていた両親をそのまま放置し、

自分の部屋へと向かい、読書をしながら、二人が風呂から出てくるのを待つ事にした。

しばらくして廊下から二人の声が聞こえ、部屋がノックされた。

 

「明日奈か?いつでも開けていいぞ」

 

 八幡が返事をすると、パジャマを着た、風呂上りの明日奈が入ってきた。

八幡はそんな明日奈に色気を感じ、少しドキっとしたが、

その前に明日奈の着ているパジャマがとても気になり、明日奈に尋ねた。

 

「あれ、明日奈、そのパジャマって男物だよな?しかもどこかで見た事があるような……」

「あ、うん、これ、八幡君が中学の時に着てたパジャマだって」

 

 明日奈が着ていたのが、どう見ても男物のパジャマだったので、

八幡は疑問に思ったのだが、どうやらそれは八幡のお古だったようだ。

 

「そうか、だから見覚えがあったのか、懐かしいな。でも何でそんな物を……」

「夕方に買い物をした時にね、パジャマを忘れた事に気が付いて、慌てて買おうとしたら、

小町ちゃんが、お兄ちゃんのお古で良ければありますよって言ってくれたから、

あまりの嬉しさに、それがいいってすぐに叫んじゃってね、それでねそれでね……」

 

 明日奈がまた変なモードに入りそうになった為、八幡は慌ててそれを制した。

そして明日奈に適当に本でも読んでてくれと言った後、八幡も風呂へと向かう事にした。

ちなみにこの時明日奈が選んだ作品は、

後日、ALO内でのとある出来事に関係してくる事になる。

八幡は明日奈が選んだ作品を見て、その作品のアニメが録画してあるDVDの場所を、

一応明日奈に教えてから風呂へと向かった。八幡が風呂から上がり、部屋に戻ってくると、

明日奈は八幡のベッドに腰掛けて、その作品を熱心に視聴中だった。

 

「何だ明日奈、随分熱心に見てるみたいだけど、気に入ったのか?」

「うん!特にこの猫ちゃんがかわいくてかわいくて!特に目が!」

「あの目な……かわいい、かわいいのか……?まあ明日奈が気に入ったならいいか」

「もうちょっと見てていい?」

「ああ、別に構わないぞ。好きな所まで見ればいいさ。

まあ今日中には絶対に見終わらないと思うから、続きが見たいならDVDも貸してやるよ」

「うん、ありがとう!」

 

 明日奈は八幡にお礼を言うと、また熱心に視聴を続行し始めた。

八幡は明日奈の後ろにごろんと横になり、何となく一緒に画面を見ていた。

途中で小町も合流し、明日奈と小町は、一緒に笑ったり泣いたり、会話をしたりしながら、

とても楽しそうにそのアニメを視聴していた。

その二人を見る八幡の表情には、いつの間か何らかの感情が浮かんでいたようだ。

明日奈は八幡の顔を見てそれに気付いたのか、何気なく八幡に質問してきた。

 

「八幡君、何か説明し難い表情をしてるけど、今は何を考えていたの?」

 

 明日奈にそう尋ねられて、八幡は、自分は今どんな表情をしていたのだろうと思いながら、

その時考えていた事を、素直に明日奈に説明した。

 

「ん、特におかしな事を考えていたわけじゃないんだけどな、

今二人を見ていて、ちょっと羨ましいって思ったっていうか、

俺も初見の時に、そうやって一緒に見てくれる友達がいたら、

俺の中学生活も、少しは違ったものになったのかなって思ってな」

 

 その八幡の説明を聞いた明日奈は後ろに倒れ込み、

寝そべっている八幡のお腹の上に頭を乗せると、八幡の顔を見ながら笑顔でこう言った。

 

「昔にはもう戻れないけど、これからは私がいるじゃない、ねっ?

そういう機会は、これから沢山あるよきっと」

「ああ、そうだな、本当にそうだ……」

 

 八幡は嬉しくなり、その体勢のまま、再び画面に向かった明日奈の頭を優しくなでた。

そして時間が経ち、時計の針が十二時を回ろうとしたした頃、

小町がそろそろ寝ると言い出し、まず最初に部屋を出た。

明日奈もうとうとしていたようだったので、八幡は、明日奈を起こさないように、

そっと明日奈を抱き上げて部屋へと向かい、明日奈をベッドに横たえて布団をかけると、

そのままそっと部屋を出ようとしたが、その時明日奈が、こんな寝言を言った。

 

「八幡君……高貴な妖であるこの私が、ずっと一緒だからね……」

 

 八幡は、噴き出しそうになるのを必死で堪え、こう呟いた。

 

「影響を受けすぎだろ、アスにゃんこ先生……そうだな、これからも宜しくな、明日奈」

 

 そして八幡も自分の部屋に戻り、そのまま眠りについた。

そして次の日の朝、両親はもう出勤していた為、明日奈が三人分の朝食を作っていたのだが、

そこに小町が慌てた顔をしながら走り込んできた。

 

「あ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、ALOのアップデート情報がさっき更新されたみたい。

こんな時間なのにご苦労様だよね」

 

 二人が小町の差し出してきたスマホの画面を見ると、

それは、ALOの次のアップデート情報だった。

 

「どれどれ……お、遂にか……」

「ええっ?これって本当なの?」

 

 その画面には、シンプルに一言だけ、こう書かれてあった。

 

『次のアップデートで、ALOに、あのアインクラッドが降臨!』

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、アインクラッドって、何?」

「そうか、小町はSAOって名前は知ってても、アインクラッドって言葉は知らなかったか」

「えっ、SAO絡みの用語なの?」

「そうだよ。私達が二年間戦ってきたSAOの舞台、それが浮遊城アインクラッドなの」

「話は軽く聞いてたが、遂に来たかって感じだな。

よし、今日の夜、早速全員に集合をかけるぞ」

 

 こうして二人は、再びアインクラッドの地を踏む事となったのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。