ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/11 句読点や細かい部分を修正


第150話 さすがはお姉ちゃん

「お、お邪魔します」

「お邪魔しま~す」

 

 明日奈とかおりは家に入ると、やや緊張しながらリビングのソファーに腰掛けた。

そこには他に誰もいなかった為、明日奈は小町に尋ねた。

 

「小町ちゃん、お父様とお母様と八幡君は?」

「ふひっ」

「小町ちゃん?」

 

 小町が変な声をあげた為、明日奈は小町の様子をうかがった。

小町はぷるぷると震えながら、携帯を取り出し、何か操作したかと思うと、

携帯の画面を明日奈に向けながらこう言った。

 

「お、お姉ちゃん、今の台詞をこの画面に向かってもう一回お願いします!」

「え、あ、うん。えーっと、小町ちゃん、お父様とお母様と八幡君は?」

「ありがとうございます!お父様お母様頂きました!」

 

 小町が興奮ぎみにそう言い、明日奈は目が点になった。

かおりも状況が分かっていなかったが、今のやり取りを面白いと思ったのか、

笑いをこらえつつ、その様子を観察していた。

 

「こ、小町ちゃん、一体どうしたの?」

「最初から説明します。お父さんとお母さんは、明日奈さんが来ると知って、

仕事に行きたくない今日は休むと、二人揃ってだだをごねたので、小町が追い出しました。

その代わりに、お姉ちゃんの事を動画に撮って、後で見せてあげると約束したのです!」

「そ、そうなんだ」

「今の動画を見た瞬間、二人とも狂喜するに違いないのです。

これで小町のお小遣いもアップする事間違いなしの、ウィンウィンなのです!イェーイ!」

「それある!イェーイ!」

 

 小町につられたのか、かおりが小町に親指を立て、そう言った。

小町も親指を立てながら、イェーイとかおりに返した。

その直後に、声を聞きつけたのか、二階から八幡が降りてきた。

 

「小町、随分と楽しそうだけど、どうした?お兄ちゃん、まだ眠いんだが」

 

 八幡は、パジャマのままポリポリと頭をかきながら、リビングのドアを開けつつ言った。

そして中の様子を見た八幡は、ん?という風に首をかしげながら、再び小町に言った。

 

「小町、お兄ちゃんには部屋に明日奈がいるように見えてるんだが、

どうやらお兄ちゃん、まだ夢を見てるみたいだから、ちょっともう一回寝てくる……」

 

 そう言ってくるりと身を翻し、ドアを閉めようとした八幡の手を、明日奈が掴んだ。

 

「八幡君おはよう!ほら、私だよ私、本物本物!」

 

 明日奈は八幡に、必死で本物アピールをしたが、八幡はまだぼーっとしているようだった。

明日奈はどうしようかと考えた。今は人目もある為、抱きついたりするのはNGである。

それじゃあここは、あの手でいこうかな、と決断した明日奈は、

八幡に向けて、鋭い声で言った。

 

「ハチマン君、スイッチ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、八幡の意識は一気に覚醒した。

八幡は戦闘態勢をとり、敵の姿を求めて辺りに鋭い視線を飛ばしたが、

ここがリビングである事を認識したのか、八幡はすぐに戦闘態勢を解き、明日奈に言った。

 

「おどかすなよアスナ……って、明日奈?」

「おはよう、八幡君!」

「おう、おはよう」

 

 そんな二人を見て、小町が呟いた。

 

「さすがはお姉ちゃん……あの寝起きの悪いお兄ちゃんをこんなに簡単に起こすなんて……」

「何かすごかったね……」

 

 かおりもそう呟き、その声を聞いた八幡は、ぐるりと明日奈を見て、小町を見て、

その視線が、かおりの顔を見て静止した。

 

「んっ、あれ?もしかして折本か?」

「うん、比企谷、久しぶり!」

「お、おう、久しぶり……ん~、今の状況が、まったく理解出来ないんだが……」

 

 八幡は、何とか状況を理解しようと考え込んだが、当然思いつくはずもない。

そんな八幡に、折本が嬉しそうに言った。

 

「ごめん、たまたまこの家を探してた明日奈と知り合って、

案内ついでに私が勝手に押しかけちゃったんだ。

クリスマスイベント以来だね。本当に無事で良かった。お帰り、比企谷」

 

 かおりの笑顔が心からの笑顔に思えた為、

八幡はきょとんとしつつも、きちんとかおりにお礼を言った。

 

「ありがとな、折本。まだ完全には状況が分かってないんだが、

もしかして、それを言う為にわざわざ来てくれたのか?」

「うん!家の前には何回か来たんだけど、そんなに親しくない私としては、

どうしても呼び鈴を押す勇気が出なくてね……」

「そうか、なんかすまん」

 

 八幡は、穏やかな口調でかおりにそう言った。

過去のいきさつはどうあれ、クリスマスイベントで少し話せるようになり、

こうして今また来てくれた事が、八幡は素直に嬉しかった。

 

「それじゃあ部外者の私があんまり長居するのもあれだから、私はそろそろ行くね」

「おう、そうか?今日は本当にありがとな、折本」

「うん!あ、そうだ、明日奈、比企谷、良かったらアドレスを教えてくれない?

今度もし機会があったら、また話したいしね!」

 

 そのかおりの申し出を受けて、二人はかおりと連絡先を交換した。

交換を終えると、かおりは満足そうな笑みを浮かべながら玄関を出て、

くるっと振り返ると、三人に手を振った。

 

「それじゃまたね!」

「おう、またな」

「かおり、またね!」

「かおりさん、お気をつけて!」

 

 そして後に残った三人はリビングへと戻り、ソファーへと腰掛けた。

 

「折本は相変わらず元気いっぱいだったな。ちっとも変わってなかったわ。

それにしても、気がついたら明日奈と折本が目の前にいたから、

ちょっとびっくりしたな。今日は一体どうしたんだ?明日奈」

「えっとね、八幡君と一緒に学校に行こうと思って、早起きしてここまで来てみたの」

 

 それを聞いた八幡は、ぽかんとしながら言った。

 

「それでわざわざ寮からここまで?嬉しいんだが、

そういう事なら今度は俺が迎えにいくから、あまり無理するなよ、明日奈」

「さすがに毎日だと大変だけど、たまになら大丈夫。

いい運動にもなったし、八幡君の住んでいる町も見れたしね!」

「ん、そうか。まあそれなら構わないんだけどな」

 

 その後八幡は、小さな声でボソッと言った。

 

「俺も嬉しいしな」

 

 その声は明日奈には届かず、明日奈は、ん?と首を傾げただけだったが、

しっかりと聞いていた小町が、即座に明日奈に言った。

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃんは今ボソッと、俺も嬉しいしなって言ってました!」

「そうなんだ!うん、私も嬉しいよ!」

 

 明日奈はそう答え、恥ずかしくなった八幡は、小町に恨みがましい目を向けながら言った。

 

「小町ちゃん、お兄ちゃん恥ずかしいから、たまには気を遣ってスルーしてあげてね」

「え~、だって小町、お兄ちゃんよりお姉ちゃんの方が好きだから、

お姉ちゃんが喜ぶ事はきちんと伝えないと」

 

 それを聞いた八幡は当然落ち込んだが、小町はそんな八幡には目もくれなかった。

 

「そうそう、それでねお姉ちゃん、ちょっと見てもらいたい部屋があるの」

 

 小町は明日奈の手をとり、明日奈を二階にある、とある部屋へと案内した。

 

「小町ちゃん、ここは?」

「じゃ~ん、ここは、お姉ちゃんの部屋になる予定の部屋です!」

「えっ、そうなの?」

「うちの両親が、楽しそうに基本的な家具だけ揃えました!

なので、いつ泊まりに来てくれても小町的には全然オッケーです!」

「ここが、私の部屋……」

 

 その部屋は、まだベッドと洋服ダンスと鏡台があるだけの、

本当にシンプルな状態だったが、明日奈はとても嬉しくなり、興奮ぎみに言った。

 

「うわぁ……うわぁ……ありがとう、小町ちゃん!」

「気に入ってもらえると、小町も嬉しいです、お姉ちゃん!

今度一緒に、細かいものを色々と買いに行きましょう!」

「うん!」

 

 そして二人がリビングに戻ると、そこでは八幡が、簡単な朝食を三人分料理していた。

 

「時間的にまだ二人とも何も食べてないだろ?今朝食が出来るから、待っててくれ」

 

 それを聞いた明日奈は、ハッとしながら言った。

 

「そうだ、実は私も朝食を作ろうと思って、材料を持ってきたんだよね」

「そうか、それじゃあそれは、明日にでも頼むわ」

「明日?」

「あ……」

 

 八幡はしまったと思い、慌てて明日奈に言い訳をした。

 

「すまん、つい昔一緒に暮らしてた時のノリで、つい明日とか言っちまった」

 

 明日奈はそれを聞くと、即座に決断し、八幡に言った。

 

「うん、そうする!今夜泊まりに来るね!」

「えっ……」

「やったー!お姉ちゃんが初めてのお泊りだ!」

 

 明日奈がいきなりそんな事を言い、八幡は絶句し、小町はとても喜んだ。

 

「いや、しかしだな、明日奈のご両親がどう思うか……」

「大丈夫、八幡君のご両親も一緒だし、ちゃんと説得するから」

「でもな……」

「大丈夫、ちゃんと説得するから」

「あっ、はい……」

 

 八幡は、明日奈の迫力に押され、ついに引き下がった。

そして三人は仲良く会話をしながら朝食を終え、学校へと向かう事にしたのだった。


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