「やぁ、アスナさん、久しぶりだね。また会えて本当に嬉しいよ」
「ニシダさん、お待ちしてました。私も嬉しいです!」
「どうだい?体の調子は」
「はい、ハチマン君が色々と手伝ってくれるので、とても順調に回復しています」
「うんうん、良かった良かった」
「はい!」
その日は、先日約束した、西田が明日奈の見舞いに来る日だった。
明日奈は八幡から、西田に再会したと教えられてから、
この日をずっと心待ちにしていたのだった。
「あの件については私は、ニュースでやってる程度の話しか知らないんだけど、
今回は本当に災難だったね」
西田の言うあの件とは、当然須郷のしでかした、ALOの件についてだ。
ちなみに須郷は、ぽつぽつと事件についての供述を始め、
それに伴い世間から猛バッシングをくらっている最中で、
悪い意味で、今日本で一番有名な男となっていた。
「はい、すごく大変でした……でもハチマン君達が助けてくれました!」
「うんうん、いい恋人を持って、アスナさんは幸せだね」
「はいっ、とても幸せです!」
「あー、ところでニシダさん、釣りは今もやってるんですか?」
八幡は、さすがに恥ずかしくなってきたのか、話題を変える事にしたようだ。
「ああ、釣りね。やっとリハビリも終わり、就職先も無事決まったしね、
そろそろまた始めようと思ってるんだよね」
「あっ、そういえば就職おめでとうございます!」
「ありがとう。こんなおいぼれを拾ってくれて、本当に陽乃さんには頭が上がらないよ」
「ニシダさんは、ALOの回線保守をする事になったんですよね?」
「そうだね、SAOの時は、仕事を全うする事が出来なかったから、
今度はしっかりと与えられた仕事を全うしたいと思っているよ。
だから安心してALOで遊んでね、二人とも」
「はい!」
「ありがとうございます、ニシダさん」
二人は西田の言葉に、嬉しそうに頷いた。
「ところでニシダさん、お聞きしたい事が……」
「ん、アスナさん、何を聞きたいんだい?私に答えられる事ならいいんだが」
「女の子でも釣りは出来ますか?私、こっちでも釣りをやってみたいんです」
突然明日奈がそんな事を言い出し、西田は少し考え込んだ。
「うーんそうだね、女性の釣り人もたまに見るから、大丈夫じゃないかな。
いくつか問題はあると思うけど、特にエサ関連でね」
「それなら大丈夫です!私が体力を取り戻したら、みんなで釣りにいきましょう!」
「私は別に構わないんだが……」
西田はチラッと八幡を見た。そうは言うものの、明日奈が生エサに触れるか、
少し不安があったからだった。八幡はその疑問を把握し、明日奈に尋ねた。
「アスナ、ミミズとかをエサに使うんだけど、そこらへんは本当に大丈夫なのか?」
「うん、ミミズもウジ虫もゴカイも川虫もハチマン君が全部付けてくれるから大丈夫!」
「おい……」
「あ、練り餌とかは自分で出来るよ!サツマイモをふかした奴とかも大丈夫!」
八幡はその言葉に、少し面食らった。
「お、おう、詳しいんだな、アスナ」
「実はね、ハチマン君に、ニシダさんの話を聞いた時から、
実際に釣りをしてみたいなって思うようになってね」
「釣りか……いいかもな」
「うん!ルアーは何とかなると思うんだけど、毛バリは敷居が高い気がするんだよね。
流すだけならいけそうだけど、川面をちょんちょん叩くようにとか、
どうしても想像出来ないんですよね……ニシダさん、私に出来ますかね?」
西田は、ポカンと明日奈を見つめていたが、
やがてとても楽しそうに、大声で笑い始めた。
「あはははは、最初はエサ釣りから地道にやればいいんじゃないかな。
でもアスナさんなら何でもすぐに出来るようになると思うけどね。
確かにエサはハチマン君につけてもらえば問題ないだろうしね」
「はい、頑張ります!キャッチ&リリース!あ、でも魚拓はとってみたいかも」
八幡は、明日奈が次から次へと話すのを聞き、呆然と言った。
「嬉しそうだな……しかしアスナ、いつの間にそんなに釣りについて、詳しくなったんだ?
釣りとかやった事ないって言ってたよな?」
「あ、うん。実はマンガで読んだんだよ」
「何のマンガだよ……」
「釣りキチ三平!先日電子書籍で全部読んだの!」
八幡は、その予想外の言葉に面食らった。
(あの長さを全部だと……)
「あれは俺も確かに好きだけどな……一気に全部とか、頑張りすぎだろ……」
「もちろん平成版まで全部読んだよ、褒めて、ハチマン君!」
「はいはいえらいえらい」
「クニマスが西湖で実際に見つかったって話を聞いた時は、感動を抑えられなかったよ!」
「って、そんな関連情報まで調べたのかよ……」
「むふー」
明日奈は、得意げに鼻をならした。
八幡は苦笑しながら、とりあえず一旦明日奈を止める事にした。
「分かった分かった、とりあえずそのくらいにしとこうな」
「むー、もっと沢山話したい事があるのに……」
「はまったのか……後でちゃんと聞いてやるから」
「うん!」
「あははははは」
西田は二人の遣り取りを聞き、堪えきれず、楽しそうに笑った。
「どうやらやる気まんまんのようだし、ハチマン君と一緒に計画だけ立てておくよ。
まあその前に、まずは体力を早く取り戻す為に頑張らないとだね。
とりあえずそんな予定でいいかい?」
「はい!お願いします!ハチマン君もお願いね!」
「はいはい」
西田はそんな二人を見ながら、改めて言った。
「二人が幸せそうで、本当に良かったよ」
「はい、今はとても幸せです!」
「そうですね、幸せだと思います」
西田は更に、目を細めて言った。
「二人は私にとっては、本当の孫みたいなものだから、とても嬉しいね。
あ、キリト君とリズベットさんを入れると四人かな」
八幡はその言葉で、まだリズベットの事を話していなかった事に気が付いた。
「あ、そうだ、まだニシダさんには話してなかったと思いますけど、
リズも実は、アスナと同じく解放が遅れた百人の中の一人だったんですよ。
もし良かったら、リズの所にもお見舞いに行ってもらえたら、リズも喜ぶと思うんですが」
西田はそれを聞いて、かなり驚いたようだったが、すぐにこう言った。
「そうだったのか、もちろんだよ。後でどこの病院か、教えてもらってもいいかい?」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。リズもきっと喜びます!」
「ああ、そうだな。それじゃあえーっと、病院の場所はですね……」
八幡は西田に、リズベットの入院している病院の場所を教えた。
「ああ、そこなら、丁度家に帰る途中の駅だね。
まだ時間はあるし、今日お見舞いにいけるかな。まあ、先方の都合が合えば、だけどね」
「ちなみに尋ねる時は、篠崎里香の病室だと伝えてもらえれば大丈夫です」
「私、今リズに聞いてみます!」
明日奈はそれを聞いてすぐに、里香に電話をかけた。
「もしもし、あ、リズ?えっとね、今ニシダさんがお見舞いに来てくれててね、
それでもし良かったらなんだけど、この後……」
明日奈は里香に、西田の事を説明をした。
そして明日奈は電話をしながら、手で丸を作った。どうやら大丈夫のようだ。
和人も一緒にいるらしく、直後に八幡の携帯に、和人からメールが届いた。
「キリトからも今メールがありました。今一緒にいるらしいです」
「です!」
「そうか、それじゃあ行ってみようかな。またお見舞いに来させてもらうよ、二人とも」
「はい、いつでもお待ちしてますね!」
「一緒に釣りに行ける時を楽しみにしているよ。それじゃあ二人とも、またね」
「はい、またです、ニシダさん」
「リハビリ頑張りますね!またです!」
西田が帰った後、明日奈は楽しそうに八幡に話し掛けた。
「ニシダさんも幸せそうで、良かったね、ハチマン君」
「ああ。本当に元気そうで、嬉しかったな」
「釣りも楽しみだよ!」
「それまでに釣り竿も用意しないとだな」
明日奈は、いっけない、というように舌をペロッと出し、八幡に言った。
「そうだね、その事をすっかり忘れてた」
「どのくらいの長さがいいかとか、今度ニシダさんに聞いておくか」
「そこらへんはハチマン君に任せるね。それでね、ハチマン君」
「ん?」
明日奈は今日一番真剣な顔をして、八幡にこう言った。
「タキタロウって、本当にいると思う?」
八幡はそれを聞き、深い溜息をついた。
「本当に、はまったんだな……」
「うん!今夜は寝かさないよ!」
「いや、そんな色っぽい言い方をしても駄目だぞ。話は聞くけどちゃんと帰るからな」
八幡はその後、面会終了時間まで、明日奈の話に付き合った。
そして、家に帰って食事をし、風呂に入ってベッドに横たわった頃、
和人から八幡に、電話が掛かってきた。
「おう、キリト、ニシダさんと会えたか?」
「あ、うん、リズも喜んでたよ」
「そうか、良かったな」
「で、その後なんだけど……」
和人が深刻そうな声を出した為、八幡は心配し、こう尋ねた。
「何かあったのか?」
「リズが……」
「リズが?」
「私も釣りに行きたい!その時は俺にエサをつけろ!って言うんだよ!」
八幡は、お前もかリズ、と思いながら、和人に返事をした。
「別にいいじゃないか。アスナの分は俺がつけるぞ」
「俺、虫とか苦手なんだよ!」
「諦めて虫に慣れろ」
「くっ……後、アスナに何か言われたのか、釣りキチ三平を全部読めって言うんだよ!」
「あれはいいものだ。さっさと読め」
「まじか……」
「話はそれだけだな、それじゃあ俺は寝るぞ」
「あっ、ちょっ……」
八幡は和人の言葉に対し、強引に話を打ち切って電話を切ると、
そのままベッドに横たわり、眠りについたのだった。