ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/10 句読点や細かい部分を修正


第140話 世界の種子

 次の日の朝、八幡と和人は予告通り陽乃に呼び出され、

そのまま車でいずこかへ向かっている最中だった。

 

「陽乃さん、一体どこに向かってるんですか?」

「ん~?言わなかったっけ?ダイシーカフェだよ」

「ダイシーカフェですか」

「そういえば昨日、エギルに大体の場所だけ教えてもらったっけ」

「これで正確な場所が分かるなら、まあ良かったのかもな」

 

 そしてしばらく走った後、車はとあるビルの横で停車した。

 

「このビルだよん。さあ二人とも、降りて降りて。

都築、後でまた連絡するからそしたら迎えをお願いね」

「はい、陽乃お嬢様」

 

 三人は車を降り、陽乃の先導によって、ビルの中へと入った。

 

「おっ、あそこじゃないか」

「確かにダイシーカフェって書いてあるな」

「俺、こういう店に来るのは初めてだから、ちょっと緊張するな」

「確かにお酒を出す店に来るのは初めてだな。もっともまだ飲めないけどな」

「それじゃ入りましょう」

 

 三人がドアを開けると、エギルが三人を笑顔で出迎えた。

 

「よぉ、こっちじゃ初めましてだな」

「そうだな。初めまして、比企谷八幡だ」

「桐ヶ谷和人だ」

「俺はアンドリュー・ギルバート・ミルズだ。宜しくな、二人とも」

「アン……?」

「ギル……?」

「今まで通り、エギルでいいぜ」

「おう、分かった」

「それじゃあ俺もキリトで」

「了解だ。オレっちもアルゴでいいゾ」

 

 最後のその言葉に、二人は慌てて振り向いた。

そこにはいつの間にかアルゴが立っており、アルゴは、何食わぬ顔でカウンターに座った。

 

「二人とも、さっさと座れヨ」

「お、おう」

「アルゴも陽乃さんに呼び出されたんだな」

「いや、むしろ呼び出したのはオレっちだゾ」

「ああ、そうなんですか?陽乃さん」

「そうよ。今日は大事な話があるから、貸し切りにさせてもらったわ」

 

 それを聞いた瞬間、二人の顔色が変わった。

 

「ま、まさか貸し切りにしてまで俺達にお仕置きを……?」

「お、俺は何も言ってません!全部ハチマンが言いました!」

「き、キリト……こういう時は連帯責任だろ?俺とお前は友達だよな?」

「初めまして、ハチマンさんでしたっけ?」

「ぐっ……裏切り者め」

「やだなぁ二人とも、あんな事くらいで目くじら立てて怒ったりしないから安心して。

今日はね、ハチマン君のナーヴギアに収納されていたプログラムの事で話があるのよ」

「あ」

「ああ!」

 

 二人はその言葉を聞くと、真面目な顔になり、大人しくカウンターに座った。

 

「晶彦さんから渡された、あのプログラムの事ですね」

「ええそうよ。アルゴちゃんからやっと解析が終了したって聞いてね、

それで今日、こうして集まってもらったの」

「何の話だ?」

「エギルにはまだ説明してなかったよな。実はな……」

 

 八幡は、明日奈を救出した後に茅場と遭遇した事と、

その時にあった出来事を、エギルに説明した。

 

「茅場晶彦の遺産って事か……」

「まだどこかで活動してるのかもしれないけどな」

「それじゃあアルゴちゃん、報告をお願いね」

 

 そしてアルゴの報告が始まった。

 

「ああ。結論から言うと、あれはVRMMOの種みたいなもんだったゾ」

「VR?」

「MMOの?」

「種ぇ?」

「ああ。分かりやすく言うと、SAOやALOのサーバーみたいな大規模サーバーでないと、

制御が難しかったカーディナルシステムを、小規模サーバーでも使用できるようにし、

その上で稼動するゲームの開発支援機能を同時に含むプログラムだゾ」 

 

 和人はその説明を聞いて、自分なりにこう結論付けたようだ。

 

「なるほど、要するに、RPGツクールみたいなものって事でいいか?」

「あー……まあそれでいいカ」

「つまり、このプログラムがあると、最低限の環境さえ整えれば、

SAOやALOのようなVRMMOが作り放題って事でいいんだよな?」

 

 アルゴは頷きつつも、更にこう補足した。

 

「実はそれだけじゃないんだゾ」

「他にも何かあるのか?」

「このプログラムを使って作られたゲーム同士で、キャラの移動が出来る。

これは解除する事が出来ない。つまり、発売された直後のゲームに、

正確にはそのゲームの運営を始めて三ヶ月後からなんだが、ALOのキャラを移動させて、

強くてニューゲームを実現する事が可能なんだ。もちろんALOに戻る事も可能だナ」

「互換性があるって事か……それはすごいな」

「そうだな。これが拡散したら、本当に世界が変わるゾ」

「さて、そういう訳なんだけど、ハチマン君、どうする?」

 

 陽乃は、いつになく真面目な顔をして、八幡に問いかけた。

 

「どうする、とは?」

「これは本当に、世界を一変させるほどの大変なプログラムなのよ。

ゲームだけでなく、医療分野や軍事部門にまで応用出来る、

画期的なプログラムと言えるわ。そしてその持ち主は、あなたという事になる。

これをどうするかはあなたが決めるのよ」

「これを俺が……」

「ちなみにライセンス料をかなり低く見積もっても、

このプログラムをライセンス販売すれば、あなたは億万長者になれるわ。

あなたの大好きな、働きたくないでござる、が実現できるわよ」

「なん……だと……」

 

 ハチマンはそれを聞き、呆然と呟いた。

 

「さあどうする?下手をすると、あなたの名前が歴史に残るわよ」

「俺の名前が歴史に!?」

「ハチマンの名前が教科書に載るかもしれないな」

「え?」

「ハチマンの名前が試験に出るのか……」

「お、おう……覚えにくい名前で、何かすまん……」

「気にするのそこかよ!」

 

 その八幡の言葉に、和人はそう突っ込んだ。

 

「まあ冗談じゃなく、それくらい大変なものだって事ね」

「は、はぁ……それじゃあ……」

「いらないわよ」

 

 陽乃は機先を制し、八幡が何か言おうとしたのを止めた。

 

「……まだ何も言ってません」

「今あなた、これを私に管理させようとしたでしょう?」

「バレてやがる……」

「しかもタダで譲ろうとした」

「陽乃さん、前から思ってたけど、エスパーですか?テレパシーとか使えません?」

「あ、バレた?昨日の八幡君の妄想とか、公開した方がいい?」

「ちょ、ま、それはやめて下さい、ごめんなさいもうしません」

「……今のはほんの冗談だったんだけど、本当に妄想してたの?」

「…………」

「ハチマン……」

「何だよキリト」

「ハチマン……」

「何だよエギル」

 

 二人は八幡を正面と左から挟み、肩をぽんと叩くと、

とてもいい笑顔で八幡に微笑んだ。

 

「お前らよせ!そんないい笑顔で俺を見るな!おいアルゴ、携帯を置け!

アスナにチクろうとすんな!」

「よく見てるなぁ、ハー坊」

 

 八幡は、ハァハァと激しい呼吸を繰り返していたが、

深呼吸し、呼吸を落ち着けると、真面目な顔で陽乃とアルゴに尋ねた。

 

「もし仮に、仮にですよ、これをライセンス公開したとして、

こっそり拡散させた場合と比較して、軍需産業への影響はどのくらいになると思いますか?」

「そうねぇ……そういう所はもう独自にVRを導入してるから、

そこまで大きな影響は無いんじゃないかしら」

「そうだな、そういう技術を持たない小国にとっては大きいかもしれないが、

これのせいで、世界が劇的に危機に陥るような事は無いとおもうゾ」

「そうですか……よし、それじゃあこれは、正体不明の人物の仕業って事で、

全世界に拡散してもらえませんか?」

「……本当にそれでいいの?」

「ええ。晶彦さんの望みが何だったのか、今となっては分かりませんが、

俺がもらった以上、俺が決めます。これは全世界に拡散します」

「分かったわ。それじゃアルゴちゃん、宜しくね」

「了解」

 

 八幡は、更に思いついたように付け加えた。

 

「あ、ついでに陽乃さん、ALOのカーディナルシステムも、

このプログラムに変更しません?そしたらライセンス料絡みの問題もクリアになって、

完全にレクトの紐付きじゃなくなりますよね?ALOから他のゲームにも行きやすくなるし、

いい事ずくめじゃないですか?」

 

 その八幡の提案に、陽乃は少し考え込んだ後にこう言った。

 

「そうねぇ、ライセンス料はいらないってレクトからは言われてるんだけど、

その方が後々問題にならなくて、いいかもしれないわね、アルゴちゃん」

「はいはい、オレっちがやればいいんだロ?」

「ごめんねぇ、あっちの方も忙しいと思うけど、頑張って」

「あっち?」

「ああ、それは企業秘密だから、公開出来るようになったら教えてあげるわ」

「ああ、そうですね、ネタバレは良くないですしね」

「早くオレっち以外の優秀な技術者を確保してくれよな、ボス」

「レクト・プログレスの元技術者の中から、

まともな人間を回してもらう事になってるから、

もう少し待っててね。この後、その連中を集めての会合の予定だから、

そこでしっかりと人員を確保して、なるべく早く体制を整えるわ。

ちなみに旧アーガスの人間もいるんだけどね。これがそのリストよ」

 

 八幡の位置からは、そのリストは見えなかったが、

何気なくそのリストを見た和人が、驚いたようにそのリストを引ったくり、

じっと見つめたかと思うと、顔を上げ、陽乃に言った。

 

「陽乃さん、その会合、俺とハチマンも連れてって下さい!」


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