「今日は時間もあまり無いし、とりあえず街中に、インスタンスエリアの闘技場があるよな。
あそこに行って、仲間内でやりあってみないか?ユミーの能力も上げないとだしな」
「なるほど、いいかもしれないわね」
「それじゃあ早速行ってみよう」
そんなハチマンに、キリトがこう提案した。
「なあハチマン、ユージーンも誘おうぜ」
「あいつと再戦したいのか?四十人くらいまでは入れたはずだし、いいんじゃないか?」
「今十八人か、まだまだ余裕だな」
「サクヤさんとアリシャさんは?」
「どうやら二人とも、領都に戻っているようね」
すかさずユキノがウィンドウを見ながらそう言った。
「それじゃあとりあえず、今日はそのメンバーで行ってみるか」
そして一同は家を出て、そのまま闘技場へと向かった。
幸い闘技場には空きがあり、すぐにでも利用出来るようだった。
「それじゃ、早速入るとするか」
「ちょっと待って、ハチマン君」
「ソレイユさん、どうかしましたか?」
「ほら見て、このギャラリーの数」
「確かにすごい数ですが、それが何か?」
ここまでの道中、すごい数のプレイヤーが、一行の後を遠巻きに付いてきていた。
ソレイユ、メビウス、ユキノに加え、ユージーンを破ったキリトと、
途中でそのユージーン本人も合流したのだ。話題にならないはずはない。
「ハチマン君、他にも何人か誘っていい?知らない人が入るのはまずい?」
「いや、別に構いませんけど、どうするんですか?」
「まあ、任せといて」
ソレイユはそう言うと、群集に向かって叫んだ。
「これから、私達の模擬戦を見学したい人を何人か募集します。
撮影禁止、見学者同士の会話はOK。私達に話しかけるのは基本禁止、戦闘参加は応相談。
あくまでうちわの会なので、無礼な態度をとったプレイヤーは、
私が直々に制裁を加えた後、外へ叩き出します。
オークション形式で、そうね……余り多くても困るかもだし、とりあえず六人くらいかしら、
ちなみに一千万ユグド出す人は無条件で中に入れます。
その場合は早い者勝ちね。はい、スタート!」
その言葉に一瞬静まり返った群集は、我も我もと入札を開始した。
「一千万出すぞ!」
そんな中、一人の男がそう宣言した。それはカゲムネだった。
「お、カゲムネじゃないか、久しぶりだな」
「はい、お一人様決定!」
「お、俺も一千万出すぞ!」
「俺もだ!」
「はいさらに二名決定!残りは後三人!ちなみに私達も忙しいから、
このメンバーが集まるのは最初で最後かもしれないよ。特に私」
残りの三人の金額もまたたく間に釣り上がり、結局一千万まで到達した。
「はい、終了!」
こうして中に入れる六人が決定し、ソレイユは、売り上げを全てハチマンに渡した。
「それじゃあこれ、ギルド設立の足しにしてね」
「あ、ありがとうございます、ソレイユさん」
「ソレイユ姉さん、すごい!」
「さすがというか、こういう所は見習わないといけないわね……姉さん」
「それじゃ、中に入りましょう、ハチマン君」
「あっ、はい」
闘技場に入ると、まずキリトが前に出て、ユージーンを呼んだ。
「ユージーン、早速再戦といこうぜ」
「望む所だ」
それは、メインイベントが最初に来たようなものであった。
二人は激しい戦いを繰り広げ、観客は熱狂した。
結果はキリトの勝利であり、ユージーンはキリトと握手を交わした。
「やはりまだ勝てないな」
「あれからまだそんなに経ってないしな」
「それでもやはり、悔しいものだな」
「ユージーンは経験が足りないだけじゃないか?戦い方が綺麗すぎる気もするしな」
「むっ、これでもゲーム開始からずっとやっているんだがな……
さすがにお前達と比べると、経験が足りてないと言われるのも頷ける」
そしてキリトは、突然ハチマンに声を掛けた。
「あー……ハチマン、ちょっといいか?」
「ん、どうしたキリト?」
「ハチマンは、ユージーンがもっと強くなるにはどうすればいいと思う?」
キリトはどうやら、ユージーンにもっと強くなってほしいようだ。
「そうだな、おいアスナ、ちょっとこっちに来てくれ」
「どうしたの?ハチマン君」
「アスナ、今の戦いを見てただろ。それで相談なんだが、
ちょっとこのユージーンと、試しに戦ってみないか?」
「何だと?俺はてっきり、やるならお前が相手なのだとばかり思っていたのだが」
「うん、分かった」
ユージーンの質問をよそに、アスナはハチマンの申し出を快く承諾した。
「で、こちらの女性は?」
「あ、私はハチマン君の彼女のアスナです、元ティターニアって言えば分かるかな、
初めましてユージーンさん。最後の戦いの時、一緒に戦ってくれたんですよね、
本当にありがとうございます。こうして無事に帰還する事が出来ました」
「おお、それでは君が……そうか、こうして自分達のやった事の結果を見せられると、
とても嬉しいものだな。本当に良かった……」
「それでだ、ユージーン」
「おっとすまん、で、お前がやらせるからには、このアスナさんも強いのだな?」
「俺とキリトとアスナは、SAOの中では、四天王って呼ばれてたんだぜ。
要するに、生き残った六千人の中の頂点だな」
「おおおお」
「ユージーンの周りには、今まで自分より強い奴はいなかったんだろ?
強くなるには、強い奴と戦うのが一番だ。というわけで、アスナと戦ってみるといい」
「願ってもない!」
こうしてユージーンとアスナの試合が始まった。
最初は無名のアスナが相手だと知って、落胆していた観客達は、
いざ試合が始まると、先ほどの試合と同じように熱狂した。
「カゲムネさん、どう?楽しんでる?」
「カゲムネさん、お久しぶりです」
「リーファとレコンか。この二試合だけ見ても、一千万出した甲斐があったぞ」
試合を見ながら興奮したようにそう言うカゲムネに、二人は頷いた。
「すごいよね、アスナさん。あのユージーンと互角に戦ってる」
「むしろ押してるように見えるね、リーファちゃん」
「どこがどうとは言えないんだけどね、剣技だけなら私の方が上な気もするし。
でも私じゃ勝てない気がする。とにかく戦い慣れているって感じ、凄いね」
そしてカゲムネは、苦笑しながら言った。
「俺に言わせると、凄すぎて参考にすらならないがな」
「カゲムネさんだって強いじゃない」
「俺はまだ、ユージーンさんが目標だからな。
上には上がいる事をこの目で確かめられただけでも良かったよ」
「お互い頑張りましょう、カゲムネさん」
そしてレコンは、アピールするようにリーファに言った。
「ぼっ、僕も!」
「レコンが参考にするのは、ハチマンじゃないかな」
「そっか、確かにそうかもしれない。でも僕、ハチマンさんの戦ってるとこって、
一度も見た事が無いんだよね」
「これからいくらでも見られるわよ。頑張れ、レコン」
「うん!」
終わってみると、結局試合はアスナの圧勝だった。
ユージーンも頑張ったが、とにかくアスナの手数と攻撃の速さはすさまじく、
ユージーンは自分の武器の特性を生かしきる事が出来なかった。
更にアスナは、途中から回復魔法まで併用しだし、まったく手がつけられない状態だった。
「メビウス先輩、どう思います?」
「ヒーラーとしての技術なら私達の方が上だと思うけど、総合力が違いすぎるね。
私達も色々と参考にしないといけないね、ユキノさん」
「そうですね……自分の身くらいは守れますけど、攻撃までは中々手が回らないですしね」
「お互い頑張ろう!」
「はい」
アスナは、倒れたユージーンに手を差し出し、立ち上がるのに手を貸していた。
「うーむ、見事だ……あのすさまじい攻撃の最中に、回復魔法まで併用してくるとはな」
「まだ不慣れだけどね」
「どうだユージーン、アスナは強いだろ?」
「ああ。次はお前と戦ってみたいが」
「疲れただろ?少し休めって。その代わり、俺の戦いを見ておくといい。
俺だけがそっちのスタイルを知ってるのは、不公平だからな」
「そうか、それでは少し休憩させてもらうとするか」
ハチマンが指名したのは、クラインとエギル、それにレコンだった。
「ちっくしょー、三対一かよ!」
「まあまあクライン、勝ってハチマンの鼻をあかしてやろうぜ」
「すまん、全力でやるのに、女の子を指名するのはちょっとな」
「ハチマンさん、全力でいきますね!」
「おう、レコン、しっかりと受け止めてやるよ」
そして試合が開始され、クラインとエギルは、いきなりハチマンに襲い掛かった。
「先制攻撃だ!」
「くらえ!」
二人は武器を振り下ろそうとしたが、その瞬間に武器を弾かれ、
バランスを崩して後ろに倒れそうになった。
「えっ」
レコンは呆気にとられ、一瞬二人の方を見た後、ハチマンに視線を戻した。
だがそこに、ハチマンの姿は無かった。
「えっ、えっ?」
「ここだ、レコン」
背後からハチマンの声が聞こえ、レコンは慌てて振り返ろうとしたが、
その瞬間に肩に衝撃が走り、レコンは振り返る事が出来ないまま、背中から攻撃を受けた。
「さすがに一撃で首をはねるのもどうかと思うしな」
レコンはそれを聞き、これでも手加減してもらってるんだなと思いながら、
必死で体制を立て直そうとした。その間に、ハチマンの背後から、
先に体制を立て直したクラインとエギルが再び攻撃しようとしたが、
ハチマンは、そちらを見ようともしないまま、後ろ手で二人の武器を弾くと、
コマのように回転してカウンターでクラインとエギルに攻撃を加え、
そのまま後方に飛び上がって、背後にいたレコンの更に背後に着地すると、
そのままレコンを背後から攻撃し、三人はどっと地面に倒れたのだった。