ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/10 句読点や細かい部分を修正


第136話 落ちる

「お~いキリト、ここだここだ」

「ハチマン!」

 

 その日ハチマンとキリトは、スイルベーンで待ち合わせをしていた。

もう少ししたら、アスナとリズベットがALOにログインしてくる為、

二人はそれを迎えに来たのだった。

 

「それじゃ、行くとするか」

「おう」

 

 二人は飛び立ち、かつて自分達が出現した座標へと向かっていった。

 

「リズの調子はどうだ?」

「うん、まあ俺達もそうだったけど、結局筋力を取り戻せばいいだけだしな。

おかしな病気とかも無かったみたいだし、すごく元気だよ」

「そうか……アスナはハル姉さんの影響をかなり受けていてな……」

「ハル姉さん?陽乃さんの事か?」

「ああ、アスナがそう呼ぶ事に決めたらしくてな……

アスナの奴、随分と陽乃さんに気に入られたみたいだ」

「……ハチマン、アスナを絶対に怒らせるなよ。

もしそうなったら、絶対に陽乃さんも敵にまわるぞ」

「……心しておく」

 

 二人はそんな雑談をしながら飛び続けていた。

 

「確かこの辺りだったよな?」

「うん、見覚えがある、この辺りだな」

 

 そして二人は、SAOのクリア時のアスナとリズベットの位置の事を考え、

二手に分かれる事にした。

 

「それじゃ俺は上だな」

「俺は下だな。ハチマン、アスナを落とすなよ」

「おう、まあ頑張って見つけるさ」

「アスナの事だから、案外俺達みたいに自力で飛ぶかもしれないけどな」

「まあ陽乃さんに色々と質問してたみたいだし、その可能性は高いけどな」

「それじゃそろそろ時間だ、健闘を祈る」

「おう、首尾よく合流したら、そうだな、あの木の所で待ち合わせな」

 

 そう言ってハチマンは、少し離れた所に立っている木を指差した。

 

「オーケー。それじゃ後でな」

「おう」

 

 ハチマンはキリトと別れると、上へ向かった。

そしてウィンドウに表示されているリアル時間を見つめながら、アスナの到着を待った。

やがて時間になり、ハチマンは周囲を見回し、アスナを必死に探した。

 

「んっ……あれか」

 

 遠くに人影が見え、ハチマンは、そちらに向かって飛んでいった。

その人影は、安定はしていないみたいだが、何とか自力で飛べているようだ。

 

「どうやら平気みたいだな。とりあえず安心か。

……おっ、アスナもこっちを見付けたみたいだな」

 

 ハチマンは、アスナがちらりとこっちを見たのを確認し、そう判断したが、

次の瞬間、突然アスナが叫んだ。

 

「あ~れ~、落ちる~~~~~」

「うおい、何だその棒読みは、って本当に落ちてるのか?

くそっ、どっちなのか分からないが、とにかくまずい!」

 

 突然アスナが落下し始めたため、ハチマンは速度を上げ、アスナをしっかりと受け止めた。

お姫様抱っこであった事は言うまでもない。

 

「ありがとうハチマン君、でもびっくりしたせいか、まだちょっと力が入らないの。

もし迷惑じゃなかったら、このままリズの所に連れてって」

「大丈夫か?」

「うん、多分少ししたら復活すると思う」

「そうか、よし、それじゃあこのまま待ち合わせ場所に向かうぞ」

「うん」

 

 約束の木の下に着くと、そこには既に、キリトとリズベットがいた。

アスナはリズベットを見ると、突然元気になったのか、

ハチマンの腕の中から飛び降り、リズベットに抱き付いた。

 

「リズ!」

「アスナ!」

 

 二人は抱き合い、ハチマンとキリトはその光景を微笑ましそうに眺めていた。

そしてアスナはリズベットの耳元で何かを囁いた。

その直後にリズベットがキリトに、飛び方を教えてくれと頼んできた。

 

「浮く事は出来るんだけどね、ほら」

 

 その言葉と共に、リズベットは凄い速度で上空へ上っていった。

それはとても浮くといった表現では納まらないものだった。

 

「うおっ」

 

 キリトは慌ててその後を追った。そしてその直後に上空から、

リズベットの棒読みの声が聞こえてきた。

 

「あ~れ~、落ちる~~~~~」

 

 その声を聞いたハチマンは、バッと振り向いてアスナの顔を見た。

アスナは自然体を装いつつも、ハチマンから目を背けていた。

 

「な、なぁアスナ…」

「ん、ど、どうしたの、ハチマン君」

「俺はこの光景に見覚えがあるんだが……このやり口は……ハル姉さんか!

おいアスナ、奴に一体何を吹き込まれた!?」

「な、何の事かな、何か証拠はあるのかな?」

「ぐっ……」

 

 その直後に、リズベットをお姫様抱っこしたキリトが上から降りてきた。

 

「ふう、びっくりしたな、気を付けろよ、リズ」

「うん!」

 

 リズベットはキリトの腕の中から飛び降り、嬉しそうにアスナに駆け寄った。

 

「ありがとうアスナ、アスナの言った通りやったらバッチリだったよ!」

「ちょっ、リズ、それは言っちゃ駄目!」

 

 アスナは慌ててリズベットの口を塞いだが、もう手遅れだった。

 

「……アスナ」

「な、何かな、ハチマン君」

 

 ハチマンはアスナに、おいでおいでと手招きをしていた。

アスナはいやいやと首を振って、リズの後ろに隠れた。

そんな中、事情が分かっていないキリトがハチマンに尋ねた。

 

「ハチマン、何かあったのか?」

「おいキリト、ちょっと耳を貸せ」

「あ、うん」

 

 ハチマンはキリトの耳元で、ごにょごにょと今までの経緯を説明した。

それを聞いたキリトもバッと振り向き、リズベットの顔をじっと見つめた。

リズベットは、しまったという顔をしながら、慌ててキリトから目を背けた。

 

「……おいリズ」

「な、何?キリト」

 

 キリトもリズに、おいでおいでと手招きをしていた。

それを見たリズベットは慌てて自分の後ろにいたアスナの背後に隠れた。

 

「仕方ないな、おいキリト、こっちから行こうぜ」

「ああ」

 

 二人はゆっくりと、アスナとリズベットの方へと向かって歩き出した。

 

「ひいっ」

「ふ、二人とも落ち着いて、うん、話し合おう」

「おう、話し合おう、じっくりとな」

「どうしたリズ?隠れてないでじっくりと話し合おうぜ」

 

 ハチマンとキリトは、そう言いながらじりじりとアスナとリズに近付いていった。

 

「アスナ、どうする?」

「リズ、逃げるよ!」

 

 アスナはそう言うと、リズベットの手を引っ張って飛び上がり、すごい速度で逃げ出した。

 

「お前ら、やっぱり飛べるんじゃないか!」

「待てええええええええ」

 

 ハチマンとキリトも直ぐに飛びあがり、全速力で二人を追いかけた。

どんどん距離が縮まり、二人に手が届くかと思われた瞬間、

アスナとリズは見事なアクロバット飛行を披露し、その手を回避した。

 

「何っ!?」

「何でいきなりそんな飛び方が出来るんだよ!」

「ハル姉さんにコツを教わったの」

「陽乃さんにコツを教わったの」

 

 二人は同時にそう答え、再び全力で逃げ出した。

 

「コツを教わっただけであれか……やっぱりハル姉さんは化け物か……」

「おいハチマン、陽乃さんがどこかで聞いてるかもしれないぞ。滅多な事を言うな!」

「まじか!?」

 

 そしてハチマンとキリトは慌てて周囲を見回し、

周囲に誰もいない事を確認すると、ほっと胸をなでおろした。

 

「って、追いかけないと」

「そうだった、行くぞ、キリト!」

 

 この鬼ごっこはしばらく続き、そのおかげで四人は、

飛行の技術を更に上達させる事になったのだった。

 

「や、やっと捕まえた……」

「お前ら飛行の上達が早すぎだろ……」

「あーあ、ついに捕まっちゃったねリズ」

「うん、捕まっちゃったね、アスナ」

「でもやっぱりハル姉さんの言った通りになったね」

「うん、陽乃さんはすごいね」

 

 それを聞いたハチマンとキリトは、まだ何かあるのかと身構えた。

 

「おい……まだ何かあるのか?」

「ん?ハチマン君、今の私達の状態が、その答えだよ」

「今の、状態?」

 

 ハチマンとキリトは、改めて自分達が今どうなっているか確認した。

捕まえる事に夢中であまり意識はしていなかったのだが、

今ハチマンは、アスナが逃げられないようにしっかりと抱きしめている状態で、

キリトとリズベットも同様の状態だった。

ハチマンとキリトはその事に今更ながら気付き、顔を赤くして、慌てて二人から離れた。

 

「うおっ」

「わ、悪い、リズ」

「やっと分かったみたいだね、ハチマン君、キリト君」

「二人はずっと、陽乃さんの手の上で踊らされていたのだよ、分かったかね?」

「くっそ……やっぱりあの人は怖えな」

「ハチマン、絶対に敵に回すなよ、絶対だぞ!」

「誰が怖いって?」

「うわあああああああああああ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 突然上から陽乃の声がして、ハチマンとキリトはその場に土下座した。

いつの間に現れたのか、そこには陽乃~ソレイユの姿があった。

 

「ハル姉さん、言われた通りにやったら上手くいきました!」

「ありがとうございます、陽乃さん!」

「それは良かったわ。それからここではソレイユって呼んでね、二人とも」

「はい!ソレイユ姉さん!」

「分かりました、ソレイユさん!」

 

 そしてソレイユは、きょとんとした顔でハチマンとキリトを見た。

 

「で、どうして二人は土下座なんかしているの?」

「お怒りかもしれませんが、平に、平に……」

「俺は何も言ってません、言ったのは全てハチマンです!」

「あっ、キリト、お前裏切るのか!」

「事実、俺は何も言ってない!」

 

 そんな言い争いを続ける二人を尻目に、ソレイユはアスナとリズベットに言った。

 

「それじゃ、とりあえずアルンを目指しましょうか」

 

 そしてソレイユは、続けてハチマンとキリトにも声を掛けた。

 

「ほら二人とも、さっさと行くわよ」

「あっ、はい」

「今行きます!」

 

 二人はソレイユに声をかけられ、ほっと胸をなでおろしたが、飛び立つ直前、

ソレイユがとてもいい笑顔で二人にこう言った。

 

「二人とも、明日ちょっと私と一緒にお出かけしましょうね。

もちろん拒否権は認めないわ。迎えにいくから家で待ってなさい」

「あっ、はい……」

「わ、わわわわかりました」

 

 こうして五人は、アルンへと向かって飛び立った。


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