ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/11 句読点や細かい部分を修正


第三章 ALO~アフター~編
第133話 影の功労者


「おい菊岡さんよ、そろそろオレっちを退院させてくれてもいいんじゃないのカ?」

「それについては本当に申し訳なく思っているんだが……

もしかしたら、君のハッカーとしての腕が必要になるかもしれない状況なんだよね……」

 

 アルゴは菊岡の手によって、入院という名の軟禁状態にあった。

最もそれは、菊岡が犯罪を犯しているという事ではなく、

過去のアルゴの行いによるものだった。

アルゴは過去に何度も色々な組織のサーバーに進入しており、

データを盗み出す等の犯罪行為は犯してはいなかったものの、

情報を閲覧する事が三度の飯より大好きという、行き過ぎた知識欲を持っている人物として、

菊岡が公安に所属していた時からずっと菊岡にマークされていた存在だった。

菊岡は、今回の事件の被害者の中にアルゴがいたのを利用して、

いち早く彼女の身柄を押さえ、彼女の情報が外に漏れないようにしていた。

もちろんいずれ何かの時に利用させてもらうつもりで、

病院の手配等、諸々の事でアルゴに貸しを作るのが目的だったのだが。

そしてついにその時が来た。ハチマンらの手によって、アスナがALO内にいる事が発覚し、

レクト・プログレスを調査する必要性が出てきたのだ。

菊岡が真っ先に白羽の矢を立てたのがこのアルゴだったのだが、

アルゴは菊岡に不信感を持っていたため、口先の説明だけではその事を信用せず、

菊岡はアルゴを説得するための材料を持ち、今まさにアルゴを説得している最中であった。

 

「……これじゃ足りませんかね」

「写真を用意するくらいならいくらでも出来るだロ?」

「まあそうですよね……これはもう直接話してもらうしかないのかなぁ」

 

 アルゴはアスナらしき人物が写った写真や、ハチマンらの写真を見せられても納得せず、

菊岡はいよいよ本人達に会わせるしかないかと考えていたのだが、

その時菊岡の携帯が鳴った。

 

「ちょっと失礼……はい、菊岡です。ああ、陽乃さん、はい、はい、

わかりました、ちょっとハンズフリーにするのでお待ち下さい……もう大丈夫です」

 

 菊岡は、いいタイミングだと思いながら通話がアルゴにも聞こえるようにした。

アルゴは腕を組みながら、大人しくその会話を聞いていた。

 

「と、いうわけで、ハチマン君が、何人かの仲間に連絡をとってほしいんだって。

名前をもう一回言うわね。クライン、エギル、シリカ、アルゴの四人よ。

本当はダイシーカフェって所に集合予定だったらしいんだけどね、

状況が変わって、どうしても助けが欲しい状況になっちゃったのよね」

 

 その名前が出た瞬間、アルゴはピクリと反応したが、表向きは興味が無さそうにしていた。

菊岡はそれを見てほくそ笑み、会話を続けた。

 

「なるほど、ハチマン君が是非連絡をとってほしいと、そういう事でいいんですね?」

「はい、菊岡さん」

「お、ハチマン君もそこにいたんだね」

「はい。俺とキリトも全力を尽くすつもりでいますが、

打てる手は全て打っておきたいんです。アスナを助けるために、

俺が心から信頼出来る仲間達の助けをどうしても借りたいんです」

 

 アルゴは、ハチマンの声と内容から本人だと確認し、

菊岡に、もういいという風に合図を送った。

 

「事情はわかりました。それくらいおやすい御用ですよ、至急手配しますね」

「ありがとう菊岡さん。ところで協力を依頼した人との交渉はまとまったのかしら?」

「あ、それなら今まさに交渉中だったんですけど、今の電話の間に話がまとまりました」

「え、交渉中だったの?」

「はい、ありがとうございます。やっぱり聞かせたのは正解でしたね」

「もういいぞ菊岡さん。アーちゃんの為に、オレっちは全力を尽くすと約束するぞ。

すぐに動くから、機材を手配してくれよナ」

 

 菊岡はアルゴに頷き、電話に向けて報告をした。

 

「無事交渉成立です。これからすぐに行動を開始するとの事です」

「やった!八幡君、さっき言ってた人、交渉成立だって。

今あっちはハンズフリーらしいから、お礼を言っておくとよいよ」

「あ、そうなんですか?ありがとうございます。必ずこの恩はお返しします」

 

 その懐かしい声を聞いたアルゴは心の中で、ハチマンに返事をした。

 

(絶対アーちゃんを助けような、ハー坊、キー坊。オレっちも全力を尽くすゾ)

 

 こうしてアルゴは菊岡の依頼を引き受ける事を決断し、ついに動き出したのだった。

 

 

 

 まず最初にアルゴは、協力者だという二人の人物に会う事になった。

一人はハチマンの友達で、もう一人はハチマンの姉的存在の人物だという。

アルゴは与えられたマンションの一室に、菊岡を含む三人を迎え入れた。

 

「アルゴ君、お待たせ。連れてきたよ」

「オレっちはアルゴ、宣しくナ……お願いします」

 

 いつもの通り、軽い感じで挨拶をしようとしたアルゴは、

陽乃を見た瞬間、思わず丁寧な言葉遣いで挨拶を言い直してしまった。

 

(ハー坊の姉的存在?そんないいもんか、やべー、やべーよ、こいつは絶対にやばい奴ダ)

 

 陽乃はしばらくアルゴをじっと見つめていたが、

いきなり笑顔になったかと思うと、アルゴの背中をバンバン叩いた。

 

「やだなぁ、そんなに緊張しなくてもいいんだよ?

私は雪ノ下陽乃、よろしくね、アルゴちゃん」

「我は材木座義輝!宜しくお願いするであります!」

「よ、宜しく……」

 

(ハー坊の周りはこんなのばっかりなのカ!?)

 

「私の事は、親しみを込めてさえあれば、どう呼んでもいいからね、アルゴちゃん。

材木座君の事は……うん、好きにしてね」

「はぁ……それじゃボスと材木っちデ」

「ええ~?その呼び方はかわいくない~!お姉さん悲しい~!」

「いや、そういうのは別にいいんで……相手の実力は大体分かるんデ……」

「実力?」

「だってボスは、普通に戦える人ダロ?」

「へぇ~、そういうの分かるんだ」

 

 陽乃は目を細めながらアルゴに言った。

 

「菊岡さんと材木っちと三人でかかっても、まったく勝てる気がしないナ」

「そう……菊岡さん、もう帰ってもらって大丈夫よ。後はこの三人で話すわ」

「……分かりました。それじゃ、連絡だけ密にお願いしますね」

「はいは~い」

 

 陽乃はひらひらと手を振り、菊岡はそのまま帰っていった。

アルゴは陽乃が菊岡を追い出した事を理解しており、戦々恐々としていた。

 

「さてアルゴちゃん」

「はい、ボス」

「あ、今後はずっと、好きな喋り方でいいからね」

「分かったぞ、ボス」

 

 そして陽乃は唐突にアルゴにこう尋ねた。

 

「で、アルゴちゃんは、ハチマン君のために死ねるのかしら?」

「無理だナ」

「ほほう?」

「オレっちが死んだらハー坊が絶対に悲しむ。だからオレっちは絶対に死ねない。

結果的に死ぬ事はあっても、自分からは死ねない。だから答えはノーだゾ」

 

 それを聞いた陽乃は、我が意を得たりという風に頷いた。

 

「オッケー、ごうかーく!」

「そんなんでいいのカ?」

「当然よ。私も材木座君も、彼の事が好きでずっと一緒にいたいと思っているわ。

だから安易に死ぬ道を選ぶ事はしないし許されない。

あなたが今言った通り、彼が悲しむからよ。生きて生きて、必ず彼の笑顔を見る。

そのためにあなたの力を私達に貸して頂戴」

「ハー坊だけじゃなく、仲間達全員のためでいいなラ」

「ハチマン君のためにって言ったのはまあ、言葉の綾みたいなものだから問題ないわ」

 

 その遣り取りを聞いていた義輝は、目をうるうるさせながら言った。

 

「我は今、とても感動している!」

「相変わらず暑苦しいなぁ、材木座君」

「材木っちは面白いな、これから宜しく頼むゾ」

「承った!」

「それじゃ、今後の事を相談しましょう」

 

 

 

 それからの三人は、基本裏方に徹し、ハチマンの動きに合わせて、

ポイントポイントで重要な役割を果たす事となった。

 

 

 

「アルゴちゃん、潜入可能な日が決まったわ、材木座君の連絡を待って頂戴」

「よし、ここからフルダイブする。材木っち、何かあったらすぐにオレっちを戻してくれナ」

「了解!」

 

 

 

「……ボス、中でアーちゃんを確認、首尾よくIDカードを渡す事に成功したゾ」

 

 

 

「弁当の出前を取るみたいです!それに乗じて潜入を!」

「材木っち、ここを押せば、ハー坊達を少しは楽にしてやれるぞ。

その役目は材木っちに任せる事にするゾ」

「八幡、今我が助けるぞ!」

 

 

 

「ボス、作戦は成功したぞ。すぐに二人で離脱する。無理しないでくれヨ」

「残っているのは二人だけなんでしょう?余裕余裕。でもまあ油断はしないようにするわ。

ありがとね、アルゴちゃん」

 

 

 

「乾杯!二人とも、本当にご苦労様。私達の勝利よ!」

「うぅ……我はやったぞ!八幡!」

「アルゴちゃん、今後も私の下で働かない?会社としてじゃなく、個人としてね。

材木座君も、望むなら就職のお世話くらいはするわよ。今回の働きは見事だったわ」

 

 今回この三人の果たした役割は、とても大きなものだった。

その功績は、ハチマンを中心とした仲間達しか知らないが、

ALO事件の一番の功労者が、彼らであった事は間違いない。


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