ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第二章ALO編は、これにて終了となります。
ここまでお付き合い頂いた皆様に、心から感謝致します。
昨日の予告通り、第三章の開始は五月十日の十二時を予定しています。
今後とも宜しくお付き合いのほど、宜しくお願いします。


第132話 エピローグ~二人が得たものは

 いわゆるSAOサバイバーと呼ばれる人達が全て開放されてから二ヶ月。

当初、明日奈の父、結城章三がCEOの留任を決めた時は、

かなりマスコミや、世間から叩かれていたが、

取材が進むにつれ、事件が全て須郷の独断であった事がわかり、

更にレクト本社が、章三氏の指揮の下、

内部留保を全て吐き出す勢いで被害者への救済を始めた事もあり、

世間はこれこそ正しい責任の取り方、という論調に変わっていった。

こうして事態は急速に沈静化していき、

そしてついに今日、明日奈はリハビリを終え、退院の日を迎える事になったのだった。

 

「よし明日奈、行こうか」

「もう仲がいい二人の姿を見れなくなると思うと、少し寂しいね。

二ヶ月よく頑張ったね、退院おめでとう、明日奈さん」

「明日奈ちゃん、お幸せに!そして退院おめでとう!」

「おめでとう!」

「先生、看護婦の皆さん、本当にありがとうございました」

 

 明日奈の退院の付き添いは八幡だけであり、両親は来ていなかったが、

前日に、とても忙しいはずの両親が八幡を伴って病室を訪れ、

今日の事は既に打ち合わせ済みだったため、明日奈は特にその事を気にしてはいなかった。

病院を出ると八幡は、明日奈の手を引いて、駐車場の方へと連れていった。

 

「あれ、八幡君どこに行くの?」

「ん、ああ……ここだ。さあ、乗ってくれ」

「えっ?」

 

 八幡は、駐車場に止めてあった、一台の白い車のドアを開け、

明日奈を助手席に乗せると、自分は運転席に乗り込んだ。

 

「え?え?いつの間に車の免許を?」

「実は明日奈のリハビリを手伝いがてら、近くの教習所に通ってたんだよ。

学校もまだ始まらないし、多少手が空いてたんでな」

「なるほどね」

「教習所とは別に、ハル姉さんの家の庭で、執事の都築さんに散々しごかれたよ。

ストレートで卒業しないと、今日に間に合わなかったからな」

「そうなんだ……ハチマン君はこっそりそんな努力を……で、この車は?」

「買った」

「うわ、相変わらず行動が素早い……」

「貯金だけじゃちょっと足りなかったから、出世払いでハル姉さんに少し借りたけどな。

安物の車だが、間違いなく俺の車だ。助手席は明日奈専用だな。

あ、もしかしたら小町を乗せなきゃならない事もあるかもしれないけど、基本明日奈専用な」

「うん!」

 

 明日奈は目をキラキラさせながら、シートベルトを締めた。

これからここが自分の席になるんだと思い、嬉しくなった明日奈は、

八幡の頬に口付けしようとしたが、シートベルトのせいで届かなかった。

 

「むむむむむ、届かない……」

「ははっ」

 

 明日奈は八幡にクイックイッと手招きをし、

八幡はやれやれと思いながら、顔を明日奈の方に近付けた。

そのおかげで明日奈は目的を果たす事が出来、満足したようだった。

 

「むふ~」

「むふ~ってお前、子供じゃないんだから」

「いいの!さあ、レッツゴー!」

「はいはい」

 

 八幡はキーを回し、エンジンを始動させた。

 

「それじゃ、ダイシーカフェに向かうぞ」

「うん!みんな元気かな?」

「やっとリズに会えるな、明日奈」

「うん!他の人とはお見舞いに来てくれた時に会えたけど、

リズとはまあ、お互いリバビリがあったし、ゲームの中では会ったけど、

直接会うのは初めてだから、すごい楽しみ!」

「アルゴは来れるかどうか微妙らしいけどな」

「ハル姉さんもアルゴさんも忙しそうだもんね……」

 

 レクト・プログレスは解体され、ALOの運営は、雪ノ下系列の新会社に移行していた。

しばらくは引継ぎ作業もあるため、橋渡しをしたのが陽乃だった事もあり、

新会社との連絡役もこなしながら、陽乃はとても忙しい毎日を送っているようだった。

そしてアルゴは、陽乃が個人で雇う事が決定しており、

政府にも協力しつつ、アルゴは陽乃にいいようにこき使われているのだった。

八幡が一度、何故アルゴを雇ったのか聞いた時、陽乃はとても悪い顔をしながらこう言った。

 

「だって、何かその方が面白そうじゃない」

 

 そんな事を話しているうちに、目的地に着いた為、

八幡は駐車場に、少してこずりつつも車を止め、エギルに今着いたと連絡を入れた。

そして二人は、ダイシーカフェへと歩いて向かったのだった。

 

「ここだ」

「うわぁ、何か雰囲気があるお店だねぇ」

「エギルっぽいだろ?」

「うん、上手く説明は出来ないけど、何かエギルさんっぽい」

「よし、入るか。みんなもう集まっているだろうしな。

あ、今日は当然ゲーム内の名前で呼び合う事になってるから、宜しくな」

「うん!」

 

 二人は店の扉を開け、おそるおそる中を覗き込んだ。

 

「すまん、待たせたか……って、あれ?」

「誰もいないね?」

 

 テーブルには料理や、飲みかけの飲み物が雑多に並んでいたが、室内には誰もおらず、

二人は首をかしげながらおずおずと中に入った。

その瞬間に、カウンターの中や扉の陰に隠れていた仲間達が、

次々と飛び出してきて、一斉にクラッカーを鳴らした。

 

「遅いぞハチマン!」

「ハチマン君、アスナさん!」

「おうハチマン、ちゃんと運転出来たか?」

「アスナさん、相変わらず美人っすね!まあここにいる全員美人なんだけどな!

まったくハチマンの周りはどうしてこう……」

「アスナさん、お久しぶりです!」

「アスナさん、とても元気そうで良かったわ」

「ハチマン!アスナ!遅~い!」

「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

「ぐぬぬ、先輩、やっぱりお似合いです……」

 

 ハチマンは呆気にとられていたが、とりあえず謝る事にした。

 

「お、おう、車にあまり慣れてなくてな。まあ主に駐車場でまごついたわ、すまん」

「みんな、久しぶり!」

 

 ちなみに今日の参加メンバーは、発言順に、

キリト、リーファ、エギル、クライン、シリカ、ユキノ、ユイユイ、コマチ、イロハ、

そしてまだ発言していないリズベットに加え、今到着したハチマンとアスナだった。

 

 そんな中、後ろに隠れていたリズベットが、おずおずといった感じで前に出てきた。

 

「リズ!」

「アスナ!はじめまして、かな?」

 

 リズベットはアスナの名前を呼びながら、アスナに抱きついた。

アスナもリズベットをしっかりと抱きしめ、二人はやっと会えたと喜んだ。

そして、宴会のようなものが始まった。ようなもの、というのは、

男性陣と女性陣がきっちり分かれていたからであった。別に男女の仲が悪いわけではなく、

チーム・ハチマンの女性陣が全員集まるのが初めてだったからであり、

女性陣は積極的に会話を交わしながら、交流を深めていた。

ハチマンは女性陣をちらりと観察し、どうやら全員うまくやれてるらしいと思い、安心した。

男性陣は男性陣で、クライン以外は皆落ち着いていた。

エギルは妻帯者であり、キリトからは、リズベットと交際一歩手前との話を聞いていた。

ハチマンは言うに及ばず、この中で完全にフリー状態なのは、クラインだけなのであった。

 

「ハチマン、例の話なんだが……」

「おう、あっちもお待ちかねだぞ。そろそろ仕事の方は落ち着いたのか?」

「待たせちまって本当にすまねえ、そろそろ余裕も出てきたし、もういつでも大丈夫だ」

 

 クラインは、リハビリが終わったとはいえ、

以前と同様のポテンシャルで働くのはまだ難しかったらしく、

ハチマンに平塚を紹介してもらうのを、少し待ってもらっていた。

せっかく紹介してもらうのだから、しっかりとした状態で会いたいという、

それはクラインの、男の意地だった。平塚もそのクラインの話を聞き、快く了承していた。

 

「よし、それじゃあ先方の都合に合わせるから、セッティングを頼んでもいいか?」

「ああ。そこらへんは任せてくれ」

「さて、クラインに春が来るのかどうか、おいキリト、賭けるか?」

「うーん、賭けるなら、上手くいく方に賭けるかな」

「おお、我が心の友よ!そこまで俺の事を買っていてくれたのか!」

「いや、俺は大穴狙いだからな……」

「おいい?」

「何の話かしら?」

 

 クラインの大声を聞きつけ、女性陣もこちらに集まってきた。

 

「ああ、実はな、クラインを、平塚先生に紹介するって約束をしててだな……」

「あの平塚先生を?」

「おい、気持ちは分かるが、あのって言うな」

「うーん、あの平塚先生とクラインさんかー」

「ユイユイお前もか」

「ハチマン、俺、何か不安になってきちまったんだが……

あ、勘違いすんなよ、別に相手に不満があるとかじゃなくてだな、

女性と接した経験の少ない俺が、相手をちゃんとリード出来るのか、

そういう面で少し不安になったというかだな……」

「ふむ、いいかクライン、確かに平塚先生には、多少問題がある。

例えば必要以上に相手に自分を良く見せようとしてしまう所とか、

少しでもメールの返事が遅れると、つい長文で何通も送りつけてくる所とかだが、

そのあたりは俺がきっちり言い聞かせる。お前は素のままぶつかってくれればいい。

俺はお前なら絶対にやってくれると信じてるぞ、頑張れ」

「お、おう!任せろ!」

「ハチマン君、あなたもかなりすごい事を言っている気がするのだけれど」

「まあ、クラインならなんとかするだろ。あんまり外野が口を出すもんじゃないゾ」

「まあ、確かにそうだな」

「あ、エギル、オレっちはホットミルクな」

「あいよ」

「あ、エギル、それじゃあ俺にも頼むわ。一息つきたいしな」

「おう、待っててくれ」

 

 ホットミルクが二つカウンターに置かれ、ハチマンはそれを飲み、ほっと一息入れた。

隣の人は猫舌らしく、ふーふーしながらホットミルクを美味しそうに飲んでいた。

 

「何となくイメージ通りの猫舌なんだな」

「昔から暑いのは苦手でナ」

「熱いのって、駄目な人は本当に駄目だよな、アルゴ……って、アルゴ!?いつの間に!?」

「おお?」

「おい、アルゴじゃねーか!久しぶりだな!」

「よぉ、少し手が空いたから来てみたゾ」

「アルゴさん!」

 

 アスナは、嬉しそうにアルゴに抱き付いた。

 

「おお?どうしたアーちゃん、随分情熱的だナ?」

「だって、だって……捕まっていた私に、希望をくれたじゃない。

ずっとお礼が言いたかったんだよ」

「よしよし、よく頑張ったな、アーちゃん」

 

 ハチマンは、とりあえず二人はそのままに、ユキノ達ALO組にアルゴの事を説明した。

もちろん皆アルゴを歓迎し、場は一気に盛り上がった。

そんな状態の中、キリトはリーファがリズベットにとても懐いているようだったので、

密かに安堵していた。ハチマンも同じように、

ユキノとユイユイがアスナと楽しそうに話しているのを見て、安堵していた。

二人はお互いの考えている事を察したのだろう、顔を見合わせて、ニヒルに笑った。

もちろんその笑いは、二人にはまったく似合っていなかったのだが。

そして気が付くと、いつの間にか三時間が経過していた。

ハチマンは、終了のあいさつをしようと思い、立ち上がって皆に言った。

 

「さて、宴もたけなわだが、そろそろ解散の時間だ。

ここにいるメンバーは、皆俺の大切な仲間であり、友達だ。

あー……すまん、気の利いたセリフは思いつかない。月並みだが、これからも宜しく頼む」

 

 こうしてハチマンとアスナは、高校生活の二年間をSAOに拘束され、

それと引き換えに、かけがえのない仲間を、友達を得た。

今後二人は、ALOを中心に活動していく事になるのだが、

たくさんの仲間達が、彼らと共にある事だろう。

 

 

 

 こうしてSAOに端を発する一連の事件は幕を下ろしたが、

ハチマンとアスナの物語は、この後も続いていく。


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