「アスナすまん、ここまで来るのに二ヶ月以上かかっちまった……」
「ううん、絶対来てくれるって信じてたから……」
そこに、隠れていたユイも合流し、アスナの周りを飛びまわり始めた。
「ママ!やっと会えましたね!」
「ユイちゃん……本当にユイちゃんなんだね。また会えてすごく嬉しい」
「ここがSAOのサーバーのコピーを元に作られていたおかげだな」
「そうだなキリト。逆に言うと、こいつはきっと、自力じゃ作れなかったんだろうな」
ハチマンがそう言うと、三人の視線は自然と須郷に向かった。
須郷は呆然と立ち竦んでおり、ハチマンの嫌味も聞こえなかったようだった。
「お~いコマチ、とりあえずこっちに来てくれ。
どうやらそいつはもう抜け殻みたいになってるから、特に危険も無いだろ」
「うん!」
コマチは元気よく返事をし、須郷の横を平然と通り、こちらに走ってきた。
コマチは嬉しそうにアスナを見つめた後、満面の笑顔でアスナに挨拶をした。
「改めまして、コマチです!お兄ちゃんの妹です!
つまりアスナさんの将来の妹です!宜しくお願いします!」
「私の妹……」
アスナには兄しかいなかったため、妹が出来るのが嬉しくて仕方がないようで、
おもむろにコマチを抱きしめ、ハチマンに言った。
「ハチマン君、私にこんなかわいい妹をくれてありがとう!」
「お、おう」
「うはぁ、情熱的なお姉ちゃんだなぁ」
「ははっ、アスナはよっぽど嬉しいんだろうな」
四人は和やかに会話を続けていた。須郷はいまだに呆然としたままだったが、
さすがにそろそろ決着を着けなくてはならない、そう思ったハチマンは、
会話を切り上げ須郷と正面から向かい合った。
「さて、そろそろこいつを何とかしないといけないわけだが、
正直今ならどんなひどい目にもあわせ放題なんだよな」
それを聞いた須郷はビクッとし、恐る恐るといった感じでハチマンを見た。
「まあとりあえず、こいつと違って権限を振りかざして一方的にいためつけるってのは、
俺の趣味じゃないんだよな。というわけでみんな、こいつにチャンスをやってもいいか?」
「どんなチャンスだ?」
「これから俺達四人とこいつとでタイマンしてもらう。
ペイン・アブソーバはレベルゼロにしておいてやろう、うん、痛いのは嫌だからな」
「おい、レベルゼロって一番痛いんじゃなかったか?」
「気のせいだろ、レベルゼロなんだから、低い気がする。うん、きっとそのはずだ」
「まあいいか」
「うん、いいんじゃないかな」
「コマチも異議無し!」
三人はうんうんと頷きながら、ハチマンの意見に賛成した。
「ダメージカット率は九十九%カットにしといてやろう。
その方がいくらでも攻撃出来……ゴホン、百%だと緊張感が出ないしな」
再び三人は、うんうんと頷いた。
「後は何かあるか?」
「武器はあのままにしといてやろうぜ。どうせなら強い奴と戦いたいしな」
「そうだな、新世界の神らしいからな、さぞかし手ごたえがあるだろうな」
「新世界なんて言ってたっけ?」
「どうだったかな、まあ似たようなもんだろ」
「お兄ちゃん、天使のように優しいコマチとしては、
私達の誰か一人にでも勝てたら、許してあげてもいいんじゃないかなって思うんだけど」
「おお、さすがコマチは優しいな。よし、それでいこう。
聞いたか須郷、世界一優しい俺の妹に感謝しろよ」
「そういえばさっきこいつ、現実に戻ったら寝てるアスナを陵辱してから高飛びだとか、
おかしな事を言ってやがったぞ」
キリトが、思い出したようにそう言った。
「そうなのか、アスナがノーガードで寝てるとか思ってたんだな、この脳みそお花畑神は」
「アスナの部屋は、今か今かとアスナの目覚めを待ってる警察の人でいっぱいなのにな」
「あー、もう手を回してあったんだね」
アスナは、何故ハチマンが怒らないのか少し疑問に思っていたのだが、
それを聞いて納得したようだ。
「当たり前だろ」
「ふふっ、何だかSAOの時みたいだね」
「こういうとこ、やっぱりハチマンはハチマンだよな」
「うわー、お兄ちゃん、こんな事ばっかりしてたんだね……」
「そんなに褒めるなよコマチ、お兄ちゃん照れちゃうだろ」
「コマチちゃん、私のハチマン君はすごいんだよ!」
「うわー、コマチこれから毎日こんな会話を聞かされるんだね……」
「警察の人が待ってるなら、とりあえずさっさと始めないとかな?」
「そうだな、よし、順番だが……コマチ、アスナ、キリト、俺、でいいか?」
三人はそれに同意し、まずコマチが須郷に近付き、須郷の頬をペチペチと叩いた。
「お~い聞いてましたか?そろそろ始めたいんですけど」
須郷はそれで我に返ったのか、血走った目で四人を見つめた。
「全てのスキルがカンストしていて、最強の武器を持っているこの俺相手に、
調子に乗ってんじゃねーぞガキどもが!」
「お兄ちゃん、神がどうやらやる気になったみたいだよ~」
「設定はオーケーだ。いつでも始めていいぞ」
「それじゃあ最初は私がお相手しますね、最強の神様」
コマチはそう言うと、武器を構えた。須郷も構えをとり、
武器を振り上げると、そのままコマチに向けて振り下ろした。
「死ねええええええええええ」
「は?どこに向かって攻撃してるんですか?コマチもう後ろにいるんですけど」
「何っ!?」
次の瞬間、須郷の背中に何度も衝撃が走り、そのすさまじい痛みに須郷は絶叫した。
「うぎゃあああああああああああああ」
「おいおい、何を大げさに痛がってるんだよ、ペインアブソーバはレベルゼロだぞ?」
「レッ……レベルゼロだと?」
「何だよ、さっき言っただろ?痛いのは嫌だから、ペインアブソーバはレベルゼロ、
ダメージカット率は九十九%だってな」
「なっ……それは痛みのレベルが最大じゃ……」
「あ、ちなみにお前、HPがゼロにならないとログアウト出来ないようにしてあるからな。
よし、それじゃあ試合を続行だ」
「神様、そろそろ立たないと、コマチ攻撃しちゃいますよ?」
「くっ……くそおおおおお!」
須郷は痛みに耐えながら振り向きざまに剣をふるったが、コマチはもうそこにはいない。
「何度同じ事をやってるんですか?相手の動きを全然見てないんですか?
さっきも言いましたけど、自分の作ったゲームなのに、まったくプレイしてないんですね。
少しでもやってれば、コマチに攻撃をかすらせるくらいは出来るはずなんですけどね。
あなたの方がスキルも武器の強さも上なんですから」
コマチはそう言うと、須郷の背中を再び切り裂いた。
「うぎゃああああああああああああ」
須郷はすさまじい悲鳴を上げ、蹲ったまま立ち上がろうとはしなかった。
コマチは須郷の正面に回り、須郷のアゴを掴んでぐいっと顔を起こした。
「まあコマチは優しいからこのくらいにしておいてあげるけど、
その程度の動きしか出来ない人が、神とか言って調子にのってんじゃねえよクソ野郎」
そう言うとコマチは、須郷の顔を十字に切り裂いた。
「があああああああああああっ」
須郷は顔を抑え、ごろごろと転げまわった。
コマチはその姿を見ようともせず、そのままハチマン達の下へと戻った。
ハチマンはポカンとした顔で、コマチに言った。
「コマチちゃん、いつそんなガラの悪い言葉を覚えたの?お兄ちゃんちょっと怖いんだけど」
「やだなぁお兄ちゃん、演技に決まってるよ演技。
もっともお姉ちゃんにひどい事をしたこいつには本当にむかついてたけどね」
「そ、そうか……」
「次はお姉ちゃんの番だね。ほらお兄ちゃん、お姉ちゃんに武器を出してあげて」
「そういえばそうだった。今出すわ」
ハチマンはレイピアを出現させ、アスナに渡した。
アスナは久しぶりにレイピアを持ったため、練習のつもりで軽くそれを振ってみた。
「あ、ちなみに多分アスナも、スキルはSAOの時のままだと思うから、そのつもりでな」
「うん分かった。今の感じ、確かに昔とほとんど変わらなかったみたい」
「よし、それじゃ二戦目開始な」
「うん」
アスナは須郷に向けてレイピアを構えた。
須郷は多少痛みが治まったのか、のろのろと立ち上がり、怯えた目でアスナを見た。
「今まで散々いたぶってきた私相手に何を怖がっているの?
やっぱりあなたはまともな女性には相手にもされず、
権力を使って屈服させた女性に無理やり何かをする事しか出来ない哀れな人なのかしら」
そのアスナの言葉にさすがに頭にきたのか、須郷は叫びながら、アスナに攻撃を仕掛けた。
だが剣を振りかぶった瞬間、須郷の全身に痛みが走り、須郷は攻撃する事が出来なかった。
「あああああああああああ」
アスナは須郷が倒れないように絶妙な力加減で、延々と突きを須郷の全身に放ち続けた。
「剣筋も読めないド素人が最強を名乗るなんて、おこがましいとは思わないのかな。
どこが最強の男なの?冗談だよね?あなたに負けるプレイヤーなんているのかしら」
その言葉と共に、アスナは渾身の一撃を放ち、須郷はそのまま後方に倒れ込んだ。
「こんなもんかな、次はキリト君の番だね」
「ああ」
キリトはアスナの代わりに前に出て、須郷を立たせると、ぼそっと言った。
「まあ、俺は腕一本でいいか」
キリトはそのまますさまじい速度で剣を振るい、一撃で須郷の左腕を落とした。
須郷は声にならない叫びを上げ、剣を持った右手で左腕のあった場所を探ったが、
そこには当然何も無く、須郷は叫びながら再び蹲った。
「じぶんがかんがえてつくったさいきょうのまほう、が使えないと、本当に雑魚なんだな」
「う、うう……」
キリトはそう言うと、きびすを返した。
「嫌に簡単にすませたな、キリト」
「さすがに雑魚すぎてな……それに本気でやったらダメージ九十九%カットでも、
簡単にHPがゼロになっちまうだろうから、ハチマンの出番が無くなっちまうだろ。
十分気は晴れたから特に問題ない」
「オーケー、それじゃ最後は俺の番だな」
ハチマンはそう言うと、須郷の下へと歩いていった。