ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第126話 突入

「今だ!突撃!」

 

 レコンを信じていたハチマンは、その隙を逃さず、突入の指示を出した。

 

「すごいねレコン……私も負けないよ!」

 

 リーファはレコンの行動に驚きながらも、自分も負けてはいられないと思い、

先頭をきってその穴へと突撃した。

穴をふさごうと、敵が殺到し始めたその瞬間、唐突に敵のPOPが停止した。

 

「何だ?外からの干渉か……?アルゴ……材木座?陽乃さん?」

「ハチマン、今がチャンスだ。我らもつっこもう」

「そうだな、ユージーン、露払いを頼む!」

「私達もいくわよ!みんな、これが正念場よ!」

「エギル、あの壁に張り付いて、円形にハチマンをガードするぞ!」

「背後の守りは私が!先輩!行って下さい!」

「ユイ、転送準備だ!壁にはりついた瞬間に、俺とキリトと、

可能なら他に何人かを飛ばしてくれ!」

「はいパパ!」

「みんな、行くぞおおおおおおおおお!」

 

 一同は一丸となって開いた穴へと突っ込んだ。

防御は完全に無視で、回復の全てをユキノに託し、ひたすら最奥を目指す。

その甲斐あってか、正面の敵はほぼ殲滅され、後は追撃してくる敵の大群がいるだけだった。

そしてついに一同は、グランドクエストの間の最奥の壁に到達した。

 

「よしユイ、頼む!アスナの所へ行くぞ!」

「はい!」

「ハチマンには絶対に近付けさせないぞ!」

「二人とも、アスナとリズの事は任せたぜ!」

「今度は私が守ります!」

「ハチマン君、こっちの事は任されたわ」

「ヒ……ハチマン、キリト君、頑張って!」

「お兄ちゃん、未来のお姉ちゃんをお願いね!」

「先輩、先輩!」

「キリトよ、俺以外に絶対に負けるんじゃないぞ」

「ハチマン君、お兄……ううん、キリト君、必ず二人の目的を達成してきてね!」

「任せろ!みんなの分もやってやるぜ!」

「ああ、絶対にやりとげる!」

「準備が完了しました。転送します!」

 

 ユイがそう叫び、その場から二人の姿が消えた。

その瞬間、いきなり全ての敵が消滅し、辺りは静寂に包まれた。

 

「何だ……?」

「敵が消えた……」

「もしかして、世界樹にプレイヤーが進入したから、とかか?」

「はは、やった、やったね!」

 

 一同は歓声を上げ、下の方からも、生き残りのプレイヤーが大歓声を上げた。

 

「どうやら私達の仕事はここまでね、あとはあの二人に任せましょう」

「ちょっと待って、人数が足りなくない?」

「そういえば、ハチマンとキリトの他に可能なら何人か転送するって言ってたな」

「誰がいないんだ?」

 

 残された者達は、誰がいないかを確認する事にした。

すぐにそれは判明し、一同はある意味その人選に納得した。

最もユイには選ぶ暇が無かったので、ランダムに一人飛ばしただけなのだったが。

 

「なるほどね」

「妥当と言えば妥当なのかもしれないね」

「あとはあの三人に全て託そう」

「おーいおーい、みんな、やったね!」

 

 その時メビウスが、下の方から手を振りながら呼びかけてきた。

 

「それじゃあみんな、メビウスさん達が呼んでるみたいだから、行きましょうか。

そうだリーファさん、レコン君に連絡してもらえないかしら。

あなたのおかげで作戦の第一段階は成功したってね」

「そうだねユキノ。あれだけ頑張ってくれたんだし、早く知らせてあげないとね」

 

 

 

 一方その頃、レクト・プログレス社は大騒ぎになっていた。

 

「おい、どういう事だ?世界樹にプレイヤーが入ってるぞ!」

「俺達二人しかいない時によりによってこんなトラブルかよ……」

「とりあえず俺が須郷さんに連絡するわ」

「おい材木座!材木座!……っち、どこ行ったんだあいつ」

「須郷さん、自宅からすぐにログインするってよ」

「それじゃ、サーバーを落とすのはまずいか」

「こ~んば~んは~?」

「うわっびっくりした……あれ、君は確か本社の……」

「雪ノ下陽乃で~っす、陣中見舞いに来ました~!」

「今取り込んでるんだ、すまないが、今日は帰ってくれないか?」

「何かトラブルですかぁ?」

「あ、ああ、まあそんな感じだ」

「なるほどなるほどぉ……でも私としてもぉ、

あなた達に余計な事をさせるわけにはいかないからぁ、

ここを動くわけにはいかないんですよねぇ」

 

 そして陽乃の雰囲気が突然変わった。

 

「あんた達の事は前から調査してたのよ。ほんとふざけた事をしてくれたわね」

 

 その陽乃の表情は、まさに肉食獣が突然牙を剥いたような怒りの表情だった。

二人は気おされつつも、顔を見合わせ、そのままやけになって陽乃に襲い掛かった。

次の瞬間、二人は陽乃によって投げ飛ばされ、床に叩きつけられていた。

 

「ぐあっ!」

「ごめんねぇ、私、こう見えても合気道の免許皆伝なんだよね」

 

 そう言うと陽乃は、内線のボタンを押し、どこかに連絡をとりはじめた。

 

「あ、ガードマンさん?さっき言った通り、ちゃんと防犯カメラを見ててくれた?

そうそう、いきなり二人が襲い掛かってきたからとりあえず制圧しといたわ。

早くこっちに来て、この二人を拘束してちょうだい。

ちょっと予定より早いけど、すぐに警察にも突入してもらうから、それまでお願いね」

「お前……最初からそのつもりで……」

「あんた達はもう終わりよ、そして須郷も……八幡君、こっちは終わったわ。

後はあなた達次第……もっとも八幡君達が失敗したとしても、須郷は私が逃がさないけどね。

でも出来る事なら成功して欲しいかな……頑張れ、弟。私の妹を絶対に助けるんだよ」

 

 八幡とアスナを、自分の弟妹のように思っていた陽乃は、

そう呟きながら外で待機しているのだろう警察に電話をかけた後、

さらに別の場所に電話を掛け始めた。

 

「あ、私だけど、そろそろ説明した通りの配置で待機をお願い。うん、彼の事、お願いね」

 

 

 

 そしてその頃ハチマンは、ついに世界樹の内部への侵入に成功していた。

 

「ふう、何とか成功したな。ユイ、キリトはどこだ?」

「ごめんなさいパパ、誰が来てくれたのかはまだわからないですけど、

もう一人転送させたせいで、少し三人の座標がズレちゃいました。

キリ兄達は、私達よりママに近いところにいます」

「そうか、もう一人送り込んでくれたんだな、えらいぞユイ!」

「はいっ、頑張りました!」

「ユイ、ママがどっちにいるか分かるか?」

「あっちです、パパ。あと、ママの近くに正体不明のプレイヤーがいます。

もう一人の人は……これは……パパ、誰が来てくれたか分かりました!」

「誰が来てるんだ?」

「………です!」

「そうか、あいつならきっとうまく動いてくれるはずだ。よし、俺達も向かおう」

「はい!」

 

 ハチマンとユイは、他の二人と合流すべく、通路を進んでいった。

二人が【実験体格納室】の前に差し掛かった時、突然ユイがハチマンに叫んだ。

 

「パパ、パパ!今この部屋の中から一瞬【グランドマスター】の気配が!」

「【グランドマスター】?まさかそれって……くそっ」

 

(すまん、少し遅れる……頼むぞ、二人とも)

 

 さすがにその言葉を無視出来なかったのか、ハチマンは【実験体格納室】の扉を開けた。

 

「晶彦さん……?ここにいるのか……?」

 

 ハチマンは部屋に入り、そう呼びかけたが返事は無かった。

ハチマンは慎重に探索を進めていったが、あるモニターの前で見覚えのある名前を発見した。

 

「リズ……やっぱりここにいたのか!」

 

 そのモニターには、確かにリズベットという名前が表示されていた。

 

「ユイ、このリズベットってプレイヤーを解放する事は可能か?」

「待って下さい……駄目です、今の私だと権限が足りません」

「そうか……くそっ、すまんリズ、もう少し待っててくれな、必ず助ける」

 

 そして再びハチマンは探索を続行したが、あるモニターの前でユイが反応した。

 

「パパ、ここです!ここから気配がします!」

「ここか……」

 

 ハチマンはそのモニターをじっと見つめた。

モニターの画像は、何の変哲もないデータの羅列だったが、その画像が突然乱れた。

そしてモニターの中に、一人の男の顔が表示されていった。

 

(ジジッ……ジッ…………)

 

「晶彦さん……?」

 

(……とうごう……すま…な……わたしの……な…………ディーを……つか………え)

 

 その男の顔は、そう言い残すと、消えていった。

 

「おい、晶彦さん、晶彦さん!」

「気配が消えました、パパ」

「くっ、これ以上ここにいても無駄か、行くぞ、ユイ!」

「はいっ!」

 

 ハチマンとユイは通路に戻り、奥へと進んでいった。

 

「な?ディー?とか聞こえたよな。ユイ、何の事か分かるか?」

「ディー、に該当する用語は、IDくらいしか思いつかないです、パパ」

「ID?……まさか……いや、確かにサーバーは一緒なんだから、ありうるのか……?」

 

 そのまましばらく進むと、前方に広場のようなものが見えてきた。

その奥には、鳥籠のようなものも見える。ハチマンは立ち止まり、深呼吸をした。

 

「パパ、あそこにママがいます」

「ふう……よし、見つからないように、まず状況を把握するぞ」

 

 ハチマンは心を落ち着けて、広場を慎重に覗き込んだ。

中の様子を確認した瞬間、ハチマンは前言をひるがえし、ユイに隠れているように言うと、

通路を飛び出して、鳥籠へ向かって走り出した。


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